横浜鎮守府の【提督】宝珠の戦士と【副提督】 作:シャイニングピッグEX
白い日には本当に縁が無さそうです。
二月中旬頃。
世間はバレンタイン一色に染まり、恋人は勿論のことながら友人や会社の同僚、上司や部下、先輩や後輩等へ渡す人もいることだろう。
当然、ここ横浜鎮守府も同様である。
「まずはチョコレートを溶かして」
「その次にボウルに入れて混ぜ合わせる」
「そしたらチョコを好きな形にする。崩れない様に慎重にね」
「ああ。……ってなんで俺が作ってる訳!?」
零はエプロンを着て白いコック帽を被り、百合達女子に見守られながらチョコレートを作っていた。
「え?これは貴女の仕事でしょう?」
「提督が作るんじゃないのか?」
「ボクはそう聞いてたんだけど」
「いやいや逆でしょ!?俺の性別忘れてないかなぁ!?」
「提督…安心してクダサーイ。私はちゃんと覚えてマース。提督が女だって事ヲ! 」
「忘れてんじゃねえか! 」
零は頭を抱えながら叫んだ。
「でもよく考えてみて下さい司令官。」
口を開いた霧島に一同の視線が集まった。
「鎮守府中の艦娘からチョコレートを貰った所で提督は食べ切れるんですか?」
霧島は眼鏡を整えながら零の方を見て聞いた。
「そ、それは…」
「百個を優に超える数のチョコレートを提督一人で食べ切るんですよ?仮に食べ切ったとしても今後の健康状態がどうなるか想像は容易いですよね?」
「う……」
それ以上は何も言えなくなったのか、零は黙ってチョコレートの方を向いた。
「とはいえ、私達も手伝いますし、まだバレンタインまで時間はありますから。頑張りましょう」
「そうそう!それにいざとなれば大きなチョコレートケーキって言うのも良いと思いマース! 」
「…そうだね。日頃皆には頑張って貰ってるしね。たまにはこう言うのもありだね」
「さあ!そうとなれば続きを頑張ろう!」
「おー!」
最上の掛け声で一同はチョコレート作りを始めた。
その頃、別の厨房では一人の艦娘が剣の様な形をした巨大なチョコレートを作っていた。
「後はここをこうして、と。ふぅ、これで提督やお姉様達も喜んでくれる筈!」
すると、一人の別の艦娘がその厨房の扉を開けた。
「あれ?比叡お姉様こんな所で何を…何ですかこれ!?」
「あ、榛名。どうしたの? 」
比叡は後ろの扉から入ってきた榛名に気付き、榛名の方を向いた。
「いや、て言うか何ですかこれ…あの剣に凄く似ていますが」
榛名は厨房に聳え立つ巨大な剣の様なチョコを見上げながら言った。
「これ?バレンタインチョコよ。皆にも食べて貰おうと思って大きく作ったの! 大変だったのよ〜あの形を思い出すの!」
そう言う比叡の顔はとても嬉しそうだった。
相当手間暇かけて作ったのだろう。
「と、ところでお姉様」
「ん?なあに榛名?」
「これどれ位かけて作ったんですか?」
「そうね…大体三ヶ月位?」
「まさかの去年からですか!? 」
「ええ。ちょっと気合い入れすぎちゃったけど、無事完成したわ」
「…………」
榛名は何も言わなかった。
いや、言えなかった。
一週間や一ヶ月ならまだ「そのお気持ちは有難いですがそんなに大きいと他の艦娘のチョコレートが食べれなくなっちゃうんじゃないですか?」と言えよう。
まだその程度なら。
だが、流石に三ヶ月も掛けられて作られたと知って、そんな事を言った日には「酷い!こんなに一生懸命作ったのに食べてくれないの!?」と言われ、泣かれかねない。
かと言って細かく切り刻もうとも、比叡は三ヶ月かけてこの形を作り上げたのだ。
それを壊すことなど、ましてや心優しい榛名にはとても出来る事ではない。
(あああ、榛名はどうすれば…!)
寒さで冷えきっている榛名の頬を、一つの冷や汗が伝った。
「で、でもお姉様、こんなに大きなチョコレート、どこに入れるんですか?さすがに収納する場所なんて…」
「そうだろうと思って大きな冷蔵庫を容易しておいたの!提督が家具職人さんに無理言って特設して貰ったのよ」
比叡の後ろには巨大な冷蔵庫が横たわっていた。
その冷蔵庫は比叡が作った剣の形のチョコを丸々一つ収納出来るスペースが各方面されていた。
榛名と比叡はその冷蔵庫を覗き込んだ。
「よ、よくこんなの作れましたね…どっちも…」
「さてと。それじゃあこれ入れるの手伝ってよ。折角来たんだし」
「あ、は、はい!」
榛名は比叡に言われ、二人はチョコの両橋を持って冷蔵庫の中へ収納した。
「中々重量がありますねこれ」
「そりゃあ私の愛が沢山詰まってるからね!榛名にもちゃんとたべさせてあげる! 」
「あ、ありがとうございますお姉様…それでは榛名はこれで失礼しますね」
そう言って榛名は逃げる様に部屋を出た。
「つまみ食いしたいけどそれじゃあダメですね。ちゃんと保存しておきましょう」
比叡もそう言いながらエプロンと三角巾を外して厨房を出た。
その冷蔵庫の中で剣型のチョコが紫色に妖しく光っていることも知らずに…。
そして、バレンタイン当日。
「おおお〜……!」
怪獣達や艦娘達の前には、所狭しと大量の皿が並べられており、中央の皿には様々な味や形のチョコで彩られたチョコレートケーキが並んでいた。
「存分に腕を奮ったんだ。存分に味わってくれ」
「て、ててて提督ゥー!」
「どうしたの金剛さん?」
「こ、こんなにBigなチョコレートケーキは初めてデース!」
「うん!味も良いですよ!」
一口食べた霧島が言った。
「この苺のチョコも美味しいです〜!」
榛名もケーキに飾ってあったチョコレートを一つフォークでさして口に運びながら言った。
「いやぁ、喜んで貰って良かった、良かった」
零は嬉しそうに目を細めた。
「あれ…比叡ちゃんは?」
ユリは一つぽつんと空いた椅子と皿とフォークを見ながら言った。
「そういやいないな。ちょっと探してくるよ」
「お願いね」
零は部屋を出て比叡を探し始めた。
「おーい!ひえいー!」
零は手でメガホンを作りながら比叡を呼んだ。
「どこ行ったんだ…?」
零は一度立ち止まり、辺りを見回した。
すると、厨房の方から大きな爆発音が聞こえた。
「!!」
その爆発音でミクラスが口に運んでいたチョコレートが地面に落ちた。
「あー!アタシのチョコおおお!」
「それどころじゃないぞ!」
アギラも無言で頷いた。
零は爆発の音がした厨房へ向かった。
零は扉のノブに手をかけて開けようとしたが部屋の中の瓦礫が邪魔で開かない様だった。
「ぐっ!こうなったら…!」
零は一度扉から離れ、勢いをつけて扉を蹴り飛ばした。
「オラァ!比叡!…!!」
部屋の中は瓦礫まみれになっており、部屋の中では焦げるような臭いが充満していた。
このままでは一酸化炭素中毒で死んでしまう。
その前に比叡を探さなければいけない。
「比叡!どこだ!…ん?」
零は瓦礫の山の下の部分に人の足らしき物を見つけた。
「これか!ふんっ!」
零はその足を力強く握って瓦礫の山の中から比叡を引っ張り出した。
「比叡!大丈夫か!?」
零は厨房を出て比叡の体を揺すった。
すると、比叡は弱々しいながらもゆっくりと目を開けた。
「あれ……?提……督……?」
「ああ!助けに来たぞ!さあ、早く─────」
「チュチュオオオオオン!」
二人の会話を遮って一体の茶色い怪獣が厨房から顔を出し、全身を出現させた。
「チュチュオオオオオオオン!」
「…とにかく今は逃げるぞ!」
「はい…」
零は比叡を背負い、厨房を離れた。
その茶色い怪獣は市街地へ進み、街の洋菓子屋やスーパーマーケットを狙って襲い始めた。
「チュチュオオオオオン!」
茶色い虫の様な怪獣は店の中からチョコレートが使われた商品を狙って貪った。
「あーっ!ウチのチョコレートが!」
店の主人が茶色い怪獣の口元を指さして叫んだ。
「チョコを食べる虫!?」
「と、とにかくチョコを持って逃げろ!」
「お、おお!」
その店の主人の言葉で他の店の店主や店員は自分達の店のありったけのチョコを抱えて逃げた。
虫の怪獣はそれらに狙いを定めて進み始めた。
「皆逃げろー!絶対に食われるなー!」
店員達はわあわあと一直線に街を逃げ、虫の怪獣は市街地を蹂躙しながら店員達を追った。
その様子は鎮守府にも伝えられていた。
「厨房から現れた怪獣はどうやらチョコレートを狙っている様です」
大淀は通信機器から受け取った情報を零達に伝えた。
「チョコレート?またなんで」
「比叡ちゃん、何か心当たりない?」
百合は比叡の顔を覗き込んだ。
「私にも分かりません。…ただ、私は皆に私のチョコを食べて貰おうと思って…」
比叡は窓から自分のチョコが入った冷蔵庫が入ったとされる怪獣を見つめながら言った。
「つまり、比叡の思いが具現化しちゃったってコトー?」
「一体何をどう思ってチョコを作ったらああなるんですか…」
「とにかくアレを止めないと!赤城さん!」
吹雪は椅子を立ち上がって赤城の方を見た。
「あ、ちょ、ちょっと待って。あと一切れだけ…」
赤城は口の周りにチョコレートケーキのクリームを付けながらケーキを食べていた。
「え、えぇ〜…」
少しして、赤城と吹雪はスペシウムゼペリオンに変身し、チョコの様に茶色い虫の怪獣の元へ飛んでいった。
「俺の名はオーブ!闇を照らして悪を…!?」
オーブは怪獣に近寄った途端、唐突に甘い匂いに誘われ、虫の怪獣に寄って行った。
そして、そのままオーブは怪獣の攻撃を喰らい、大きく吹っ飛ばされた。
『ぐあっ!ちょっと赤城さん何やってるんですか!?』
『いやぁ、なんだか甘い匂いがしたから…』
『気持ちは分かりますけど抑えて下さい!』
オーブは首を振って誘惑に負けないように構えを取って間合いを取った。
「チュチュオオオオオン!」
「シュアッ!」
『こう言うのは先手必勝です!』
「『『スペリオン光線!』』」
オーブは怪獣が仕掛ける前にスペリオン光線を放った。
光線は怪獣に直撃し、上半分が吹き飛んで怪獣は動きを止めた。
しかし、次の瞬間怪獣の上半身に吹き飛んだ怪獣の破片が集まり、やがて元の姿に戻ってオーブに尻尾の攻撃を食らわせた。
「ぐあっ!グゥッ!」
「チョコレートで出来た怪獣…しかも虫…レットバグ…」
「呑気に名前なんか付けてないで下さい提督!」
「あだあ!?」
零の頭に榛名が投げた星型のチョコが直撃した。
『こんなん一体どうすれば倒せるんですか!?』
吹雪はオーブとして戦いながら叫んだ。
『ある意味、最強の、敵ね!』
赤城もオーブとしてレットバグの攻撃を避けながら言った。
「私の…私のチョコ…」
ミクラスは地面に落ちたチョコを見ながらブツブツ呟いていた。
「チョコレートが食べたいなら行ってくれば良いじゃん」
アギラのその一言に全員がアギラの方を向いた。
「……アギラ、今なんて言った?」
「え、いや、だから食べてくれば良いじゃんって…」
「…!それだ!」
百合と零はお互いに顔を合わせて指をさした。
「ミクラス!」
「?」
「お前にチョコレート食べ放題の権限をやる!」
「本当!?」
零のその一言でミクラスの目に光が戻った。
「ああ!ただし中の冷蔵庫は食うなよ!」
「分かった!」
ミクラスは強く頷き、外に出て怪獣の姿となった。
『よーし!張り切っていくよー!』
「グオオオオオ!」
ミクラスは元気よく叫び、レットバグの方へ走って行った。
「…ん?シュア?」
「グオオオオオ!」
オーブは突如現れたミクラスの方を向いた。
「……!フゥッ!」
「グオオッ!」
オーブとミクラスは頷き合い、レットバグの方へ走って行った。
オーブはレットバグの攻撃を躱しながら後ろへ周り、レットバグの動きを封じた。
『それじゃあ、いっただっきまーす!』
ミクラスは大きく吼えるとレットバグにかぶりついた。
レットバグはじたばたもがくもミクラスに食べられながら羽交い締めされているのではどうしようもない。
やがて、レットバグは動くのを止めた。
『ぷはー!ご馳走様でした!』
レットバグは綺麗さっぱりミクラスの胃の中に収まり、地面には冷蔵庫が残されていた。
「グオオオオオ!」
「シュゥゥワッチ!」
オーブは大空を仰ぎみて空の彼方へ飛んでいった。
ミクラスも人間態へと戻り、小さくなった。
「ふいー、お腹いっぱい!」
ミクラスは大きくなったお腹を擦りながら言った。
「よ、よく食べれたな…」
「と言うかよく入ったね」
「甘い物は別腹よ!」
ミクラスはドヤ顔をしながら言った。
「しかし、本当になんでチョコレートがあんな風に…?」
「それになんでここを狙わなかったのかしら?」
「きっとここのチョコは食べれなかったんですよ。私はここのチョコだけは崩したくありませんでしたし」
零は冷蔵庫の中身のチョコを見た。
「これは……オーブカリバー……!?」
零の頭には写真で見たオーブカリバーと呼ばれる剣が頭に浮かんでいた。
「魔王獣八集マッタ…サァ、覚醒セヨ!大魔王獣!」
深海棲艦の声と共に地底に眠る謎の目が開き、妖しく紅の光を灯した。
今回はここまでです。
前にこれ書いたデータが吹っ飛んだけどよくよく考えたら保存してある事を思い出しました。
それではまた次回!
怪獣紹介
チョコレート怪獣レットバグ
体長50m
体重7000t
全身がチョコレートで出来た虫型の怪獣。その正体は比叡のチョコと比叡の三ヶ月の思いから出来たもの。だが、作っている内に自分のチョコだけを食べて貰おうと言う歪んだ独占欲がチョコに宿り、比叡のチョコを収納した冷蔵庫ごと取り込んで巨大化した。それによる副作用か、形は虫の形をしている。しかし鎮守府のチョコレートは襲わず、街の店のチョコレートだけを狙った。戦闘用の能力も備えており、その驚異の再生能力でオーブのスペリオン光線を喰らっても何事も無く再生し、オーブの手を焼かせた。中に冷蔵庫があるので外面は物凄く硬い。しかし、アギラの「食べれば良い」と言うアイデアにより食欲旺盛の三クラスに完封され、三クラスの巨大な胃袋の中に冷蔵庫を残して比叡の怨念ごと完食された。