成瀬海斗は勇者である   作:ひろすけ

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今回はちょっと初の試みで冒頭部分を灯里の一人称にしてみました!
この4話と次の5話は灯里に関する話がメインとなります!(本当はひとつにまとめたかったんですが...)
相変わらず描写の表現が雑ですが読んで頂けたら嬉しいです!
コメント等もお待ちしています!



第4話:拒絶、そして信頼

何もかもが気に入らなかった。態度も、言うことも。

なぜこのチームは私より格式が上の家の人間ばかりなのか。つい最近までは考えないようにしていたがあの男が来てから考えるようになってしまった。

認めたくない。信用したくない。どうせあいつも心の中できっと私のことを馬鹿にしている。

 

でもみんなあいつのことを受け入れていた。彩花さんも、梨花さんも....香織でさえも。

その時からだ。ずっと居心地がよかったこのチームが居心地の悪い場所になってしまった。

なぜそう簡単に受け入れられるのか。なぜそう簡単に認められるのか。

なぜそんな簡単に......信頼し合えるのか。

 

私は認めない。あいつを。成瀬海斗を。

 

 

[第4話:拒絶、そして信頼]

海斗が勇者になって戦うようになってから2か月が経とうとしていた。

その間5度のバーテックスとの戦いを経てきたため、チームに馴染み、戦いなれていた。

 

この日も放課後すぐに樹海化が発生し、海斗、彩花、梨花、香織、灯里の5人は既に勇者の姿に変身して1箇所に集合していた。

まだバーテックスは現れていなかったため、そこで待機していた。

 

「....にしてもその姿も慣れたものだねぇ、海斗くん。」

 

何故かニヤニヤしながら香織は海斗の姿を見ていった。

 

「当然だろ。もう2ヶ月経つんだし、それにもう5回戦ってるんだ。慣れないほうがおかしい。」

 

戦うと決意したとは言えやはり最初の方は少し恐怖があった。

勇者というお役目は非常に危険なものであり、下手をすれば自分が、仲間が命を落としかねないからだ。

だが海斗はこの2ヶ月間、そんな思いを振り切って、自分はもう逃げないという気持ちを胸に戦い続けてきた。

それに一人で戦っているわけではなかった。頼れる仲間と一緒に闘ってきたからこその今がある。

だから今はもう戦うことへの恐怖はなかった。

 

「まあそうだよねぇ....あ、そういえば海斗くんの精霊ってなんなの?ずっと気になってだんだけど。」

「ん?ああ、鵺(ぬえ)だよ。」

 

勇者には必ず一人に1体の精霊がいる。

彼らは神樹から生まれた存在でありずっと樹海を守ってきたものたちだが、今は勇者たちの戦闘のサポートをしてくれている。

精霊は基本妖怪をモチーフとしており、海斗は鵺、彩花は八咫烏、梨花は管狐(くだぎつね)、香織は大蛇(おろち)、灯里は旧鼠(きゅうそ)となっていた。

 

「はいはい、そこのお二人さん。気を抜いてあまりお喋りばっかりしてないでね。」

 

そう言って彩花は二人を注意した。二人ははーいといい、海の向こうの壁の方を見る。

その時、端末のレーダーに反応があった。バーテックスの襲来だ。

レーダーには5人の位置から少し離れたところに大きな点が現れ、ゆっくりと動いていた。その点は『ペルセウス座』と表示されていた。

 

「来たわね....」

 

彩花がそうつぶやき、5人は壁の方を睨んだ。

そこには異形の巨体がこちらに向かってきているのが見えた。

その姿は鎧の兜をかぶったような頭部、鎧を装着したような胴体、そして右手に大剣のようなものを携え、左手は蛇のようにうねうねとしていた。

まさにペルセウスの名を冠しているにふさわしい姿だった。

 

「それじゃあ、いつも通りに!海斗くん、香織は前衛を、灯里は私と中距離牽制、梨花は援護よろしくね!」

 

彩花がそう指示を出すと4人は了解!といい、それぞれの武器を出す。

チームの陣形はこれが基本になっていた。二刀流の海斗と斧の香織が前衛でアタッカー、槍の彩花と大鎌の灯里が中距離攻撃の牽制、そして弓の梨花が後方支援といった形だ。

これがチーム連携で一番火力を出しやすく、それぞれの特徴を生かしやすい立ち位置だった。

 

「よし、いっくよー!」

 

そう言って香織が飛び出していく。海斗もそれに続いた。

二人は先制攻撃を与えるべく、バーテックスのもとへ跳躍移動していく。

 

「俺は右側から行く!香織、左側頼んだぞ!!」

「了解!」

 

二人は左右に散開し、それぞれバーテックスへ突っ込んでゆく。

バーテックスも二人が近づいてきていることに気づいたのか攻撃を開始した。

複数の蛇の形になっている左腕を伸ばし、それぞれの方向へ攻撃する。

 

「せやあああ!」

「てやあああ!」

 

二人はその攻撃を軽々と避け、海斗は頭部、香織は腹部に攻撃を与える。

それぞれ攻撃を与えた箇所がへこむが、バーテックスは全く怯む様子を見せず、動きも止まらなかった。

 

「少し浅かったか...続けて攻撃するぞ!」

「うん!」

 

そう言って二人は再び本体へ近づこうとする。

しかし、その時バーテックスの攻撃が激しくなった。香織には蛇の集中攻撃が襲いかかる。

そして海斗には右手の大剣の攻撃が襲いかかった。それを間一髪で二本の刀を交差させて防ぐ。

 

「重いっ.....!」

 

その衝撃で全身がビリビリと震え、ノックバックする。すぐに二撃目が来たが、防ぎきれないと判断して咄嗟に避けた。

その時だった。

 

「きゃあああああ!!」

 

香織の悲鳴が聞こえた。そちらの方を見ると、左腕の蛇が香織に巻きついていた。腕までガッチリと締め付けられていたため、身動きを取れていなかった。

海斗はすぐさま香織の方へ向かい、蛇を切り裂いて助けた。

 

「大丈夫か?!」

「うん、平気!助かったよ!」

 

香織に怪我もないようで海斗はほっとした。そして再びバーテックスの方へ向き直る。

しかしバーテックスの攻撃は激しさを増すばかりで、本体へ近づいて攻撃をすることができなかった。

海斗が再び大剣の攻撃を防ごうとした時だった。その攻撃を彩花が槍で弾いた。

 

「攻撃は私と灯里で受け止める!だから二人は本体へ攻撃を!」

 

彩花のその言葉に海斗と香織は頷き、本体への攻撃を開始する。

梨花の援護のおかげで4人はそれぞれの役割に徹することができた。

彩花と灯里はバーテックスの攻撃を受け続け、海斗と香織は本体へ攻撃をし続ける。

そして海斗のもう何度目かわからない斬撃でついにバーテックスは怯み、動きが止まった。

 

「よし、今よ!」

 

彩花のその言葉と同時に5人でバーテックスを囲み、封印の儀に入る。

花びらが螺旋状に舞い、バーテックスを包む。

そして腹部から御魂が出現し、封印のカウントダウンが始まった。

 

御魂を破壊すべく海斗が突っ込む。

しかしその瞬間、御魂から無数の針のようなものが海斗に向かって発射された。

 

「うおっ!」

 

海斗はギリギリその針を剣撃で打ち落とすも、元の場所に着地する。

香織もすぐさま突っ込むが、同じように針が射出された。

これまで異常に硬い御魂、煙幕を張ってくるもの、分身を作ってくるもの、様々なものがあったが、攻撃してくる御魂は初めてだった。

 

「攻撃してくる御魂ってもう何でもありかよ!」

「これじゃあ本体に近づけない...!」

 

梨花の弓で攻撃したり、彩花が突っ込んだりしても結局針にそれを阻まれた。

そうこうしているうちに樹海の侵食が始まった。

 

「くそっ、このままじゃ.....!」

「落ち着いて!あの御魂が出す針、一方向からしかおそらく出せないんだと思う!だから二人封印に徹して3人で突っ込めば2人で破壊できる!」

 

彩花の言うとおり、一度に針を出せるのは一方向だけのようだった。

つまり一人が囮になり、あと二人で御魂本体を破壊する、とういうのが彩花の作戦だった。

 

「じゃあ俺が囮に....」

 

海斗がそう言った瞬間だった。灯里が単騎で突っ込んでいった。

 

「ちょ、灯里!ダメよ一人で行っちゃ!」

 

彩花がそう言って止めようとするが、灯里は無視して突っ込んでいく。

当然のように無数の針が灯里に向かって射出される。だが灯里は大鎌を回転させてそれを弾き落としながら前へ進む。

そしてその大鎌で御魂を真っ二つに切り裂いた。

御魂は光を放って空中に霧散し、バーテックスの本体は砂となって崩れ落ちた。

 

「灯里!いっつも言ってるでしょ、一人で無理に突っ込むなって!」

 

灯里のもとへ4人が同時に集まるなり、彩花は灯里にそう言った。

だが灯里は悪びれずに言った。

 

「あれくらい、私だけでなんとかなります。」

 

あまりにも自分勝手な言葉だった。それは「自分はチームと連携をとるつもりはない」と言っているのと同然だった。

彩花はその言葉を聞いて、顔をしかめる。

 

「またあんたは....いっつもいっつもそうやって...!」

「まあまあ彩花。今回は灯里のおかげで倒せたんだしよしとしましょ。」

 

彩花が食いかかろうとしたが梨花がそれを止めた。さすがは副隊長、冷静な判断だった。

その言葉に彩花は軽くため息をついて微笑みながら言った。

 

「もう....梨花は甘いなぁ」

「時にはこういう甘さも必要よ。でも灯里、これからはあんな無茶しないようにね。」

 

そう言って梨花は灯里にも釘を刺した。

灯里は少し不機嫌そうな顔になったが「善処します」とだけ言った。

そうこうしてるうちに世界が光に包まれ、樹海化が解ける。5人の変身も解け、学校裏の祠の前に立っていた。

そのまま全員で部室に戻り、今日はボランティアの依頼もないので早めに解散しようと話になったところで香織が言った。

 

「はいはい!提案なんですけど、これからみんなでイネスに行きませんか?」

 

イネスとは駅前にある巨大ショッピングモールのことだ。ゲームセンター等の娯楽施設や、フードコート、様々の専門店があり、1日そこで遊べるだけのものが揃っている。休日にはそこで1日を過ごすという家族もいるほどだ。

 

「なんで急に?」

 

脈絡はあまりなかったが意味ありげな顔で香織言っていたので海斗は聞いた。

 

「だって、海斗くんがこのチームに入ってからこの5人で遊んだことないじゃない?それに海斗くんの歓迎会もやってなかったからそれも兼ねてってことで!」

 

確かに海斗が勇者となって戦うようになって2ヶ月、色々と忙しく遊ぶ暇がなかった。

最も海斗はそんなことを気にしてはいなかったが香織はずっと考えていたのだろう。こういうことに関しての気遣いができるのは香織の長所の一つだ。

海斗はそれを嬉しく思ったし、主役である自分が断るわけにも行かないと思い賛成した。彩花と梨花も賛成する。

 

「私はいかない。」

 

だが灯里だけはそのことを拒み、荷物をもってさっさと部室を出ていこうとした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよー灯里ちゃん!そんな連れないこと言わないでよー!」

 

香織は灯里の腕を両手で掴んで止めた。

だが灯里はその手を振りほどき、海斗の方を睨みながら言った。

 

「私は、あいつと馴れ合う気はない。」

 

海斗は少しムッとして言い返そうとするが、彩花に肩を掴まれ、止められた。

香織は今度は灯里の手を掴んで言った。

 

「そんなこと言わずに行こうよ~、これを期にみんな仲良く....」

 

香織がそう言いかけると灯里は香織の方をきっと睨んで大声で言った。

 

「私は!あいつと仲良くしたいとも思わないし、あいつのことを信頼もしてない!認めてもいない!」

 

そう言って香織の手を振りほどき、部室を飛び出していった。

部室が沈黙で包まれる。香織は少し悲しそうな顔でドアの方を見ていた。梨花が肩に手を置いて、それを慰める。

 

「ま、仕方ないね。今日は灯里抜きでいこっか。」

 

彩花がそう言い、香織は少し微笑んで頷く。

 

4人はイネスでいろいろなことをした。ゲームセンターで遊んだり、催し物のイベントを見に行ったり、ウィンドウショッピングをしたり.....。

フードコートではジェラートを買って食べた。海斗は宇治金時、彩花は苺、梨花ははちみつレモン、香織はしょうゆ味なるものを頼んでいた。

海斗は楽しんではいたが、しばしば部室で灯里に言われたことを考え少し浮かない顔をしていた。

 

時間もあっという間に6時を回り、流石にもう解散にしようということになった。

香織と梨花は方向が違うのでイネスを出てすぐに別れた。

海沿いの道を海斗と彩花はしばらく無言で歩いた。その間、海斗はずっと考えていた。

 

(なんで....あんなこと言われるんだろう....この先本当にうまくやっていけるのかな....)

 

ただただ心配だった。チーム内で一人でも信頼関係が築けなければ連携することもできない。

それはつまり非常に危険な戦いになるということだ。下手をすれば自分が命を落としかねない。そして下手をすれば仲間が命を落とす可能性があり、そうなればその有様を目の前で見ることになる。

両親の死を目の当たりにした海斗にとってそれだけは一番避けたいことだった。

 

「海斗くん....今日楽しくなかった....?」

 

そんなことを考えていると彩花が言ってきた。

彩花の方に振り向くと心配そうな顔をしていた。

 

「え、あ、ああ、そんなことないですよ。どうしてです?」

 

あははと笑いながら海斗は言う。

だが彩花はなお心配そうな顔で言ってきた。

 

「だって海斗くん、イネスにいるとき時々浮かない顔してたから....今もずっとその顔してたし。」

 

海斗は気づかれないようにしていたのだが、彩花にはバレていたらしい。

流石は従姉弟、といったところだろうか。

 

「あはは....バレました?」

「当然でしょ。何年の付き合いだと思ってるの。.....原因は灯里のこと?」

 

微笑みながら彩花はそう言った。

そんな彩花を見て海斗は少しうつむきながら言う。

 

「なんであんなこと言われるんだろうなーって思って.....。このまま信頼関係を築けないで、時田とうまくやっていけるのかなって....心配になって.....。」

 

初対面から嫌われていたのはわかっていた。だが海斗は正直ここまでとは思っていなかった。灯里が何を考えてそこまで言ってくるのかがわからなかった。

そして信頼関係をどうやって築けばいいのかもわからなくなり、ただただ不安になっていたのだ。

そんな海斗の言葉を聞いて彩花は口を開いた。

 

「あの子ね、多分お家の格式のことを気にしてるんだと思う。」

「格式って.....大赦での、ですか?」

「うん。ほら、あの子の家、時田家ってうちのチームの中じゃどうしても格式が一番下になっちゃうから。」

 

大赦に使えている家にはそれぞれ格式がある。

乃木(のぎ)、鷲尾(わしお)、三ノ輪(みのわ)といった上位の格式の家、成瀬、鷺沢、相沢と言った中位の格式。

そして灯里の時田家は下位の格式に位置する。

その格式によって請け負うお役目の重要さも変わってくる。

 

「あの子ね、小学生の時何人かの格式が上の家の男の子に格式に関していじめられてたみたいなの。ほら、いるじゃない?小学生だと下の人間を見下したくなっちゃう子。そういう子達のターゲットになっちゃったみたいでね。あと勇者に選ばれた時も大赦内でなんで時田の娘がーとかいろいろ言われたみたいなの。それであの子、自分の代で時田の格式を上げることが夢になってるの。それもいろいろあって.....まあちょっと気に入らないんじゃないかな。自分よりあとに勇者になったのが格式が上の人間だってことが。」

 

格式が上の人間が下の人間をいじめる、というのは確かに初等部ではあった。

実際海斗も一時期そういういじめにあったこともあるし、周りにその被害に遭ってる知り合いも何人かいた。

ただ灯里ほどそのことに敏感になっている人間は見たことがなかった。それゆえ海斗は混乱していた。

 

「このチームでは気にしないでいいって言ってあるんだけどね。やっぱりどうしても考えちゃうみたい。」

 

大赦での格式はその担っているお役目での実績で昇格したり、降格する。

だがそれは1度に上がるのは2段階が最大で、上位の格式との差を埋めるのはそうそうすぐにできることではない。

ましてや成瀬と時田では現時点で大きな差がある。おそらく勇者としてのお役目の間では埋めるのは不可能と言えるだろう。

 

「.....。」

 

それを考えるとなおさら不安だった。このままいけばずっと信頼関係は築けないままなのではないかと。

また4年前と同じような光景を目の当たりにすることになるのではないか、と.....。

 

「.....海斗くん、今日うちにご飯食べに来ない?」

 

そんな海斗を見て彩花は突然言ってきた。海斗は驚いた顔で言った。

 

「え、でも突然だし、迷惑なんじゃ....」

 

それにそんな気分ではなかった。

今は一人で考えていたい気分だったのだ。

しかし、

 

「いいからいいから。お父さんとお母さんも海斗くんに会いたがってたから。ちょっと待ってて。」

 

そう言って彩花は連絡を取り始めた。

そうして半ば強制的に海斗は彩花の家に連れて行かれた。

 

彩花の家は海斗の家から徒歩15分ほどのところにある。

元は海斗の家が成瀬本家だったのだが、父の死後にその弟、つまり彩花の父親が成瀬家当主を受け継ぎ、こっちが本家となった。

大きさ的に言えば海斗の家の方が少し大きかったが、一般的に見れば十分に大きい屋敷だった。

 

「ただいまー。さ、海斗くん入って入って。」

 

そう言われ、お邪魔しますと言って彩花のあとに続いて玄関に入った。ここに来るのは実に2年ぶりのことだった。

すると奥からひとりの女性が玄関へ出てきた。

 

「おかえり、彩花。あら、海斗くん!お久しぶりねぇ」

 

その女性、彩花の母親であり、海斗の叔母である成瀬陽子(なるせようこ)は嬉しそうに海斗の方を見ていった。

陽子は海斗がひとり暮らしになってからしばらくご飯をつくりに海斗の家に来てくれていたが、自炊するようになってからは来ていなかったので、実に1年ぶりの再会となった。

 

「お久しぶりです、叔母さん。」

 

海斗は微笑み、軽く会釈して言った。

 

「随分大きくなったわねぇ。今は彩花より背高いんじゃない?」

「お母さん、そんなこと言ってないで居間まで案内してあげてよー。私ちょっと着替えてくるから。」

 

彩花が少し呆れた顔で陽子に言う。陽子は「あ、ごめんね。さ、上がって上がって」といい、海斗を居間へ案内した。

2年ぶりとは言え、その家の中のことはちゃんと覚えていた。居間の場所、トイレの場所等々。

そして海斗は案内された居間に入る。

 

「今ご飯作ってるところだから、くつろいで待っててね。」

 

そう言って陽子はキッチンの方へ行った。

その居間は非常に広く、ゆったりとした空間だった。西側には窓があり、そこからは海が見える。

ソファのすぐそばにカバンを置き、海斗は窓に近づき、そして日の沈みかけている海を眺めた。

 

「またさっきと同じ顔してる。」

 

その声に振り返ると居間の入口に私服に着替えた彩花が立っていた。

そして微笑みながら海斗の方へ近づいてきた。

 

「あはは....すみません.....ただやっぱ、ちょっと不安になって....」

 

後頭部をかきながら海斗は言った。

すると彩花は柔らかい笑みを浮かべ、海斗の頭を撫でた。

 

「あ、彩花さん....?」

「うん、やっぱり2年前と比べるとかなり背伸びたね。」

 

2年前は海斗は彩花より少し身長が低かったが、今は彩花より高かった。

それゆえに、彩花は今少し背伸びをしながら海斗の頭を撫でていた。

なぜ撫でられているかも分からず、海斗はだんだんと恥ずかしくなってきた。

 

「ちょ、もういいでしょ。もうそんな年じゃないですよ俺。」

「ふふふ、いいじゃない別に。あ、なんならまた『彩花お姉ちゃん』って呼んでもいいんだよ?」

 

彩花は撫でるのをやめ、からかうような顔でそう言う。海斗は苦笑いして「呼びませんよ...」と言った。

そのあとは二人で他愛のない話をした。海斗がこの家で暮らしていたときの思い出話や、学校であったこと、くだらない話もした。

そうしているうちに、海斗の気持ちもすこしずつ和らいでいった。

 

(もしかして慰めるために今日誘ってくれたのかな...?)

 

そう思うと彩花に感謝でいっぱいになった。そして自然と元気が出てきた。

そうこうしてると玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえてきた。

その声に海斗は聞き覚えがあった。

 

「あ、お父さん帰ってきた。おかえりー!」

 

彩花がそう言うとその男性は居間に入ってきた。

 

「ああ、彩花。ただいま。お、海斗じゃないか。来ていたんだな。」

 

その男性、彩花の父親、そして海斗の叔父であり、剣術の師匠である成瀬佳祐(なるせけいすけ)は微笑みながら海斗に言った。彼と会うのも実に1年ぶりのことだった。

 

「お久しぶりです、叔父さん。お邪魔しています。」

「そんな水臭いことは言わんでいいぞ。もともとお前もここで暮らしてたんだから。」

 

佳祐は成瀬家の現当主であり、成瀬流二刀剣術の師範にも位置する人だ。

大赦内では海斗の父の死後に引き継いだお役目で多くの実績を残しているため、その発言の影響力は非常に大きいものとなっていた。

仕事上や剣術指導の上では非常に厳しい人だが、基本的には温厚な性格で、4年前海斗の受け入れ先でもめている時に引き取るといったのも彼だった。

 

大赦本部からの帰宅らしく、その服装は神官の格好だった。それを着替えて戻ってくるとちょうど夕食が出来上がっていた。

この4人で食卓を囲むのも実に2年ぶりのことだった。

海斗は佳祐と陽子にいろんなことを話した。この2年間の間にあったこと、学校での友達とのこと、今の勇者チームでのこと。

二人はずっと微笑んで聞いてくれ、海斗も楽しかった。

時間もあっという間に夜8時を回った。外ももう真っ暗だった。

 

「あ、俺そろそろお暇しようかな。」

 

海斗は席を立ち上がり、食器を片付ける。

 

「なんだ、今日ぐらい泊まっていけばいいじゃないか。」

「そうよ、彩花の部屋にお布団しくわよ。」

「ちょ!お母さんそれは!!」

 

そんな3人の会話を見ながら海斗は微笑んだ。

 

「あはは、ありがとうございます。でも明日も学校なんで今日は遠慮します。」

 

そう言って断った。そしてソファのそばに置いてあったカバンを手に取る。

佳祐は「また遊びに来なさい」と言ってくれ、陽子は「ご飯いつでも食べに来ていいからね」と言ってくれた。

海斗はこの家族に本当に感謝でいっぱいだった。

 

「あ、私途中まで送ってくるね。」

 

彩花がそう言ったが海斗は断ろうとした。

だが、何故か威圧感を感じるレベルで問答無用という顔でこっちを見てきたのでその言葉を飲み込んだ。

海斗は「お邪魔しました」と言って彩花と外に出た。

 

二人はしばらく無言で夜道を歩いた。

夕方と状況が同じだったが、海斗の心境は変わっていた。

 

「彩花さん、今日はありがとうございました。」

 

海斗は彩花にそうお礼した。

すると彩花は少し驚いた顔をして、微笑みながら言った。

 

「ど、どうしたの急に。」

「いや、今日慰めるためにご飯に誘ってくれたのかなって思って。」

 

海斗がそう言うと彩花は笑みを浮かべ、「なんのことー」と誤魔化した。

海斗は彩花に対して本当に感謝でいっぱいだった。

思えばお世話になりっぱなしだった。そしてずっと応援もしてくれている。

それに答えなければ、と海斗は思った。

 

「彩花さん、俺頑張ります。お役目も、時田との信頼関係のことも。」

 

海斗がまっすぐな目で彩花を見ながら言う。

そんな海斗をみて彩花は微笑み、「そっか。」とだけ言った。

少し行ったところの交差点で二人は別れた。

 

(迷ってる暇なんてない。とにかく今は時田との信頼を築くんだ。)

 

そんな新たな決意を胸に、海斗は帰路に着いた。

 

[第5話:仲間に続く]

 

 

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