僕は小説家だ。
いや、小説を書くことのできるどこにでもいる青年なのかもしれない。この世にあり溢れているただの青年。
22というあまりにも若い年齢で、小説を書くことだけを生業としている。
俗に言う専業作家というものだ。どちらかというとSFとも言えない、そうなんとも言えない世界を想像し、書き続けてきた。
この世界に足を踏み込んだのは、いつからだろうか。
中学生の頃だろうか、それとももっと前からだろうか。
はじめは現実とは違う世界を自ら創り出す、そのことに憧れを感じたから。そしてそれはいつしか自分にとって無くてはならないものになっていたから、それは自分にとって、そう僕にとっては生きることと同じだと思っていたから。
世間に認められるようになったのは、大学入学直後に書いた物がある出版社の大賞に選ばれたからだった。
趣味だった。趣味で好きだから書いていたものが、人に認められるということが嬉しかった。誰かに読んでもらえるだけで嬉しかったのに、それを褒めてもらえた。
僕の書いた文章が、束になって一つの本として世に出る。それがあまりにも嬉しかった。
だから、有頂天になっていたのだろう。天狗になっていたのだろう。欲が出たのだろう。そして、いつからか趣味は仕事に、好きだった物語を紡げなくなっていた。
小説家という職業に就いて、4年の月日が経ったが新たな気鋭の作家に押されたのか、それともベテラン作家の重みある文章に潰されていったのか、少しずつ自分の本は売れなくなり、今ではちょっとしたマニアックな読み手が読んでくれるだけになった。
少しだけでも自らの稼いだお金を払って、買ってくれる読者に感謝しきれない。
そんな気持ちとともに、かつてあれ程いた読者が減っていくことに心が削られていた。
「先生、少し休み取られては?」
読者をもう一度獲得しようと躍起に、いや自暴自棄になっていた僕を見かねて、そして心配して担当になっていた女性はそんなことを言った。
担当からのその一言が、なぜか心に刺さった。
理由などなかった。それでも、今という現状では書きたいものも何もかもを失う。そう、心が感じたのかもしれない。
担当者の言葉に素直に頷き、何もすることのなかった。
そして気がつくと僕は、旅に出る準備をしていた。
行く当てもない。ただただ彷徨い行くだけの旅。
なぜ旅に出ようと考えたのか?
学生時代に出来なかったことを今のうちにやっておきたいと考えたのも一つの理由かもしれない。
だけど本当のことは分からない。だからこそ、自分自身のこの衝動を大切にしたかった。
この衝動のままに、自分の目で世界を見つめてみたかった。
だから僕は旅に出る。
少しばかりの野宿用の荷物と鉛筆と原稿用紙。
最小限の荷物を長年使い続けてきたリュックサックに詰め込む。
作家としての僕ではなく、ただ一人の小説が好きで書きたいだけのただ一人の人間として。
行き先は決めずにただ彷徨う、いや今のご時世には、ほぼありえないと言っても良い放浪の旅。
きっとこの旅の先に何か見つけられるかもしれない、