武装魔術戦記   作:GST

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遅れましてどうもすみません

その分だけちょいと長めのお話になってます。

ま、まぁ今回もバトルパートほとんどないんですけどね……。


禍断と雅

「大丈夫か?幾久世(いくせ)君」

 

「今のところは……なんとか」

 

保健室から出て数分。

 

出口を探して走り回っている俺と未亜さんはこれまでで3度の侵略者との戦闘を経た。

 

俺は十姫を抱えているから戦えず、下がって見ていただけだけど、本当に未亜さんは強かった。

 

攻撃も防御も回避も、俺たちの比じゃない。

 

常に一方的な戦いだった。

 

そしてこれまでの戦闘を見てきて分かったことがいくつかある。

 

まず、敵のタイプが3種類あるということ。

 

ひとつは一撃の威力が高いビーム武装を装備した、いわゆる『バスタータイプ』。

 

俺と十姫が初めて戦った相手だ。

 

そしてビーム剣を装備した『ソードタイプ』。

 

最後は強力な盾を構えた『シールドタイプ』だ。

 

ほかにもあるかも分からないが、判明してるのはこれだけだ。

 

他に、彼らの体に内蔵された脅威もいくつか判明した。

 

まず、最も恐れるべき『溶解性の体液』、次に『伸縮自在の爪』。

 

これがある以上、不用意に接近戦はできない。

 

そして、『自爆機能』。

 

これは不発に終わったが、未亜さん曰く「自爆する」とのこと。

 

爆発範囲は分からないが、これも相当の脅威だ。

 

今のところでわかってるのはこれだけ。

 

対策は、どのタイプを相手にしても接近戦を挑んではいけないということだけだ。

 

「てか、大丈夫か?痛み止めだけでキツない?」

 

これだけ過酷な状況下でも、未亜さんは俺と十姫の心配をしてくれていた。

 

本当に、この人に会えてよかった………。

 

「強力なやつなので、まだ大丈夫です。それより、マシンガンの弾数、大丈夫ですか?」

 

そう聞くと、未亜さんはマガジンを探す。

 

「およ、マガジンきれとる。気づかんうちに結構ばらまいとったみたいやな」

 

「この先に武器の格納庫があるんですよ。ちょっと補給していきましょう」

 

俺はそういうと、格納庫を目線で示す。

 

未亜は首を縦に振り、二人で、いや三人で格納庫に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おほー、こりゃまたすごい倉庫やねぇ」

 

所狭しと並べられている武器の数々。

 

それらのうちいくつかは無くなっている。おそらく、教師の何人かが持ち去ったのだろう。

 

「自分も何か武器探しとき?あれじゃ重すぎるで」

 

教官のくれた可変武器。

 

あれは十姫を抱きかかえる際に保健室においてきた。

 

さすがに重すぎる。

 

「ごめんな、教官………あんたのくれた武器、捨てちまった」

 

そう呟きながら、十姫を下ろす。

 

「それじゃ、ウチはマガジン探してくるわ。幾久世君も何か探したほうがええよ?」

 

言い残して、未亜さんはどこかへ行ってしまった。

 

……武器、か。

 

「もう、そういう時なんだよな」

 

関係ないなんて、言っていられない。

 

戦わなきゃならない。

 

「俺も、武器を探そうかな」

 

重い腰を上げて、俺は武器庫の中へとその身を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ん?

 

なんだか、すごく嫌なにおいがする……。

 

気が付いたのは、その異臭のせいだった。

 

ふわふわしていたさっきまでの感覚はなく、急に自らにのしかかる重力に思わず倒れそうになる。

 

「………私、死んでないんだ……」

 

そう確信した理由は、自分の身にまかれている包帯を見たからだ。

 

けれど、痛みはない。

 

重い体を少し動かしながら、周りを見渡す。

 

ここって武器庫?なんでこんなところに……?

 

意識が戻ってから数分。

 

ようやく自分の置かれている状況を再認識した。

 

「ッ…………琥御(こおん)は?」

 

周りに人気はない。

 

もしかすると………。

 

「いや、それはないわ。ありえない、あっていいはずがない」

 

自分の中の最悪の予想を掻き消し、立ち上がる。

 

「きっと、ここのどこかにいるはずよ。そうに違いないわ」

 

体の重みはどこへ行ったのか、私は素早く武器庫の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……ないなぁ」

 

私は数多くの武器の中から、目的のものを探し出すために躍起になっていた。

 

それは武器じゃなくて、もっと別の、重要物品。

 

「隊長はここにあるってゆーとったんやけどなぁ」

 

がさごそ。

 

武器と武器の間を縫うようにして探す。

 

けど、やっぱり見つからない。

 

「てゆーか、武器庫広すぎるやろ!絶対見つからんわ!」

 

脳裏に浮かぶのは、いつも腹の立つ隊長の顔。

 

今回も、一番面倒な仕事を押し付けてきた張本人。

 

「今度会ったら顔面殴ったるわ、アイツ」

 

憤りを感じながら武器庫の中をくまなく歩き回る。

 

ショットガンコーナー(看板が立ってる)の前を通り過ぎると、目の前に少女の姿を見かけた。

 

「あれ、あの子は幾久世君の……目、覚ましたんやな」

 

見ている限り、きょろきょろをあたりを見渡しているように思えた。

 

そして、その少女の視線と私の視線が交じり合う。

 

「すいませーん!」

 

その少女が駆け寄ってくる。

 

私はとっさに仕事の表情から、プライベートの表情に切り替える。

 

「体起こして大丈夫?自分、相当ダメージあるみたいやけど」

 

走るのはおろか立ってるのさえもやっとのように見える。

 

息も切れ切れ、汗で制服はぐちゃぐちゃ。

 

ろくに動けへんだろうに……何でここの生徒は皆無茶したがるの?

 

「そ、そんなことはいいから…。それより、男の人、見なかった?」

 

少女はその言葉を伝えるだけでも必死になってるようだった。

 

多分幾久世君のことだろうなぁ、これ。

 

私はちょっと考えてから、質問に答えた。

 

「見んかったけど……自分すごい顔だよ?ちょっとここで休んでったほうがええと思うよ?」

 

私はそう提案するけど、少女は首を横に振った。

 

「私のことは、お構いな………く……」

 

フラッ

 

少女の体がふらつく。

 

私はあわててその体を支え、表情をのぞき見る。

 

少なくとも、大丈夫そうには見えない。

 

「ちょっとここで寝てて。今お医者さん呼んでくるから」

 

私はその少女を横にすると、すぐさま医者を呼びに行った。

 

死ぬ前に見つけられるかどうかは、分からんけどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いた時は、喜びと悲しみの感情が一気に押し寄せてきた。

 

十姫が目を覚ました、という喜び。

 

そして、また倒れたという悲しみ。

 

複雑な気持ちだったけど、やることはどっちみち一つだった。

 

………十姫ッ!

 

二回も死なせるかッッ!!

 

現場にたどり着いた時には、俺は医療道具を瞬く間に広げていた。

 

保健室から持ってきた緊急用の医療道具。

 

そして武器庫においてある使い捨ての痛み止めや傷薬。

 

それらを駆使し、精一杯の処置を施す。

 

気がついたら、武器庫に入ってから数十分が経過していた。

 

「大丈夫なんか?」

 

未亜さんが不安そうに声をかける。

 

俺は額の汗をぬぐい、それに答える。

 

「大丈夫のはずです。すぐに目を覚ますと思うんですけど……」

 

俺は十姫の顔に視線を移す。

 

大丈夫…だよな?

 

「うちはここにいても何もできなさそうやし……あっち行ってるな」

 

そう告げると、未亜さんはどこかへ行ってしまった。

 

俺は散らかっている医療道具をそこらへんに投げる。

 

一度使ったものは衛生面からも使えないからな……。

 

バッグの中に残ったものは、残り少ない医療道具だけ。

 

母さんが買ってくれた、ちょっと高級なバッグも、今ではほこりや真っ赤な汁にまみれ面影がない。

 

これが………戦いか。

 

そう思いつつ、振り返り十姫の容態を見ようとした。

 

が、そこに十姫はいなかった。

 

「え………?」

 

体中から嫌な汗が噴き出すのが分かる。

 

そこに、トントンと肩をたたく感触。

 

「未亜さん!十姫が………」

 

俺は半ば涙目で首をひねる。

 

 

 

ぷにっ

 

 

 

頬に、指が突き刺さる。

 

子供がよくやる、あのいたずらだ。

 

そして、その指の先には少女がいた。

 

「私が、どうかした?」

 

風音十姫、という名の少女が。

 

俺の間の前にいた。

 

その姿、声。

 

どこからどう見ても、聞いても。

 

俺の知ってる、十姫だった。

 

「あ………え…?」

 

俺は事態が呑み込めなかった。

 

いや、十姫はここに寝ているはずで、ここにいるのは十姫で…?

 

「あーあ、泣いちゃって。せっかくの顔、台無しだよ?」

 

そう言いながら、十姫は目尻の液体を指で拭う。

 

「と……十姫、さん………ですか?」

 

俺は言葉を失い、とっさにそう尋ねる。

 

「なんで他人行儀?」

 

十姫は他人じゃいやだ、言わんばかりにちょっといらついた声色でそう告げる。

 

「十姫………十姫ィ!」

 

何かが吹っ切れたように、十姫に密着し、腕を背中の後ろにまわす。

 

「良かった……お前が無事で…」

 

再び、目から涙がこぼれる。その液体が、顔を濡らす。

 

「もう……大げさなんだから…」

 

そう言う十姫の声も、震えているのが分かった。

 

十姫は俺の首の後ろに腕をまわし、耳元でささやいた。

 

「ありがとう……琥御」

 

わずかな間、俺と十姫はお互いに抱きしめあっていた。

 

 

 

俺は十姫は気を失ってから今までのことをすべて話した。

 

「なるほど……じゃあ、さっき会った女の人は未亜って言うのね」

 

「戦うにしても逃げるにしても、まずは装備を整えなきゃならない。十姫、無理するなよ?」

 

俺は十姫がまだ全快ではないと思っていた。

 

あれだけの重傷を、応急処置だけでやっとこさ動けるようになった程度。

 

早くここから脱出して、ちゃんとした設備で処置しないことには安心はできない。

 

「大丈夫よ。私の本領は、前線じゃないもの」

 

そう言いながら、十姫は立ち上がる。

 

「ライフルの反動くらいでぶっ倒れるほど、デリケートな体じゃないわ。そこんとこは安心して」

 

俺は十姫の肩を担ぐ。

 

「でも、患者だからな」

 

そう言いながら、十姫に笑顔を見せる。

 

「あら、気が利くじゃないの、お医者さん」

 

ここの武器の置き場所は大体把握している。くまなく歩き回ったおかげだ。

 

俺は十姫を連れてスナイパーライフルのコーナーにやってきた。

 

「私はここで武器を選んでいるから、琥御も選んできたら?」

 

そう言うと十姫は武器の選定に取り掛かった。

 

俺はその場を後にして、自分の武器探しをすることにした。

 

「って言っても、何にすればいいんだろうなぁ…」

 

何せ、自分の能力と特性からして、何を選べばいいのかが全く分からない。

 

十姫は自分が支援向きだと分かっているから選びやすいものの、俺はそういったものが分からない。

 

未亜さんのように、経験を積めば自分に合った武器が分かるんだろうけど、その経験すらない。

 

自分の能力でほとんどの武器に切り替えられる以上は、何でもいい気もするけど……。

 

「無難にサブマシンガンとか、アサルトライフルとかにすればいいのか……?」

 

悩む。

 

が、その悩む先に答えがあった。

 

「あ…」

 

そこには壁に紛れるようにして、扉があった。

 

見つけられたのは偶然だ。

 

もし俺が武器に目を奪われていたのなら、これを見つけることはできなかっただろう。

 

「もしかして、隠し部屋って奴か…?」

 

俺はその扉に手を触れる。

 

すると、その扉は急に緑色の光を発し始めた。

 

あまりの強い光に、俺は思わず目を閉じる。

 

「ぐっ……」

 

その光は十姫と未亜を呼ぶ手間を省く手伝いをした。

 

目を開けた時には、すでに十姫と未亜がそこにいた。

 

「なに、今の光?」

 

「分からない……急に扉が光って、目を閉じてたから……」

 

目の前に開けている扉の先には、細い通路があった。

 

「しかし、面白いギミックやなぁ」

 

未亜は感心するように腕組みをした。

 

俺はただ、目の前の通路を見つめていた。

 

何となく、導かれているような気がした。

 

何にとは説明できないけど。

 

俺は誰より先に、その通路の先に向けて歩みを進めた。

 

続くようにして十姫、未亜も通路に足を踏み入れる。

 

そう長くない通路の先にあったのは部屋だった。

 

が、そこにはパソコンだけで他には何もない。

 

しかしそのパソコンも、デスクトップとキーボードだけで、本体が見つからない。

 

もしかしたら埋まっているのかもしれない。

 

そして画面には一文、

 

『本人確認用のコードを入力してください』

 

と表示されていた。

 

「本人確認用……って出席番号とか?」

 

十姫の言うとおりに出席番号を入力する。

 

ブーッ!

 

『認証コードが違います』

 

違ったようだ。

 

とそこで、未亜が案を出す。

 

「本人確認用ってことは…生年月日とかじゃない?」

 

俺は自分の生年月日を入力する。

 

ブーッ!

 

これも違った。

 

「他にコードになりうるものなんて……」

 

考えた結果、とある一つの結論にたどり着く。

 

「出席番号と生年月日を続けて入力してみよう」

 

ズルーッ!

 

二人がずっこける。

 

「あ、あんたねぇ……そんな単純な…」

 

ピーッ!

 

通りました。

 

「えー……」

 

我ながら引く。

 

確かに、出席番号だけじゃほかのクラスメイトにばれるし、生年月日はかぶってる奴もいるから妥当かもしれないけど……。

 

「た、単純やね……ウチてっきり自分らが決めたパスワードかなんかかと思ったよ」

 

俺もそう思ったけど、そんなの決めた覚えないからなぁ……。

 

そして次の画面に表示されたのは、見覚えのある銃剣だった。

 

「これって……俺の武器…?」

 

そこには自分の、教官にもらった武器が表示されていた。

 

画面端にはそのスペックも細々と記されている。

 

「まさか、生徒の武器のデータが入ってるの?このパソコン」

 

十姫はそう結論付けた。

 

しかし、未亜はそれに納得しなかった。

 

「でも、このnewって表示は何や?データが入ってるだけならこんなのは出てこんはずや」

 

そう言われて、画面右上のnewという文字に気づく。

 

「マウスがないな……まさか」

 

newという文字に触れる。

 

といっても、液晶画面を通して、だけど。

 

画面が切り替わる。

 

タッチパネルかよ………。

 

そして画面に大きく表示されている文字。

 

『新たな二つのモードを得ました』

 

『重量・中  ミドルレンジ  サブマシンガン』

 

『重量・軽  クロスレンジ  ダガー』

 

 

……何となく、意味は分かる。

 

ようするに、これだけのモードに変えられるってわけだろ?

 

………今のおれにとっちゃもう、意味なんかないけど。

 

「このダガーってやつにしておけば、ここまで持ってこれたかもね……」

 

未亜は少し残念そうにそう告げる。

 

「でも、newってどういうこと?新しく、これだけの型になれるってこと?」

 

十姫が核心を突く。

 

そうだ、問題はそれだ。

 

何で最初からこれだけの型になれるようにしなかったんだ?

 

newってことは、新しくなれるってことだ。

 

どうして、このタイミングで型が増えたんだ……?

 

適当に画面を切り替える。

 

そこに、武装説明という欄を見つけた。

 

「ここに、書いてありそうやね」

 

俺はそこに触れ、画面を切り替える。

 

・正式名称 幾久世琥御専用試作型可変武装

・ニックネーム 不定

 

どうやら、あの武器は俺専用らしい。

 

使用用途や使い方のセオリーなどの項目をすっとばして、長々と書いてある文章の中に、気になる項目を見つけた。

 

・試作型自己学習・強化装置『ELSAシステム』

 

「エルザ……システム?」

 

その項目を読んでみることにする。

 

 これはまだ試作段階であり、必ずしもその通りになるわけではないことを念頭を置いておくこと。

 ELSAとはExperiential Learning and Strengthening Adaptationの略称であり、つまり経験学習並びに適応強化システムのことだ。

ようは戦いの経験を積み、それに適した自己強化を施すシステムというわけだ。

どのような強化がされるかは武器、使い手、戦い方、そして敵によって大きく変わる。

 くどいようだが、このシステムは試作型であり、即座に対応することはできない。

いくつもの戦闘を重ねるか、または時間が必要だ。一戦闘中に強化されるだろう、という甘い考えは捨てること。

 最後に、絶対的勝利が約束できる代物など、ありはしない。

生き残るためには、ELSAだけに頼るようなマネはしないことだ。

 

「エルザ…これのおかげで、モードが増えたってわけね」

 

これで納得がいった。

 

戦いを重ねれば重ねるほどに、この武器は強くなる。

 

見た限りでは、一度強化された部分は弱化されることはないのだろう。

 

「ずいぶんと便利な代物やねぇ。ウチもこんなん欲しいわ」

 

「それだけに、捨ててきたってのはもったいない気がしますけどね」

 

俺は他に何かないかと画面を切り替える。

 

・呼び出し機能

 

ガタタッ

 

3人が慌ただしく、その項目を凝視する。

 

 もし何らかの理由で武装を手元から失ったとしても、それを容易に回収する手段を用意した。

 その武器のニックネームを念じることで、その武器を回収することができる。

 もし無くすような阿呆のための救済処置だ。できれば、使ってほしくはない。

 

何か………申し訳ないです、このページ作った人。

 

だが、十姫があることを指摘する。

 

「でも、ニックネームとか決まってなかったわよね?」

 

「…ニックネームってどうやって決めるんや?自分で勝手に定義すればええんか?」

 

俺はタッチパネルを色々といじり、何かないかと検索する。

 

「あ……これじゃないですか?」

 

それっぽい画面に切り替わる。

 

「適当に決めちゃいますね」

 

俺は適当に、思いついた名前を入力する。

 

禍々しい敵を討つ武器。

 

禍断(まがたち)。

 

決定と同時に、その名前を念じる。

 

 

「来い……禍断ッ!」

 

 

ヒュン

 

手元に重みを感じる。

 

どうやら、本当に呼び出せたらしい。

 

「……意外とすごいテクノロジー使われてるのね、これ」

 

十姫が感心したように、禍断を見つめる。

 

俺は手元の禍断をダガーに変形させる。

 

物量も変わっているんだから、これはほとんど魔法のレベルだと思うけど。

 

まあ、俺専用ってことで、俺の得意魔法に合わせてくれてるんだろう。

 

持ち歩きやすくなったところで、懐にそれをしまう。

 

「十姫も、色々確認したほうがいいんじゃないか?呼び出しも兼ねて」

 

そう言って、俺は武器庫へと戻る。

 

バッグの中に、それぞれの武器に対応したマガジンを詰め込まなきゃな…。

 

未亜がいるからって、いつまでも頼っていられない。

 

俺も………戦わなくちゃ。

 

決意を新たに、俺は禍断を見つめた。

 

ふと隣を見ると、十姫も自分の武器を呼び出したようだった。

 

「来なさい、雅ッ!」

 

どうやら雅(みやび)という名前にしたらしい。

 

似合わない名前だな、というコメントを喉元から体内へ押し返す。

 

「で?そいつも何かしらの強化を受けてるのか?」

 

十姫は手元の狙撃銃を眺めながら口を開く。

 

「弾速が上がって、ズレも若干修正されてるみたいね。それに、幾分か軽くなってる」

 

どうやら、ちゃんとエルザは機能してるみたいだ。

 

自分の武器が見つかって、安全も少し確保されたからだろうか。

 

俺はつい、あくびをしてしまう。

 

「ん、眠いんか?」

 

それを察してくれた未亜が俺に話しかける。

 

「え………」

 

確かに、今日の出来事からすれば、疲れるのも当然だ。

 

しかし、今休むわけには…。

 

「風音ちゃんも幾久世君も、少し寝といたほうがええで?まだろくに訓練もされてないのに」

 

そういいながら、未亜は壁に寄り掛かって座る。

 

「戦ったりしたら、疲れたやろ?」

 

「でも………」

 

俺が反論しようとしたところを、十姫に阻まれる。

 

「それじゃ、少し休憩させてもらうとしましょ?ってわけで、見張りお願いね~」

 

十姫はそれだけ言い残し、部屋の隅にもたれかかって瞳を閉じた。

 

未亜は俺のほうをじっと見る。

 

どうやら、俺にも寝ろ、と言っているほうに感じる。

 

「それじゃ、お言葉に甘えて……」

 

俺は十姫とは対角線になる隅で、丸くなる。

 

自分でも思っていた以上に、すぐにまどろみの中へ落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて………」

 

邪魔な二人はどかした。

 

日常から逸脱したことをすれば、その日はよく眠れる。

 

学生で言うなら、文化祭とか体育祭とか、ね。

 

私は目の前のディスプレイから伸びているケーブルを伝い、それが床を通っていることを確認すると、

 

「んと……これやな」

 

対装甲用のカッターで床を切り、自分が通れるくらいの穴をあける。

 

「結構深い……な」

 

ケーブルの終着点に向かって、私は飛び降りた。

 

『滞空魔法』

 

私は自分に滞空の魔法をかけ、ふわふわとゆっくり下りていく。

 

「ま、ここまで案内してくれたんや…幾久世には感謝やな」

 

ただ気になるのは風音、というあの女の子。

 

疲れているとはいえ、あんなにあっさりと寝てくれるなんて……。

 

もしかしたら、私の考えに…。

 

「な、わけないか。そんなに頭のキレるような人物には見えんかったし」

 

そうこう考えているうちに、着地する。

 

「すごい部屋につながってるもんやな……」

 

辺りを見渡すと、一面パソコンだらけ。

 

その一台一台から、上へケーブルが伸びている。

 

が、そんなものには目もくれず、私は目的のパソコンを探し出す。

 

自分の伝ってきたケーブルの繋がっている先には、他とはデザインが異なるパソコン本体。

 

「やっと見つけた……」

 

私は懐からメモリを取り出し、本体に取り付ける。

 

10…20……30…。

 

40秒を少し過ぎたころ、メモリのランプが光った。

 

「データ収集完了っと…さて」

 

あとはトンズラするだけ………。

 

 

 

「どこにいくつもりかしら?」

 

 

 

のはずが、呼び止められてしまった。

 

「……狸寝入りってわけ?汚いやつやな」

 

「あたし達をただの案内人にしたあんたよりはマシよ」

 

風音十姫。

 

やっぱりというべきか、幾久世よりも頭がキレるらしい。

 

それに、彼女が使っているのは私のようなゆっくり着地する魔法じゃない。

 

完全に、『滞空』している。その手の魔法にも精通してるらしい。

 

「で、ウチをどうする?ここで殺し合いでもするんか?」

 

エルザとか言うシステムが機能しているといっても、所詮使い手は雑魚。

 

私の敵じゃない。

 

「そんなのじゃないわ。ただ……」

 

「ただ、なんや?ああ、あれか。せめて外まで護衛してくれってことか?」

 

相手の話を聞かない。

 

そんなくだらないことで、時間を浪費している場合じゃない。

 

「悪いけど、ウチはそんなに………」

 

とっさにサブマシンガンを取り出して風音を狙撃する。

 

 

 

「親切じゃないのよッッ!」

 

 

 

風音はその乱射を避け、狙撃銃を構える。

 

「話を聞きなさいよ、この馬鹿ッ!」

 

狙撃兵は、前線に出るべきじゃない。

 

それくらいの常識も分かってない素人に…。

 

「私が負けるかぁああ!」

 

魔法弾を風音めがけて撃つ。

 

「このっ、面倒なやつね!」

 

風音は左手の拳銃でそれらを迎撃する。

 

なるほど、それくらいのことはできるのね。

 

――――――――でもっ!

 

「これは読めないでしょッ!?」

 

風音が迎撃した魔法弾。

 

それらは全部――――――――。

 

 

 

「ちょっ!?何よこれ!?」

 

 

 

――――――――分裂する。

 

撃った時の数倍の量の魔法弾が、風音を襲った。

 

「きゃああああああああああああああ!?」

 

爆音と共に、もくもくと立ち上る黒煙。

 

着弾。

 

「あれくらえば、手負いの人間が生きてられるわけないな」

 

私は確信して、この部屋の扉に魔法弾を撃ち込む。

 

鍵を壊して扉を開け、この場を去った。

 

気がかりなのは、死体が落ちてこなかったことぐらいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けほっけほっ………え?」

 

死んだ、と思った。

 

あれだけの魔法弾を受けて、死なないわけがないと思った。

 

でも、生きている。

 

それどころか、ダメージの一つもない。

 

「これって………」

 

自分の周りにバリヤーが張られていることにようやく気付く。

 

「だ………だいじょう、ぶ?」

 

下から声がする。

 

聞き覚えのある、同じクラスのとある生徒の声が。

 

「え、ちょっと………あんた……」

 

 

 

「十姫ちゃん、だよね?よかったぁ、知ってる人で」

 

 

 

由芽乃奈々。

 

あたし達の仲間だ。




はい、はい、はい、はい。

どうもお久しぶり、GSTです。

逃げてませんよ?ほら、実際に投稿してるじゃないですか。

リアルが忙しいのでほとんどかけませんでした……。

某動画サイトで動画配信したり(宣伝乙)仕事忙しかったり……。

で、言い訳はこのくらいにして・・・

まあ、ヒロインがこんなに早く死ぬわけにもいかず、あくまで王道を突っ走るつもりなのでそこんとこ宜しく、です。

え?ここで鬱展開希望だった?

申し訳ないですねぇ、私鬱展開書くのダメなんですよぉ(フラグ)。

一応脳内プロットはあるので、かけることはかけるんですが…。

今分子世界に出張してたりイッシュ地方に旅に出てたりと最近忙しいので、また結構間を開けることになりそうですね…。

それでも待っていてくれるという奇特な方は、また次回までお楽しみに!

それともう一つ。

お気に入り登録、ならびに評価、ありがとうございます!

まさかこんな作品でお気に入りされる日が来るとは…!

次回もがんばりますので、よかったら時々、のぞいてみてね☆(更新されてるかもよ・・?)

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