「あたしが寝てる間にそんな事がねぇ……。」
私がハクの真名を告げてハクが自分自身を取り戻せた後、テンションマックスなハクの声で目が覚めたのか、銭婆婆さんが寝室から起きて来た。
「はい。自分でもびっくりです。あ、昨日はありがとうございました。お陰様ですっきりしました。」
「あんなもの、わざわざ礼を言われる程のもんじゃないよ。それに子供は子供らしくしてろって言っただろ? これからは敬語は禁止だよ。」
何て漢らしい……。昨日から銭婆婆さん、いやおばあちゃんが格好良すぎて困る。今度兄貴って呼んだら怒るだろうか。
「えっ……うん。分かった、あに、おばあちゃん。…………?……ハクどうしたの? 顔が怖いよ??」
何故かハクがおばあちゃんを睨んでいる。そう言えば、ハクはおばあちゃんからハンコを盗んだのだし、未だ敵対関係と言っても過言ではなかった。かと言って私がおばあちゃんに頼んでハクを許して貰うのも違う気がして、その問題は放置しておいたのだった。
「いや、何でもないよ。それよりも千尋、こっちへおいで。」
「う、うん。」
好きな子と嫌いな子が一緒にいるのが嫌だとか、そういう感じだろうか。ハクも子供っぽい所があるのだなと思った。
「ふっ……青いねぇ。」
青い? 若いという意味だろうか? ハクが子供っぽいから??
「……そうだ千尋、あんまり長居するのは悪いし、そろそろ帰ろう。湯婆婆は怒るだろうけど、もう私の呪いも無いのだし心配する事はないよ。」
「あっ、それもそうだね。早く戻らないと。私、釜爺以外に誰にも言わないで出て来ちゃったから、大変だよ。」
釜爺が他人達に伝えてくれていれば良いだが……まぁ、そうでなくても無断で仕事を投げ出して出て行ったのだから、間違いなく大目玉を食らうだろうな。
「別にこっちは長居されても構わないんだけどねぇ。じゃあ千尋、気を付けて帰るんだよ。……くれぐれも無理はしないようにね。これを機に人に頼る事を覚えなさい。お前はまだ子供なんだからね。」
「うん、分かったよおばあちゃん。ありがとう。また来るね!」
おばあちゃんの優しい言葉に胸が暖かくなる。次に来た時は、こんな事をしたのだと良い報告が出来れば良いなと思った。
「ハク、この娘をしっかりと守るんだよ。それが私へのお前の償いだ。それと、自分も大切にする事。この娘がどれだけお前を大切に思っているのか、それをちゃんと考えて行動する事だね。」
「はい、ありがとうございます。」
ハクは最初こそ微妙な顔をしていたが、最後の返事はしっかりとした声で返していた。
良かった……どうやらこの2人の関係も、なんとか落ち着いた様だ。
玄関を出て広い庭に行くと、ハクがたちまち龍の姿になって私を背中に乗せた。ハクは手を振れないので、ハクの代わりにもと私はおばあちゃんと案内をしてくれた街頭にぶんぶんと手を振って、また会う日までのお別れをする。
おばあちゃんは手を振り返してはくれなかったけど、その目はとても優しかった。