これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の変革 その2

「やったぜ!」

「服を着なさい。」

 

扉が壊れんばかりの勢いで執務室に入って来たのはスッケスケのネグリジェを着た望月だった

時間はフタフタマルマル

こんな時間に呼び出しをかけた自分が悪かったのだろうかと少し悩んでしまった

とりあえず、頭にチョップを浴びせて着替えに戻らせた

 

 

 

 

 

 

「んで?どうしたのさ?」

「これを見てほしい。」

 

制服に着替えて戻ってきた望月の前に、ある物を2つ置く

 

「これは随分と上質な石炭だねぇ。無煙炭と・・・・・・瀝青炭か。」

 

瀝青炭とは石炭の一種である

石炭にもいくつか種類があり、その種類によって用途が変わる

無煙炭は石炭の中でも炭化が進んだものであり、エネルギー効率が一番いいものである

昔は軍艦の燃料などに使用されていたが、今現在で石炭焚きの軍艦はないと言っていいだろう

一般の人が目にできるのは、蒸気機関車の燃料としてくらいだ

 

対して、瀝青炭

これは石炭の中でも最も価値があると言っても過言ではない

もともと石炭から石油へのエネルギー転換の理由はエネルギー効率と価格の面である

今現在も石炭は安価ではあるが、環境汚染とその対策、エネルギー効率などを考えると石油に一歩劣っている存在だ

 

本来であれば無煙炭の方が価値があったのだが、今現在は瀝青炭の方が価値がある

製鉄に欠かせないコークスとしての利用だ

発熱のエネルギーだけなら他の燃料でもいいのだが、コークスでなければならない理由がある

ここでは鉄の原料である鉄鉱石を産出しているが、精錬しなければ意味をなさない

コークスには酸化した鉄の酸素を吸着する還元剤の効果があるのだ

 

今までは本土からコークスを貨物船に積んで、帰りは鉄鉱石を積んで本土へと戻っていた

これによって、国内の製鉄産業を守りながら、石炭の採掘事業も助けるとてもいバランスを保ってきた

 

「なるほどね。それであたしに相談と言うわけね。」

 

望月には大本営との調整役をになっている

 

普通に考えれば国益にも非常に良いことである

かつてのエネルギー転換の過程で、国内の炭鉱は次々と閉山した

深海棲艦との戦争が勃発したときに稼働していたのは釧路の炭鉱だけで、非常に国内の燃料事情が大変な時期があった

今現在はシーレーンも確保されているため、差し迫っての問題はない

が、万が一以前のようにシーレーンが封鎖された時のことを考えると手を打つに越したことはない

しかし、炭鉱という物は閉山を解除してすぐに採掘ができるわけではない

粉じん爆発やガス中毒などの危険を取り除く環境の再整備に非常に時間がかかるのだ

 

「予定では来月の出張勤務の際に報告しようかなと思ってるんだけど。」

「・・・・・・は?ちょっと待った。」

 

望月が驚いた顔をした

 

「今報告するって?」

「そうだけど?」

「絶対やめといた方がいいね。」

「・・・・・・。」

 

望月が言いたいことはわかる

今この鎮守府の扱いは非常に難しいところにある

所属している艦娘が少ないとは言っても、経済基盤に関しては小さな先進国並みの水準になっていると言っても過言ではない

もし、うちが資源供給をしなくなったらどうなるだろうか

南方の資源地帯からも輸送はできるが、船足の遅いタンカー船や貨物船では時間がかかる

何よりも、一隻か二隻はカ級に襲われ沈んでしまう事が少なくない

そんな中、艦娘のパトロールが頻繁に行われていて、伊豆諸島の島々をに沿ったルートをたどる船団はかなり安全である

それに頼りっきりなのが今の日本の資源状況だ

 

それでも、軍もそれはよくないと思ったのだろう

鉄の生産を行うために重要なコークスは本土からの輸送を行う事で軽くではあるが縛っていた

 

ところが、海底炭鉱が稼働し始めた今その縛りもなくなり、完全に駿河諸島の工業関係はすべて自前で動かせるようになった

 

「今の政情を考えれば伏せるのが妥当だと思うよ。バカ正直に報告するとどうなるかわからないわけじゃないよね?」

「でもそうもいかないんだよねぇ・・・・・・。」

 

そう言って提督は望月に大深度の連絡線についての書類を渡す

黙って受け取ると目を通していく

速読で読み終わると、ローテーブルの上に軽く投げてため息をついた

 

「・・・・・・。そう言う事だとしても伏せるのがあたしは正解だと思うんだけど?」

「どっちゃにしろ次回の時までにこの建設についての返事をしなきゃだし、見積もりもだしてもらったんだけど・・・・・・。」

 

一見すると炭鉱の問題と連絡線の問題は関係ないように思える

しかし、この問題は根っこでつながっているのだ

妖精さんたちがあちこち資源を求めて掘りまくった結果、八丈島と駿河諸島の境に石炭の層があることが分かった

そこからさらに掘り進めて言った結果、最北端の一番本土に近い場所は大島まで到達していた

それもそこまで掘られているのは大きな坑道であり、地下鉄と地下道への転用が割と早い段階から可能であることが妖精さんから告げられた

つまりは、コークスなどの資源で縛ることができなくなったばかりか、建設費を負担させて縛ることも出来なくなったのである

大島の少し先まで掘れていることを考えると横須賀の大本営までは約50㎞程度

普通の業者に頼めば、地下鉄は1kmあたり100億程度だが、妖精さんの技術や労働力だと10分の1程度まで抑えられる

つまりは残りの作業で約500億、それに坑道内を地下鉄に作り替える作業で約250億程度を言う試算が出た

先ほども言った通り、駿河諸島鎮守府の財政は小国並みの経済基盤がある

750億程度などは何とか出来てしまう範疇だ

 

「一応ある程度の株券を発行するつもりだけど向こう側の予測を大幅に下回る額になるだろうしね。資金調達が少ない理由になっている海底炭鉱を伏せたままの説明がどうやってもできないからかな。」

「・・・・・・。じゃあ回答を保留して・・・・・・。」

「なぁ望月。」

「ん?」

「今までの意見はどの立場の望月の意見だ?」

 

そういうと、望月は固まった

ゆっくりと視線をテーブルの上に落とした

 

「・・・・・・。みっちゃんの教艦として・・・かなぁ?」

「そっか。じゃあさらに踏み込んで・・・・・・。自分を教え子としてみているか、提督、司令官としてみているか。」

「・・・・・・・・・・・・。その質問はもうわかっているっしょ。」

 

望月は苦笑いをした

 

「もう1つの方の立場の意見は?」

「・・・・・・。報告について賛成だよ。司令官。」

 

望月は再び書類に目を落とし、話を続ける

 

「この微妙な立ち位置で一番マシなのは馬鹿正直になること。下手に伏せて無理難題を毎回吹っ掛けられる可能性やひどい場合には反逆の疑いありとみて司令官が連行される可能性もある以上、素直に報告が一番の安パイと思う。」

「同感だ。・・・・・・。教え子としての意見を最初に言った理由は?」

「嫌だねぇ・・・・・・。こんな報告をした後、みっちゃんがどうみられるか想像できるでしょ?」

 

見方によっては、権力や富におぼれている人間にしか見えないだろう

自分の裁量1つで日本の命運が決められると言っても過言ではないのだ

他人からどのような評価を受けようが気にしなければいい

しかし、

 

日本を悪から開放する!

 

そんな義憤に駆られた輩が出てきてもおかしくはない

文句や意見、罵声等の口だけならよい

可能性として一番ありうるのは・・・・・・

 

「あの時に見たいにか?」

「・・・・・・あの時冷静にストレッチャーを持ってこれたのは当たりどころから助かる見込みがあると推測できたからだよ。あんなこともう御免なんだけどねぇ?」

 

 

そういって左手をゆっくりと撫でながら提督の顔を見つめる

 

 

「俺の戦場ともいうべき場所はあそこだから・・・・・・。君たち艦娘を万全の態勢で送りだして出来る限り全員帰ってこれるようにする。それが俺の仕事だよ。文句を言われようが罵られようが・・・たとえ刺されようがそれは変わらないし譲れない。」

 

最も、身内だけに気を払えばいいというわけではない

今まで持ちつ持たれつの微妙なバランスを保ってきた財界にも注意をしなければならない

 

「青葉にはしっかりとみっちゃんの護衛をしろって言っとかないとだなぁ。」

 

めんどーと言いながら望月はため息をついた

同時に、懐からUSBメモリを取り出した

 

「ちょーっとパソコン借りるよ。」

 

しばらくノートパソコンを操作して、提督の方に画面を見せる

 

 

 

『台湾沖航空戦 戦果報告書』

 

 

「なんだこれ?」

「砂安のおっちゃんから流してもらった情報。まぁみて見なぁ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

「めちゃくちゃだな。」

「でしょ?」

 

報告書を見終えた提督は即座に切り捨てた

望月もそれに同調する

 

報告書には

 

姫、鬼級含む空母19隻撃沈

 

戦艦棲姫、ル級等4隻撃沈

 

巡洋艦7隻撃沈

 

その他14隻撃沈

 

と記載されていた

もともと、主要なメンツは欧州方面へと派遣されているなか、台湾沖のあたりで散発的ではあるが深海棲艦の活発化が確認された

各鎮守府の主力が出払っているため、大本営の基地航空隊が漸減、あわよくば壊滅させようという事だった

この時期、提督は療養中でありこのことを知らなかった

 

「こんな大戦果があったら多少なりとも前線に変化があるはずだけど全くないし誤報もいいところだな。」

 

潜水艦の発見報告が下がったという記録もない

 

「あたしもそう思って大将にそれとなーく偵察艦隊を何回か派遣した方がいいって進言しておいたよ。」

 

そうかと返事をして、資料を再度見る

画面には深海棲艦の発見場所と撃沈箇所が表記されている

 

「・・・・・・。誤報のレベルがひどいと少しまずいかもな。」

「それについては追々報告が来ると思うよ~。それとこれ。ほんとは明日持ってくるつもりだったけど。」

 

渡されたのは書類3枚

うち2枚は最近見慣れたものだ

 

「深雪からの履歴書付きの上申書・・・ね。」

 

履歴書の2人はうちに転属願を出している子であり、今度面談の検討をしている子たちだった

上申書にはこの2人を鎮守府に引っ張ってほしいという旨のことが書いてあった

 

「深雪の教え子みたいでね。すごい筋がいいらしいよ?」

「ほぉ・・・。転属願来てたし、上申書を送るくらいなら期待してもよさげかな?」

 

それにしても陽炎型と夕雲型か・・・

ここに、秋月型の転属も要求しているのも相まって上層部にさらににらまれそうだ

提督はそう思いながらも、採用の方針で未決済の箱にポンと入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、明日もあるから解散で・・・。」

「え?」

 

執務室を出て、自室の前で別れようとすると明らかに不満があるという声色になった

 

「今日やる予定だった工廠の引継ぎ確認が炭鉱の視察で終わっちゃったから明日も早いんだよ・・・・・・。」

「じゃあよく寝られるように運動・・・・・・。」

「お休み。」

 

提督は優しく突き飛ばすと自室の鍵を閉めた

 

 

 

 

「え!ちょっ!今日あたしが泊まり番なんだけど!え!みっちゃん?みっちゃーん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜の見回り番の阿武隈が見つけた時、望月は廊下の扉の前で体育座りしていたという




大変遅くなりました・・・(;´Д`)
色々と私生活の方でごたごたがありまして時間が取れない&イベント完走が一時怪しくなったなどで執筆時間がほんとに取れなくなってました

そのかいもありまして
無事西村艦隊withイヨ(山雲は支援旗艦)で乙攻略をし、乙乙甲乙でイベント完走となりました!
タイムリミットが迫る中での闇城さんのラスダン攻略失敗が心臓に悪かったです・・・
まいごさん?・・・いましたっけ?(ストレートクリア)

堀の方も秋月堀に色々ありましたが成功しまして、イベントで堀残しも何もなく終えることができました(*´ω`)
・・・ただ秋月堀でなぜか照月さんが分身の術(3人)を会得してどうしようかと手に余っているうれしい悲鳴(予備の育成は当分先だなぁ・・・)

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