ハリー・ポッターは諦めている   作:諒介

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CHAPTER3-3

 初めての魔法薬学の授業の後、ネビルは完全にスネイプを恐怖の権化か何かだと思ってしまっていたし、ロン、シェーマス、ディーンのスネイプ嫌い、いやスリザリン嫌いは加速した。彼らがあんな贔屓おかしいよ!と息巻いている間も、ずっとスネイプに対して何かしてしまったのかと自分のここまでの行動を反芻していた。 

 

「まだ気にしているのかい、ハリー。」

 

 講堂で朝食のベイクドビーンズをフォークでつつきながらディーンが話しかけてきた。

 周りの生徒たちもにぎやかに朝食をとっている。ロンとシェーマスは、水をラム酒に変えようと呪文を試そうとして爆発事故を起こしていたりするが、それももはや日常の風景だ。

 ディーンが心配してくれているのはハリーにもわかった。なので、相変わらずの困ったような苦笑いを浮かべてありがとうと伝える。ならいいんだけど、と歯切れの悪い返事をしながらディーンはしぶしぶといった風にベイクドビーンズを口に運んだ。

 

「そういえば、今日は初めての飛行訓練だね。」

 

 魔法族の子どもたちは、少なからず箒で空を飛んだ経験がある。だから、飛行訓練の初授業が近づくにつれて彼らの武勇伝を聞かされる機会も多かった。しかし、ディーンとハリーにはその経験はない。そして、魔法族の中で育ったネビルも驚くことに初めてだ、と言っていた。

 想像するだけでも箒は安定している乗り物とは思えないので、ハリーも少なからず緊張していた。でも、箒で空を飛ぶなんてとっても魔法使いっぽい。

 無事に飛べるのか、ディーンたちと不安を共有しながら話していると、毎朝の日課であるふくろう便の配達が始まり、各所でふくろうたちが生徒の前に様々な郵便物を届け始めた。

 もっともハリーのところにそれが来ることはない。まちがってもペチュニアやバーノンがふくろうなんていう突飛な手段で郵便を送ってくるとも思えないし、それ以前に彼らが何かを送ってくるなどありえないことだ。

 ドラコのところには入学以降毎日のように彼の両親が箱いっぱいのお菓子を贈っており、スリザリンでは彼が自慢げにそれを、わざとグリフィンドールまで聞こえるように大声で話しているんじゃないかと疑いたくなるほどの大声で周囲の生徒たちに話している。そしてたいてい、ハリーのことを愛してくれる両親のいないかわいそうな子だと聞こえるように貶すのだ。

 愛してくれる両親がいないことは事実ではあるが、離れた頃はまだ一歳で両親に愛された記憶すら残されていないハリーにとって、それがどのくらいかわいそうなことなのかいまいち理解できないので、ドラコの嫌味はほぼ不発に終わっていると言えた。

 確かに猫かわいがりされていた従兄弟のダドリーは愛されていると言えるだろうが、だからと言ってあそこまでぎゅうぎゅうに締め付けられたいとも思わない。まあ、うまく料理ができたときなどは褒めてほしいと思ったことがないわけではないけど。しかし、うまくやることが前提なので叱られることはあっても褒められることはなかったな、とそのたびにハリーは思うのだ。

 ネビルにも毎日彼が一緒に暮らしていたというおばあちゃんから郵便が届いてた。と言っても、彼のところに届くのはドラコの様にお菓子の詰め合わせではなく、彼が忘れてきた学用品の数々だ。しかしこの日は珍しく忘れ物ではなさそうな小さな包みがネビルに届けられた。

 まだ忘れ物あったのかなぁ、とネビルは首をかしげながら包みをびりびりと開けると、中から掌にちょうど収まるくらいのガラスの玉が現れた。

 

「それ、なんだい?」

 

 自分のところに母親が送って来たらしい手紙を受け取りながらディーンがネビルに問いかける。

 

「そっか、見たことないよね。これ、思い出し玉って言うんだ。」

 

 ネビルがそう言いながらその玉を握りしめると、中に立ち込めていた煙のようなものが赤く染まった。

 

「あら、思い出し玉ね。本で読んだわ。中の煙が赤く染まると、何か忘れているってことなんでしょう?」

 

 どこから見ていたのかハーマイオニーが、ネビルの手の中の思い出し玉を覗き込みながらいつものはきはきとしてしっかりとした口調で会話に混ざる。

 本当にハーマイオニーはなんでも知っているんだな、とハリーは感心した。自分だって結構本は読んでいるほうだけど、彼女のようにはいかない。

 

「でも、なにを忘れているのか思い出せないんだ。」

 

 ネビルは心底情けなさそうな声を出した。

 忘れているんだから思い出せなくて当然なんじゃないのか、とハリーはふと思う。

 

「せめて、ヒントでももらえればいいのにね。」

 

 だからハリーは素直にそう言った。だって煙の色が変わるだけでは思い出すきっかけにもなりそうにない。

 そりゃそうだ、とディーンも笑う。

 ハーマイオニーは、思い出し玉にそんな機能はないわと真面目に言うが、そういうことじゃないよとネビルにつっこまれている。

 

「そういえば今日の飛行訓練もスリザリンと一緒だってさ。」

 

 水をラム酒に変えようとして爆発させたせいで、顔にすすを付けたシェーマスが心底うんざりといった雰囲気で言った。

 飛行訓練、という言葉を聞いてハーマイオニーは慌てたように持っていた「クィディッチ今昔」という本を捲り始めた。

 

「兄さんたちが学校の箒は古いから変な癖があるとか言っていたよ。」

 

 シェーマスと同じようにすすのついた顔のロンも言う。

 それを聞いて、ネビルはさらに怯えたようだった。

 

「どうしよう僕、ぜったい箒から落ちる気がする。」

 

 断言できるよ、とネビルが言うと、ハーマイオニーが箒のコツならこの本に書いてあった、と様々なコツをネビルに言い聞かせ始める。ネビルはそれを聞き漏らさなければきっと箒から落ちることもないと思ったのか、食い入るようにハーマイオニーの話を聞いていた。

 ハリーもその輪に加わたほうがいいのかな、と思わなくもないが、なんとなくの勘で、今それを知ったところであまり役に立たない気がした。言ってしまえばテニスの出てくる物語をどれだけ読み込んだところでグランドスラムを達成できるわけではないのだ。

 ディーンは恐怖よりも好奇心が勝るようでロンとシェーマスが語る武勇伝のほうを聞いていた。

 特にロンの兄弟はすぐ上の双子の兄や、すでに卒業してしまった二番目の兄がグリフィンドールのクィディッチ選手ということもあり、自身も来年こそ選手になりたいと思っているらしかった。一年生は自分の箒を持ってくることを規則で禁止されているし、クィディッチに出ることも許されていない。

 スリザリンのテーブルでもドラコがロンと同じように自分が箒に乗った時の話を自慢げにしている。そして自分もクィディッチの選手になりたい、一年生が箒を持ち込めないなんておかしいと饒舌に語っていた。

 ネビルには申し訳ないが、ハリーはどちらかというとワクワクしていた。

 同級生たちとそんな話をしていれば、滅入っていた気分も向上していく。スネイプの考えていることなんて、結局自分には分からない。まだ、自分が魔法使いなんていう意味の分からない存在だから目の敵にしていたらしいペチュニアたちのほうが分かりやすいし、親がそういう態度だからサンドバックにしてもいいと考えていたダドリーはとても分かりやすい。

 グリフィンドールの生徒だからスリザリンに目を付けられるのは仕方のないことなのかもしれないけれど、だったらほかの生徒も同じくらい睨むべきだとハリーは思う。けれど、腑に落ちないのは、スネイプの最初の印象と授業の態度が随分と違っていたからだ。

 なんとなくだけど、ハリーはスネイプという人間は不正とかそういうものは嫌いそうな気がしていたのだ。しかし、生徒たちの間では贔屓教師の名前を欲しいままにしている。

 いくら考えても納得のいく答えは出そうになかったので、ハリーはこれ以上考えることを諦めた。あえて言うなら、もっと予習を頑張ろうと思ったくらいだ。あの教師は静かに授業を受けて、手順通りに薬を煎じさえすれば文句は言ってこない。それはこの前の授業で分かった。間違えなければ怒らないのはペチュニアと同じだ。

 ハリーは気持ちを切り替えて、授業の準備に動き始めたロンたちの後を追った。

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