Fate/Sword Act Overture   作:黒歴史

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拙いです。


序章

ーーーこの洞窟に来てから二時間弱が過ぎた。

 

近くに見えた無骨な大岩を見つけると俺はそこに腰を下ろす。辺りはまるで常人ならば黒いインクを塗りたくったような絵を見ていると錯覚するほどの暗闇。ここは冥界や異世界に繋がっている…なんて言われたら信じてしまいそうになる。

 

そこまで考えたところで俺は思わず乾いた失笑を浮かべた。異世界、か。まさにその通りだ。あの日以来、自分は異世界に引きずり込まれたのだ。…だからなんだ?

 

ーーーそろそろ帰るか。

 

頭に浮かんだ有象無象を拭うに左手を振ると、紫がかった半透明のパネルが現れる。辺りをほんのり照らすウィンドウの中から青い結晶を取り出す。もったいないがまぁいいか、と考えながら呟く。

 

「転移、アルゲーーー」

 

言いかけた時、ソレは現れた。

 

視界の隅に捉えた迫る鈍色の刃を身を捻って回避する。その勢いのまま距離を離すと同時にソレを見つめる。

 

暗闇を妖しく照らす光を帯びた大剣を振り下ろしたのは何処かの学校にありそうな人体模型の骸骨だった。ただし、本来なら空虚と化している筈の両目には赤黒い光が灯っていて、体には黒鋼の鎧を身に着けている。そして、本来なら声帯も舌もない口から耳をつんざく奇声をあげていた。

 

「マッドネススケルトンナイト…。どうせならロードが良かったな。」

 

呆れたような声を出しながら、腰に差した剣の一つを抜き放つ。鉈のような形をした白い曲刀。流水の紋様を持ち、柄には太極が描かれている。

 

ー莫耶。コイツ相手ならこれで充分の筈だ。

 

相手は両手剣突進ソードスキル”アバランシュ”を発動させて間合いを一気に詰めてきた。予想通りの動き。所詮はやはり雑魚だ。

 

「ハァ!」

 

掛け声と同時に右手の剣を上段に構え、突っ込んでくる敵に向けて縦に切り裂く。

 

ズバァンという音と共に交錯した両者はしばらく静止したように立ちつくした後、骸骨が消え入るような断末魔を上げながら無数のポリゴンとなり弾けた。

 

「…今度こそ帰るか。」

 

剣を仕舞うと同時に先程の結晶を翳し、行き先を呟くと、幾許の内に体が浮遊するかのような感覚と同時に意識が真の暗闇に呑み込まれた。

 

2年前。俺はこの仮想世界SAOに取り込まれた。

 

2022年11月6日。SAO、”ソードアート・オンライン”が正式リリースが開始。初となる完全VRMMORPGという売り文句は10万台の金額を多勢に払わせるには充分過ぎたであろう。俺もその一人ーーーではない。

 

俺はその日もいつも通り学校の授業を消化し、実家から少し離れたアパートに戻り、諸々の家事を済ませてからぶらぶらしたり、趣味をしたりして寝る。このルーチンを繰り返す筈だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「疲れた…。」

 

我ながら情けない声が出た。いつもより重い足を運びながら、階段を上り終える。そのまま徐ろに古びた鍵をポケットから取り出し扉に差し込む。扉を開けた時、見慣れない四角いダンボールが玄関にあるのを見た俺は手が止まった。

 

「何だこれ。」

 

いつもの日常にはなかったその箱は何かの予感を感じさせた。よく見たら差し出し人も中身も何処にも記されていない。ますますきな臭い。唯一身内でまともに連絡している親戚の叔母からでもないようだ。

 

ーーー開けない方がいい。早く捨てよう。面倒な事になる。

 

頭では分かっているつもりが、箱に耳を当ててみたり揺すってみたりを繰り返した後、俺は結局その箱を開けた。

 

「…機械だよな?」

 

見立てでは家電製品か何かだと踏んでいたが、箱の中には発泡スチロールにすっぽり嵌った紫のヘルメットのような物が入っていた。その隣にはコードに加えて小さな説明書。

 

説明書を手に取り粗方内容を確認した俺は思わず声を上げた。

 

「SAO…ゲーム!?」

 

全くもって予想外でそんなものが何故ここにあるのか、誰が持って来たのか。一旦落ち着く為に、その箱を放置して着替えて、洗濯を回した。夏でもないのに少し汗が出ていたため、年中置いてあるが手入れはされている扇風機の電源をつけ、ベッド脇に移動させた箱を一瞥しながら呟く。

 

「…やってみるか。」

 

箱に手を伸ばし、紫の冠”ナーヴギア”とコードを手に取る。コードをコンセントに繋ぎ、ナーヴギアを被る。

 

ーーーなんか、電気椅子に座る人が被るやつみたいだ。

 

製作者に失礼だとは思ったが頭に感じる重みは慣れない。そのままベッドに倒れ込むと、目の前にバイザーが降りてきて、キャリブレーションを経た後にパソコンのホーム画面と似たウィンドウが浮き出て来た。

 

説明書通りの設定を終えた今、遂にゲーム開始可能になり後は起動させるだけとなる。

 

ーーーちょっとやるだけだ。どうせすぐ飽きるだろう。

 

そう考えながら、リンクスタート、と呟いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ユーザーネームを設定して下さい。

 

「」

 

「レン」 以上でよろしいですか?

 

ーーー完了。ようこそ、ソードアート・オンラインへ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこは最早現実と変わらぬ臨場を伴う異世界だった。見渡す限り、まさにゲームという感じの建物が目に映る。しかし、それらは画面に映るものではなく、間違いなく目の前に存在している。

 

「凄いな…。」

 

軽く辺りを見渡すと自分は街中の広場にいて、周りには大勢のプレイヤーやNPCがいる。なんとなくその場から離れて街中をぶらつく。アイテム屋、武器屋、雑貨屋などの中から使いそうな回復ポーション等を初期持ち金で買った。NPCもなんだか普通に話しているような気がして最初は一抹の不安を感じたが、人とは慣れるものだ。良くも悪くもーーー。

 

腰に差すのは曲刀の初期武器カトラス。直感で選んだが、反りがかかった刃は片手剣よりも何故か目を引いた。レンはゲームによくある”ハズレ”でないことを祈りながら足を運ばせた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

赤みを帯びた広がる草原のフィールドに出て、モンスターを狩り続けて数分。俺は粗方このゲームに順応する事が出来た。この世界の戦闘において、システムによるアシストが加わるソードスキルはコマンドのようなもので、慣れが必要だったため、俺はさっき覚えた曲刀基本技”リーバー”をフレンジーボアに当てまくった。VRとは思えない臨場感に柄にもなく熱くなったのだろうか。気づけばこの世界に入って一時間が経過しようとしていた。

 

「そろそろ止めないとな…。」

 

覚束ない右手でウィンドウを出すが、ログアウトボタンが見つからない。最近ゲームをやらないせいなのか、しばらく探してもないため、辺りを見回す。誰かに聞かざるを得ない。遠くに2つの人影が見えたのを確認したレンは近づくことにした。その2人組の一人は、赤みがかった髪をバンダナで逆立て、長身痩軀な体を革鎧のようなもので包んでいた。

 

「ぬおっ…とりゃ…!」

 

何やら奇妙な声と共に右手のカトラスをフレンジーボア相手に滅茶苦茶に振り回しているその姿は端から見ても、言い方は悪いが無様だと感じてしまった。その傍にいるもう一人は、いかにもファンタジーゲームの主人公らしい容姿をしていた。たった今猪に弾かれた若侍を笑いながら猪の突撃を剣で軽くいなしながら、アドバイスをしているようだ。

 

「…重要なのは初動のモーションだ、クライン」

 

友人とのパーティだろうかと考えたところで二人のユーザーネームが表示される。クライン、そして、キリト。

 

その時、猪と格闘していない方の男、キリトと目が合った。近づいてきたこちらを訝しげに見ている。レンは手短かに要件を終わらせた方がいいと判断し、声をかけた。

 

「スマン、ちょっといいかな?」

 

「…何だ、アンタも初心者?」

 

「そんなとこだよ…。でも教えて欲しいのはソードスキルとかじゃなくて、ログアウト…」

 

そこまで言いかけた時、猪と若侍クラインの攻防に決着が付いた。クラインの放ったソードスキル、リーバーが首にクリティカルヒットし、猪はポリゴンとなり消えた。

 

「よっしゃああ!やったぜキリト!」

 

「お疲れさん、初勝利おめでとう。…まぁ、今倒したのはスライム相当だけど。」

 

「えっ!おりゃ中ボスかなんかかと…」

 

クラインと目が合う。こちらを見つめてきたのでレンは思わず反応に窮したが、先に口を開いたのはクラインだった。

 

「ん、なんだお前さん…キリトの知り合いか?」

 

「いや、そういうわけじゃない。ただ少し教えて欲しいことがあって近くに人影が見えたから来たんだ」

 

「そうか!実は俺もキリトとは初対面なんだよな」

 

「…にしては随分仲良さそうに見えるけど」

 

「まぁ、初対面でもすぐに仲良くなれるのが俺の良いところってやつよ!えーと…レンか。よろしくな」

 

徐に差し出された手に対し、レンは一瞬どうするべきか悩み、その手を握った。自分はあまり人付き合いに対しては苦手意識も無ければ自信もない。だがこの男はおそらくリアルでもこういう人なのだろう。人の懐に入り込むのが上手い。彼の目がそれを物語っている。

 

「で、聞きたい事って?」

 

キリトがズレかけていた要件を思い出させてくれた。

 

「あーそうだ。…ログアウトってどうやるんだ?」

 

その言葉を聞いた途端、二人は困惑した顔を浮かべた。…やはり俺の機械等の苦手癖によりボタンを見つけられなかったという事だろうか。情け無い気分にレンは襲われた。

 

「…ウィンドウは開けるよな?一番下にあると思うけど…。」

 

「俺もそろそろピザの宅配が来るし、そろそろ落ちるかね…。」

 

そう言って、二人はウィンドウを慣れた手つきで動かす。二人はおそらく、ゲーマーだ。ゲームというそのものに慣れている。そんな印象を抱いたと同時に、クラインの頓狂な声が響いた。

 

「…ログアウトボタンがねぇぞ。」

 

「…ない。」

 

キリトも同様の意を発した。…ログアウト、出来ない?

 

「…なんでないんだ?」

 

「ま、こんなバグもあるだろ。今頃GMコールが殺到してるだろうなぁ。」

 

「宅配ピザは大丈夫なのか?」

 

「うおっ、そうだった!!」

 

飛び上がるクラインの姿はつい口が緩むが、俺は背中に張り付くもやついた何かを感じた。

 

「…キリト、でいいかな。ログアウトする方法は他に何かあるか?」

 

「…少なくとも説明書には特に何も書いてなかった以上、自発的にログアウトするにはボタンしかない。誰かにリアルでナーヴギアを外してもらうというのもアリだが…」

 

「そうか…つまり閉じ込められてるのと同じ、か。」

 

「閉じ込められてるって…おめぇさんちょっと物騒な言い方だぜ。」

 

「…スマン。悪い方に考えるのがクセなんだ。」

 

「いや、別に謝らなくても良いけどよ…。」

 

クラインがそこまで言った時、フィールド上、いや、この世界全てに行き渡るであろう鐘の音が鳴り始めた。

 

「なんだぁ!?体が…!」

 

「これは…転送か!でも俺達は何もしていない筈…!」

 

「転送!?つまり俺達は何処へーーーっ!」

 

訳も分からぬまま、俺を含めた3人は青い光に包まれると同時にフィールド上から姿を消した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして、始まりの街にて、空に浮かぶ巨大な赤いローブを纏う影ーーーGM、茅場晶彦がデスゲームの開始を宣言した。戸惑いを隠せない群衆の中で俺はそれを冷静に受け止めていた。…内心では焦りを抱いていない訳ではなかったが、何故だろうか。俺はこの状況を把握してすぐに考えたのは…”どうすれば良いか”。

 

答えはすぐに出た。隣で呆然とした顔を浮かべるキリトの肩を掴む。声で呼びかけるような余裕までは持ち合わせていなかった。

 

「キリト。」

 

「レン…?」

 

「お前はこの後どうする?」

 

俺の突拍子な質問に戸惑いの表情を見せたが、少しの間をおいてから答えた。

 

「…この手のゲームはプレイヤー間のリソースの奪い合いだ。だから、始まりの街に留まるより、拠点はいち早く帰るべきだ。街の周りのモンスターはすぐに乱獲で枯渇するだろうからな。」

 

「…なるほど。」

 

茅場の声が街に響く。

 

「諸君にプレゼントを送ってある。確認してみてくれたまえ。」

 

街中に鈴の音が鳴り響く。ウィンドウを開くとそこには”手鏡”と名付けられたアイテムが送られていた。流れるようにタップし、手に取ったそれを見つめる。そこにはデフォルトのままにしていた俺のPCの顔が映っていた。村人Aとかいう名前が付いていても違和感など微塵もない顔を見つめていると、周りから光が溢れんばかりに視界を塗つぶさんと視界を

 

光が消え、視界が元の色を捉えて。

 

俺は言葉を失った。

 

「お前…キリトか⁉︎」

 

「クライン…なのか…⁉︎」

 

キリトとクラインの声が遠い世界の出来事のように思えてきた。目の前にいるのは、年の割に幼いとよく叔母に言われていて、髪は少し赤みがかかった茶髪。そして。

 

「レン…お前は…ッ⁉︎」

 

キリトが此方を見て強張った表情を見せた。クラインもつられて俺を見た。

 

ーーー碧色の、俺の目を。

 

「…あんまり見ないでくれ。」

 

少し震えた声を出すとキリトとクラインは申し訳なさそうな、少し戸惑いと驚きが混じったような顔になった。

 

「ごめん、悪気はないんだ」

 

「おめぇさん…。いや、何も言わねぇよ。悪かった」

 

しまった、と思ったがここで弁明するとかえって墓穴を掘るようなものだ。早急に話を逸らそうと思い、口を開く。

 

「茅場はなんでこんな事を…いい迷惑だ」

 

悲鳴と驚嘆の声が入り乱れていて、近くにいなければ全く声が届かない。それはこの以上事態を良く示してはいるが、どこか遠い物事に見える。

 

「何故?と君達は言うだろう。この状況こそが私の理想の終着点だからだ。この”世界”を生みだすことがーーー私の最終的目標だ。そして、全ては達成せしめられた」

 

茅場の声は少しだけ人間味のようなある種の感情を感じさせた。短い間、無機質になった声が響く。

 

「以上で、正式サービスのチュートリアルを終了する。ーーー健闘を祈る」

 

真紅の巨大なローブは空へと霞みのように消えていく。天空に並ぶメッセージが音も無く消滅した時には、既にゲームは元の姿を取り戻していた。形だけは。

 

街が騒ぎに塗れて揉みくちゃになる様を見ていた俺は、キリトからある提案を受けることになった。

 

「分かった。俺はそれに乗る。」

 

俺が答えた後、クラインは断った。仲間を置いてはいけないと。

 

キリトは彼に背を向ける際に逡巡したのを俺は見逃さなかった。…見逃しておいた方が良かったかもしれない。

 

「じゃあな!キリト!レン!お前ら案外カワイイ顔してやがんな!好みだぜ!」

 

クラインも何か感じたのだろうか。キリトは苦笑しながら答える。

 

「お前もその野武士ヅラが似合ってるよ!」

 

「同感だ。」

 

二人はそのままはじまりの街を出るための道を走りだした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーーー身体は剣で出来ている。

 

始まりはいつも、この男の後ろだった。

 

ーーー血潮は鉄で、心は硝子。

 

その背中を俺は見ていた。追いかけようと足を前に出すが、一向に近づく気配がない。

 

ーーー幾たびの戦場を越えて不敗。

 

頭に響く男の声。赤い外套を纏いながら立つ目の前の男の声なのかどうかすら分からない。

 

ーーーただ一度の敗走はなく、ただ一度も理解されない。

 

その声はどこか哀愁を帯びているような、詠嘆の響きを伴う。

 

ーーー彼の者は常に一人、剣の丘で勝利に酔う。

 

世界が光を浴び、霧のように霧散し始める。

 

ーーー故に、生涯に意味はなく、

 

その男は決してこちらを振り返ることはなく、

 

ーーーその体はーーーきっと。

 

ただ、そこに立ち尽くす。

 

 

 

続く




さて、ここからどうしようか。
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