イザナミは今回の話に関わりません。
ここは黄泉の世界。
生物の灯火が消えた時、魂のみとなってやってくる世界。そこは天国や地獄などへ導くための世界だ。
その世界の主、イザナミはただ退屈していた。
いつもならば魂がズラリと長蛇の列を作って終わらない仕事を永遠とこなしていくのであったのだが、現在は一つとして魂がなかったのだ。
「久しぶりだなぁ、こんなこと」
頬杖をつき退屈そうに深く溜息していた。
確かに仕事は大変で愚痴を言いながらもこなしていたが、いざそれが無くなってしまうとなんだか胸にポッカリと穴が空いた気分になっていた。
暇つぶしとしては、どこか適当な世界に転生したり、誰かの人生を見守ったり、現世へと遊びに行ったりとするイザナミだが、今回は誰かの人生を見守ることに決めた。イザナミは懐から手の平サイズの水晶を取り出し、水晶からプロジェクターのような光を発光させ六十インチほどの画面を映し出した。
画面には十五~六歳の男子高校生らしき人物が映っており、イザナミはそんな彼を見守ることにしたのだ。
「ま、いいかぁ~この子で。ランダム制だし、適当でいいかな?」
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春爛漫、桜がヒラヒラと舞い散るこの季節、めでたくオレは、とある県立高校へと入学することが出来てクラス編入の際、数人オレの知りあいの友達が同じクラスだということを知ったのを喜んでいた。
中学時代では経験できないことがこの高校にて経験できることを事前に知っているオレはその経験に期待しつつ、高校生活をバラ色にしようと決心したのはいいのだが、その数日後、信じられないことを聞いてしまうのだ。
「知っているか?この学校に世間を騒がしている番長っていうのが入学しているらしいぜ」
情報通の友人がオレやクラスメイトに伝えまくっている。
「なんでも、直接手を下さず相手を粉砕しているらしいぜ」
その不良の噂は広まり、この高校に通っている生徒ではその不良を知らない者がいないと言われる程になっていた。
「その番長は無遅刻無欠席で学校にくるんだと。しかも番長と言われた中学一年生からだってさ」
「真面目な番長だなぁ」
生徒たちの話題はそれでもちっきり。もはや、流行である。
「なんでも、見た目はゴリラだとか、鬼みたいな形相とか、いろいろ説があるらしいけどな」
「そうそう。でも、この学校にいるから実際に会えるだろ?」
「でも、目ぇつけられたら殺されるかも・・・」
そんなこんな番長の話は絶えず、生徒たちは番長の存在に恐怖していた一週間が過ぎたある日の事、オレは何か部活動に入ろうといろんな部活動の見学をしていたが、特にめぼしい部活動がなかったのを気にして、帰ろうとしていた。
「ねぇねぇ、少しくらいいいじゃん」
「そうだよ、つき合えよ」
ある一人の女子生徒が複数の男に絡まれていた。どうやら、ナンパらしい。
「ふぇぇ」
その女子生徒はとても背が小さく、泣く声もどこか子供らしさを残しつつ、髪はサラサラのウェーブのかかった黒髪の外見。高校生というより、まだ中学生にもなっていないだろうという姿であった。
「た、助けてぇ」
助けを求めるその女子生徒。すると、その絡んだ男たちはバタりと倒れた。
「!!?に、逃げろーっ、逃げるんだよぅー」
その女子生徒はとっさに逃げた。その状況を飲み込めないオレもとっさにその場を去ったのだ。その翌日、またも学校中に噂が流れていた。その内容はやはり番長のことらしい。
「おい、聞いたかよ!また番長がやってくれたぜ!」
友達が興奮するようにオレに報告してくれる。
「複数の屈強な男たちを瞬殺!しかも、直接手を下さずだぜ!」
「何か弱みでも握っていたからじゃないの?」
「違うらしいって!番長はそんな卑怯な手を使わないていうのも有名は話だぜ!」
番長の話は最早、学校はおろか、この街全体まで知られていて、不良の間では番長のことをこう呼んでいるらしい。
『最凶最悪の番長』
オレは少しその番長という者が気になりだし、学校を探してみることにしたが、友人は必死に止める。
「やめろって!シバかれるぞ!」
「そんなに手を出すのか?いつも手を出さないってお前言ってたじゃん」
「確かにそうだけど、何かあってからじゃ遅いんだって!」
「こっちが敵意を出さなかったらいいだけの話じゃないか」
「で、でもっ!」
「いいからいいから」
友人の必死の説得を耳に流しつつ、学校中を徘徊し番長らしき人物を探し回ったが、結局見つけられず、その翌日も探し回ったが番長と呼べるオーラを出している人物は見受けられなかったのだ。
そこで、聞き込み調査をして番長は誰かと問い出すと、誰しもが『番長』と聞いた途端、青ざめて逃げ出すので聞き込み調査をしても結局見つけられないオレは友人に激怒した。
「おいおい、番長ってのは本当にこの学校にいるのか?あ?こら」
「こえーよ、そんな口調やめろよ。あ、それよりも本当にこの学校にいるんだって。信じてよ」
「じゃあ、見た目は?」
「うっ・・・知らないよ」
「はぁ、知らないよ、じゃないぞ。なんでそんなもんにビビっているんだ?」
「だって番長と言われる程だからとても強いイメージしか沸かないじゃん?だから、目をつけられないように静かに暮らしたい訳だし」
オレたちはどうする事もできず、二人同時にため息を吐いたのであった。
「やぁ、どうしたんだい?何か悩みがあるのかい?」
そんなオレたちを懸念したのか、オレたちのクラスの委員長が現れた。ちなみに性別は女だ。うむ、これは重要だ。
「よろしければワタシが悩みを解決してあげよう」
「う、でも・・・」
オレは女の子に危ない橋を渡らせたくない。いくら頼りになる人でもだ。
「まぁ、言いたくないのなら、ワタシが当ててやろう。番長という者についてだろう?」
この委員長は超能力なのだろうか?オレたちは驚きのあまり、口を開けてぽかんとしていた。
「くすくす。ま、そんなことだろうと思っていたよ。この学校の人気者だしね」
確かに人気者だろうが、番長と呼ばれているからには常に恐られているのもまた事実なわけだ。
「さて、ワタシが番長の正体を推理しよう。直接見たわけでもないから推理しかないわけだが」
「ああ、頼む」
委員長は、こほんと咳払いしてキリッと顔を引き締めるのだが、顔が美人なのでドキリと、ときめいたのは内緒だ。
「番長はこの学校に入学したばかりと聞いたからまず一年生なのは間違いない。これは分かっているね」
「ああ、そうだな」
「それで番長と呼ばているから何らかの事件を起こしている。まぁ、男を倒したとかそんなところだな」
「うん!実際、その噂しか聞かないぜ!」
オレや友人は委員長の話に相づちをうちながら番長の存在を再確認していく。
「でだ。そんなことしてたら停学なり謹慎処分なり何らかの処罰が下る筈だ」
「うんうん」
「でも、最近の一年生の中でそんな処罰を受けた生徒の話を聞いたかい?」
オレたちは必死に思いだそうとするが記憶にない。
「そう、そこが重要なんだよ。処罰を受けずにどうどうと番長の座を欲しいままにしているのさ」
「しかし、何故そんな番長のことをオレたちは知らないんだ?かなり有名な筈なのに」
「くすくす。それについてはお手上げだよ」
委員長は、やれやれといった表情を浮かべ肩を上げて困っていた。
「でもね、番長は少なくても空手や柔道などの武道系の部活動に入っていないのは確かだよ」
「何故だ?」
「分からないのかい?番長は手を出さずに相手を倒すんだよ?仮に武道系の部活動に入っているのであれば、それらの中で何らかの技で倒している筈だよ」
「な、納得・・・」
「続いて運動部でもないと思うよ。こんなに騒ぎになったから試合に出れなくなると思うんだ。ま、本人のやる気の問題でどうこうできると思うけど」
「つまり、運動部に入っているが、別に試合に出たくはないから出来るわけだと?」
「うん。しかし、そんなことしても何のメリットもないし、そんなやる気の無い人が運動部には入らないだろう。よって、番長は文化系の部活動もしくはどの部活動も入っていない、となるね」
委員長の話に、思いっきり『なるほど』と感嘆の声を上げてしまったオレたち。委員長は少なくてもオレたちよりも頭がとても優秀らしい。
「おっと、長話してしまったかな?くすくす、すまないね。長話は女の子が大好きなんだよ」
「いやいや、すごく勉強になったよ。まだ話を聞きたい」
「オレもオレも」
「くすくす。それでは、またお話でもしようか」
こほん、と咳払いをする委員長。さて、どんなことが飛び出してくるのだろうか?
「では、キミたちに質問だ。番長は男かい?女かい?」
「「!!?」」
オレたちは互いを見つめて驚きを隠せない。そういえば、番長の性別とはどっちなんだろうか?
「で、でも、番長と呼ばれているから男だろ?」
「くすくす。それは先入観というやつだ。番長といえど、男でも女でもなれる筈だ」
「ということは、番長は女かもしれないという可能性が?」
「ああ、そうだね。それと同時に男かもしれない可能性も捨てがたい」
「でも、女だったらとして、どうやって相手を倒しているんだ?」
「さあね?さすがにそれは推測できないね」
番長が女かもしれないという可能性が浮上してしまったことに驚きを隠せない。
「くすくす。今日はこれくらいに済ませておこうか。また明日、相談してくれると委員長として助かる」
「ああ、そうしておこう。な、相棒」
「いつからお前の相棒だと錯覚していた?」
今日はこれにて番長の話を終えることにしたが、今日一番気になったことがあると委員長に尋ねると快く受け入れたので、話すことにした。
「実は、その番長は委員長じゃないのか?」
「「・・・」」
オレの言葉に二人は絶句した。
しばらくすると委員長は笑いを堪えているのか、『くつくつ』と笑い声を漏らす。そして・・・
「あははははっ!面白い冗談だっ!実に面白い!あはははっ」
目に涙をこぼす程笑っていた。そんなに笑うな、真剣だったぞ。
「ははっ。それで、何故ワタシが番長だと?」
「オレたちに先ほどの話をしていたからこそだ」
「なるほど?実は自分の事なのに、さも第三者がやったように語って、犯人像をその第三者になすりつけた、と考えたのかい?」
「ああ、その通りだ」
「くすくす。でも残念ながらワタシが番長なのかという質問はYESともNOとも言えないな」
「何故だ?」
「仮にワタシが番長ではないと宣言してもその証拠はない。その逆も然りだよ」
「ふふふ。確かにな」
「満足してもらってなりよりだ」
委員長は口元に手を添えて柔軟に笑い満足そうな表情を浮かべていた。
「さて、本当に今日はこれくらいにしておこう。では、また明日」
委員長はオレたちに手を振り、同じクラスメイトの数人の女子の輪の中に入って雑談を交わしていくのを横目で眺めながら、オレは友人と落ち着くようにため息をそっと吐いた。
「なぁ、相棒」
友人がどこか弱々しい声でオレに語りかけた。何事かと聞いたら
「今更だけど委員長ってさ、すごく個性的な喋り方するのな」
本当に今更だな、と答えた。
「でもさ、俺よ・・・ああいうの、クール系って言うんだっけ?ぶっちゃけ好みのドスライクの女の子だけど、俺おかしいかな?」
キリッと真剣な目で想いをビシッとオレに伝えるが、それは本人に言うべきではないのだろうか?
たが、これだけは言っておこう。
「安心しろ、オレも好みだ。そして、男は皆バカだ!」
オレと友人はガシッと固い握手して、絆が少し深まったのを感じたのだった。