世紀末魔闘伝 毘櫃怒(ヴィヴィッド) 野郎の野郎による野郎のためのリリカルViVid 作:鱧ノ丈
スポーツマンシップなど求めてはいない。
敗者に敢闘賞は無く、勝者のみが栄光を得る世界――
君たちの使命はただ一つだ。勝て――
「クッ、ハッ――カ、カッカッカ!!」
嵐の如き暴風と破壊の衝撃、天災の類かとも思える中に喜悦を剥き出しにした哄笑が混じる。そもそも天災という言い方が間違っている。何しろこの場は最新の建築技術で築かれた大型ドーム、その中なのだ。暴風の類など吹き込むはずも無い。
では何がそれを巻き起こしているのか。一切の嘘偽りなく事実のみを述べよう。それはたった二人の人間の激突によるものだ。ドームの中央、防御の結界魔法により仕切られたリングの内でたった二人の魔法格闘家が鎬を削り合っている。ただそれだけで、決して広大とは言えないリングの中は災害の爆心地となっているのだ。
「カーカッカッカ!!」
哄笑を上げる人影は生半可な者の目では到底追いきれない速さで縦横無尽にリングを駆け巡り四方八方からの猛攻を加える。その苛烈な攻めを前に受ける側はただ防戦一方に――と見るようではまだ未熟の謗りを受けても反論することができない。
叩き落ちる瀑布のごとき拳打を前にその者はどこまでも泰然としていた。陰鬱とした目はその暗さに反して鋭く無数の拳打の全てを見取り躱し、捌く。認めざるを得ない事実として手数という点では相手の方が上。先手は譲らざるを得ないことが多いが何するものぞ、相手同様に超絶技巧の体術で以ってその全てを無力化する。
だがそれだけに留まらない。そも両者は拳士として特徴が異なる。相手が超人的敏捷性と圧倒的な手数による猛攻を誇るならば相対するこの者は――
轟ッ!!
刹那の中に見出した光芒、そこに目がけて拳を振り抜く。阻む大気を引き裂き、砕きながら突き進む拳は相手に突き刺さろうとしたところで咄嗟の判断でされた回避により宙を切り、そのままリングの床に叩きつけられる。
瞬間、会場の誰もがその場で地震のような揺れを感じた。その原因はリングを見れば明らかだ。敵に当たること無くリングに叩きつけられた拳は着弾点を中心に大きく陥没、更に放射状にひび割れ建材の塊が岩山のように突きあがる。
「カッ」
宙を舞いながらその様に歓喜の笑いを漏らす。そうして突き出た岩山の一つ、鋭く尖った頂点に音も無く軽やかに降り立った。
試合開始を告げるゴングが鳴って数分、両者が向かい合うのはゴングが鳴る以前以来だ。向かい合う二人はどちらも年若い少年だ。だが少年と呼ぶには些か成熟し、青年と呼ぶにはまだ幼さが残る。少年と青年の中間、10代盛りの特徴とも言える。
そもこの場に立つという時点で二人の年齢は絞られる。何故ならこの場に立てるのは全管理世界にあって10代の少年のみだからだ。
「カッカッカ、やはりそうでなくちゃあのぅ。張り合いっちゅうもんがないけぇ」
岩山の上で訛り混じりに語るのは僅かに白髪の混じる金髪と、血のように赤い真紅の瞳が特徴的な少年だ。バリアジャケット――魔力により編まれた装甲とも言える服をこの場に立つ身として当然のように纏っているが、その意匠は凝っているとは言い難くどこぞの民族衣装、あるいは単なる道着にも見える。
「……」
リングを一撃で半壊させた拳の持ち主、それは相手とは対象的に寡黙という気質を全身で発する黒衣の少年だ。漆黒のコートを象るバリアジャケット、漆黒の髪にどこか陰鬱さを宿す漆黒の瞳、そして両腕を覆う漆黒のガントレット、どこまでも黒に染まった彼はその佇まいも相俟ってさながら黒鉄の塊にも見える。
「だんまりかい。つまらんのぅ。まぁえぇわい、存分に果たし合えりゃあワシはそれで満足じゃけぇの。おぉ、それはお前も同じじゃろうて」
ピクリと眉根が動いた。言葉にするまでも無い、そう言わんばかりに彼は己の黒腕を構える。その姿に赤い瞳の奥に更なる喜悦が湧き上がる。
「あぁ、それじゃそれじゃ。それが愉しみで、楽しくてたまらん。存分に、堪能させてもらうけぇの……!」
腰を落とし猛獣が獲物に狙いを定めるかのごとき構えを取る。
睨み合ったのも数瞬のこと、超速で駆けた両者は一瞬にして互いに間合いを詰め再度激突を始める。
観客も、アナウンス席の解説者も、試合のレフェリーも、その光景を目にする誰もが言葉を失っていた。そんな周りの一切を置き去りにした中で二人の試合を超えた死闘は続く。
DSAAインターミドル・チャンピオンシップ 男子の部 全世界大会決勝戦。この大会が同大会女子の部と比して修羅の宴と称されることになる切っ掛けの一つ、そして後年も語り草となり続ける戦いの一幕だった。
「え? インターミドル男子の部?」
その日、ノーヴェ・ナカジマは教え子の少女からの質問に珍しく返答に戸惑った。
「うん。わたしたちもインターミドルで今度こそ勝ち進めるように目指して毎日練習してるけど、よく考えたら知らないことも多いなって思って。それでコロナ達とも話したんだけど、男子の部の話ってあまり聞いたことがないなって思ったから」
さてどうしたものかとノーヴェは頭を軽く掻く。質問の主、高町ヴィヴィオは純粋に好奇心から聞いているのだろう。それはヴィヴィオの少し後ろに立ってノーヴェの話を待っている彼女の友人二人、コロナとリオの様子からもよく分かる。
「う~ん、まぁ確かになぁ。テレビとかで流れるのも大体が女子の部の試合だし」
そこはやはりマスメディアだ。どうせ映すなら年若い少女達の躍動する姿の方が画になるし受けも良いに決まっている。そちらに傾注するのもむべなるかな。
「確かに男子の部の試合はあまり流れないし、メディアも話題には中々しないからなぁ。だから、興味を持つのは分かるんだけど……どうするかなぁ」
別に渋っているわけではない。ノーヴェとしてはできれば目にかけている教え子たちの疑問に答えてやりたいと思っている。だが多少なりともあちら側を知っている身としては躊躇してしまう節もあるのだ。特にこの純粋な少女たちのような相手には。
「おはようございます」
「おはようございまーす!」
「失礼いたしますわ」
不意に入り口の方から聞こえてきた声に四人の目が向く。聞こえてきた声は三人分、いずれも聞き覚えのある声だがそのうちの一つには首を傾げた。
「ごきげんよう、ナカジマコーチ。突然申し訳ありませんわ。休日に少々外出をしていたらたまたまアインハルトさんにミウラさんとお会いしまして。折角だからということで同行させて頂いたのですが、ご迷惑でしたか?」
「ヴィクター。いや、いいよ。いらっしゃい、歓迎するよ」
アインハルト、ミウラのいつもの二人に加えてヴィクトーリアという珍しい組み合わせ。だが珍しさもなんのその、ノーヴェは笑顔で三人を迎える。
「ところで、なんのお話をしていらしたのですか? ナカジマコーチも何やら答えに詰まっていたようですが……」
「あぁ、いやそのね」
先ほどの様子はあっさりとバレたらしい。これまたどうしたものかと言いよどむノーヴェだが、それより早く動いたのがヴィヴィオだった。
「あの! ヴィクターさん! ヴィクターさんはインターミドルの男子の部について知ってることってありますか?」
「え?」
ノーヴェのみならずヴィクトーリアにも投げ掛けられた質問。だがその内容に彼女もまた一瞬返事に詰まった。そしてノーヴェの方を見れば「そういうこと」と言いたげな少し困った顔をした彼女がいた。
なるほどとヴィクトーリアは納得するように頷いた。確かに知ってはいる。だが知っているからこそ、特にこのような純粋な子供たちに伝えるのは僅かながら抵抗を感じるのだ。
(どうした、ものかしら……)
チラリと見れば答えを期待する眼差しを向ける三人の顔が目に映る。更に言えば一緒に来たアインハルトとミウラからも興味を持つような視線を感じている。これだけのものを受けて何も答えないというのも、ヴィクトーリアにとっては心に痛むものがある。
「そうですわね。インターミドル男子の部、知らないわけではありませんわ。ほんの少しばかりの縁もありますから。けれど、それはわたくしが多く語るべきことでもありません。なので伝えられるのはこれだけです。あそこは、別世界ですわよ」
「別、世界……」
はぐらかすつもりなど一切無い、真剣な表情で語られた言葉をヴィヴィオたちは不思議そうに聞いていた。そしてその背後ではノーヴェもまた真剣な面持ちでヴィクトーリアの言葉に頷き、その言葉が意味するところに納得を示していた。
インターミドル・チャンピオンシップ男子の部。かつては出場選手に男女の違いがあるだけで大会の在り様は何ら違いが無かった。強いて挙げるとすれば、やはり出場選手が血気盛んな十代の少年たちだからだろう、勝負にかける熱気が女子の部のソレより強くなりやすい傾向にあったことくらいか。そしてそれが常態化し、誰の目にも当たり前と映っていたこともそうだ。
だからだろう。誰もが異変に気付くことは無かった。観客も、解説者たちも、審判団も、当の競技者達もだ。
際限なく熱気が高まっていく試合の数々。時にLP、クラッシュエミュレート、そうしたルールの枠を飛び越えて純粋に限界まで戦い合うことを是とし、それが当たり前となりつつある選手たちの認識。流石に加熱し過ぎたということに周囲が気づき手を打とうとした時、それは既に手遅れの域に到達していた。
世界大会決勝、女子の部のソレと同じく文字通りの次元世界最強の十代男子を決める戦い。その舞台に立った二人は暴走と言っても良い域に達した大会を体現したかのような存在だった。
圧倒的な身体能力と体術、魔法能力で死闘に死闘を繰り返して向かい合った両雄の戦いはもはや当人たちが勝敗を決するまで止められないものとなっていた。拳と拳が打ち合う度に震える大気、砕かれ崩れていくリング、ズタズタにされ用を為さなくなる防御用の結界、それらを単なる戦いの余波とする二人の死闘は互いのLPが1ラウンド開始二分で互いの攻撃がクリーンヒットしたことで同時に尽きても終わることなく、制限時間すら超えて文字通り1昼夜続けられた。そうして死闘の果てに最後に立っていたのは――
かの死闘より数年、もはや臨界点を振り切った大会を止めることは誰にもできなくなった。
運営側は大会、会場、選手たちへの被害を可能な限り抑えることに運営能力の大半を割き、そのあまりの苛烈さにマスメディア各種は自然とそれを取り扱うのを避けていった。
そうなれば後は参加者たちのパラダイスだ。大手のジムに所属する正統派アスリート、流れの風来坊、昔ながらの修練を続ける武門の門弟、純粋な腕試し名上げを狙うアウトロー。様々な若者たちが集った結果、大会はただ二言のみで表される場になった。
問われるは"強さ"、価値あるは"勝利"のみ。U-15などの別部門のリーグは未だに従来の形を残している。だが最大規模にして最大目標でもあるインターミドル・チャンピオンシップ、男子の部においてそれは若くして強さに惹かれた猛者たちの饗宴の場と化していた。
そして今、その本年度大会が幕を開けようとしていた。
「ヒュッ――」
鏡の前で無心でシャドーを行う少年。
最大手フロンティアジム所属「ザ・エース」カイル・レッドナー。
「へぇ、そうかよ。今年もこの時期ってワケかぁ。おいテメェら! 気合い入れ行くぞぉ!」
豪奢なソファに座りながら蒸留酒を飲み干し背後に佇む黒服を従える青年。
次元世界有数のギャング、ディアボロファミリー後継者「暴拳」アルフレード・アレオッティ。
(おそらく騎士カリムや騎士シャッハはお止めになるだろう。だが、僕はこの衝動に逆らえない――!)
裂帛の気合いと共に剣を振りおろし巨岩を真っ二つにする美青年。
聖王教会騎士団所属「聖騎士」アルバート・ペンフォード。
「コォォ……」
山奥の滝に打たれながら静かに瞑想を続ける理知的な青年。
ルーフェン武術一門門弟「心撃」ワン・リューシェン
「ふむふむ……」
少し強めに叩いた木から葉が一斉に落ちる。無数に舞う葉、その全てを一息の抜刀で真っ二つに切る青年。
星心流抜刀術「輝剣」イゾー・オカモト
各次元世界に散らばる名だたる若き猛者たちが来たるべき日に備えて一斉に牙を研ぎ始める。そして、それは同時に全ての原点にして頂点に立つ両雄、挑む者にとっての災厄が動き出すことの証でもあった。
「なぁ、兄ちゃん。本当に今年も出るん?」
長い黒髪をツインテールにした少女が不安げな顔で兄と呼ぶ青年に問う。少女のことをその筋で知らない者は居ない。何故ならば彼女こそがインターミドル・チャンピオンシップ女子の部ワールドチャンピオン、次元世界最強の10代女子の称号を担う者だからだ。
「くどいぞ」
徹底して寡黙な青年は、しかし血を分けた妹が相手だからかある程度は言葉に応じる。億千万の言葉を尽くしても兄の心が動かないのは少女も分かっていた。それでも言わずにはいられないのだ。血を分けた兄が、自分以上に血の宿業を強く体現した兄が、幼いころからその背に憧れた大好きな兄が心配だから。
「ウチが言っても説得力が無いことは分かってるんよ。けど、あそこは危なすぎる。兄ちゃんがウチよりもずっと強いのは知ってる。けど、怖いんよ。兄ちゃんが、どこか遠くに行っちゃいそうだから……」
俯く妹の姿を青年は黙って見据える。そして言う。
「俺には、俺の望みがある」
「兄ちゃんの、望み?」
踵を返し背を向けながらも、兄は妹に向けて偽りのない真摯な本心を告げた。
「この身を、この心を、この魂を、全てを燃やし尽くす至高の戦い。その最果て。それが俺の唯一の望みだ」
500年を超える技と経験の蓄積、その全てを受け継いだ「黒のエレミア」正当後継者「鉄腕」ジークリンデ・エレミア。その兄にしてエレミア500年の歴史における唯一にして最大の異端、そして最強にしてエレミアの完全体現者。
漆黒の籠手より打ち出されるあらゆるを粉砕する必滅の拳の使い手、「滅腕」ミハエル・エレミア。
己の渇望を満たすため、彼は宿命の怨敵の打破をその胸中に誓った。
「あぁ、そういえばもうそんな時期だったかいのぅ」
某密林世界、その奥深く。古くからの弱肉強食の生存競争に打ち勝ち種を存続させてきた猛獣たちが闊歩する危険地帯に彼は居た。
腕利きの魔導師すら気を引き締めて掛からねばならない一帯に、デバイスを持っているとは言えほぼ身一つで居ることはおよそ正気の沙汰とは思えない。いや、事実彼は正気でないのだろう。
「ふぅむ、それなりに楽しめはしたがのぅ。そろそろ打ち止めかの」
そうごちる彼の周囲、そこには見る者の目を疑う光景が広がっていた。力尽き倒れる無数の猛獣。迷い込んだ哀れな
「うむ、時期も頃合いじゃけぇ。そろそろ帰るかの。となれば――こいつでシメというわけかい」
ギョロリと殺意のこもった視線を向けた先、そこにはこれまで彼が屠った猛獣たちよりも更に巨大な虎に似た猛獣が居た。
「カッカッカ、無聊を癒す馳走のトリには頃合い、といったところじゃのう。存分に、味わうとするわいなぁ――!」
吠えながら飛び掛かる猛獣と、微塵も臆することなく立ち向かう青年。野性と、野性をも上回る狂気の激突はやがて終焉を迎える。その果てに勝ったのは……
「うむ、うむ。中々に歯応えがあって楽しめたぞ? 礼を言わねばならんのぅ」
狂気であった。
特別な家に生まれたわけではない。古代ベルカの諸王の血、そのようなものとは何の縁も無い。優れた魔導師を両親に持つわけでもない。その出自はどこまでも平凡だった。
だが、彼には才能があった。その才能を伸ばす術を本能が知っていた。そしてそれを爆発的に加速させる狂気を持っていた。
聖王、覇王、雷帝、冥王、魔女、歴史に名だたる英傑すら彼にとっては微塵も恐れるに足らず。全ては彼の武術的狂気を満たすための糧に過ぎない。故に彼は喰らい尽くす。相対する全ての戦士を。その果てに神域へと至るために。
インターミドル・チャンピオンシップ男子の部 世界代表優勝者 「拳魔」ティンヌラジャ・ベルジーブル。
かくして役者は出揃う。ここにインターミドル・チャンピオンシップ男子の部、次元世界における最も若き修羅の宴が幕を開けた。
なんとなく思いついて書いただけのネタなので続く保証は欠片もありません。ただ、こんな感じで大会男子の部はなんかもう修羅ったキチガイどもがひたすら暴れまくる別世界だったら面白いなーと思っただけです。
ちなみに一応出てきた野郎どもそれぞれにキャラのモデルはあります。分かる人は分かってくれると勝手に思っています。鱧ノ丈がどんな物書きかを分かっている方ならきっと。
次はちゃんとISを書きたいです。