東方供杯録   作:落着

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月下の演奏家に供する二九杯目

 黄昏時も過ぎさり、辺りには暗さが落ちる。涼介は店の中の行燈に火を灯し夜間営業の準備を始める。なんだかんだと最初は吸血鬼の友人のために始めた夜間の営業。しかし、いつの間にか他の妖怪たちにも噂が広まったのか訪れる客が増えている。珍しく静かにお酒が飲める場所があって重宝するわ、とは確か幽香の言葉だったろうかと涼介が過去に想いを馳せる。背後からカランカランと扉についた鈴が鳴る。誰か来たようだと、笑みをこぼし振り返りながら出迎えようと口を開く。

 

「いらっしゃいま――」

「やあやあやあやあはじめましておはようこんにちはこんばんわリリカちゃんのお姉さんのメルラ――」

 

 

――カランカラン

――ガッ!

 

 

「失礼」

 

 振り返った先にはメルランが一人だけおり、涼介が出迎えの言葉をかけるも言い切る前に、畳み掛けるような言葉の嵐をメルランが見舞う。だが、メルランの言葉が言い切られる前に再び扉が開き、ヴァイオリンを振り上げていたルナサの一閃でメルランは意識を刈り取られる。ルナサは何事もなかったかの様な平静さで意識のないメルランの首根っこを掴み一言だけ言葉を発すると、再び扉の向こう側へと消えていった。

 

「……え?え!?」

 

 一連の出来事により止まった思考が動き出すも、出てくる言葉は疑問の声だ。扉の向こうで起こされたのか、メルランと思われる声が涼介の耳に届く。何を話しているのかまでは聞き取れないが何か揉めているような雰囲気は伝わる。そしてしばらくそれが続くと再びカランカランと音を鳴らしてメルランが入店してくる。

 

「いやいやいやいやごめんごめんリリカちゃんのお友達と会えると思って気分が躁に入っちゃってねとあぁ違う違うそんなことを言いたいんじゃなくて実はリリカちゃんが改めて顔をあわせるのが恥ずかしいって顔を赤らめてもじもじさせてあぁもうぉぉおぉ可愛かったわあのリリカちゃ――」

 

 

――カランカラン

――ゴッ!!

――カランカラン

 

 

 再び扉が開く。今度はキーボードを振りかぶったリリカがメルランの首めがけて一閃して意識を刈り取る。そのまま無言で素早くメルランを扉の向こうへと連れて行く。涼介が僅かばかり伺えたリリカの顔は確かに赤らんでいた。状況から察するに今の赤らみの原因はメルランの言動にあるのだろうと涼介は当たりをつける。いい加減、怪訝に思い涼介は扉に近づくと外の喧騒の声が聞き取れるようになる。

 

 

――はっ!ここは!?

――もうお姉ちゃんいい加減にしてよ!!

――はぁぁ

――もう一回!もう一回!

――もぉぉぉ、やだぁぁ

――はぁぁ

――わんもあ!!わんもあ!!

――ぜっっったい嫌!!!

 

 

 この時点で涼介はわずかな頭痛を覚えるが、このまま放置するといつかリリカのお姉さんの頭が割れそうだと思う。このままもう一回来た時にメルランがなんと言うのかという楽しみも無い事もないがここは招き入れるのが正解だろうと自ら扉を開ける。カランカランと鈴を鳴らして扉を開ける。

 

「こんばんは、リリカ。来てくれるのを、首を長くして待っていたよ。お店、寄っていってくれるかい?」

 

 顔を出してそう告げればリリカが驚きに目を見開かせる。しかし、それはすぐさま満面の笑顔に変わる。

 

「うん!」

 

 

 

 

 三人を店に招き飲み物を提供する。メルランが口を開けようとするたびに、ルナサの持つヴァイオリンの弓がメルランの首の下に触れ口を閉じさせる。その様子に涼介は苦笑いを漏らしながらリリカに話を振る。

 

「全然来てくれないから忘れられていると思っていたよ」

「忘れていたのは涼介じゃない?」

「はは、確かにそうだったね」

 

 涼介は苦笑いをしながらリリカの言葉に返答をする。

 

「あの時は……本当にごめんね。嫌な思いをさせてしまったよね」

「……本当は色々と文句を言ってやろうと考えたの。だけど、なんだか今の貴方を見たらスッキリしちゃった。それに最後は自分で思い出してくれたって姉さんが言ってたし」

「なんだか迷惑をかけてばかりで情けないね」

「ふふふ、私の方が年長者だからね」

「……あぁ、確かにそうだね。ならここはお姉さんに甘えさせてもらおうかな」

 

 見た目が明らかに自分より若くとも幻想の少女達は大体が自身より年齢が高い。普段意識していないがそう言われてしまえば話に乗るのが正解だろう。紫の時の様な失言を除けばと、注意が付くが。

 

「ふふ、よろしい。それにしても表情が前に見た時よりもずっと良くなったね」

「リリカ達のおかげだね。前よりずっと自分をちゃんと大事にして生きようと思えるようになったんだ。リリカの声もちゃんと聞こえていたよ」

「……そっか」

 

 涼介の言葉を聞くと、リリカは嬉しそうにつぶやき珈琲の入ったカップでにやけてしまう口元を隠す。そして涼介はそろそろ無視しえなくなりそうなメルランに視線を向ける。先ほどから口を開こうとするたびに弓が突き付けられるためか、無言で手をあげている。音があれば、ハイ!ハイ!とでも言って手を挙げる元気な小学生の様な雰囲気だ。その様子に苦笑いが洩れる。しかし、どうしたらいいか分からないのでルナサに視線を向ける。ルナサは我関せずといった態で、時折メルランに弓を突き付けるだけでカップを傾けている。

 

「あー、と。リリカのお姉さん?」

「はいはいお姉さんですメルランって呼んでいいですよではではまずはリリカちゃんとの出会いから説明してもらってもいいですかそれとそれと――」

「ああっと、一先ず一口飲んでみてください。落ち着きますよ」

 

 先ほどからこちらに興味がある様で一口も飲まれていない珈琲を勧める。扉でのやり取りからすでにメルランの感情が振り切っているのが分かっているため、メルランの珈琲だけには能力を強めにして淹れている。勧められてしまえば断る理由もないためメルランは素直に珈琲を飲む。涼介はメルランの様子に悪い子ではないのだなと思うと笑みを深める。コクコクとメルランが珈琲を飲み進める。メルランはふぅ、とカップを口から話して一息入れる。

 

「あぁあぁ、すみません。リリカちゃんが不安定でちょっとだけバランスが崩れていたんですよ」

「そういうことが有るんですか?」

「えぇえぇ、そうなのですよ。私が崩れれば鬱が強くなって、ルナサ姉さんが崩れれば躁が、リリカちゃんならそれぞれのバランスがわちゃわちゃになってしまうんですよー」

「それは…仲が良いからなのかな?」

「さてさてどうでしょうねー?」

 

 メルランは先ほどからだいぶ落ち着いた様子で会話が成り立つようになった。まだ少しだけ躁気味ではあるけれど気にならない範囲だろう。

 

「それにしてもお友達さんはルナサちゃんみたいなことが出来るのですね」

「ルナサさんみたいと言うと?」

「他人の気持ちを落ち着けることなのですです」

「そうなのですか?」

 

 ルナサに話を振ればコクリと頷きが帰ってくる。

 

「あははは、まだまだリリカちゃんが普段通りに戻ったばかりなのでルナサちゃんはダウナー気味なのです。私はお友達さんの能力のおかげでだいぶ普段通りに引き戻されましたー」

「すぐにとはならないけど少ししたら姉さんも会話をするくらいにはなると思うよ」

「でもでも、リリカちゃんが初対面の人にすぐに懐いた理由が分かりましたね。ルナサ姉さんと能力で重なる部分があったから雰囲気の様な物が似ていたのですねー」

「なるほど、そういうこともあるんですね」

「時と場合によると思うよ。湖畔であった時は気が付かなかったけれども自然と親近感を感じていたな。でも冥界であった時は腹立ったもん…いや、実際には当てられなかったんだけどね」

「本当にごめんね。改めて言われると反省する事ばかりで耳が痛いな」

「これに懲りたら反省しなさい」

 

 リリカが腰に手を当ててお姉さんぶって言う様に微笑ましさを覚える。

 

「そこで笑うなんて反省が足りなんじゃないの、涼介?」

「違うよ、思い出してよかったなって思っていたのさ。だって忘れていたらこうやって今みたいに話せていないからね」

「もぅ、そうやって素直に言われると照れるなぁ…」

「そうだ、せっかくだからお酒でも飲もうか」

「わーい飲みます飲みます!!」

「ちょちょ、お姉ちゃんがっつきすぎ」

 

 カウンターから身を乗り出してくるメルランの勢いに押されながらも涼介は笑みをこぼす。メルランを止めようとリリカがメルランの身体を掴むもあまり意味はなしていない。これは早く出さないとカップが割れそうだと思い、涼介は背後の棚から一つの酒瓶を取り出す。

 

「はい、これはおすすめだよ」

落酒(らくしゅ)?」

「うーん、初めてみるかもかも?」

「そうだね、これは最近できた新作だからね」

「ほうほうほうほういいですいいですすばらしいです!!」

 

 メルランの瞳に期待が宿り、気分に躁が入り始めたのか高揚がうかがえる。リリカもメルランを止めようと服を掴んでいるが視線はお酒に向いている。ルナサもどこかアンニュイさを醸し出しているが口元が僅かに綻んでいる。その様子を確認して涼介も口元に笑みが浮かぶ。

 

 

――幻想の少女達は皆酒が好きだなぁ

 

 

 やはり長命な妖怪が多いためか気軽に楽しくなれる酒と言う文化が非常に発達していると、涼介は幻想郷に来てから常々思っていた。

 

「これは私が里の酒造と協力して作ったお酒だよ。名前の由来は不純物を私の能力で落としているからだね。米の甘みは落とさず、酒精も落としていない。だから甘口でかなり酒精の強いお酒だよ。不純物もないから口当たりもいいし、大妖怪のお墨付きだね」

 

 涼介が解説してグラスに酒を注げば皆の期待が一様に高まる。誰かにその一杯目を渡す事なく残り三つも用意する。四杯のグラスを準備するとそれぞれ前に供する。

 

「まだまだ、お代わりはあるからね」

「ふっふっふ飲みつくしてやりますよ」

「涼介が作ったお酒かぁ、楽しみ」

「二人とも運ぶのは嫌よ」

 

 皆がそれぞれ口に出す。

 

「さぁ、何に乾杯する?」

「んー……」

「はい!はい!はい!」

「うるさいメルラン」

「なんでしょうか、メルランさん?」

「お友達に乾杯したいです!!」

「ではそれで行きましょう。皆様お手にグラスを」

 

 涼介が音頭を取りグラスを皆が手に取る。涼介は皆が手に持つのを確認すると一度頷く。

 

「新しい友人に」

「「「「乾杯」」」」

 

 チンと四人のグラスがぶつかり、ガラスが打ち合う高い音が鳴る。四人が四人ともグラスを口元で傾ける。涼介とルナサはグラスを軽く傾け、酒を口の中で転がし風味を楽しむ。メルランとリリカはグラスの中身を一気に煽る。酒の飲み方一つとっても性格が出ている。涼介はすかさず空いた二人のグラスに酒を注ぐ。

 

 

――これは瓶が空きそうだ

 

 

 メルランとリリカの勢いに苦笑しながらも、二人の幸せそうな顔を見るとついつい酒を注いでしまう。そんな自分に気が付くとやはり記憶を取り戻してよかった、幸せだなぁと涼介は思う。空いてしまう前に次を用意しておこうと、作った時に分けてもらった落酒を戸棚からさらに取り出す。四人の酒盛りはまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、もうだらしない」

「お姉ちゃんしていますね」

 

 夜もだいぶ更けてきて、酒盛りを始めてからかなり時間が経過した。メルランとリリカはすでに酔いつぶれている。飲み方の違いが今起きている者と酔いつぶれている者を分けたのだろう。椅子をつなげた簡易の寝床でリリカとメルランが幸せそうに眠っている。今は涼介とルナサが時折舐めるように酒を口に運び落ち着いた雰囲気で話している。

 

「はぁぁ、もう全く」

 

 口では不満を漏らしながらも二人に向ける視線は優しい。

 

「ルナサさんもだいぶ口数が増えてきましたね」

「お酒も入って、リリカも平静に戻ってだいぶたったから」

「その節は大変ご迷惑をおかけしました」

「気にしなくていい。あれは運が悪かっただけ」

 

 ルナサの返答は素っ気ない。しかし、嫌われているとかではなくこれが彼女の気質なのだと涼介は短い時間の中で察している。互いに静かなのが苦痛でない為に静かに酒を傾ける時間が続く。ルナサのグラスが空き涼介が新たな酒を注ぐ。トクトクと酒瓶から酒がグラスに注がれる音が静かな店内に響く。ルナサがそれを静かに眺め、そそぎ終わったグラスをしばらく見つめた後、唐突に口を開く。

 

「貴方、私たちの妹が亡くなっている事をリリカから聞いているね」

「……はい、聞いています」

「そう」

 

 ルナサがグラスを手に取って三分の一ほどを流し込む。

 

「あの時の言葉はその妹さんのものなのですか?」

「そう。そして、その子は私たちの妹で創造主」

「創造主ですか?」

 

 突然の内容に涼介が首をかしげる。

 

「レイラって言って、家族を失ってしまった女の子だった」

 

 涼介は何も答えずルナサに視線を固定する。

 

「マジックアイテムの力と魔法を用いて私たち三人を作った。自らの三人の姉を模して」

「それは……」

「途方もない話。三体もの魔法生物(ポルターガイスト)を作り出し、それらに能力まで持たせてみせた」

「…………」

 

 能力を持った魔法生物を作る。それは本当に途方もない話だろう。世界に直接干渉する力を与える。それは神をも超える(わざ)と言える。想像を絶する話に涼介は言葉を失う。

 

「ふふ」

 

 涼介の絶句した顔に機嫌よさげに笑いを漏らす。

 

「だから創造主。でも、私たちはレイラと姉妹の様に接した。レイラもそれを望んで私たちも応えた。けれど、レイラの本物の姉の様に接しようとした私たちにレイラは、貴女達の姿は確かに姉を模して作ったけれど貴女達は貴女達として生きてと言われた」

「どんな心境だったんでしょうね」

「分からない。でも本心からの言葉だったのは分かる。それからは本当に楽しく四人で暮らした、レイラが亡くなるまでの間」

「……本当に良い妹さんでしたね」

「えぇ、本当に自慢の妹。まぁそんな経緯があるから私たちは三人でありながら一つの存在でもある」

「だから、他の姉妹の変調が影響を及ぼすのですね」

「そう」

「どうしてその話を私に?」

 

 涼介はルナサの話が終わったことを察して、疑問に思っていたことを口にする。ルナサは涼介の言葉に苦笑いを浮かべ酒をまた煽り、口を開く。

 

「リリカの姉としてのお節介かな」

「それは?」

「長女の私は何をやっても優秀な優等生タイプで一番力が強い。次女のメルランはちょっと変ったタイプで魔法の力は強いけど使い道を誤る抜けたところがある。そしてリリカは三女として作られた。要領がよくて誰とでも触れ合えるそんな性格。でも、本心から他人とは距離が詰められなかった。他人に合わせて誰とでも付き合える、四姉妹以外の人には心を開かないそんな子」

 

 ルナサの視線がリリカに向く。

 

「でも貴方は違った。リリカは貴方の事で私たちに不調が出るくらい悩み、本気で激して闘いに挑むくらい本気だった」

「それは、私の能力の所為ですね」

「その通り」

「すみません、心を惑わ――」

「責めていない。むしろ感謝している」

 

 涼介の謝罪の言葉をルナサが断ち切る。

 

「内に籠り気味なリリカが外を向いた、これは良い事。だから貴方には感謝しているし、これからもリリカの友達でいて欲しい。そして、この子が悩んでいる時は支えてあげて。私たちはつながっているからこそ一緒に倒れてしまう。だから貴方に話をした」

 

 ルナサの熱いぐらい真剣な眼差しが涼介を射抜く。

 

「リリカは私の大事な友人です。だから……私は出来ることを精一杯します」

「ありがと」

 

 ルナサがニヤリと笑ってグラスを空ける。涼介が酒を空いたグラスに注ぎながら口を開く。

 

「ルナサさんとメルランさんも、いつでもここに休みに来てください」

 

 ルナサが一瞬きょとんとする。リリカの話をしているのに何故自分たちをと。

 

「私とメルランは大丈夫。私たちはリリカより強く作られているから、心も力も」

「そうじゃありません。友達の家族も大事にしたいだけですよ」

「あぁ、貴方がリリカの友達になってくれて良かった」

「本当に良いお姉さんですね」

「うらやましい?」

「そうですね、私もダメなときに蹴り上げてくれるような姉が欲しいですね」

「貴方の姉は大変そう」

「ルナサさんが匙を投げるとなると、幻想郷では見つからなさそうですね」

「見つかるといいね」

「姉が見つかるというのも変な話ですけどね」

 

 二人してメルラン達を起こさない様に小さな笑い声をあげる。

 

「ねぇ、貴方なら私のソロ演奏を聴けると思うのだけれどもしよかったら聞いてくれない?ソロで演奏するのも好きだけど聞いてくれる相手がいない」

「そうなのですか?リリカの演奏しか聞いたことが無いのでルナサさんの正確な力量は分かりませんが一緒に楽団を組んでいるなら近しい物だと思うのですけれど?」

「私の能力の所為なの」

「能力ですか?」

「私は音に鬱を込められる。演奏すれば抑えてもそれは混じってしまう。これは能力を持っているがゆえに拭えないもの」

「能力の精度を鍛えてもでしょうか?」

「そう。能力は恩恵を与えてくれるけどそれに伴う害もあることが有る。私たちは作られた存在に能力が付加されたある種歪ともいえるゆえにそれが顕著。性格や気分はバランスが崩れれば強く能力に惹かれ、音にもそれが混ざる」

「では、私も?」

「何かあるかもしれない。それが何か私には解らないけど」

「そう、ですか。ありがとうございます、教えてくださり」

「別にかまわない。それで話を戻すけど、鬱の音だけで聞くのは良くないから私はソロで聞かせる相手がこの二人しかいない。でも、似た所もある貴方なら」

「そうでしたか。それでは是非聞かせてください」

 

 涼介はグラスを空けると扉に向かう。外はもう月がとっくに顔を出しており、時折吹く風が酒で火照った身体をさまし気持ちがいい。カランカランと背後で音がしてルナサが出てくる。

 

「気分が落ち込み過ぎたら言って、やめるから」

「大丈夫だと思いますよ」

「軽視はだめ。私の音色は妖怪を殺す」

 

 涼介の心臓がドキリと跳ねる。似た所のある能力で妖怪を殺せる。苦い記憶を刺激される。

 

「どうやってですか?」

「妖怪は精神に強く比重を置いている。私の音を長く深く聞きすぎてしまうと精神が活動をやめてしまって死に至る」

「そういった事で妖怪が死ぬのですか?」

「可能性の話。でも、実際妖怪は精神の活動が鈍れば死ぬ。それは妖怪にとって寿命の様な物。だから妖怪は退屈を嫌う、刺激がないと精神が鈍化してしまうから」

「退屈は妖怪を殺す、そういった理由だったのですね」

「そう」

「でも、安心してください。私の能力は落す事ですが、応用すれば落とさないことが出来ます。まぁ、あげることはできないのですけれどね」

 

 涼介はそう言って最後の所でおどけて見せる。ルナサは涼介の態度に笑みを見せると、店から少し離れた所でヴァイオリンを自らの手で構える。涼介は近くの地面に腰をおろし、ルナサを見つめる。演奏が始まる。どこか物悲しく、それでいて包んでくれるような安心感を覚えさせるルナサの演奏に酔いしれる。瞳を閉じて、耳に意識を集中して演奏に身を任せる。

 

 

――あぁ、贅沢だ

――私の為だけのソロライブとは

 

 

 涼介の口元に自然と笑みが浮かぶ。ルナサも涼介の様子に安心し、演奏を続ける。誰も止めることのない、たった一人の演奏者とたった一人の観客による月下の演奏会は酔いつぶれた二人が目をさまし、演奏に混ざるまで続く。涼介の為の演奏と、ルナサの為の観客。幻想の音色が夜の空へと溶けていく。

 

 

 

 

 それから桃源亭での夜間営業では、時折プリズムリバーの姉妹の内の誰かのソロライブが開かれる。そこにはルナサもおり、店内での演奏時、涼介が観客たちの気分が落ち込みすぎない様に配慮する。ルナサとは逆で音に躁がこもるメルランの演奏も同様に、気分が盛り上がり過ぎない様に適度に落とす。涼介が姉二人に対してそのような手助けをすることで、リリカが一人頬を膨らました話もあるがそれはまた別の機会に語られることが有るのかもしれない。

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