成瀬海斗は勇者である   作:ひろすけ

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そんなわけで第5話です!
前回に引き続き灯里のお話です。灯里推しの方にも、そうでない方にも灯里の株が上がるといいなと思いますw

では引き続きコメント等お待ちしてますのでお気軽にどうぞ!


第5話:仲間

部室を飛び出してから私は真っ直ぐ家に帰った。

ずっと走ってきたため、息も上がり、汗だくだった。

カバンの中にあったタオルで汗を拭き、息を整えてから家に入る。

 

「ただいま。」

 

私の家は大赦に関わっている家としては小さい方だったが、それでも一般的に見れば十分大きい家だった。

それなりの広さの玄関の前には広めの廊下がある。私は靴を脱いでそこをまっすぐ歩いていく。

突き当たりを右に曲がってすぐのところにある居間に入る。そこには1歳になる妹、紫(ゆかり)のお守りをしているお母さんがいた。

 

「あら、おかえり灯里。」

 

私に気づいてお母さんがそう言う。私も少し微笑み、「ただいま」と言ってお母さんの方へ近づく。

紫はお母さんに抱っこされながらぐっすり眠っていた。私はその頭を優しくなでる。

 

「今日も勇者のお役目、あったの?」

 

お母さんが聞いてきた。樹海化中は現実世界の時間は止まっているため、一般人はバーテックスが攻めてきて勇者がそれと戦っていることに気づいていない。

だが両親はそのことを知っているため、いつもこう聞いて心配をしてくれている。

 

「うん、あったよ。ちょっと倒すの手こずったけど最後は私が止めを刺したんだよ。」

 

私がこういうのもいつものことだ。できれば両親に心配をかけたくなかった。

だからいつも私が活躍している、と言って安心させていた。

 

「そう、でも無理はしちゃダメよ?」

 

そう言ってお母さんは私の頭を撫でる。その手はとても優しくて私は好きだった。

撫でられるのが少し照れくさくなり、頬を染めながら「うん」という。

「着替えてくる」といい、カバンを持って今の入口まで行く。そこで私は立ち止まった。

 

「お母さん、私頑張って家の格式上げるからね。」

 

そう言ってお母さんの方へ振り向く。

これは昔からの私の夢だった。初等部の時、私は家の格式が上の男子数人からいじめを受けていた。

そして私が勇者に選ばれてからは大赦内で両親がいろいろと言われていた。

だからこそ私は勇者のお役目で実績をあげて時田の格式を上げ、両親に楽になってもらいたかった。

 

「そう、ありがとうね灯里。でも危ないことはしないでね?灯里が無事に帰ってきてくれることが私たちにとって何よりも幸せなことなんだから。」

 

お母さんは微笑んでそう言った。

両親は家の格式やお役目のことよりも、私や紫のことを一番に考えてくれる。それほどまでに二人は優しかった。

私はそんな両親が大好きだったし、だからこそその優しさに報いたいと考えていた。

 

だから私は戦い続ける。私を、私たち家族を馬鹿にしてきた連中を見返すために。

 

 

[第5話:仲間]

 

「とは言ったものの....」

 

海斗は机に突っ伏しながら言う。

 

「何からやったらいいのかわからねぇ.....」

 

昨晩、彩花に頑張ると言った手前灯里との関係をまずどうにかせねばならないのだが、海斗は何をどうしたらいいのか分からずにいた。

灯里の性格上、そう簡単に仲良くなれるわけもなかったし、ましてや信頼関係なんて一朝一夕で築けるものではなかった。

そのため、何をどうしたらいいか分からず朝からため息の連続だった。

 

「珍しいな海斗がため息なんて。」

「もしかして灯里ちゃんのこと?」

 

優と香織が言う。

最近はクラスではこの二人と仲良くしており、登校や昼食を一緒にしている。

今は昼食も食べ終わり、3人で談笑しようとしているところだった。

海斗は香織の言葉に頷く。それと同時にあることを思い出した。

 

「香織って時田と付き合い長かったよな?」

「ん?うん、初等部2年生からだったかな。」

 

ちょうどその頃から灯里へのいじめが始まり、それを香織が止めていたと聞いていた。

今の灯里の性格を見ると香織の後ろに隠れていた、というのは海斗にはにわかに信じ難かった。

 

「時田って昔はあんな気が強い性格じゃなかったのか?」

「あー、そうだねぇ私が知り合ったときはほんとにすぐ泣いちゃう子だったかな。多分それもあって男子たちもいじめてたんだと思う。」

 

いじめを乗り越えて気が強い性格になった、という話はよく聞くことだった。

まあ灯里の場合気が強い、というより扱いづらいという方が正しかったが。

 

「海斗くんさ、灯里ちゃんと一度ちゃんとお話してみたらいいんじゃないかな。」

「え?」

「いやほら、海斗くんって同じチームになってからちゃんと話したことなかったじゃない?だから話してみたら分かることもあるんじゃないかなーって」

 

確かにその通りだった。海斗は勇者チームに入ってから1度も灯里としっかり話をしたことがない。

大体口論しかしていなかった気がする。だがちゃんと話をすれば分かることがあるかもしれない。

もしかしたら解決のヒントも掴めるかも知れない、と海斗は思った。

 

「....確かにそうだな。そうしてみる、ありがとな香織」

「いえいえ、どーいたしまして。」

 

アドバイスをくれた香織に海斗は礼を言い、それに香織は笑顔で返した。

 

 

海斗は放課後に早速話をすることにした。

彩花に部室には遅れていくことを伝えるよう香織に頼み、灯里のクラスであるA組に向かった。

教室の入口まで行き、すぐそこにいた女子に灯里を呼ぶよう頼む。

どうやらまだ教室にいるらしくすぐに呼んでくれた。

灯里は海斗の方を見るなり、嫌そうな顔をして近づいてきた。

 

「いや、そんなあからさまに嫌そうな顔しなくても....」

「嫌そうじゃなくて嫌なの。で?なんの用?」

 

灯里はいつもこういう直球的な事を言う。

海斗は未だにこの口調になれず、今でもたまにムッとしてしまう時があった。

 

「話があるんだけど、ここじゃなんだから屋上へ行こう。」

 

それを聞くと灯里はさらに嫌そうな顔をしたが軽くため息をついて「わかった」と言った。

屋上までの道中、二人はただただ無言で歩いた。

海斗は話したいことは全部屋上で言うつもりだったし、灯里は灯里で何も話すことなどないのだろう。

屋上に着き、海斗は扉を開ける。この学校の屋上は海と街両方を見渡せるようになっていた。

海斗は海が見える方向の柵へ近づく。

 

「それで?話って?」

 

屋上に着くなり灯里は聞いてくる。おそらく手っ取り早く済ませたいのだろう。

海斗は灯里の方を振り向いた。

 

「お前さ、俺の何が気に入らないの?」

 

これが海斗にとって一番の疑問だった。

これまで灯里は認めない、気に入らないとは言ってきたが、具体的に言ってきたことはなかった。

だからこれを知ることが問題の解決につながるのではないか、と海斗は考えたのだ、

 

「何って.....全部。」

「まさかの存在全否定かよ.....」

 

海斗は額に手を当てる。

解決の糸口になるかと思ったがその前提条件が崩れた。

だがだからと言ってここで引くわけには行かない。

 

「でも...もしそうだとしても俺たちだけギスギスしててもチーム内の空気悪くするだけだろうし仲良くやらないか?それに仲間なんだから助け合うべきだろ。」

 

灯里の性格上これで納得するとは思えなかったが、あえて海斗はストレートに言った。

もし複雑に考えすぎて、変なことを言ってしまえば失敗してしまうおそれがあったからだ。

 

「仲間....助け合う.....?バカにしないでよ。」

 

灯里はうつむきながらそう言うと、顔をあげて今までで一番鋭く海斗を睨んでいた。

 

「え、まてよバカにしてるってどういう....」

「仲間とか助け合うなんて言いながら、あんた心の中で私を格式が下の人間だってバカにしてるんでしょ?」

 

最初、海斗は何を言ってるのかわからなかった。なぜ「仲間」や「助け合う」という言葉を使っただけでそんな考えにたどり着くのか。理解ができなかった。

 

「い、いやいやちょっと待てよ。俺はそんなこと思ってないしだいいちなんでそんなこと言うんだ?」

 

「私が初等部の時いじめにあってたことは知ってるんでしょ?私をいじめていた男子たちは私が家の格式が低い人間だからっていじめてきた。でもそいつらだけじゃない。今まで普通にしてきた男子も、仲良くしてきた男子も、みんな見んな便乗して私をバカにしてきた。香織以外の女子たちも見て見ぬふりをしてた。だから私はもう人をそう簡単に信じないって決めたんだ。何があっても。何を言われようとも。だからあんたもそうなんじゃないの?いや、そうに決まってる!」

 

余りにもひどい話だった。クラスの男子全員からはいじめられ、香織以外の女子には無視をされ。

人を信じることができなくて当然だった。

彩花や梨花とは勇者に選ばれてからの付き合いのためその積み重ねがあるのだろう。

だがそれも海斗がチームに入ったことで崩れつつある。

海斗は何も言えず、押し黙った。今何かを言って信じてもらえると思えなかった。

灯里は何も言わず屋上を出て行った。

 

「どうしろってんだよ.....」

 

海斗は後ろに下がり、柵にもたれかかり、手を額に当ててうつむきながらつぶやいた。

 

少し落ち着いてから海斗は部室へ行った。だがそこに灯里の姿はなかった。

香織にどうなったかと聞かれたがそう簡単に上手くは行かないと作り笑いをしながら言って誤魔化した。

その日から灯里は部室に顔を見せることはなくなった。海斗は解決策を考え続けたが何も思いつかず、灯里と顔を合わせることもなかったので進展も何もなく、苛立ちが増して行った。

 

 

あいつと話して以来、私は部室に行かずにいた。

あいつと顔を合わせるのも嫌だったし、何より行く気分になれなかった。

彩花さんや梨花さん、香織とずっと仲良くしてきたけど、結局はあの人たちも自分より格式が上の人間だ。

それを思うと、今まで気を許してきたことが信じられなくなってしまった。そして自然と避けるようになってしまった。

 

でも私は結局ずっと一人だった。味方なんて家族しかいない。

だから一人でも平気だ。寂しくなんてない。バーテックスとだって戦える。あんな人たちと連携なんて取らなくたって、自分ひとりで....。

 

「あれぇ?時田じゃねえか」

 

帰り道、自分にずっとそんなことを言い聞かせていると不意に呼びかけられた。

その声の方を振り返るとそこにいたのは....初等部の時、私をいじめの対象にしていた男子達だった。

 

 

海斗が灯里と話をしてから5日後の朝、海斗の苛立ちはピークに達していた。

解決方法も見つからず、灯里とも顔を合わせていないため進展もなく、まるで出口の見えないトンネルを歩いている気分になり、だんだんと苛立ちが増して行った。

海斗は顔をしかめずっとため息をついていた。

 

「......顔こえーぞ海斗。」

「だ、大丈夫?海斗くん。」

 

一緒に登校している優と香織が少しビクビクしながら言う。

 

「ん?ああ、うん....。」

 

あからさまに不機嫌な感じで答える。それほどまでに海斗には気持ちの余裕がなかった。

ここ数日、海斗は四六時中ずっと解決の糸口がないか探し続けた。

でも見つかることはなかった。どんな方法を考えてもうまくいく気がしなかった。

そんな自分の無力さ、不甲斐なさを考えると自然と怒りが沸いてきた。

 

そして灯里に対する怒りもあった。

自分はただ、仲間として、チームメイトとして上手くやりたいだけなのにその気持ちをずっと踏みにじられ続けている。

そしてその気持ちを「心のどこかでバカにしている」と決めつけられているのが何よりも許せなかった。

 

「あれ?灯里ちゃんだ.....。」

 

不意に香織が言う。香織が見ている方を見るとそこには確かに灯里がいた。だがなにか様子がおかしかった。

数人の男子に囲まれ、人気のない道へ連れて行かれたのだ。

 

「あの男子たちって.....」

「香織、知ってるのか?あいつら」

 

海斗は香織に聞く。香織は頷き、灯里と男子の集団がいなくなった方を睨みながら言った。

 

「うん、多分初等部の時に灯里ちゃんをいじめてたやつらだと思う。」

 

その言葉を聞いて海斗は瞬時に悟った。

おそらくまた灯里に何かをしようとしているのだろう。それも恐らく初等部の時よりも陰湿なことを。

 

(このイライラしてる時に....朝っぱらから胸糞悪いことしやがる....)

 

海斗は無言でその方向へ向かおうとする。

だがそれは腕を掴まれ止められた。香織だった。

 

「海斗くん...行くの?」

 

少し心配そうな顔をしながら香織が聞いてくる。海斗はそれに無言で頷いた。

香織はそんな海斗を見て少しため息をついて微笑む。

 

「じゃあ私も行く。灯里ちゃんは私の親友だし、助けたいから。」

 

そして強い面持ちで香織が言う。海斗はそんな香織を見て少し微笑んで頷いた。

 

「あーあ、ったく二人共血の気が多いねぇ......ま、荷物は持って行ってやるから行ってこいよ。ただし、あんまやりすぎんなよ。」

 

優は少しため息をついてそう言う。

海斗と香織はそれに笑顔で返し、カバンをあずけて走り出した。

 

 

「で?昨日言ってたもんは持ってきたんだろうな?」

 

灯里と男子のグループがいる場所の近くに行き、二人が物陰に潜んで聞いているとそんな言葉が聞こえてきた。

男子は4人ほどのグループで壁越しに灯里を囲んでいた。

全員学ランを着ていたが、首元にあるピンバッチからして恐らく神樹館の生徒だろう。

壁にもたれかかっている灯里は黙ったままだった。

 

「おら、黙ってねえで出せよ。持ってきたんだろ?金だよ、金。」

 

さっきとは別の男子が灯里に向かって手を差し出しながら言う。

どうやら灯里からお金を喝上げようというのだろう。

 

「か、カツアゲなんて初めて見たよ....」

「なんとも時代錯誤で陰湿だな....」

 

香織と海斗は小声で言う。

海斗はその様子を見てさらに苛立ちが増して行った。

男子たちは灯里を馬鹿にするようにニヤニヤしながら見ている。

 

「それともなんだ?テメエ格式が上の俺に逆らおうっていうのか?」

 

恐らくそのグループのリーダーなのであろう、一人の男子が灯里を脅しにかかった。

灯里は少し怯えた顔をし、カバンを漁り始めた。

そこで海斗の我慢の限界が来た。

 

「そんな奴らに渡す必要なんてねえだろ」

 

そして自然と物陰から出ていた。

その男子たちの言動もやろうとしていることも気に入らなかったし、何より何も抵抗しない灯里に腹が立った。

そこに香織も少し慌てて出てくる。

 

「ああ?誰だてめえら....」

 

灯里を脅していたリーダー格の男子が前に出てきて言ってくる。

 

「誰って、私たちはその子の友達だよ!」

 

海斗の少し後ろに立っている香織が言う。

だがそんな言葉を聞くとその男子たちは大声で笑い始めた。明らかにこちらを馬鹿にしている笑いだった。

 

「友達!友達ねぇ!こんな奴にも友達がいたのか!!」

 

リーダー格の男子がそう言いながらさらに笑う。

香織はそれに腹を立て、近づこうとするが、海斗は手を出して止めた。

だが海斗ももう片方の手を握り締めていた。

 

「お前ら、コイツがどこの家のやつか知ってんのか?時田家だぞ時田家?そんな三下の家のやつと友達?ああそうかてめえらも三下な家の人間なんだろうなぁ!」

 

そう言ってさらに笑い出す。

海斗はもう我慢の限界だった。香織を止めていた手を下ろす。

 

「......れ。」

 

海斗は周りに聞き取れないほど小さな声で言う。

様子が変わった海斗を香織は見た。そしてリーダー格の男子は耳に手を当てる。

 

「はぁ?なんだって?聞こえねーよ?」

 

そしてニヤニヤしながらそう聞いてくる。

海斗はさらに拳を握り締め、少しうつむいた状態で言う。

 

「...れよ。」

「はぁ?ぜんっぜん聞き取れねえわ。なんだ怯えちまったかぁ?」

 

そしてまた笑い出す。次の瞬間海斗は顔を上げた。

 

「....黙れって言ってんだよ、このクソ野郎どもぉ!!!」

 

そう言ってリーダー格の男子の方へ飛び出す。

そして右手に握った拳で殴り飛ばした。

香織、灯里、そしてほかの男子3人は驚いた顔でその様子を見ていた。

海斗は思い切り殴ったため、リーダー格の男子は1メートルほど後方へ飛び、仰向けに倒れた。

海斗は叫んだ上に思い切り殴ったため、息が少し上がっていた。

 

「殴った...殴ったな?この俺を。てめえ、俺を誰だと思ってんだぁ!小鳥遊(たかなし)家の跡取りだぞぉ!」

 

その男子は起き上がり、殴られた頬を手で押さえながら言う。

小鳥遊家は確かに格式は高かったが、成瀬や相沢家と比べれば低かった。

海斗はその言葉を聞いて鼻で笑った。

 

「小鳥遊家、ね.....。」

「ああそうだ!てめえはどこだよ、場合によってはてめえの家まるごと潰すことだって出来るんだぞ?!」

 

そう脅してきた。

海斗にとって余りにも滑稽に思えた。そうまでしてなぜ格式を盾にするのか、全く理解できなかった。

 

「俺か?俺は成瀬だが、それがなんだ?」

 

その男子を睨みながら海斗は言う。

できれば格式が上だということを思い知らせる方法は使いたくなかった。だがこの場を収めるにはそれしかなく、苦渋の策で海斗はそれを言い放った。

それを聞くとリーダーの男子は怯えた顔になった。

 

「な、成瀬....?成瀬って...あの....?」

 

そう言って後ずさる。ほかの3人も怯えた顔をしていた。

海斗は無言で近づき、胸ぐらをつかんだ。

 

「今度そいつに手を出してみろ.....次は一発殴るだけじゃすまねえぞ。」

 

そう言って手を離した。

そしてその4人の男子は走って逃げていった。その場には海斗、香織、灯里の3人だけになった。

しばらく沈黙が続いた。しかしそれを破ったのは灯里だった。

 

「なんで.....なんで助けたの?」

 

灯里の声は震えていた。それが恐怖からのものなのか、怒りからのものなのかはわからない。

海斗は横目で灯里を見ながら言った。

 

「......仲間を助けることに理由なんているのか?」

 

ここ数日のことは確かにあったが、海斗にとって灯里はもう仲間に違いなかった。

だからこそ助けたいと思ったし、これがきっかけでうまくいけば、とも思ったからこそ行動に出た。

だが灯里は屋上で話した時のように鋭く海斗を睨んだ。

 

「仲間...?またそれなの....?じゃあ仲間じゃなかったら助けなかったの?それとも何?私が哀れに見えたの?だから助けたんじゃないの?」

「は....?」

「そうやって、格式が下の私を哀れんで、バカにしてるんでしょ?!いい加減にしてよ!もう私のことなんてほっといてよ!!」

 

海斗は灯里のその言葉に怒りを覚えた。

これまでは確かに怒りを抑え続けることができたが、もう我慢の限界だった。

 

「は....?いい加減にしろ....?ふざけんなよ....それはこっちのセリフだ!!!!」

 

再び海斗は叫んだ。

 

「お前はいつもいつもそうだ!俺が何を言っても認めない、気に入らない、信じない。挙句の果てにどうせ馬鹿にしてる?ふざけんなよ、馬鹿にしてんのはそっちだろうが!!俺はずっとちゃんとうまくやりたい、仲良くやっていきたいと思ってた!彩花さんとも、梨花さんとも、香織とも、お前とも!!ただチームとして仲良くやっていけたらと思っていた!だから色々と手を尽くしてきたんだ!なのにお前はなんだ...?それを全部頭ごなしに否定して!俺の気持ちを勝手に決めつけて!格式を上げたい...?お前は格式を上げてどうするつもりなんだよ!!」

 

海斗はこの5日間貯め続けた怒りを、いらだちを全て灯里に向かってぶつけた。

灯里はそれに弱々しい声で答える。

 

「何って....私は家の格式を上げて...今まで馬鹿にしてきた奴らを....」

「またそれか...?馬鹿にしてきた奴らを見返す...?教えてやろうか。お前がやろうとしてることは!さっきのあいつらと何ら変わりもない!ただ格式を上げて、下になった奴らを見下すんだよ!口では達者なこと言ったって、結局はそのバカにしてきた奴らと同じなんだよ!」

 

もう海斗は自分を制御できなかった。そして続ける。

 

「もういい加減にしてくれ!もう無理だ!これ以上俺にどうしろって言うんだ?!俺のやり場のないこの気持ちはどうしたらいいんだ!!」

 

海斗は目に少し涙を浮かべていた。そのまま振り向いて足早にその場を離れていった。

海斗に激情をぶつけられた灯里はただただ呆然とその場に立ち尽くしていた。

そして思い知らされた。自分が海斗に対してどれだけひどいことをしてきたのか。そして自分がこの先何をやろうとしてきたのか。

 

「灯里ちゃん....」

 

香織はそう呼びかけ、灯里の肩に手を置く。その瞬間涙が溢れだした。

そして心で自分を責めた。自分はなんてことをしてしまったのか、と。

 

 

その日の放課後、灯里は部室に顔を出したが、海斗はいなかった。

香織によれば体調不良と言って午前の間に早退したとのことだった。

そして香織は彩花と梨花に朝に起こった一部始終全てを話した。

 

「そっか、海斗くんが....」

「あんな取り乱した海斗くん、初めて見ました....。それにあんなに怒るほど我慢してたなんて...。」

 

彩花でさえ海斗が怒り、激情をさらけ出したことがにわかに信じられなかった。それほどまでに海斗はずっと我慢強い性格だったのだ。

灯里はただただ落ち込んで椅子に座ってうなだれていた。

彩花は少し考え込み、そして立ち上がった。

 

「わかった、海斗くんのことは私に任せて。香織と梨花は灯里のことをお願い。」

 

そう言って荷物を持って部室を出ようとする。

 

「海斗くんの家に行くの?」

 

梨花が聞いてきた。彩花は頷く。

するとずっとうなだれていた灯里が立ち上がる。

 

「あ、あの、私も行きます。あいつに....謝らなきゃいけないから....」

 

そんな灯里を見て彩花は微笑んだ。

 

「今は気持ちの整理ついてないでしょ?だから今日は私だけで行くから。あんたはちゃんと気持ちの整理がついてから海斗くんに謝りなさい。」

 

そう言って灯里の頭を撫でる。灯里は「はい...」といいながら俯いてまた椅子に座った。

 

部室を出ると彩花はまっすぐ海斗の家へ向かった。

この2ヶ月、彩花は海斗の家へ何度か行っていたため、もう行きなれていた。

海斗の家の門の前に立つ。そしてインターホンを押したが、反応がなかった。

仕方なく、カバンから海斗から受け取っていた合鍵を取り出して玄関を開ける。

 

「海斗くーん、入るよー」

 

そう言って中に入る。だが何も返事はなかった。

彩花は靴を脱いで上がり、廊下を歩いていく。

居間、そして海斗の個室を覗くがそこに海斗の姿はなかった。

 

(じゃああそこかな...。)

 

彩花はさらに奥まで入っていく。

海斗の家には剣術、そして槍術の修練をするための道場がある。

彩花の家にもあるが、海斗の家の物ほど大きくはなかった。

彩花はその入口まで行き、中を覗き込む。

そこには半袖Tシャツにスポーツ用の短パンといった姿の海斗がいた。両手には1本ずつ木刀が握られている。

もう何時間も素振りをしていたらしく、海斗は汗だくになっていた。

ひとつの型が終わり、腕を下ろす。

 

「仮病を使って早退するなんて、感心しないかな。」

 

その声に気づき、海斗は入口の方を振り返る。

海斗は少し驚いた顔をし、彩花は微笑んでいた。

 

「彩花さん.....」

「話、香織から聞いたよ。」

彩花がそう言うと海斗は目をそらして俯く。

 

「少し、話そっか。」

 

余りにも汗だくだったため海斗は軽くシャワーを浴びた。その間彩花は居間で待っていた。

海斗は居間に戻ってくるとキッチンの方へ行き、二つのグラスに冷えた麦茶を注いで居間の方へ持ってきた。

 

「何時間くらい振ってたの?」

 

彩花が聞いてくる。

 

「えと、2限目途中で帰ってきてからすぐに始めたんで、6,7時間はぶっ通しで」

「えー....ダメだよこの時期暑いんだから、少しは休憩取らないと」

 

そんな他愛のない会話から入る。海斗は「大丈夫ですよ」と言って麦茶を一口飲んだ。

そのあと少しの間だけ沈黙が続いた。最初に口を開いたのは海斗だった。

 

「すみません、今日何も言わず部室に行かないで....」

 

何も連絡をしなかったことを海斗は謝罪した。

彩花はそれを聞いて微笑みながら首を横に振った。

 

「気にしないで。海斗くんも大変だったのは知ってるから....あとね、あまり灯里を責めないであげて。私がここに来る前にも、あの子あなたに謝らなきゃって言って反省してたから。」

 

海斗はそれを聞いて思いつめた顔になった。

あの時の自分はどうかしていた、と自分でも思っていた。なぜあんなひどい事を言ってしまったのだろうか。

灯里に決めつけられたことに対して怒りを覚えていたにも関わらず自分も同じようなことをしてしまった。

それを考えると海斗は自分が情けなくなった。

 

「ほんと....俺何やってるんでしょうね。彩花さんに頑張るって言ったのに、なんにも成果出せなくて....それどころか関係悪化して....挙句の果てに時田に対してあんなひどいこと言って.....自分が情けないです....。」

 

海斗はそう言って俯く。

彩花はそんな海斗を見て彩花は立ち上がってすぐ傍まで行く。

海斗が顔をあげて彩花の方を見た瞬間だった。彩花は両手で海斗の両頬を挟むようにピシャッと叩いた。

 

「.......彩花....さん?」

 

海斗は彩花の突然の行動にあっけにとられた顔で彩花を見た。

彩花はキッとした目で海斗を見ていた。

 

「海斗くん....頑張るって言ってよね?」

「え....あ、はい....」

「それを口に出して、行動に移すことってすごく勇気のいることなんだよ?だからそれができた海斗くんは....情けなくなんかないよ。」

 

そう言って微笑むと彩花は海斗を抱きしめた。

 

「大変だったねよね....頑張ってたもんね....ずっと辛かったよね。」

 

彩花は優しく海斗の頭を撫でながら言う。

両親が亡くなって海斗が彩花の家で暮らすようになってから、なにか辛いことがあったとき彩花はいつもこうしてくれていた。

海斗は目を閉じてしばらく、彩花に身をゆだねた。

 

 

「この歳になってまたあんなことやってもらうことになるなんて思いもしませんでしたよ....」

 

玄関で靴を履いている彩花に海斗はそう言った。

結局あのあと十数分ほどあの状態が続いた。

素に戻った今、海斗は気恥ずかしくてたまらなかった。

 

「たまにはいいんじゃない?海斗くんだってついこの間まで小学生だったんだし」

「いやいやそうは言ってもですよ.....」

 

さすがにもう中学生で年頃の男子である海斗にとって恥ずかしくないはずがなかった。

海斗は少し顔を赤くし、頬を人差し指でかいていた。

 

「.....よかった、元気になったみたいだね。」

 

そんな海斗の様子を見て彩花は安心した顔をしていう。

 

「...なんか彩花さんには世話になりっぱなしですね....ほんといつもありがとうございます。」

「気にしないで。海斗くんは私の弟みたいなものだし、当然のことだよ。」

 

海斗が礼を言うと彩花は笑顔でそう言った。

途中まで送っていくといったが、彩花は断ってきたので門の前で見送るだけにした。

彩花が見えなくなってから海斗はまた明日も頑張ろう、という気持ちで家の中に入った。

 

次の日、海斗は昼休みに灯里と話を付けに行こうとした。

しかし、行こうとした瞬間に樹海化警報が鳴った。

 

「タイミング悪いなおい......。」

 

少しバーテックスに対して怒りを覚えつつも準備をした。

樹海に入った時、既にバーテックスの反応がレーダーには写っており、そこには「一角獣座(いっかくじゅうざ)」と表示されていた。

その姿はまさに一角獣にふさわしい姿....いわばユニコーンだった。

 

昼休みの最中だったため、5人はそれぞれバラバラの位置に配置していた。

彩花から連絡が入り、1箇所に集まろうという話になったが、バーテックスはそれを許してくれず、攻撃を開始してきた。

まずは一目散に海斗の方へ突進してきた。海斗は刀を交差させ、精霊である鵺を出してガードで身を守る。

バーテックスの動きは非常に早く、その突進の威力は強烈だったため、海斗は大きくノックバックした。

着地した先で体制を立て直そうとするも、バーテックスは次の攻撃を仕掛けてきた。その角を連続で噴出して海斗のもとへ飛ばす。海斗は間一髪でよけるが、その角が着弾した場所では大きな爆発が起こった。

 

「おいおい、一瞬たりとも隙を与えないってか...!」

 

バーテックスは角を噴出し続け、海斗だけでなく、ほかの4人も狙う。

無数の角の攻撃から避けつつも彩花は指示を飛ばす。

 

「みんな落ち着いて!陣形はいつもどおりに!海斗くんと香織は隙を見つつ本体に攻撃を与えて!」

 

が、しかし次の瞬間本体が再び突進攻撃を行った。狙いは灯里だった。

灯里はかろうじて防ぐが、反動を抑えきれず、大きく吹き飛ばされた。

 

「灯里ちゃん!大丈夫?!」

 

香織がそう叫ぶ。灯里は「大丈夫!」と言いながら立ち上がろうとする。

しかし、着地した時に足をひねったらしく、立てずにいた。そしてバーテックスはすかさず角を噴出し、灯里を狙う。

足を怪我して動けない灯里はかっこうの的だった。

 

「灯里!!!!!」

 

彩花がそう叫んだ瞬間、灯里のもとに無数の角が着弾し、大きな爆発を起こす。

誰もがやられたと思った。しかし。

爆発による煙が晴れるとそこには灯里の前にたち、かろうじてその攻撃を防いだ海斗がいた。

恐らくバーテックスが角を噴出した瞬間に瞬時に灯里のもとへ駆けつけたのだろう。

ただ、ギリギリのガードだったため海斗は額と左腕から血を流していた。

 

「な....何で...」

 

灯里がそうつぶやくと海斗は振り向いて灯里の方を見る。

 

「言ったろ....仲間を助けることに理由がいるのかって....」

 

そう言って灯里の方へ近づく。そして灯里を抱え上げ、安全な場所まで後退する。

バーテックスは香織が本体に攻撃を与えたため、動きが止まっていた。

その隙に、ほかの3人も海斗と灯里のもとへ集まってきた。

 

「灯里、大丈夫?!」

 

彩花が灯里に近づいて聞く。

 

「多分、足をひねってますね。この状態だとちょっともう戦えないかも...」

 

海斗が言う。

 

「き、決め付けないで!私はまだ戦え...っ!」

 

灯里はそれに反論するが、痛みで顔を歪めた。

 

「痛むんだろ?無茶はすんなよ。その状態で戦うのは危険だ。それに...」

 

海斗はまっすぐ灯里を見た。

 

「お前が戦えない分はしっかりとフォローする。だから信じろ。」

 

海斗は力強くそう言った。彩花、梨花、香織はそれを聞いて微笑む。

灯里は少し俯いてから首を縦に振った。

 

「よし、それじゃあ梨花は灯里を守りながら援護お願い。海斗くんと香織は私が攻撃を牽制するから、本体を叩いて。」

 

彩花がすぐに指示を出し、全員「了解」と言ってそれぞれの役割に徹した。

その後、しっかりと連携を取って戦えたため、すぐにバーテックスを押さえ込み、封印に持ち込むことができた。

そして御魂は海斗が破壊し、戦闘は終了した。

 

樹海化が溶け、5人はいつもどおり学校裏の祠の前にいた。

灯里は香織と梨花と談笑している海斗をジッと見つめていた。

 

「どうしたの?」

 

そこに彩花が来る。

灯里は横目でちらっと彩花を見てすぐに視線を戻す。

 

「なんで...あいつはいっつもあんなに仲間を大事にするのかなって思って」

 

灯里がポツリとつぶやいた。彩花は少し微笑んで灯里に教えた。

 

「あの子ね、初等部3年生の時に両親を失ってるの。それもその死の瞬間を目の前で見ててね。それで人一倍大切な人や身近な人の死とかに敏感なのよ。それにあの子昔から優しいからね、それもあって仲間とか大切にしたいんじゃないかな。」

 

彩花がそう言っていると海斗が大丈夫か、と言いながら灯里に近づいてきた。

海斗は灯里の目線まで屈む。そして少し目をそらしながら言った。

 

「その...この間は悪かったな。お前に決めつけられてるのに腹立ててたのに同じような事し言っちまった。でも、俺は本当に格式のことなんかどうも思ってないし、仲間であるお前を大切にしたいし仲良くやっていきたいって思ってるんだ。だから....信じてくれないか?」

 

海斗は力強く言う。

灯里はそんな海斗を見て少しうつむきながら思った。

まだ先はどうなるかはわからない。でも今は...信じてもいいかも知れない、と。

 

「私も....ごめんなさい。ずっとひどいことしてて。それと、今日はたすけてくれて、ありがとう。それと....これからもよろしく、成瀬海斗。」

 

そう言って手を差し出してくる。

海斗は微笑んでその手を取ろうとした...が、香織が直前で止めた。

 

「だーめだよ灯里ちゃん!チームメイトなんだからそんなフルネーム呼びなんて他人行儀だよ!だからここは『海斗くん』って呼ぶべきだよ!海斗くんも!せめて下の名前で呼ばないと!」

 

これも香織なりの気配りなのだろう。いきなり下の名前で呼ぶことを推奨してきた。

海斗と灯里はあっけにとられた顔をしていたがやがて灯里が顔を赤くして慌てて言う。

 

「そそそそんな突然下の名前呼びとか!わ、私は別にして欲しくないし!で、でもあんたがそうして欲しいなら...してあげないこともない...かも....」

 

余りにも素直じゃないその言葉に海斗は自然と笑いが溢れた。

そして微笑みながら言った。

 

「構わないよ。そのかわりこっちも灯里って呼ばせてもらうからな。.....そんじゃま、これからもよろしくな、灯里。」

 

海斗はそう言って手を差し出した。その手を灯里も恐る握り、握手をする。

 

この日、海斗と灯里は本当の意味でチームメイトとなることができた。

 

[第6話:期末テストとお役目とへ続く]

 

 

 

 

 

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