――――夏、暑い夏。
この炎天下の中向かい合うは四人の剣士達。
若獅子タッグマッチトーナメント決勝、出そろった四人は全員が剣士。
そして全員が静の武術家。
会場の中心に位置し、会場の中でもっとも静かな空間且つ会場の中でもっとも闘気に満ちた場所。
舞台の四方にいる達人級及び会場にいる武神をはじめとする達人級はその圧倒的なまでの気当たりに少なからず影響を受けて黙っている。
まだ試合は始まっていないものの、もうすでに勝負は始まっているといっても過言ではない。
気当たりによるさぐり合い、流れの操作、敵の動きの観察、顔を合わせた瞬間から勝負は既に始まっているのだ。
そして会場の盛り上がっていた観客達も段々とこの緊迫した空気に呑まれ始め会場に段々と静けさが伝播していく………………
因みに実はもうこの戦い一人一人の戦いの相手は決まっている。
義経対綾也、由紀江対小冬。
互いが互いしか見ていないのだ、このことに気付けば素人でも分かる。
川神学園の生徒の多くは知っている。
義経が綾也との戦いに以前敗れたということを。
因縁がある、とかそんな些細な理由ではない。
義経は以前の戦いに敗れてから綾也の手ほどきを受け、更に自らも研鑽し、短い期間とはいえ多くのことを積み上げてきた。
綾也は義経にとって初めて源義経としてではなく義経個人として、一人の剣士として、何よりも一人の女の子として見てくれた初めての人間。
義経はあれから生まれて初めて源義経としてではなく義経個人のために自己を研鑽した。
初めて自らのために闘いたいと思った。
そして今日、生まれて初めて源義経としてではなくただ一人の剣士として自らの剣を振るう。
綾也は以前の戦いの後、義経に剣の手ほどきを度々してきた。
手ほどきと言っても型を教えたわけではなく、剣士としての己の考え方だったり、義経の剣士として目指す方向性に沿って剣の振り方における意識を変えただけで弟子に教えるような自らの技術を伝授していた訳ではなく、ただ単に義経があまり寄り道をしすぎないようにと修正しただけなのだ。
そして綾也は義経の剣を見る度に感じていた。
義経の成長を。
その短期間で僅かとはいえ感じ取れるほどの成長。
ただ単に義経の才能、と言ってしまえばそれだけなのかもしれない。
だが綾也の認識は違った。
綾也にただ教えられるだけでなく自らが模索し、考え、鍛錬を積んでいたのだ。
これを才能だと断じるのは違う。
この努力こそが義経の強さなのだ、と綾也は認識している。
由紀江と小冬は両者の思いを汲んでその戦いに手を出そうとしないに過ぎない。
こちらの二人も全力で戦い、勝ちに行くだろう。
だがしかしこの戦いはこの二人の戦いで決着は着かないだろう。
恐らく綾也と義経の戦いは長引かない。
どちらが勝つにせよ短期決戦で終わる。
綾也は義経の正確な実力を今は把握していない。
若獅子タッグマッチトーナメントの開催発表後義経の剣の手ほどきは一切していないからだ。
開催発表後からどれだけ成長しているか。
綾也は楽しみで仕方がない。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○
静寂に包まれた会場で司会が口を開く。
『みなさま大変お待たせしました。只今より若獅子タッグマッチトーナメント決勝戦を行います』
さっきの試合までのような歓声は起こらない。
観客一人一人が固唾を呑みこの戦いの始まりを待っている。
もはや四人の気当たりに会場が完全に呑まれているのだ。
気配が鋭く、全員がただ闘志を内に秘め回線のその瞬間を待ち気配を研ぎ澄ましていく。
まるで自身が一本の剣であるかのように。
『それでは、レディーーーーッファイッッッッッッ!!!!!』
開始を告げられるとともに綾也の気が大きく溢れ、準決勝で見せたように気が身体を包んでいる。
「御閃流奥義、『神性武装 風神』」
風を纏い、宙にわずかに浮いている。
その纏った風はまさに嵐のごとく吹き荒れている。
義経は開始とともに切り込もうとしたが綾也から放たれた風の刃に行く手を阻まれうまく切り込めない。
その横で派手な剣の打ち合いを始めた由紀江と小冬に観客は目を奪われるも二人とその他の実力者達は完全にこちらの戦いに注目していた。
そして次の瞬間観客の目は二人の方へ呼び込まれる。
「ハッ!」
義経が間合いに飛び込み綾也と打ち合いになったからだ。
綾也は義経の攻撃に対しかわすことの方が多いものの前の戦いと違い攻撃を剣で受け、防御もしている。
そして義経も以前とは違いきちんと防御しきれている。
しかし最初の十合ほどは拮抗していたもののすぐに綾也が優勢になり始める。
最初は義経の攻撃が多かったものの綾也の手数の圧倒的な多さに徐々に圧されているのだ。
「御閃流、風式初の太刀 『特攻閃爪』」
風を纏った綾也の神速の飛び込み突きを義経は勘でとっさの回避行動と防御姿勢をとり、何とか防ぐ。
圧倒的な実力差が分かる一撃。
もうこれは二度目はかわせない。そう義経には分かっていた。
しかし諦めない。負けるなら綾也の言っていたその一撃を見るまでは。
「………………ハァァァァァ!!!」
義経が一瞬の踏み込みの最速の太刀を繰り出す。
綾也はそれを回避したように見えた。
しかし、
「ッ!」
綾也の頬に赤い筋が入り、血が垂れていた。
義経の攻撃が掠っていたのだ。
そして義経が綾也に対し口を開く。
「綾也くん、義経は、負けない。綾也くんが言っていた、綾也くん自身が編み出した綾也くんの剣士としての最高の一撃、綾也くんの編み出した奥義を出されることもなく負けるなんて事は義経は、嫌だ!!」
義経のただのわがままのような発言が綾也の耳に入る。
しかしその一言だけで綾也の意志は決まった。
あの人に気を使ってばかりだった義経が剣士としての意地を見せているんだ。
……こちらも応えないとな。
「良いだろう。義経、君を俺のライバルの一人と認めて俺自身の奥義、御閃流零の太刀で応えよう」
御閃流零の太刀。
御閃流数え太刀の中で唯一型が決まっていない技。
その代の当主が己の技術を結集させ、自らの最高の一撃をそれとする正に自分のための最高の奥義。
そして綾也は刀を鞘に収める。
綾也の奥義は抜刀術。
構え、技を放ったその瞬間には……………………
「御閃流、零の太刀『零ノ太刀』」
既に技を終えている。
音も無く、抜刀時間は存在しない。だが確かに相手を切っている。
その速さを越えた究極の一撃はただ敵を屠るのみ。
その一撃を峰打ちではなった綾也は、気を失い倒れ始めた義経を抱き止めた。
会場は静まり返り、隣で闘っていた由紀江と小冬も手を止めていた。
そして司会が我に返り、告げる。
『勝者、線香花火!よって若獅子タッグマッチトーナメント優勝は線香花火ですッーーーー!!!!』
そして会場は割れるような歓声に包まれた。
……………………to be continued……⇒
第35話でした。
若獅子タッグマッチトーナメント決着です。
とりあえずは後百代戦のみです。
出し惜しみはしません。
誤字脱字、アドバイス、意見、感想ありましたらお願いします。