少女たちは『艦娘』と呼ばれた   作:からくさ犬

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強欲で天邪鬼な投稿者が書いています。ご注意ください


稲垣 漣

おかしいと、扉を開けた時に直ぐにわかる。革靴が二足、窮屈そうに玄関に置いてある。

明らかに自分たちの物ではない物に、更にはその奥から人の気配。これも何時も感じる雰囲気とは違う。入るべきか、時間を潰してから戻って来るべきか、そんなことを考えていると、それは向こうからやって来る。

 

「ほら、ちょうど娘さんが帰って来たみたいですね」

 

現れたのはスーツ姿の女性。私を見るなり頬の端を上げる。綺麗な女性なのだが、どこか影の有り、近寄りがたい雰囲気があった。

いや、今思うにあれは部屋全体の空気なんだと思う。危険だと、本能的に察していたのだろう。

女性に続き、お父さんもリビングから現れ、私を呼ぶ。言われた通りに私はリビングに、そこにはお母さんとスーツを着た男性。

私の家庭は決して裕福ではなかった。それでも学校に行けたし、賃貸を借りれるお金はある。けど、スーツを着た男女の話しは、とても心地よく両親には聞こえたのかも知れない。

 

「……サインするんだ」

 

お父さんが、静かに言う。私はひどく驚いた。私が知っているお父さんはそんなことを言う人ではない。

私のことを第一に考えてくれて、身を粉にしてでも私を護ってくれる、そんな人だったはずだ。

それに続き、お母さんもそう言う。サインしなさい、と。

私には両親の二人が別人に見えた。話しに聞く深海棲鑑よりも、その時ばかりは二人が悪魔に思えた。

いやだと言う私に、お父さんは、父親はペンを持たせる。ペンを持たせた私の腕を強い力で引っ張り、そのまま契約書のサインの欄にペン先を置く。

どうしてこんなことをするのか、何故私をイジメるのか、渦巻く疑問に、母親は答えてくれた。

 

「サインしなさい! あなたの為に言っているのよ!」

 

 

 

 

「あー、やっと見えて来たー! 鎮守府よ~、漣たちは帰ってキター!!」

 

やったー、と両手を上げて万歳してみせる。同時に小さなツインテールが跳ねる。

視界の先には自分たち艦娘の家、鎮守府。赤レンガの建物が建ち並ぶ光景も、今では見慣れた。と言っても、艦娘になってから世間から外された生活をしていれば、嫌でも慣れるだろう。

逆に海上哨戒中に見える、海沿いの町が新鮮に思える。見飽きたはずだったのに、今では隙あらば帰りたいとさえ考えてしまう。

少し高い波に乗り、身体が上下する。

 

「ちょっと、鎮守府に戻るまでが仕事なんだから、気を引き締めて」

 

「いやー、そんな『帰るまでが遠足』みたいに言われましても、鎮守府正面で深海棲鑑に襲われたら、それこそ問題だと思うんですがー?」

 

「言い訳しないの。もう、貴女は何時もそんな調子よね」

 

リーダー、つまりは旗艦である軽巡の先輩は呆れたように腰に手を当てる。対して上げていた腕を頭の後ろに回し、唇を尖られる。

 

「そりゃあ漣は、さざなみだもの。他の誰でもありませんよーだ」

 

「そうじゃないでしょ、他の子に示しが付かないの。それに艦娘としての自覚を持たないと、こう言うことは全部自分に返って来るのよ?」

 

わかってるの、と先輩はやや強めに言う。

そんな先輩を内心鼻で笑う。貴女のために言っている、とでも言いたいのだろうか、結局は自分の自己満足に過ぎないだろうに。

艦娘の自覚だがなんだか知らないが、先輩も自分もこの前まではそこらへんにいた普通の学生。教室で友達と喋って、授業を聞いて、クラブをして。たまには恋愛なんかにも憧れる。

何も知らない学生だった人間が、気が付いたら適性がどうだかで艦娘に早変わり。そんな人間に何を求めているのだが、そんな人間が何を威張れるのだが。

私は回していた腕を戻し、気を付けの態勢を作った後に勢いよく敬礼する。

 

「ほいさっさ~! 綾波型駆逐艦、九番艦、稲垣 漣! 精進して参ります!!」

 

ワザとらしく演じるようにビブラートを効かせと、隊の数人がクスクスと笑う。私も合わせるように笑い、ピースして見せる。

この状況に先輩は、やれやれ、と首を横に振るしか出来なかった。

海上を航行し鎮守府に着くと、私たちはまずは工廠の昇降機へと向かう。何より先に陸に上がる必要があるからだ。

海にせり出した工廠に近付くと、私たちの帰りを迎えてくれるように、ゆっくりと柱に沿って昇降機が降りて来る。そのまま昇降機は海上に沈んでいき、周囲に波を立てる。

その波に押され、海上でぐらりと揺れる。隊の一人がそれによりバランスを崩し、転びそうになった所を先輩がフォローする。

 

「大丈夫? ここでコケたらハズいよ」

 

何気に危ない所だった。私たち艦娘は艤装の浮力のおかげで海上に浮いている。つまりは自分自身が浮力を得て浮いているのわけではない。

そんな状態で海上で倒れるとどうなるか。浮力がある所が浮き、それ以外はもちろん沈む。あっという間に犬上家出来上がり、とまでは言わないが、一人では起き上がることは出来ず、最悪顔が水面に押し付けられる状態になる。

未だそんな水難事故があったとは聞かないが、艦娘で一番大切なことは自覚よりも『転覆』しないことだろう。

転ぶそうになった子に気を配りながら、私は沈んだ昇降機の位置に立つ。艦隊全員がその場所に立ち、先輩が柱にあるスイッチを押すと、真上にある工廠から機械の機動音が聞こえる。

少しすると沈んだ昇降機が私たちを工廠へと持ち上げる。ゆらゆらと揺れる感覚がなくなり、シッカリ身体が安定する。

完全に工廠へと入り、私たちを迎えてくれたのは整備員と数名の少女。とは言っても整備員はピーク時になのか、慌ただしく動き周り、その上でも整備員がキャットウォークを駆けて行く。

快く出迎えてくれた少女たちはそれぞれ隊の仲の良い友達。私も例外ではない。

友人に話しかけるべく、一歩近付こうと足を出すとよろけてしまう。まだ身体が波の動きを覚えているせいだ。

 

「哨戒任務、お疲れさま、漣ちゃん」

 

「出迎えありがとー。いやー相変わらず可愛いねー、うりうり」

 

「や、止めてよう、もう!」

 

イジリがいのある友人で遊ぶも、直ぐに整備員に艤装を外すように言われる。全く持って五月蝿い、変わりに出撃してくれると言うのであれば文句は言わないのだが。

それを口に出すわけにもいかず、私は自分に割り振られた番号の艤装着脱装置に向かう。他の艦娘も装置に向かうが、旗艦である先輩だけは整備員とは違う職員と話し合っている。

横目でそれを見て、私は艤装を外す為、装置の扉を開ける。いつ見ても一人用の核シェルターのように重々しい装置だ。

 

「これさ、中に入って出られなくなったらどうしよー! とか考えない?」

 

「えッ!?」

 

「暗い中にとじ込まれ、狭い空間に独りぼっち。そして聞こえて来る『返して、返して』と言う謎の声が……」

 

「も、もう! ヘンなこと言わないでよ、漣ちゃん!!」

 

怒った友人から逃げるように、装置の中に入る。扉が閉まるり、暗闇になると今度は青白い光に照らされると、出で来るアームに全てを委ねる。

自分で言ってなんだが、閉じ込められるよりもこのアームが誤作動した方が何倍も怖いと思う。もちろん、そんなことが起これば大惨事。無事に私はアームからも艤装からも解放され、扉は開かれた。

ドッと疲れが襲う。艤装を外した時は何時もこれだ。訓練程度ならまだましだが、任務に艤装を外すと疲れが酷い。

任務中は気を張っているからかそうでもないのだが、やはり無事に帰って来たと言う安心感が緊張の糸を切らすのだろう。

再度出迎えてくれた友人と軽く話すと、そろそろドックに行く、と私は話しを適当に切り上げる。

ふと、先輩がいた方を見ると未だに話しており、その背中には艤装が付いたまま。他の艦娘はすでに艤装を外し終え、どうするべきかと工廠の入り口付近に待機している。

 

「先輩! 漣たち、先に入渠しときますよー?」

 

「ああ、うん。ゴメンね、先に行ってて。じゃあ、第三水雷戦隊、解散!」

 

代表して私が聞くと、先輩は片手を振って答え、私たちは工廠の外に出る。

室外に出たと言うこともあり、風が頬を撫でる。心地よい、良い風だった。

私たち艦娘が任務から帰って来ると、必ずと言っていいほどすることがある。

一つは艤装を外すこと。兵器を持ちながら鎮守府をあるくなど普通の慣性があるならばまずしないだろう。それに間違って引き金を引けば弾が放たれる。危険の一言に尽きる。

もう一つは入渠。入渠と難しい言葉を使っていても、その正体は単なるお風呂だ。専門用語か何かは知らないが、任務後は入渠と言う入浴がある。

何故任務後にお風呂に入るのか、理由は簡単だ。びしょ濡れなのだ、全員。

物によるが、訓練程度なら足首を濡らす程度ですむ。だが実際に沖に出ると、大きな波や仲間が起こした白波が容赦なく服に掛かる。

深海棲鑑と戦う時にはそれはもう、酷い。

速力を上げればそれだけ周りに水しぶきをまき散らし、砲雷撃戦で水柱がそこら中に立ち上がる。そうして舞い上がった海水がバケツをひっくり返したように頭から降りかかり、後に霧雨が辺りを包む。

そうなるとどうなるかは、言わずともわかるだろう。

まあ、その時は確かに酷いものだが、実際に鎮守府に戻って来る時には服は乾き、髪も程よく乾いている。が、そのままでいいと思うことは決してない。

それを考慮してなのか、入渠と言うものがあるのだろう。

 

「おっ風呂ー、おっ風呂ーっと! はー、このために生きているんだなぁ」

 

「それはいいんだけど、なんか旗艦を差し置いて来ちゃった感じかするわね……」

 

「なに言ってるの、先輩は報告とか忙しいんでしょ? それに解散の指示を貰ったからこれでオッケー! 漣たちはお風呂でゆたーっとすればいいんですー」

 

ほら早く、とあまり乗り気でない隊の仲間の背中を押しながら、入渠場所、ドックへと入って行く。

風呂は風呂なのだが、入渠の風呂場は日常的に使う風呂場とは違う場所にある。つまりは入渠専用の風呂場と言うことだ。

脱衣所に入ると、まずは服に着けていたラメ入りの大きな丸いバッチを外す。そして髪を結ぶのに使っていたヘアアクセサリーを外し、髪が解ける。

最後に腕に着けたブレスレットを外し、それら三つをかごに入れる。

小道具を全部外し終わった後は服を全部脱ぎ捨て、ドラム型の洗濯機に放り込む。蓋を閉め、スタートボタンに指を向ける。

 

「スイッチ~、オン!」

 

軽い掛け声と共にボタンを押し、洗濯機が音もなく動き出す。後は洗濯と乾燥が終わるまでゆっくりと入浴すればいいだけだ。

振り返ると他の子も脱ぎ終わり、脱衣所に常備されているタオルを片手に持っている。自然と視線が腰回りへと移るも、意識して眼を逸らす。

 

「……漣、一番乗り! 貰ったー!!」

 

誤魔化すように、私は声を上げる。自分の背中に回し始めていた腕を前に突き出し、浴場の扉を指差す。そしてそのまま浴場の扉を開き、中へと入る。

勢いそのまま、お湯に浸かろうかと思っていたが、思い止まる。公共の浴槽に塩が付いている身体で入るのは流石に非常識か。

私がそう考えていると、どうかしたのか、と他の子が入って来る。

 

「ううん、何でもなーい。それよりも見てみて! 貸切キタコレ! ひっろーい!!」

 

両手を広げ、辺りに私の声が響く。

お湯の蒸気が私を包み、入浴剤の匂いが鼻に付く。ドックの浴場は簡単に言ってしまえば大浴場。日常的に使う大浴場との違いと言えば、何時も黄緑色の入浴液が入っているぐらいだろう。

他に気になるものがあると言えば、一人用の小さな浴槽も沢山あると言うことだろうか。

ほんとだ、と入って来た子たちが辺りを見渡す。入浴するために、私はまずシャワーで身体を流し始め、それに続いて他の子も身体を洗い出す。

 

「ねぇ、今回の任務て、海上哨戒なのよね?」

 

「んー? 先輩がそう言ってたじゃん。それがどしたのー?」

 

「それにしては航路がおかしくなかったかしら。ちょっと、作戦上使用する航路とは無関係の場所だった気がするわ」

 

「だとしても、漣たちは旗艦である先輩の指示に従うだーけ。それとも地図やコンパスを持ってなくても海上で右左がわかるのー?」

 

「それは……まあ……」

 

話しなが洗い、洗い終わると私は浴槽に向かって歩き出す。熱心なのは良いが、もう終わった話しなのだから止めて欲しい。風呂場で仕事話しなど、学生がするものではない。

目指すは中心にある一際大きな大浴槽。タオルで頭を巻き、足先からゆっくり入りる。肩まで入れば、極楽だ。

海上で冷えた身体にお湯が沁み込み、身体がほぐれていくのがわかる。他の子たちも次々と入り、お湯に波が立つ。ホッと一息吐き、任務での疲れも忘れてしまいそうだ。

浸かっていると、一人が驚いた声を出し、自然と視線が行く。

 

「なにー、どうしたの? 誰のうわさ話しー?」

 

「ううん、違う違う。私たちが帰って来る前に第一艦隊が帰って来てたんだって! え、じゃあ、もう少し早く戻って来てたら……」

 

「そう! 運良くここで鉢合わせたかも! ねぇ、ねぇ、誰推し? 誰推し?!」

 

そんな話しをして、キャアー、と黄色い歓声が上がりる。

第一艦隊、この鎮守府で一番力を持っている艦娘たち。そう、力を持っている。それは深海棲鑑を倒す戦力的な意味でもあるし、地位や発言力と言った評価の意味もある。

本来、艦娘同士で書類上、立場上明確な上下関係はない。だが学校の一年生より二年生が偉いように、十歳より十一歳が偉いように、そう言う風習があるのが事実。

ゆえに第一艦隊は『力』を持ち、鎮守府内でアイドルやヒーローのようにもてはやされている。そしてアイドルやヒーローにはファンが付き物。

第一艦隊の武勇伝から、あの人はここが素晴らしい、と言った話題が浴場に飛び交っていると、不意に浴場の扉が開かれる。

 

「はーい、皆お待たせ? ゆっくりしてる?」

 

「あ、先輩! 今第一艦隊の話してたんですよー。先輩は誰推しとかありますー?」

 

「え?! そうだなー。別にあなたたちみたいに熱心じゃないけど……」

 

入って来た先輩に、私は話しを振る。皆も気になると、自分が推しの人を進め始める。

先輩は再度、そうだなー、と考える素振りを見せながら身体を洗う。

ふっと、その背中に視線が行く。年上と言うこともあって、スタイルもよく、スレンダー。だが、その背中には人にはないものがある。

鉄、機械、艤装の接合部分。私にもある、忌々しい呪い。

 

「いや、目に見えるから烙印か……?」

 

盛り上がる浴場で一人、私は適当に零した。

 

 

 

 

洗濯も乾燥も終わった、新品のように綺麗になった制服にまた潮風が吹き付ける。洗濯機から出したのに関わらずシワもないと言うのは、やはりこの支給された制服は特別製なのだとわかる。

入渠を済ませた私たちは任務完了祝いとして、甘味処に行くことになった。ちょうど皆、チケットを持っていたこともあり、パーッとしよう、と言うのが先輩の考え。

ちょうど今は昼時らしく、休憩中の艦娘を見かける。チケットを取りに立ち寄った寮ではサイロで談笑していたり、外では手頃な場所で立ち話し。他と言えば授業の復習や読書。

つまり、ここではそれぐらいしかすることがないのだ。

 

「えっとー。漣はあんみつパフェ!!」

 

「ええっと、じゃあ……最中セット。バニラアイスとオレンジを」

 

甘味処の座敷に座り、私はお品書きを指しながら注文する。各々注文する中、どうしようか、と相談し合い、互いの注文したものを半分に分け合う等の締結を結ぶ者もいる。

更には一度注文したものを取り止めて新しいのを頼むが、結局は最初の注文に戻る。

店員を暫く待たせる形で全員の注文が済むと、それと同時に皆チケットを店員に手渡す。そのチケットの枚数を確認した店員はチケットにハサミを入れ、ポケットに仕舞った。

嗜好品配給チケット。艦娘に配られるチケットで、数週間に一枚貰え、また出撃の際の戦果によって支給される。だが、チケットは需要に対して供給が極端に足りていない。それもそうだろう、なんせ嗜好品との交換が出来るのだ。

昔は普通に買えていたと聞くが、それはまだシーレーンがあり、深海棲鑑がいなかった頃なのだろう。

二十歳を過ぎていれば煙草やアルコールと交換するのだろうが、私たちはもっぱらデザート。つまりここ、甘味処は嗜好品配給チケットを使ってデザートが食べられる場所と言うことだ。

 

「えっと、じゃあまだデザートは来てないけど……皆、お疲れ様!」

 

先輩の声に続き、私たちも『お疲れ様』と言う声が甘味処に響く。休み時間だと言うのに私たち以外にほとんど客の姿はなく、空席が目立つ。

甘味処と言う建物は本格的で、テーブルから椅子と言った備品から、細々とした装飾品まで甘味処を彷彿とさせる物で揃えている。外観もそれと同じで、入り口付近には傘が差され、長椅子が置かれている。

そんな『らしい』場所なのだが、残念ながら休憩所として開放されない限りは人足は増えないだろう。

 

「今回の任務は長かったわね、何時間海上にいたのかしら?」

 

「そうそう、他の鎮守府にも行ったし、ちょっとした旅行ね」

 

注文の品が来るまで自然と雑談が始める。それもそうだろう、私たちはただの女学生、集まれば会話が尽きない。

その中でもやはり中心になるのは立ち寄った他鎮守府。孤島に造られた駐屯地みたいな所だったが、この鎮守府以外の所に行けたと言うのがなりよりも大きい。

娯楽施設もあっても甘味処と購買。だが甘味処は嗜好品配給チケットがなければならないし、購買もずっと入れるわけではない。ほんの少しの娯楽と、大きな束縛。

飼い殺しの生活を押し付けられれば、隣の芝が青く見えるのも仕方ないだろう。

 

「でもあそこの鎮守府、ホントになーんにもなかったねー? 裏の山は綺麗だったけど、それ以外はただ広いだけだったしー」

 

「ああ、確かにそうね。あれじゃあ甘味処もないんじゃないかしら。それに着任している艦娘って数人なんでしょ? 防衛とかどうするのかしらね」

 

「こーら、そう言わないの。あれでも前線で活躍した名のある鎮守府よ?」

 

「ふふっ、けど先輩もあれ呼ばわりじゃないですかー。本音は隠せませんねー?」

 

困り顔を見せる先輩に、皆はくすりと笑う。そう言えば、と話しが盛り上がっている内にカチャカチャと食器が鳴る音と共に、足音が聞こえる。

見てみればデザートを乗せたお盆を持った店員が歩いて来る。待ってましたと盛り上がり、次々とテーブルに置かれていくご馳走に心躍る。全てが置かれた頃にはテーブル上はお祭りだ。

すると先輩が一度手を叩き、私たちの視線が集まる。

 

「じゃあ皆、もう一度言わせて。皆、お疲れ様! 今日は楽しんで!!」

 

各々返事をし、デザートに手を出し始める。私はあんみつパフェにスプーンを入れ、口に運ぶ。

 

「あんみつキタコレッ! ウマー!! パフェウマーッ!!」

 

「こっちのぜんざいも美味しいわ! ほっぺたが落ちちゃいそう……」

 

それではまずい、と私たちはほっぺたを落とさないように手で押さえる。だがその原因になるデザートには手を出し続ける。

大体他の子も同じで、口に運んではほころばせ、楽しそうに会話をする。そんな光景に、私もほころぶ。いつもこうだった、ここに来るまでは。

学校に行けば友達と合ってバカ騒ぎ。くだらない話しから噂話、どこの部活の男子がダメだとか、こんな店を見つけたとか。

そんな中、あら、と隊の者と違う声色が聞こえる。見てみると、自然と口からこぼれた。

 

「げッ……」

 

「『げッ』っとは随分なご挨拶ね。楽しそうでなによりだわ」

 

そう言って肩を竦まれる。長髪で、どこを取ってもぱっつんと来れば私は直ぐに思い付くのは一人。

全く、せっかくの楽しい時間に水を差さないで欲しい。

 

「なんか用? 見ての通り取込み中なんだけどー……」

 

「なによ、ただ挨拶しただけじゃない。そんな邪険にされる筋合いはないわよ」

 

「あっそ……見た通り漣たちは今忙しいの。そっちもここに来たんだから、行くのはあっち」

 

私は遠くの席を指しながらその少女に言う。それに対してまた肩を竦まれる。

 

「あ、あの……お二人は友達なのですか?」

 

すると、その少女の後ろからまた他の少女がとんでもないことを聞く。確か、電と言ったか。何時もおどおどとしていて、あの深雪と一緒にいるのをよく見かける。

 

「さぁ、どうかしら。行くわよ電。邪魔したわね」

 

以外に臆せず物を言うんだなと関心していると、向こうから離れて行く。当てつけなのか、私が指差した席に座り注文を取り始める。

視線を戻し、会話の続きだと口を開こうとすると皆の視線が私に集まっている。そしてくすりと先輩が笑う。

 

「なに、貴女まだ喧嘩してたの? 狭いコミュニティなんだからそう言うのは関心しないわよ」

 

「別に、喧嘩なんかしてないですー。それに狭いコミュニティだからこそ明確なグループ分けができるんですよ、漣たち第三水雷戦隊ってグループが」

 

そう言う意味じゃないでしょ、と先輩は突っ込み、場が和む。そして甘いものを一口食べれば元通り。

それはそうだろう、私たちはただの女学生。甘いものと楽しいことには目がないのだ。




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