これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の協定

大本営 大将執務室

 

部屋の主である桐月は無表情で目の前の書類を見ていた

正確には、無表情を装っているだけであり顔色が優れないのが分かる

 

対面には腰を掛け、腕組みをしながら下を向いた提督がいる

横には、ジュラルミンケースを携えている

 

 

大将が書類を読み終えると、深いため息をついた

気分を落ち着かせようとしたのだろう

タバコを取り出そうとして落とした

提督はそれを見て、すみませんとつぶやいた

 

「・・・・・・なるほど。相分かった。これは確かに受け取っておく。」

 

そういって、今度は大将が別の書類を提督に渡す

 

「多分もう耳に入っているじゃろうが、先日ブルネイやトラックなど各泊地から出港した船団が深海棲艦によって襲われた。同時に、大本営主導で行われた台湾沖航空戦が戦果誤認をしていたことが発覚した。」

 

そう言いながら、東南アジア方面の地図をテーブルに広げた

 

「ブルネイから出港の第一船団の構成はタンカー船、貨物船が各25隻。護衛していた艦娘は4つの艦隊からなる24人。台湾沖で艦隊に襲われタンカー、貨物船は2隻を残して撃沈。艦隊も撤退する際、殿を務めた艦娘が複数消息不明となっとる。」

 

大将が地図を指をさしながら説明する

 

おりしも、月に一度組まれる大船団が襲われた形だ

予定では高雄、那覇と経由して鹿児島港で西日本各港へと輸送する予定だった

また、同規模の船団がもう2つ出港が予定されていた

しかし、護衛を行っていた艦娘の伝令により第三船団は出港中止、第二船団は10隻ほどが撃沈、15隻が何かしらの損傷こそしたもののブルネイ泊地へと逃げ延びた

 

また、トラック泊地から駿河諸島へと向かっていた船団も被害を受けた

こちらは、輸送の復路で荷物こそ少ないが隻数は先ほどの船団と同規模だった

理由は、トラックへと一度輸送し、そこからパラオ、ショートランド、ブインにラバウルの泊地へと分かれていくためだ

その船団が、再びトラックへと集合し駿河諸島へと向かっていたところを襲われた

こちらは沿岸部を通らず、ほぼ直線で向かう

そのため、護衛の艦娘の艦隊も多く、艦隊としては10艦隊60人もの護衛があった

しかし、船団の7割が撃沈残った3割も大破や中破などで帰還し、すぐに航行できる状態ではなかった

同じく艦娘も殿を務めた複数人が消息不明となった

 

それから数時間後、台湾沖航空戦で撃沈確認されていたはずの姫級や戦艦級、空母級などを偵察艦隊が発見

多少のダメージを負わせたものの、敵戦力がほぼ健在であり航空隊の誤報であったことが発覚した

 

 

 

 

 

 

 

結果、現状日本が所有する大型の貨物、タンカー船の4割が被害を受けたことになる

 

 

 

 

 

 

 

本土への輸送予定の貨物については問題ない

輸送予定の燃料や資源関連はこちらが補填分を空いている貨物、タンカー船を使ってピストン輸送で本土に運び、陸路で運搬すればいいからだ

 

 

 

が、その輸送を行う船はそうもいかない

安全面での整備や点検のローテーションを考えるといずれ支障が出てくる

ほかにも、人的被害が1000人を超える見込みが出ており次回の輸送作戦が経験者が不足する見込みだ

 

 

 

 

なにより最大の問題は深海棲艦の侵攻がフィリピンに集中されていることが頭を悩ませることになっている

日本は、先の大戦みたく本土の拠点と南方の拠点が分断されかけている

 

本土への資源に関しては先述の通り問題ない

しかし、今度は逆に南方方面の資源輸送が問題になってくる

船団を組もうにも圧倒的に不足しているうえ、臨時で船を回送しようにも航路が不安定で不可能

艦娘たちの輸送量では数十倍の往復が必要であり、それだけ時間も艦隊の危険度も増す

 

この状況を打破するには南方の各泊地に資源があるうちに本土と南方方面からの挟撃するしかない

また、それに伴って不足した貨物、タンカー船を国内の全造船所をフルに使い輸送艦隊の再建を目指すためしばらく各資源や電力不足も懸念される

 

こちらとしては願ってもないチャンスだった

戦力増強をするのは襲撃に備えるためといえるうえ、むしろ石炭の供給も浮いた分をほかの場所へとまわしたい

なにより、ここまで魅力的な提案に少しは怪しまれるだろうが、事態は急を要す

承認される可能性が高い絶好のタイミングだった

 

 

 

大将は簡単な説明を終えると提督の提出した報告書を軽くたたき

 

 

「・・・・・・。で、気になるのはここなんじゃが。」

 

書類のあるページを出した

そして、地図の上に重ね、ある行をなぞる

 

 

『石炭以外にもその他希少資源の鉱物が石炭に比べ少量ながら産出されたことが確認された。採算が取れるラインに乗っているため今後石炭の採掘作業に並行して行っていく予定である。』

 

 

「これはどういうことかの?」

「そのままの意味です。希少資源が石炭に比べて微量ですが産出が確認できました。」

 

提督は予想していた質問にあえて余分そうな言葉を付け加えた

 

「・・・・・・文月。」

「はぁい。」

 

大将は少し間を置き文月に指示を出した。

文月はカーテンを閉め、部屋に鍵をかける

 

「まぁなんじゃ。これからものすごく忙しくなるからの・・・。しばらくゆっくりしていくといい。」トントン

 

大将はそう言いながら近くにあったメモ用紙にあることを書いて、テーブルを指で軽くたたいた

 

『ここからは筆談でいくぞ。』

 

提督はうなずくと、他愛もない会話を始め、手元で言葉を書いていく

 

『で?実際のところ何が出たんじゃ?』

『銀にレアメタルなどがトン当たり100g程度産出し、双方とも一応採算が取れるラインです。』

『それだけか?』

『・・・・・・。こちらも産出しました。』

 

提督は、ジュラルミンケースの中から小箱を取り出し、大将の前に置く

大将が渋い顔をしながら開ける

そこには、金色に輝く硬貨が入っていた

表には富士と2つの島、駿河諸島を模した図柄が刻印されており、裏面には錨のマークが入っていた

ケースには、999.9と純金を表す純度が書かれている

 

それを見た大将は天を仰いだ

 

しばらく会話を続けながらも、その姿は変わらなかったが落ち着いたのだろう

10分ほどしてようやく書き始めた

 

『トン当たりの産出は?』

『トン当たりこちらの重さ1オンス硬貨が32枚強・・・。それもおそらくこの鉱脈はまだ末端と思われます。』

 

それを見た大将は気丈にも会話を続けたが、よろよろと立ち上がり壁に頭を打ち付けるとしばらくそのままだった

 

 

 

金というのは知っての通り希少性から通貨や装飾品として使われてきた

しかし、経済の規模が大きくなり、金を通貨として使用するには使い勝手が悪くなってしまった

そのため、現在では投資や安全資産、装飾品として、あるいは一部は工業製品としての利用価値の側面が強い

 

 

もともと金の価格というものは存在する量が劇的に変化しないことからその価値が保たれてきた

しかし、駿河諸島から伊豆諸島にかけて存在する金の埋蔵量はその価値を激変させる可能性を秘めている可能性が非常に高い

幸いにも、大量に採掘して市場に流通させなければ直接的な変動は防げる

あくまで直接的であり、もし推定とはいえ埋蔵量の情報が漏れた場合のことは言わずもがなである

 

 

 

どうにか気を持ち直した大将が再び提督の前に座ると筆談を再開した

 

『して?要求は?』

『上層部に駿河諸島、伊豆諸島の地下資源採掘権をお願いしたいのです。』

『・・・・・つまり今現在の石油、鉄、ボーキサイトの制限を撤廃しろということか。』

『はい。』

 

大将はしばらく考えたのち、了解したと返答した

すると、先ほどまで大将の横の秘書艦の机にいた文月がすすっとこちらによってきて紙を置いた

 

『耳本さん。金の加工ってできる人いますか?』

『残念だけどいないです。』

『そっか~残念・・・・・・。』

 

提督は不思議そうな顔をした

すると大将が少し気恥しそうな顔をした

 

『実はずっと前からペアのものを探していてな。わしらがケッコンして50年の節目じゃからの。』

『そうでしたか。地金ならいくらでも提供できるんですけどね・・・・・・。』

 

気にするなというと今まで会話に使った紙をまとめると火のついた暖炉へと放りこんだ

そして、会話を世間話から着任を取り下げた娘の話になった

 

 

 

「新規着任の最新鋭の防空駆逐艦を何とか用意したんじゃがそういうことなら仕方ないの・・・・・。」

「どこか別のところで活躍させてやってください。」

「・・・・・・まぁトラックにでも送ってやるとするかの。そっちに着任予定で縁も深いあやつに途中まで護衛を頼むとしよう。」

 

この件がかたづいたらの話じゃがなと付け加えた

 

「ところで・・・追加なんじゃがこれを榛名君に渡してはもらえんかの?」

「何ですこれ?」

 

普通サイズの茶封筒をテーブルに置いて、すっとこちらに回す

 

「まぁ・・・予約表ってとこじゃな。」

「拝見しても?」

「構わんよ。」

 

封筒を開けてみると、確かに予約表だった

予約されている部屋は離れの一軒であり、そこは電波状況があまりよくなくかなり価格を抑えて提供されている部屋だった

緊急時に連絡がつかない可能性があるというのは提督や艦娘として致命的なため、そこの棟はあまり埋まることがない部屋であり予約は不要といいってもいいくらいだ

 

「って何ですこの期間?!」

 

提督は宿泊日数に驚いた

12月11日から12月26日という2週間丸々借り切るうえ、宿泊人数が1人とどう見ても怪しい予約表だった

 

「大将1人・・・なわけないですよね?」

「あたりまえじゃ!どうせ行くんだったら文月ちゃんと2人の予約にするわい!」

「ええ・・・?それじゃあ・・・・・・!」

 

提督はあることに気が付いた

特記事項に、停電時の電力供給についての質問があったり、食事は部屋食かつ外に置いてくれればいいという要望があった

そして、何よりもクリスマスの前後でも人が増えるような特記事項がないこととネット環境が良くないことからある可能性が浮上した

 

「・・・・・・まさか秋雲じゃないですよね?」

「お、正解じゃな!」

「やっぱり・・・・・・。」

 

印刷所の締め切りが大体25日であり、停電を気にするのはデーターが飛ぶことを恐れるため

食事が部屋食かつ外においてくれればいいというのは、邪魔をしないでほしいという意思表示

 

なにより、ネット環境が良くないというのは

 

「缶詰めになるためですね?」

「大正解じゃ!」

 

それを聞いた提督はやっぱりと苦い顔をした

うちは冬の期間はどちらかというと閑散期に当たる

夏であれば海水浴という目的の客が多いが、冬になると海水浴をする人はいない

また、温泉も冬はせっかくだから雪国に行く人が圧倒的だ

逆に、雪国の基地の団体が来るが、それも大抵1泊くらいで帰ってしまうことが多い

要するに部屋が駄々あまりしてることが多い

 

「まぁお取りしておきますけど・・・・・・。珍しいですね。」

 

そういうと大将はこっそり耳打ちした

 

「実は今年のイベントはエスケープが無理そうでの・・・秋雲に頼んだら代わりの条件がこれだったんじゃ。」

「今年のイベントは・・・ってまさか!去年の最後3日間にやたらめったら仕事が回ってきたのって?!」

「あっ・・・・・・。大丈夫じゃ!今年はないからの!」

 

大将は明らかにしまったという顔をし、とっさに取り繕う

 

「今年はじゃなくて毎年なしにしてくださいよ!」

「お願いじゃぁ・・・!あのサークルさんの文月の会場限定配布品がどうしても欲しいんじゃぁ・・・・・・!」

「ええい泣きつかないでくださいよ!!」

 

とっさに文月に助けを求めようとしたが、いつの間にか部屋にはいなかった

 

「おねがいじゃぁ!秋雲に吹雪のグッズも頼むからぁ!」

「だー!鬱陶しい!わかりましたよ!受けますから離れてください!!」

「約束じゃぞ!」

 

それを聞いた大将はあっさり離れた

提督はやれやれと服装を整え、ジュラルミンケースに荷物を詰めた

 

「それじゃあ今日はそろそろ失礼します。」

「うむ。ご苦労だったのう。」

「あ、あとあれ忘れないでくださいよ?」

 

ドアを開けて出ようとしたとき、提督が思い出したように振り返って言った

 

「む?何をじゃ?」

「秋雲に頼むの。それじゃあ失礼します。」

 

大将はしばらくして誰もいない部屋で返事をした

 

「・・・・・・あいつもそういうのほしいのか。」




ようやく秋イベの話にこぎつけてまいりました(少し話題が年末に近いものも混ざってますが)
次回から秋イベ・・・はそこまで中心に入っていかずにさらりと流す予定だったりします(;´∀`)

天龍、龍田のレベリングを急ピッチでやっています(;´・ω・)
というかどっちなのか特定できないのがつらい・・・

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