2016/12/21 一部誤字修正しました。
見渡す限り広がる荒れ果てた茶色の土地。狩れた草花、風化した骨々、生命の息吹の途絶えた不毛の土地。
砂煙が吹きすさぶ。その吹き方は、自然のそれにしては不自然な流れだった。
濛々と断続して立ち込める砂嵐。その発生源は、荒野を駆け抜ける一人の青年が巻き起こしていた。
駆ける。駆ける。駆ける。
一足ごとに地が削れ、一足ごとに煙が舞う。
地を這う彗星の如く疾走する青年は、内より溢れ出る闘争心を隠しもせず犬歯を剝き出しにする。
右手に携えた一振りの槍を限界まで引き絞り、驚異的な加速度を存分に乗せて突き出した。
大岩さえも容易く砕いて見せるであろうそれは、しかし重厚な金属音と共に静止してしまう。
槍の進路上にそびえ立つ黄金の金属板。数多の傷を浮かび上がらせ、それでも堅牢な砦を思わせるほどの存在感を放つ巨大な盾だった。
青年の一撃が止められた束の間、盾の内側から槍が伸び、返しの刺突が迫る。
誰が目にしてもそう読み取れる必殺の一撃。
それを呆気なく防御された青年は、しかし不敵な笑みのままに、俊足をもって一瞬で攻撃範囲から離脱してみせた。
「幾度となく打ち込めど、決して倒れるとは思えないその不屈。噂に違わぬ頑強さ、この身で味わえることに感謝しよう」
心の底から楽しそうに青年は語った。
強敵との対峙。血沸き肉躍る一戦。
英雄として大地に立つならば、これに心を震わせなくて何とする。
「神域の槍裁き、臨機応変の体術。そして謳われる俊足さ。どれ一つとっても素晴らしい一撃! 盾越しに、鍛え上げられた筋肉の重みを感じます!」
対して、フルフェイスの屈強な男も眼前の敵を称えた。
溌剌とする彼の心境を語るかのように、鉄兜の上部から噴き出す炎が一層燃焼する。
最高級の一撃を防いで尚、彼はその身を城塞としてより堅固に引き締める。
「護国の英雄ってのはまさにアンタみたいな男に相応しい呼び名だ。----レオニダス」
「彼の大英雄に称賛されるとは誉れ高い限りです。----アキレウスさん」
瞬間、青年----アキレウスの足元が爆発する。
地面が砕ける勢いでの加速をつけ、突風となってレオニダスに強襲を仕掛けた。
それをレオニダスは自身の盾で跳ね返そうと身を固め----
----直進してきた軌道が急速に捻じ曲がり、視界が追い付かないままに左から鉄槍が飛来した。
「むんぬぅッ!」
視覚外からの一撃。思考よりも反射の行動で、レオニダスは盾を薙ぎ払った。
再び金属音が響く。
盾の向こう側から覗くアキレウスの表情は、ますます嬉しそうに輝いていた。
「これほどの俊足さも去ることながら、豹よりも柔軟な足捌きによる軌道修正力。筋肉だけではそれを会得できないことが誠にもどかしい……!」
「肉体だけで到達できるほど、
槍を引き、盾を蹴り飛ばして離脱する。
その流れのまま一瞬で肉薄。距離をとったと思った瞬間に至近距離まで詰め寄り、右側から槍を横薙いだ。
「ふんッ!」
認識阻害さえ引き起こす速さからの一撃を、レオニダスは手にした槍で迎え撃つ。薙ぎ払われる槍を己の槍で上に払い、盾のバッシュで追撃する。
重心をずらしてアキレウスはそれを躱し、バッシュによって僅かに開いた隙間を縫って蹴りを捻じ込む。
これにレオニダスは膝を蹴りあげて対応。アキレウスの蹴撃は向きを変えられ、屈強な横腹を掠める程度で終わった。
「隙ありです!」
片足立ちとなったアキレウスへ、レオニダスのバッシュが再度繰り出される。
アキレウスの表情は、それでも揺るがない。
「隙なしだ!」
つま先に力を込め、片足立ちのままアキレウスが跳躍した。
押し寄せる盾を軽々と飛び越え、そのままレオニダスの頭上をも通過する。
曲芸染みた一っ跳び。しかしそれは、バッシュのために盾を前に突き出していたレオニダスにとって致命的な一手。
背後に回られるだけならば盾を薙ぎ払って対処できる。だが、その盾は今前面に伸びきったため次の動作に移るまで一瞬のタイムラグが生まれてしまう。槍ではそもそも防御に向かず、死角からの一撃とあってはさらに不得手となってしまう。
そして何より、戦闘において生まれるその僅かな一瞬を、俊足の英雄が見逃す道理はない。
「もらったッ!」
背中に回り、一息も与えない突き。回避する暇も残さない。
防御面における全てが手を出せない背後の刺突。吸い込まれるように、鏃はレオニダスの背中へ伸びていく。
「まだまだぁッ!」
雄たけびが上がった。
盾では間に合わず、槍では防ぎきれず、回避する時間もない。
ならば、とレオニダスは真紅のマントを握りしめて勢いよく一回転した。
寸前まで背部に迫っていた槍は、そのままレオニダスのマントの回転に巻き込まれて絡めとられてしまう。
「おおッ!?」
槍を握っていたアキレウスも流れに引き寄せられてしまい、僅かによろけてしまった。
槍の回収はすぐさま諦め、槍から手放して態勢を立て直そうと地面を蹴る。
その直前、真横から巨大な金属板が唸りをあげて振るわれていた。
「ぬぅええぁッ!」
レオニダス自身が一回転したことにより、バッシュで前に伸ばされていた盾も回転する。
つまり、盾自体が硬質性の裏拳となってアキレウスに牙を向いたのだ。
「--ッ!」
自慢の足をもっても離脱は間に合わないと判断し、救い上げるような旋風脚で盾の軌道を強引に逸らす。
空気を震わせる豪快なスイングは若草のような毛髪を数本削るだけとなった。
だが、波に乗ったレオニダスの猛攻はさらに加速していく。
「どっせいッ!」
高重量の盾が勢いよく回転したことにより遠心力が発生する。
生まれた遠心力をこれ幸いと力に変え、続けざまにそれを全て乗せたチャージを繰り出したのだ。
盾の一撃を払うために再び片足立ちとなったアキレウスに渾身の突進が迫りくる。はち切れんばかりの筋肉が生み出す脚力に盾からの遠心力が上乗せされたタックルは、瞬間的な速度ではバッシュよりも遥かに重く、速い。
跳躍を選択肢から切り離し、即座に両腕を交差させて防御態勢に移る。ほぼ同時に、筋肉弾丸が交差した両腕に激突した。
「ぐおッ!」
「ぬうん!」
迫力に違わぬ一撃。ギリシャの戦場を駆け抜けた五体が骨まで痺れる衝撃。
吹っ飛びそうになる身体をアンカーのように降ろした両足で無理やり引き戻す。
木の葉のようにひらひらと舞うことなど、英雄の威信にかけて見せるわけにはいかない。
「うらあッ!」
鼻息が頬に当たるほど縮まったレオニダスの頭部へ頭突きで反撃する。
サーヴァントとなって硬質化した鉄兜越しで尚、レオニダスの視界が鈍痛と共にブレた。
「どぅあ!?」
「いくぞオラァ!」
額から血を流していることなどおくびも気にせずアキレウスが左の一撃を脇腹へ叩き込んだ。
鋼鉄の鎧のさらに下に仕込まれる筋肉という鋼の肉体。二重の防壁をアキレウスの拳は容易に貫き、内臓にまで轟く一撃がレオニダスを襲った。
苦悶によろけるレオニダス。アキレウスは連続して右ストレートを鼻先へ叩き込もうと右腕を振りぬいた。
「ふんんむッ!」
ぐらつく視界のまま負けじとレオニダスも頭突きで迎撃する。鋼鉄の硬さを貫く一撃が頭を襲うが、頭部の最も硬い箇所を鋼鉄越しに殴りつけたアキレウスも顔を歪める結果となる。
この距離で槍は具合が悪いと投げ捨て、丸太のような剛腕でアキレウスの腹部を殴打し返した。
あまりの威力にアキレウスの身体が宙に浮く。素手の攻撃でも威力が落ちていない。いや、もしかすれば素手の方が身体に重く残る一撃かもしれない。
胃の中のものが混ぜ繰り返される感覚。逆流する胃液。それらを声と共に飲み込み、鋭角なボディブローをレオニダスの腹部へめり込ませた。
同様の感覚がレオニダスの全身にも駆け巡ったのだろう。しかし筋肉が稼働し、脳を揺さぶる破壊的な剛腕がアキレウスの左頬を打ちのめす。
殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、頭突き、頭突かれ----。
気付けば、筋肉で筋肉を洗う英雄同士のプロレスが始まっていた。
互いに一歩も引かず、武器も盾も持たず、躱すのではなく受けきり、返しの一撃で返礼する。
血と汗が飛び交い、獣よりも獰猛な咆哮が両者の口から発せられる。
「オラアアアアアアアーーーーッ!!」
「でええああああああーーーーッ!!」
全てを込めた右。英雄として、男としての誇りをかけた最大の一撃。
ギリシャの大英雄とスパルタの大英雄。
生まれも育ちも何もかも違う二人が、拳という共通会話によってより深く相手のことを理解していく。
そして、同時に負けられないという男の意地がより一層激しく燃え上がっていった。
全力を振り絞った拳。
それは互いの思いを象徴するかのようにぶつかり、擦れ----。
----メキリと音を立てて両者の頬に突き立った。
『設定時間終了。仮想空間「荒野」解除。対象者存在認識完了。システム、オールクリア。シミュレータシステムを終了します』
突如として機械的な音声が場違いに鳴り響く。
その直後、荒れはてた野地は一瞬にして消滅。代わりに出現した----いや、復元されたのは、全面真っ白な材質で形造られた長方形の広大な部屋だった。
「そこまで! 双方共に健在。地に倒れる回数----双方ゼロ! 浴びせた攻撃の数----わからん! とにかくこの手合わせ、引き分けッ!」
よく響く声でシミュレータルームに入ってきたのは片手に巨大なドリルの剣を担いだ偉丈夫----フェルグス・マック・ロイ。
豪快な笑い声をあげるフェルグスの言葉と同時に、拳を突き出して固まっていた二人はふらつきながら距離を離す。
「ぶふう……。実に心地よい一撃でした。これほどの重く速い拳、流石はアキレウぐふっ」
「へ、へへ……。ヘクトールのオッサンよりもよっぽど俺好みの男だぜアンタ。やっぱ闘いってのはこうでなくっちゃな……」
おぼつかない足取りながらもフェルグスと合流する二人。その道中、アキレウスは
「いえいえ。アキレウスさんの
足の速さに加えてアキレウスをギリシャの大英雄に押し上げたもう一つの要因が、彼の母である女神テティスの寵愛による不死身の身体----
この宝具によりアキレウスは神性を帯びた攻撃以外では傷一つ負うことのない肉体を獲得している。
唯一、攻撃が通る部分としてアキレス腱の名の通り踵があるが、
全てにおいて「平等」を強いられることとなるこの宝具の結界の中では、アキレウス自身も神性を持たない攻撃で傷ついてしまう。しかし、そんなデメリットは英雄の鑑と称されるアキレウスにとって些細なものでしかない。
というより、こういう効果を持つ宝具を所持している時点で本人の気質が伺える。
「実戦ならともかく、せっかくの特訓に水差すようなもの持ち込みたくなかっただけさ。アンタとは正々堂々サシで闘り合いたいって思ってたしな。いつか、これを使わなくても俺の身体を貫いてくると信じてるぜ」
「そんでもって、本当ならば時間も何もかも止まるという宝具をあの魔女に頼んでここのシミュレータと繋げるとはな。なんと豪快な男よ! おかげでお前たちの熱き闘い、モニターを通してこのフェルグスがしかと見届けた。次は俺ともやらないか?」
「勿論だ。竜殺しジークフリート、施しの英雄カルナに授かりの英雄アルジュナ。狂戦士ベオウルフ、極東のサムライ佐々木小次郎。英雄王ギルガメッシュ……はどうも別人と聞いていたが。そして此度交えたスパルタ王レオニダス。皆、素晴らしき英傑だった。あのヘラクレスや呂布奉先がバーサーカーとして召喚されているのが実に口惜しい……」
列挙された名はいずれも大英雄と呼ばれるに相応しいサーヴァント達。彼ら一人で並のサーヴァント三人分の実力は兼ね備えている正真正銘の最強格の英霊。
一人農民がいるのはきっと気のせいだ。
「アルスターの大英雄クー・フーリン。まして、その剣術の師匠フェルグス・マック・ロイともなれば相手にとって不足なし! ああ、借りてた特訓用の槍も拾わねえと」
「私も此度の闘いは良い経験になりました! もっともっと筋肉を鍛えなくては……。そうだ! これより三十分後、スパルタクスさんや金時さん達、そしてカルデアスタッフの方々と一緒にトレーニングを行う予定なのですが、よければお二人もご一緒にどうでしょうッッ!」
「いいねえ。三十分後と言わずに今すぐやりにいかないか?」
「なりません! 優れた筋肉は優れた肉体に宿るもの。そして優れた肉体はしっかりとした休息を兼ね備えてこそ生まれるもの! 私の計算では、これより十五分は身体を休めなくては質の良い筋肉はつきません」
「残りの十五分は?」
「もちろん、準備運動をかねての走り込みですッ!」
「ガッハッハッハッハ! そいつはいいことを聞いた、杖持った方のクー・フーリンにでも聞かせてやろう。ところでレオニダス。盾を投げ捨てて殴り合いを始めた時は驚いたぞ。あれほど槍を捨てても盾は捨てるなと唄っていたろう」
「本来の戦場であれば無論。ですが、手合わせとはいえ今回は漢の闘いッ! であれば、守るのではなくぶつけるものがあったということです」
「ホントに最高だなアンタは! ヘクトールのオッサンにタコできるくらい聞かせてやりたい台詞だ!」
肩を組み、高らかに笑いながらシミュレータルームを去っていく男三人衆。
流した汗と交わした拳の分だけ深まる英雄の輪。着実と広がる筋肉の包囲網。
人理焼却が終わる時、果たしてマスターは筋肉包囲網から逃げ切ることができるのだろうか----。
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クラス:ライダー
真名 :アキレウス
キャラクター紹介
ヘラクレスと肩を並べるギリシャの大英雄。
「駿足のアキレウス」の名の通りの俊足、そして母である女神テティスの寵愛により不死身の肉体を持つ。
トロイア戦争においてアカイア側を勝利へと導いた。
しかし、友人を殺したヘクトールの遺体を引きずり回したことで彼の弟パリスに踵と心臓を弓で射抜かれた。
パラメーター
筋力:B+
耐久:A
敏捷:A+
魔力:C
幸運:D
宝具:A+
小見出しマテリアル
良くも悪くも英雄らしい性格なので好き嫌いがはっきり分かれている。
英雄気質の強いサーヴァントとはだいたい相性がいい。逆に反英雄気質のサーヴァントとは気が合うことはないだろう。
特に酒呑童子や茨木童子といった「人間の敵」とは馴れ合うことはない。メドゥーサ、ゴルゴーンは複雑な事情なので何とも言えない。
文化人系サーヴァントともそりが合うことは難しい。マスターを戦わせて自分は部屋でピザ食べてたりする作家なんかは喝をいれたくなる。
英雄色を好む。なので結構女性サーヴァントや女性スタッフにコナをかけにいったり。
そして婦長や愛が重い(物理)などにちょっかいかけてひどい目にあったり。俊足の足に追いつく婦長マジ婦長。
マルタ「聖女の私にも決闘申し込まれたのですが」
タラスク「姐さんなら仕方ない」
ケツァル「OH!私もやりたいデース!」
みんなもレオニダス、育てよう!