これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の過去と未来と三歩

鎮守府にいたのは最初は2人

 

 

 

 

 

1年目を迎えた時に3人

 

 

 

 

 

2年目には4人、5人と増え続け、今や着任予定も含めて17人

 

 

 

 

うち、好意を抱いてくれているのは外部を含め16人

 

 

 

1人の子に目を引かれて飛び込んだこの世界

我ながらほかの人より動機がいささか不純と言えるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官?大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっとぼーっとしてた・・・・・・。さ、これも片づけなきゃな。」

 

 

 

吹雪の声で我に返った提督は書類の決裁に戻る

ガタガタになっている執務室で2人は仕事をしていた

空襲直後は倒壊の危険もあった鎮守府建屋だが、今は暫定的な補強工事がされている

明後日には鎮守府の新しい建物に移れるようになるため、荷物のまとめ作業と日常業務の決裁を同時進行でやっていた

 

今はサンマ漁支援のため、艦隊は全体的に北方よりに出撃が増えている

その報酬としての弾薬、鋼材、ネジの発注が増えていた

さらには、遠征も作戦発動時ほどまではいかないものの、通常時より多めに寄港している

 

「今度新しく着任する人たちは新しい執務室でお迎えすることになるんですよね?」

「そうだね。4代目の建物になるとは夢にも思わなかったけど。」

「ところで結局この建物はどうするんですか?あっちこっちがボロボロですけど・・・・・・。」

 

吹雪は荷造りを一度やめて、部屋の修繕した場所を見る

執務室はだいぶダメージを受けているように思えるが、実は被害はこれでも少ない方である

 

「妖精さんが調べた結果再利用できる部屋がここと補給部が使ってた部屋位だからねぇ・・・・・・。取り壊しちゃってもよかったんだけど、なんだかんだ2代目と3代目の執務室だからね。残すことにしたよ。」

 

妖精さん曰く、2つとも執務室であることを考慮してほかの部屋より頑丈に設計していたことが功を奏したようだ

因みに、反対側の医務室として使っている部分は切り離して医療棟として完全に独立させることになった

 

 

「そうなんですか!ここも思い出がいろいろありますからね・・・・・・。」

「そうだねぇ・・・・・・。初代のはすっかり忘れてたけど。」

「あはは・・・・・・。今と一緒で急に決まりましたからね・・・・・・。無いものだと思ってました。」

 

お互い苦笑いをすると各自の作業に戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・。やっと終わった。日付跨がなくて助かった・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 

いつもの仕事を終わらせ伸びをしながら腕時計を見る

時刻はフタフタマルマル

 

しれっと残業をしているわけだが、今は禁止している場合ではない

建物の引っ越しに、復旧作業、果ては先ほど言った秋刀魚漁支援と残業しなければとてもじゃないが仕事が片付かない

 

「吹雪ちゃん終わった~?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・?」

 

いつもなら「はい!」と元気のいい返事を返してくれるのだが、何も返事がない

伸びをやめ、ソファーを見るとうつむいた吹雪がいた

 

「・・・・・・。寝てるのか・・・・・・。」

 

そばまでくると規則正しい寝息が聞こえた

よほど疲れていたのか、深い眠りについているようだ

 

「ここんとこ冷え込んでるしタオルケットでも持ってくるかねぇ。」

 

そう思ったが、隣の私室は爆弾が直撃してて立ち入り禁止の状態であったことを思い出した

私室と言っても4畳半もないうえ、碌に私物を置いていないので精神的なダメージは少ない

 

「・・・・・・や。」

「え?」

「嫌・・・・・・!」

「!」

 

とりあえずどこかから掛けるを持ってこようと、部屋を出ようとしていた提督が振り向くと吹雪は苦しそうに呻きながら顔をゆがめていた

目からはほほを伝って涙がこぼれていた

それを見た提督は一瞬慌てかけたが、あることに気が付きすっと冷静になった

 

 

 

 

 

22:13

10月11日

 

 

 

 

 

 

無機質な数字の羅列をスマホは画面に映し出す

艦娘は戦没日前後や当日には、多少精神や体の不調が確実に生じる

症状が軽い者もいれば、重い者もいる

吹雪は今まで仕事中は目立った不調を訴えたことはなかったため、今まで知らなかったがどうやら夜間に出ていたらしい

 

提督は吹雪の隣に座るとそっと肩を抱き寄せた

ぶつぶつと嫌だ、沈みたくないとつぶやき続ける吹雪の手をぎゅっと握った

 

 

「大丈夫・・・・・・。大丈夫・・・・・・。」

 

 

そういうと、頭を撫で始めた

 

「しれ・・・・・・い・・・・・・かん。」

 

効果があったのかわからないが、とぎれとぎれに司令官と言いながら苦しそうにゆがめていた顔が和らいだ

やがて、元の規則正しい寝息に戻っていった

 

「・・・・・・。」

 

 

提督はそっと起こさないように吹雪を横にして立ち上がると、自身の上着をかけた

 

 

 

「・・・・・・んっ。」

「・・・・・・。」ヤバッ

 

提督は吹雪に背を向けながら息を止めた

細心の注意を払ったが、どうやら起こしてしまったようだ

 

「・・・・・・!しれいかん!」

「え?うぉ!」

 

吹雪が急に大声を上げたと思ったら、背中に飛びついてきた

予想だにしない行動に、提督は不意打ちを食らった形となった

結果として顔面をしたたかに床にぶつけた

 

「あっ!すっすみません!!」

「あつつ・・・・・・。一回どいて・・・・・・?」

 

このままじゃ起き上がれないからと言うと、再び「すみません!」と土下座せんばかりの勢いで謝りながら飛びのいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません!司令官・・・・・・。」

「気にしなくて大丈夫だよ。」

 

提督と吹雪は外へと出ていた

少し苦笑いをしている提督を先頭に、ションボリとした吹雪があとに続く

一回気持ちを落ち着かせるために、提督が散歩に誘ったのだ

 

「夢見が悪かったみたいだから仕方ないさ。」

「・・・・・・うなされてましたか?」

「うん。結構。」

「そうですか・・・・・・。いつもは青葉さんから様子を見てきてっていうところで起きるんですが・・・・・・。今年はその先まで・・・・・・。」

 

でもと吹雪が続ける

 

「砲弾が当たりそうな時に場面が変わって司令官が目の前にいたんです。」

「ほう?俺が?」

 

少しわざとらしいが、知らないそぶりで返す

 

「はい!こんな風に散歩をしている感じでした。」

 

吹雪がそばに来たが、すぐに歩みを止める

 

「・・・・・・でも。途中で提督がどんどんと先に行っちゃって・・・・・・最後はこの前のあの時みたいに・・・・・・。」

「・・・・・・それで寝ぼけまなこで飛びついたと。」

「・・・・・・本当に怖かったんですから。」

 

提督が振り返ると吹雪は少し声を震わせながら右ほほの傷痕を撫でた

あの時、提督の体を貫通した銃弾は地面で跳弾し、吹雪の右のほほ骨のあたりをかすめていた

 

「その傷・・・・・本当に消さなくてよかったの?」

 

艦娘の傷は通常の人間よりも治る速度が速い

また、傷痕だって消すこともできた

 

「これは・・・・・・。」

 

提督は吹雪の前に来ると顔に手を添え、傷痕を親指でなぞった

それに対して吹雪は少しってこう答えた

 

「私が守れなかった戒めと司令官が守ってくれた証しとして残そうと思ったんです。」

「守ってくれた証し・・・・・・かぁ。俺にとっちゃ守れなかった証しに近いけどねぇ・・・・・・。」

 

提督は寂しそうな顔をした

 

「そんなことないですよ。」

 

吹雪は自身のほほを撫でる提督の手を取ると、優しく包んだ

 

「提督が居なければ私は頭、川内さんは胸に銃弾が間違いなく当たってました。」

「・・・・・・。」

「私たちを守ってくれたんですよ。」

 

吹雪はうつむいた提督の顔を覗き込み笑いかけた

 

「だから・・・・・・気にするのはやめましょう?司令官が守れなかったものはないんですから。」

「・・・・・・ああ。」

 

提督はそうだなと続け、笑った

前を見れば小さな建物が見えてきた

 

「あっ!ここって・・・・・・。」

「昔の鎮守府・・・・・・。いや監視府として建てられたころのやつだよ。」

 

建物が残っていることを以前に伝えたが、吹雪と一緒に来たのは今日が始めてだ

 

「ここは被害がなかったんですね・・・・・・。」

「だな。あの頃のままだよ。」

「あの頃・・・・・・。」

 

 

 

 

「吹雪ちゃんがアワアワしていることが多かったころ」

「司令官がまだ仕事慣れて無くてミスが多かったころ」

 

 

 

 

最後が綺麗にハモり、お互いに今度は大笑いした

 

 

さっきみたいに毎日ミスしてはああしてたのにねぇと提督が

それを言うなら提督だって!と吹雪が言い返した

 

 

 

ひとしきりに笑い、落ち着くと港の方に行ってみる

中型の貨物船が1隻停泊させるのがやっとの小さな港だ

今は停泊している船はなく、穏やかな波の音だけが辺りにこだましている

 

「あの日は月がまだ小さくて真っ暗だったなぁ・・・・・・。スコールでほとんど見えなかったですが。」

「そっか。」

「今日は月がちゃんと出てて・・・・・・夜戦には向かないですね。」

 

 

 

 

うちの川内さんはあんまり言いませんけどと付け加えた

誰の責任かは・・・・・・言わずもがなここにいる自分たちだが

 

 

 

 

「月が・・・・・・。」

「そんなこと言っちゃうと本気にしちゃいますよ?」

 

 

 

 

提督が言いかけて途中でやめたのを吹雪は微笑んで返した

提督はそれを見てポケットからスマホを取り出して画面をちらりと見るとすぐしまった

そして、軽く息を吸い何かを決心したように吹雪の方に向き直る

 

 

「そうだなぁ。じゃあ・・・・・・。まどろっこしいことなしに・・・・・・誕生日のプレゼントでもいただこうかな。」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

提督はポケットからある物を取り出した

あの少し色褪せた青い箱

提督は吹雪の方に見せてゆっくりと開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです。結婚してください。」

 

 

 

 

「・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箱の中には月明りで鈍く、それでいて鮮やかに輝いている指輪が入っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・!?わっわたしで・・・・・・私で・・・・・・いいん・・・・・・ですか・・・・・・?」

 

吹雪はあっけにとられてしばらく呆けていたが、状況が認識できるようになるとのどの奥から絞り出すようにして声を出した

 

 

 

「吹雪ちゃ・・・・・・私は吹雪、あなたが好きです。・・・・・・あなたじゃないと駄目です!」

 

 

 

 

 

提督はいつもの呼び方をやめ、真剣なまなざしでゆっくりとした口調で続けた

しかし、緊張していたのだろう

最後の方は早口気味ではあるが、言い切った

 

 

 

 

 

 

「あの、あのぉ・・・・・・ええっと・・・・・・私も・・・・・・!」

 

 

 

 

 

吹雪は困ったように徐々に顔を赤くし始めた

返事をしよう

答えを返そう

頭の中では様々な気持ちが渦巻いていて、なかなか言葉が拾えない

 

 

 

 

 

 

「わたっ私も、司令官のこと・・・・・・大す・・・・・・い、いえっしんら・・・・・・・・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とぎれとぎれながら声を絞り出していたが、一呼吸おいて気が付いたのか一旦口を閉ざす

そして深呼吸をすると、提督と一緒のように一気に早口で言い切った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も司令官のことが大好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0:00

10月12日




今日が吹雪ちゃんとケッコンして一年目のケッコン記念日ですはい(´・ω・`)
作中の提督さんの誕生日と作者の誕生日は一緒の設定です

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