ここは黄泉の世界と呼ばれる世界
ありとあらゆる生物が死んだ時、魂のみを呼びこみ、天国や地獄の世界へと誘う場所である。
そんな世界は真っ白な世界で上下左右の感覚が麻痺しそうな何もない空間のみだが、魂のみしかないので脳の錯覚など存在しない。
そんな彼らの魂を導く存在の神様らしき人物は自分の目の前に長く長く並んだ魂の列をちらりと見、深く溜息を吐いた。
「本当によく死ぬなァ。特に、地球とかいう惑星の人間は」
溜息を吐いた彼女の名はイザナミといい、誰しもが一度みたら振り返る程の人物だ。
身長は百七十センチほどの高さで胸がたゆんと揺れそうなFカップの釣鐘型をしていて、ウエストはキュッと細く、お尻は張りのある大きい形をしており、まさにボン・キュッ・ボンとしたミスユニバースでぶっちぎりで優勝するようなスタイルをしていた。
顔は綺麗に整っており、髪も腰まで届くサラサラの黒いロングヘアーで、まさに美人だ。
「はいキミは天国ね-。あ、キミたちは地獄だー」
イザナミは魂を次々へと導いているが彼女の体感で何百年経っても魂が減ることが無い。否、むしろ増えているような気がする。というか、時間という概念はないが。
「むぅ、いくらワタシが老けないからってさぁ・・・これじゃあいつまでも仕事が終わらないねぇ」
彼女は頬を膨らませつつ愚痴をこぼすが、彼女の他に仕事をやれる人物が居ないのだ。ちなみに彼女は元々死んでいるので、空腹や眠気などは無い。故に、死んではいるが不老不死というわけだ。
彼らの魂を天国や地獄に送る日々を淡々として過ごしたある日、とある男性の魂に出会った。
『あのぉ~、ちょっとお尋ねしたいのですが』
稀に魂だけなのに話しかける者がいる。彼らは未練を残したまま黄泉の世界へ来る事があるので、イザナミは全てではないが、出来るだけのことは解決することにしていた。
「うん、話してみて」
『僕、異世界にいきたいです』
「・・・またか」
イザナミは途方にくれた。彼の願いは他の人達の願いを含め何度も聞いたことがあったのだ。彼女ならばその願いを叶える事が可能なので特に問題がないのだが、何故地球の人物がこうも異世界に行きたかったのか不思議でたまらない。
「えっと・・・出来るけど、理由を聞いていいかな?」
『は、はいっ!ぼ、僕はライトノベルという書物が大好きで特に異世界モノが好きだからです!』
「ふ、ふぅん?」
彼は興奮気味にイザナミに訴えかけるが、何故こうも興奮するか分からないイザナミ。
「・・・ま、分かったよ。それじゃあ早速ーー」
『お待ちください!』
彼の魂を異世界へ連れだそうとしたその時、彼に止められた。ますます分からないイザナミはそうとうイラついたのか眉間にシワをピクピクと動かした。
「あのねぇ、さっきからなんなのさ?」
『す、すみません、行き先を指定したいし、スキルというモノも神様から貰えないのかなぁ、と』
「はぁ?別にそんなのいいけど、つまんなくないかな?」
『い、いえ!僕、そういうのに憧れているので!是非!』
イザナミは未だに興奮気味の彼の魂に深く溜息を吐いた。何が楽しくてそんな事をしたいんだろうか?
「・・・分かったよ。そんなに所謂チートとかいうモノを、肉体強化とか魔法強化とか、色々してあげるさ。好きにするといいよ」
『やったぁ!あ、あと、出来るなら・・・』
「・・・」
彼の要求に更に眉間にシワを寄せるイザナミ。何から何まで図々しいにも程があるだろう。
『僕の旅についてきませんか?』
「・・・え?」
彼にチートなる力を与えながらも神も貰い受けるという要求。さすがに頭にきたが、少し冷静になるイザナミ。彼の旅には興味無いのだが、異世界に行きたいという彼らの気持ちを知る機会になるだろう。
もし、彼の旅についていっても、こちらの世界は黄泉の世界なので、いかなる事象も時間の概念も何もないのだから。つまり、旅が何年経ってもこちらでは一分一秒も経っていない事になるのだ。
イザナミは、いつも魂を導くだけなので暇すぎるので、いつか精神が壊れそうになるからと稀に現世へと赤ん坊として転生する事もあったので特に旅に出るのも支障はないのだ。
「ふぅ、仕方ないね。今回だけだよ」
『あ、ありがとうございます!』
「では、あなたの二度目の人生に幸せがあらんことを願います」
黄泉の世界からイザナミと彼の魂が消え去り、どこかの異世界へと転生し、そんな彼らが生まれ変わり十五年が経った。
彼らの生まれ育った世界は剣と魔法の世界である『イザナギ』は魔王率いる魔物たちが人や街、国を襲うので戦士や騎士、魔法使いらが必死に守り、戦い続けるという定番のRPG的世界なのである。もちろん、クエストと呼ばれる任務があり、討伐や採取・採掘等々を達成させながらも、己を鍛えつつ魔王討伐に誰しもが夢を見ていた。そんな夢を見ていたイザナミと転生した彼はお互い幼なじみで冒険者となり、やはり夢は魔王を倒す事のようだ。
「くぅー!やっと冒険がはじまるぜー!たのしみだよなー!イザナミ!」
「うるさいなぁ、タクトくん。」
転生した彼の名はタクト。身長は百八十センチで顔はイケメンで、髪の色は黒、スラリとした身体だが、筋肉はある程度ある。彼の懐に二本の黒い剣が携わってある。服も黒色一色のスーツで、靴も黒のブーツ。つまりは黒づくめなのである。
「くっくっく。待っていろ!魔王ー!僕がぶっつぶしてやんよーォ!」
「普通に楽に勝てるけどね」
「うるせぇー!イザナミ!」
イザナミはというと、黄泉の世界での見た目と一緒で、白色のローブに身に纏い、手に赤色の杖を持っていた。そんなイザナミを見た男性たちはメロメロになり、女性たちにも尊敬の眼差しを受けていた。
「さてと、イザナミ。あんなヤツらほっといてクエストいこうぜ」
「そうだねぇ、とりあえずお金稼いで宿とか装備とか準備しないと、ね」
イザナミたちは早速クエストカウンターらしき場所に行き、クエスト一覧を眺めていた。
「やっぱ男なら討伐!オークとかオオオーカミとかゴーレム討伐しょ!あ、ついでに薬草採取もとっておこうかな」
「そうだね。なかなか良い報酬だし、それに身体を動かすテストとしてもいいんじゃあないの?」
「よっしぁ!いくぜぇぇー!イザナミぃ!」
「タクトくん、本当にうるさいね」
タクトはイザナミの腕を引っ張り、街の外へ魔物討伐権採取クエストに向かうのである。
歩く事、数分したら見渡す限りの草原。辺りには雑草や遠くには数々の大きな山々、表現するならば『はじまりの草原』と言うべきだろうか、そこは冒険初心者が通うような所だったのだ。
「よっしゃぁぁー!オーク見っけぇえー!」
タクトは姿を消すほどの猛スピードで走り、距離五十メートル先に居るオークを見つけ一瞬でオークを一本の剣で細かく切り刻んだ。時間にすると一秒も経っていなかったので、本当に一瞬の出来事であった。しかし、タクトにはイザナミによってチートの力を受けたので当然の結果であろう。
「おっ?!ついでにオオオーカミとゴーレムもいた!うぅおぉぉりぃぃああぁ!」
タクトは近くに居た体長ニメートル以上もあるオーカミやゴーレムも一本の剣で一瞬で決着をつけてしまった。しかし、何故二本の剣があるのに一本で戦うのかというと、タクト曰くそれが全力でもっともっと決着をつけてしまうというのだ。イザナミはそれを聞いて呆れてしまう。
「よしっ!薬草もたくさん採ったし、帰るぜ!イザナミ!」
クエストに出発して数分ぐらいしか経っていないのに、完了してしまった。初心者の冒険者にはタクトが全て受けたクエストを終了させるには二日~三日ぐらいはかかるだろう。なのに、そんなに早く終わらせたら街の連中が大騒ぎするのも明らかであった。
「あのねぇ、タクトくん。ほどほどにしてね?じゃないと、ワタシまでバケモノ扱いされるじゃあないの?」
「大丈夫大丈夫!僕に任せてよ!」
「・・・ワタシ、必要性なくない?帰っていいかなぁ?」
「ダメ!僕にはまだ野望がある!だからまだ帰っちゃダメだからね!」
「はぁ・・・いいよ。どうにでもなれ、ってものだよ」
このままではクエスト報告と同時に格段にランクアップするであろう。今のタクトたちの冒険者ランクはGランクと呼ばれる所謂正真正銘の初心者ランクだ。そこからF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと一段ずつ上がる筈だが、タクトやイザナミは常識的に上がるのはないだろう。
そんなこんなで街へと戻り、クエストカウンターへと直行。受付嬢は驚愕の表情を浮かべ、タクトたちの行動を事細かく聞いてくる。タクトは実際にさっさと終わらせたからと伝えたのだが、やはりといったところか、信じてはくれないだろう。
「うーん、そうだ!それではテストします!はじまりの草原より東へと続いた場所で多くの人食いアリの魔物がたくさんいます!それを十匹以上倒してください!倒した証拠になるにはこの冒険者カードに記憶されます」
「なるほど。その冒険者カードはイザナミにもくれ」
「はい、今すぐに。冒険者カードは絶対に紛失しないでくださいね?そうすると、これまで倒したモンスターや経験値などの大切なデータが消えてしまいますのでご注意を」
「ならば最初のクエストを受ける時、それを貰えればこんなことにならないんじゃあないの?」
受付嬢はイザナミの言葉に一瞬固まった。しかし、受付嬢はこほんと咳払いを一つ、そしてタクトを睨むように微笑んだ。
「だって、クエスト受理した後に、私から冒険者カードの話をしたのに、タクトさんってば話、聞いていなかったですもの」
「・・・どぉーいぅーう、こぉーとぉーかなぁー?タクトくぅん?」
「ははは。つい、うっかり、楽しみすぎて・・・てへぺろっ!」
タクトは舌を出し、戯けた表情を浮かべ、それを見たイザナミは怒って一発、タクトの頭に拳骨を落としたのであった。
はじまりの草原から東へと続いた道を歩く漆黒のスーツを身に纏う冒険者タクトと白いローブを身に纏った絶世の美女イザナミの姿があった。
彼らは街のクエストである人食いアリ討伐に向けて歩を進めていたが、タクトと呼ばれる冒険者はご機嫌悪いイザナミを煽てていた。
「悪かったって!だって、異世界だぜ?モンスター退治だぜ?興奮しない訳ないだろ?な!許してくれ!な!」
「むぅ、じゃあデラックススペシャルパフェで許してあげる」
「くっ!高いモノねだりやがって!分かったよ!ちくしょー!」
前回のクエスト報酬でそれなりに儲かったのだが、それでも一週間分の食費や泊まる費用で消えてしまう。しかし、イザナミが頼んだデラックススペシャルパフェは一日分の食費同等の価値だった。
「でも、今回のクエストの報酬もそこそこいいからほんの少しの赤字で済むかな?」
「すでに勝った気でいるね?タクトくん。ま、タクトくんなら、巣ごと消し去ること出来るでしょうね」
「ふっ、チートがあるからな。やっぱり、主人公は最強じゃないとね!」
彼は目を爛々と輝かせ、拳を高らかに握りしめていた。イザナミはそんな彼に不思議を感じた。何故、そんなに最強にこだわるのだろう、チートというのにこだわるのだろう・・・何故、異世界に興味を持つのだろう。かつての彼は何を想い、何と戦うのだろうと・・・イザナミは考えていても理解に苦しむことにしかならなかった。
「・・・タクトくん。自分を見失わないでね?」
「?お、おう、任せとけ!」
ただ、彼を見守ることで何か分かるかもしれない。でも、分からないかもしれない。せっかく、イザナミも異世界なるところへ生まれ育ったのだから、彼のように楽しまなければ人生がもったいない気がして、そう思うと自然に笑みが浮かんだ。
「うふふ」
「なに笑ってんだ?気持ち悪いなぁ、イザナミ」
「ちょっ、タクトくん!女の子にそんなこと言ったらダメだよ?ワタシ、怒るよ!むすぅー!」
「あはははっ!リスみてぇ!可愛いなぁ!」
頬を膨らませたイザナミに、ちょっかいだすようにイザナミの頬をつつくタクト。端からみたら美男美女がイチャイチャしているように見えている。彼らはそんな関係ではないが、街の人々は彼らの関係を恋人と勘違いしていることを彼らは知らない。
「あはははっ。ーーおっと、そうこうしているうちに人食いアリの巣近くに来ちまったぜ」
「・・・なんで説明口調なの?別にいいけど」
彼らは直径二メートルほどの穴が多数ある砂場にたどり着いた。その穴に人の大きさほどのアリが多数蠢いていた。
「ひぃぃっ、気持悪っ!」
「確かに、虫嫌いじゃあなくても気味が悪いね」
黒光りした大きなアリは、せっせと穴に入ったり、穴から出たりしていた。
そんなアリを駆除するべくタクトは立ち上がり、二本の剣を手にとって多数のアリへと突進した。イザナミは杖を持ち、魔法を発動しようとするが、やはりタクトは最強なので視認できるアリを全て討伐した。その数は三十匹はくだらないが、巣にはまだたくさん存在するだろう。
「イザナミ!」
「分かってる!」
タクトはその場を離れ、イザナミの横へと瞬間移動するかのように移動した。そして、イザナミは杖を高らかに上げ、魔法を発動した。
「第一級魔法 デストロイ・メテオファイアー」
突如と空から直径三キロの炎を纏った巨大隕石が多数降ってきた。人食いアリの巣にどんどんと隕石が落ちてきて大爆発。たかだかアリごときにやる魔法ではないが、イザナミはその光景を見てキョトンとするしかなかった。
「おいー!!やりすぎだろー!!」
「えへへ。ごめーんねっ!てへぺろっ」
「か、かわいい」
彼らのやりとりをよそに、彼らの目の前には砂場すらなく、ただの大きな穴しか残らなかったというーー。のちに、なにもかも消されたことからブラックホール事件と名をつけられたというのであった。
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クエスト完了してから三十分後、タクトとイザナミはクエストカウンターへと直行し、冒険者カードを受付嬢に見せたが、とんでもないことになっていた。
「た、タクトさんの討伐数は三十匹で、イザナミさんは百匹ー?!あわあわあわあわ・・・」
受付嬢は驚愕の表情を浮かべ、腰を落とす始末。それもそうだろう、まだ初心者の筈のタクトとイザナミがいくら強いとはいえ、あの人食いアリを大量に討伐できる訳がないだろう。しかし、冒険者カードには嘘偽ることが出来ない。もし、何らかのイカサマすると絶対に分かる仕組みになっている。もちろん、クエストカウンターの受付嬢のみしか分からないように企業秘密で冒険者カードにとある細工をしていた。受付嬢のみが備わっている目のスキルで本当の情報を読み取ることができるのだが、やはり何度見ても、人食いアリの討伐数は変わらなかった。
「本当にすごいですね、タクトさんたちは・・・では、今回の報酬のゴールドと回復系アイテム多数、武器や防具の強化石をお渡ししますね」
「おう!なんか悪いな!」
「あ、それと冒険者ランクが上がり、お二人ともCランクです。おめでとうございます。ちなみに国のお偉いさん方や大切なものを取引する商人たちの護衛できるクラスですね」
最下位の下っ端冒険者が一気に上位クラスに上がったのだから、周りにいた冒険者たちは大騒ぎした。神さまだ大魔王だ女神さまだとタクトを褒めちぎり、イザナミには愛の告白を男女問わず受けていたが、やんわりと断り続けていた。
「なぁ、俺とパーティー組め!」
「なにを!?なぁ、おれっちと組めよなぁ!」
「お嬢さん!俺と結婚、いや、付き合ってくれー!」
わいわいガヤガヤと街中に一日中大きく声が響き、彼らの祝いはまだまだ終わらないだろう。
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タクトとイザナミは討伐クエストを受け続け、ほぼ無傷で達成していき、どんどんと冒険者ランクや経験値などが上がり続けいくこと半年が過ぎた。
タクトたちを知らぬ者はこの街はおろか、この世界『イザナギ』の冒険者たちにはいないだろう。
それもそのはず、僅か半年で二人とも冒険者ランクSSというとんでもない偉業を成し遂げたのだ。
この冒険者ランクSSはその気になれば世界の半分くらいは消滅できるだろうという強さを示しており、過去で五人いるかいないかというのだ。
その上、SSSレベルは大魔王討伐推奨ランクがあり、そのランクに達した者はいないというのだ。
話はそれたが、タクトやイザナミの功績のおかげで自分が住んでいる街や他の街が充分に発達しており、毎日がお祭り騒ぎとなるほどの景気となっていた。
彼らは時には討伐クエスト、時には採取、時には子供のお世話、時には壊れた橋の修理、時には街の大掃除などなど小さなクエストから大きなクエストまで幅広く受けてくれるのだから街の皆からは、大きな声援と感謝がいつも送られていた。そんな彼らのことを街や他の国々はこう呼んだという。
『万事屋の双英雄』
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そこには黒を基調とした大きな屋敷があった。
一部屋三人は寝て泊まれるであろうという広さがあり、そんな部屋が多数存在していた。
そんな屋敷の主、タクトはニコニコとした表情を浮かべ、もっとも豪華な部屋でのんびりしていた。
屋根には大きなシャンデリア、壁には数百万ゴールドもするという絵画や壺が数点存在しており、壁には真っ赤で綺麗な絨毯が敷き詰められていた。
「うはははっ!たったの半年でこんなにうまくいくと思わないなぁ!な?イザナミ!」
「・・・そうね」
タクトの横で無愛想に佇んでいた色を基調としたメイド服を着たイザナミがそっぽを向く。何故イザナミがそんな恰好を着ているのかというと、タクトの趣味だから、だそうだ。
しかし、タクトのやりたいことがますます分からないイザナミは心ここあらずといった表情で、これまでなんだかんだでタクトについてきたのだが、やはりまだタクトのことが理解できないでいた。
「お!そうだ!そういえばまだやりたいことあったんだ!」
「・・・今度はなに?」
「ハーレムだよ!ハーレム!やっぱりハーレムがいいと思うんだよ!そういえば、奴隷制度もあっただろ?片っ端から買おうぜ!特に美少女!幼女でも可!」
タクトのやりことは魔王討伐ではなかったのかと幻滅するイザナミ。彼ならば、魔王を数撃攻撃するだけで葬り去ることができるだろうが、でもその魔王討伐のことをすっかり忘れていそうな雰囲気だ。
「よし!そうと決まれば奴隷を扱っている店いこうぜー!」
ウキウキ気分のタクトに嫌気が差すイザナミ。本来ならばその奴隷制度を壊すのがタクトだというのに、それを利用するかのように女の子を買うというのだ。
「・・・そういえば、街の南にある大きな屋敷があってそこに奴隷がいっぱい居るんだって」
「よし、それじゃそこ行こう!」
タクトは待ちきれないばかりと屋敷を出ていき、走り出していく。イザナミはおぼつかない足取りでタクトについて行った。
「ーー本当に楽しいの?それで、本当にーー」
ポツリとイザナミは言葉をこぼし、奴隷の店へと向かい、『ヴァージン』と呼ばれる小汚い金持ちの貴族やその跡取り息子がよく利用する奴隷を売る店に着いた。
その店には、やせ細った男やまだ幼い子供、屈強なムキムキなおじさん、どこかのお嬢様らしき可愛い女の子や、頭やお尻に動物の一部のモノが生えている者ーーすなわち獣人と呼ばれる種族もいた。
そんな彼らの服装はボロボロの白い服で、とある女性は恥ずかしい場所が破けており、それを必死に隠していたり、そもそも服すら存在しない女性もいたり、後ろ手で拘束されていて恥ずかしい恰好を隠せない女性がいたりと大多数である。
そんな彼女らは汚い貴族らに買われーー否、飼われて、ありとあらゆる辱めを受け、その辺に棄て、また違う主人へと飼われまた棄てられーーといった最悪スパイラルに陥っていた。
そんな奴隷の店に入ったタクトとイザナミは奴隷たちを一度チラリと眺め、こう言い放った。
「ここにいる女を全て買う」
タクトの財力ならばそれくらいは容易い。それも男も全て買うとしても財力はあり余る。なのにーー
「・・・なんで男を無視するの?」
タクトの望みは分からなくもない。女の子に興味を持つ歳なのだから間違いはない。だけど、皆を助けることだって出来るはずなのに。
「おーい!店主ー!聞こえねぇのかぁ?女を全部だ!」
「は、はひっ!た、ただいまぁ!」
黒服を着た店員らしき人物はせっせと女たちをタクトへと導き、会計を済ませていく。
「それじゃ、この冒険者カードで」
「ふ、ふむ、確かに承りました。して、彼女らに服を与えますか?そちらに対しては無料なので」
「おう、悪いな。適当に見繕ってくれや」
「かしこまりました」
彼らの取引に物欲しそうに男の奴隷たちは見つめていた。そして、とある男奴隷は涙を流しながらタクトへと近づいてきた。
「な、なぁ、お、俺も、か、買って、く、くれねぇか?」
一人の男奴隷が交渉したら他の奴隷たちも大騒ぎした。俺を買え、俺の方が得だ、何でもするから買え、様々な意見をタクトは聞いたのだが、非常に冷たい目で、冷たい声で
「は?買う訳ないじゃん。ハーレムじゃなくなるし」
まるで人を人じゃないように接していた。その目は光りを失い、闇を感じさせていた。以前の初クエストを受けた爛々とした目は、初のモンスター退治した目は、嘘だったのか?偽りだったのか?演技だったのか?どれからが本当でどれからが嘘だったのか?今の彼が本当の彼だったのか?
イザナミの心はグサリと刃物で刺されたような気がしていた。
「じゃ、僕がいっぱい可愛いがってあげる。本当の幸せをあげる。もちろん、イザナミにも、ね。」
タクトはイザナミにウインクした。
恐怖、恐怖、恐怖、恐怖。今、イザナミは恐怖した。今、彼はこれから何をするのだろう?何を、何を
ーー彼女らに何をするつもりなのだろう??
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は流れ、奴隷大量購入から二週間が経った。
タクトは奴隷となった彼女らに自らのことをご主人さまと呼べと言い、夜になれば一日ごとに一人か二人女の子を選び、一つとなっていく。
女が何度も、幾度も、一つになっていた。彼女らが泣こうが、騒ごうが、嫌いだと言われようが、抵抗しようが、一つとなり続けていた。そんな彼は大きく変わった。タクトと呼べる彼は居なくなった。今の彼は人の皮を被った悪魔へと変貌していた。もちろん、姿形はそのままではあるがーーそれでも、悪魔へと変貌した。
「今日は犬耳の女の子と狐耳の女の子とのモフモフプレイかなぁー?あははは」
今日も女を選別するかのように、まるで今日の夕食の献立を考えるかのように、彼は女を道具ーー否、それ以下のように扱っていた。
「あ、今日の掃除組はB班かぁ。そうだイザナミ、彼女らを監視しててね?放っておくとサボるからさぁ?あ、そうそう、掃除する制服がちょっと変わったけど気にしないでね?」
「・・・了解」
掃除するのに制服が必要なのか?確かに掃除するには動きやすい格好がいいのだが、何故だか胸騒ぎがする。彼のことだ、きっとなにか悪魔的な制服なのであろう。
そう危惧するイザナミは部屋を出て、辺りを見渡すーーが、思いもしない光景を目にした。
「なっ!!!」
彼女は透明の服を着て自ら水を被りあらゆる場所を自らの身体で拭いていたーー否、押しつけていた。
彼女らはとても掃除中とは思えない表情を浮かべ、はしたない声をあげ、その透明の制服は必要とされないほど彼女らの恥ずかしい身体全体像が浮かびあがっていた。
「悪魔め・・・」
ギリッと歯を噛みしめるイザナミ。彼女の怒りは頂点に達した。
彼女は黄泉の世界の力でタクトの力をこっそり消し去った。彼が悪魔になる前にイザナミと黄泉の世界の力で消失可能であったが、もしかしたら元の彼に戻るだろう、とどこか楽観的になってしまったそんな自分が悔しい、腹立たしい、憎い、恨めしい、だけど、そんな気持ちはそこまで。
ーーーーだって、今日が何もかもが終わりなのだから。
ドカン、ドカンとタクトと黒くて大きな屋敷は大爆発していく。もちろん、奴隷たちは安全な場所へ、絶対にまた奴隷へとならない世界へとイザナミが連れて行ったのだ。そして、その屋敷の主は自室で小便を垂らし、腰を抜かしていた。
「ひ、ひぃぃぃー!お、おい!だ、誰か!ぼ、僕を助けろぉー!」
今の彼はただの無力の少年。
ただ泣きわめく少年。
誰かが手助けしなければ助からない少年。
英雄だと言われた少年がただただ泣いていた。
「イザナミぃぃぃ!助けろぉぉー!!」
彼は周りに助けを求めるが、そんな者は存在しない。
女奴隷に構って他に兵士や執事なんか雇っていないのだからーー
「ちくしょーぉぉぉおおお!!」
一つの屋敷がなくなった。
だけど、たくさんの女の子たちは救われた。
一つの子供の命がなくなった。
だけど、いくつもの心が救われた。
「キミじゃあ、この世界の主人公になれなかったねぇ・・・ま、もともとそんなものだろうと思ったけど」
結局、彼や彼と同じ願いを持つ異世界転生物語なんてこんなモノなのだろう。彼らは主人公でも、悪役でも、モブでも、その辺の雑草や石ころにも値しない。ただの物語の中に書いてある落書きにすぎないのだから。
「ざまぁみろ、かな?」
イザナミは今まで過ごしてきた一番の綺麗な表情で笑い、黄泉の世界へと消えていった。
後味悪い感じになりましたが、神様目線の転生物語を書きたいと思っていましたので後悔はないです。