「あの……ここは?……。」
ハクに案内された部屋は湯婆婆様の部屋の下の階にある眺めの良い綺麗な1室だった。だったのだが……
「千尋には、これからはここで寝泊まりしてもらうよ。」
机にタンスにその多諸々、家具が揃ってるのは良い事だと思う。思うのだが、それだけではなく生活感が感じられるのは何故なのだろうか。チラリと覗いたゴミ箱には、生ゴミが袋で捨ててあった。おい、間違いなく人が住んでいるぞこの部屋。
ハクをじろりと睨むと、観念したのか顔を伏せて深い溜息を吐いた。
「最初に言っておく。私はちゃんと言ったんだ。部屋はどうしても別が良いって。」
「えっ、それってまさか……。」
「ここは私の部屋だ。」
「……。」
思わず、黙った私は悪くない。
「……っ大丈夫! 私は廊下にでも布団を敷いて寝よう!」
「いや、それは流石に!……あっ、女性の従業員もいたよね? その人達と一緒の部屋じゃ駄目なの??」
「あー……ここは階級が激しくて、私達が彼等と一緒に過ごす事はあまり良くないんだ。」
「……他に空いてる部屋とかは?」
「それがあったら、こんな事にはならない。」
「ソウダヨネー。」
なんて事だ。まさか異性と同じ部屋で寝食を共にする事になるとは思わなかった。前世も今世も1人っ子の私には、いささかハードルが高すぎるぞ。
「……やっぱり私は廊下で「いやっ、だからそれは拙いって! 湯婆婆様の弟子が廊下に寝てたら従業員達もびっくりしちゃうでしょ?!」」
「……それもそうか。」
納得してくれた様で良かった。もしそれを実行されたら、私が兄弟子を部屋から追い出して爆睡した女になってしまう所だった。そんなのハクがいたたまれない上に私が嫌過ぎる。
これは苦渋の決断だけど、受け入れるしかないのか??
「はぁ……まぁ、気にするけど、良いよ別に。」
「えっと、それは……」
「だから2人で一緒の部屋でも良いって事! お互い着替えの時は外に出てればそれほど不便でもないでしょ?」
思わず語尾が荒くなってしまった。いやだって、自分で言っていて恥ずかしいんだもの。何で私はハクと一緒の部屋で寝る事になったんだ?? いや、原因は分かってるけど……
「そ、そうだね。……うん。」
「そ、そうだよ。はは、何だ、大した事ないね……」
2人して前向きに肯定はしたが、何処かぎこちなさが漂う。
「それじゃあ、これからも宜しくお願いします?」
「こ、こちらこそお願いします?」
夫婦か。思ったけど、賢明な私は口には出さなかった。
「はははは……」
「ははははは……」
「はは……」
「……。」
何だこれ、気まず過ぎるぞ。何とか、何とかこの空気を一新出来ないだろうか……
「あ、じゃあまずはここを案内するよ。まだ、全然回れてないでしょ?」
「是非お願いします! 私、ここの事すっごく知りたい!!」
そんなに知りたかったのか……と呟くのは辞めて欲しい。天然か。気まずい空気を何とかしたかった私にとっては渡りに船だったんだ。だから、適度に教えてくれれば良いから気負わなくても良いんだよ? ハク……