これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の作戦支援 その1

「ではそういうことで・・・・・・。」

 

解散の掛け声とともに両開きの大きな扉があき、ぞろぞろと人が出てくる

人によってはこれからどうだという声やあそこへ行こう

そういった会話をしながらだらだらと帰る人ごみの中、足早に間をすり抜け一直線に向かう

 

「はぁ・・・・・・。ただいま。」

「おかえりなさぁ~い!」

 

ため息とともに、帽子を外し革張りの椅子に腰を掛ける

 

「会議はどうだったの?」

「あいつの要望は全部通したわい。」

 

大本営大将室

 

先日、提督から受け取った報告書を、大将は今日の臨時会議で提出した

台湾沖航空戦の戦果誤報の対応で忙しい上層部会は、提督の考えた通り、異議や詳しく突っ込んだ質問が出ることなく可決された

もっとも、金のトン数当たりの含有量を問われていないため、問題の先送りではある

 

「お疲れ様ぁ・・・・・・。」

 

文月はいたわるようにやさしい言葉で大将を慰めつつ、お茶を机の上に置く

 

「ありがとうよ・・・・・・。それにしても胸糞が悪いわ・・・・・・。」

 

お茶を一口すすると少し粗目に置く

 

 

もともと台湾沖航空戦は弱体化したタカ派がハト派に妥協して持ち掛けた作戦だった

 

タカ派の中には艦娘不要論を唱えるグループも存在し、作戦の発案者でもあった

本来タカ派の主流の考えは戦線の拡大であり、そのために艦隊の行き届きづらくなるところをどうカバーするかが問題であった

また、ハト派としても艦娘の負担軽減と戦線維持の方法を模索している最中であった

 

結果としては、利害が一致しており、すんなりと実行へは移せた

 

 

 

が、作戦は失敗

それどころか、本土を危険にさらすことになってしまった

批判や責任の追及はタカ派に行くと思われた

 

ところが、そうはならない

タカ派は、先だっての不祥事からとても作戦を主導できないとみて作戦の立案をタカ派、主導をハト派と分けてしまった

 

 

 

何が起こるかは想像にたやすい

責任の押し付け合いが勃発したのだ

 

タカ派としては、作戦はよかったのにハト派がめちゃくちゃにしたという主張を展開

それに対してハト派は、根本である作戦が悪く、責任はタカ派にあると主張

 

 

 

会議は踊る、されど進まず

 

 

 

言いえて妙だ

かの、ウィーン会議に状況は似ている

各陣営は言いたい放題言い、結局時間になればこうして解散して各々遊びに繰り出す

今決めるべきことは責任の所在ではなく、分断されそうな状況を打破するためにするべきことだ

幸いにも、駿河諸島の案件が打破する一つの足掛かりになっていたことが救いだ

 

「しかたないのう・・・・・・。砂安中将に根回しを頼むように連絡を。」

「了解~!」

「あとでわしに矛先が向くじゃろうが・・・。まぁ仕方ないことじゃ・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「第一から第五滑走路はトラック方面から各方面に散っていく部隊、第六から第八はトラック止まりで第九が八丈島との連絡線にして頂戴!」

「トラック方面から来る連中はどうするんや?」

「八丈島経由で本土かうちに来てもらう。緊急のもの以外はそこで止めちゃって!」

「了解やで!」

 

龍驤は敬礼をするとすぐに出て行った

入れ替わりに深雪が入ってきた

 

「司令官!指示通りこっちに向かってくる船団は全部八丈島方面に誘導しといたぜ!」

「ありがと。そのまま八丈島の基地に検査のほうをお願いして!で、こっちでは積み込みだけの状態にするから!」

「了解!」

 

深雪が出ていくと今度は古鷹からの電話が鳴る

 

『提督!日間の目標増産ペースが少し追い付かないんですが備蓄分を開放してもよろしいでしょうか?』

「それで今は何とか対処して!予想なら備蓄の20%開放で済むはずだからそれを超えたらまた連絡して!」

『了解しました!ご無理はなさいませんように・・・。』

「失礼します!追加の決済をお願いします!」

 

電話を置くと、親潮が山のような書類を置く

そして、小走りに退出していった

 

「会議は踊ってるだろうにな。」

「大将さんもいつもこうして頼りがいのあるところを見せてくれればいいんですけどね。」

 

追加の書類を裁きながら吹雪と会話をする

そのすべての書類に、大将の判が押してある

陸戦、陸攻や局戦などの機体を南方方面への回送や西日本方面へ物資輸送などの仕事が一気に来た

そして、二、三日中に駿河諸島を経由してトラック方面へと向かう複数の大艦隊が寄港するという連絡もあった

 

本土で行われている会議は踊っている

このような決定ができるはずがない

 

 

ではなぜこのような指示が回ってきたのか

 

 

大将が独断で決定したのだろう

おそらく今頃は砂安中将あたりが各方面に根回しに動いているはずだ

会議が踊ってさえいなければ、上層部の指示のもと順序立てて比較的ゆっくりと動いたはずだ

しかし、大将の独断で現在は動いている

そのため、とりあえず解決しなければならないことや捷一号作戦の下準備を進められるだけ進め、引っ込みがつかないところまでもっていく荒療治をとった

そのしわ寄せが駿河諸島に集中している

 

基地航空隊の本土から南方方面への回送や輸送作戦の失敗した分を補うための輸送船団がひっきりなしにやってくる

過密になりすぎると事故の危険性が高まるため、一方通行の流れを作った

 

 

本土から駿河諸島や南方へと向かう航空隊は駿河諸島へ

駿河諸島や本土へ向かう航空隊は一度八丈島を経由する

 

輸送船団は本土から駿河諸島へ向かう船団を一度八丈島へと回送してから駿河諸島へとくるという方式にした

 

 

 

事故の可能性が軽減できたとはいえ人手がとても足りない

基地航空隊は龍驤だけでなく、鳳翔さんと捕虜(仮)になっているヲ級を動員してギリギリさばいている

採掘、生産は古鷹だけでなく、加古や衣笠、ル級にリ級、補給関係は望月、ゴーヤ、夕張、宿泊関係は山風、間宮さん達がそれぞれの部署を閉めて補助に入っている

深雪、皐月、阿武隈の3人は島の警邏や近海に出て船舶の誘導無線を担当している

 

捕虜(仮)まで使って何とか回ってはいるが、それはあくまでも八丈島へと仕事を多少回してこの状態である

それを見越してか、大将が輸送船団に着任予定の子を随伴させてくれたらしい

本来であれば、予定の3人全員を送りたかったらしいが、軽空母の子は臨時の船団護衛

もう1人もこの騒ぎで大本営へ移動ができないということだ

 

 

 

自分への利害しか考えない者が多い上層部会がまとまってくれればいいのだが、そんなのはあり得るはずがない

 

 

いや

 

 

利害を考えるのならまだいいが、先のことを考えてない者が多すぎる

 

ここで早急に手を打たなければ最悪、戦線の後退や本土への被害が及ぶ

それをわかっているのかわかっていないのかはわからない

しかし、最優先に頭に浮かんでいるのが自身の立場だから建設的な話にならない

 

 

 

 

「あとで砂安中将や深打に連絡しておかないとな・・・・・・。」

「司令官いるかい?」

 

ぽつりとつぶやくと皐月がゆっくりと入ってきた

 

「ん?どうした?」

 

よく見ると皐月の黄色いネクタイに赤い点がついていることに気が付いた

そういえば今日のお昼のメニューの一つにオムライスだった事とふと思い出す

時間もヒトヨンヒトマルと昼休みも忘れ、間食休憩に割り込んでいることに気が付いた

しかし、とても丸々は休めそうにない

 

「吹雪ちゃん。20分ほど一息を入れようか?」

「はい!ちょっと私は外で休んできますね。」

「はいな~。」

 

吹雪が出ていくと、提督は伸びをして皐月に何か飲む?と聞いた

 

「あっ!僕今日は間食係じゃないよ?」

「あれ?そだっけ?」

 

その言葉に、給湯室への歩みを止める

皐月は、その場で臨時の報告書と言って書類を渡した

提督は、ざっと斜め読みをして深いため息をついた

簡単に言うとお客様(ネズミ)が潜り込んでいたため、とっ捕まえたということだった

しかも、今回は艦娘ではなく人間だったうえ、雇い主は

 

 

「ハト派の派閥からの派遣ね・・・・・・。」

「もう聞き出すことは聞き出して憲兵隊に引き渡し済みだよ。」

 

このタイミングでハト派から探りが入るとなると先の報告書が発端だろう

もともとハト派は劣勢だったからこそ一枚岩に見えたが、優勢に転じればこの様だ

 

「抜き出していたのは連絡線関係か・・・。・・・・・・ん?」

「どうかしたかい?」

 

提督は皐月のネクタイをじっと見る

 

 

あれってもしかして・・・

 

 

提督の視線に気が付いたのだろう

ネクタイを見て「あっやば」と言う

 

「え?今やばって・・・・・・。」

「あっこれは・・・・・・ケチャップだよ?」

「ケチャップ()・・・・・・?」

「お昼のやつだよ!」

 

提督は少し渋い顔をした

川内に諜報を頼んでいる身としては身勝手だが、皐月に人間の相手をさせてしまったことを申し訳なく思った

 

「何はともあれご苦労様。引き続き頼んだよ。」

「まっかせてよ!」

 

頭をなでてやるとニコニコと微笑んで、飛びついてきた

教艦を務める艦娘はある程度の戦闘能力のほかに白兵戦をこなすことができるように訓練されている

ゆるダルな望月でも白兵戦時には自分が勝つのは難しい

ましてやその望月を手玉に取る皐月にはかなうはずもない

 

 

 

「ほれ!まだ仕事やらにゃんだから離れて。」ガチャガチャ

 

引っ付いている皐月を引きはがそうとすると、何やらしゃがんでいることに気が付いた

よく見るとベルトを引っ張って外していた

 

「うぉい!おばかっちょ!何してんの?!」

「ネズミ捕りしたし司令官に上陸しようとおもったのさ!」

「さわやかな顔して言ってること最低だぞ?!」

 

結局、ズボンは引きちぎられてしまい、パンツ一丁で吹雪が戻ってくるまで格闘していたという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇっ!あとちょっとだったのになぁ・・・・・・。」

 

皐月はしょんぼりとしながら自室に入る

ネクタイをとると、ジッと赤いシミを見る

きれいな赤い色で、油がにじんでいる

 

「ケチャップのシミ取れるといいなぁ・・・・・・。」

 

ため息をつきながら洗濯かごに放り込み、箪笥から新しいネクタイを取り出す

さっと結ぶと、背中から白鞘の刀を取り出す

鞘から抜き、目を細めて眺める

 

「あっ。」

 

見れば、先のほうに赤黒い色が少しついている

まずいなぁといいながら、道具を取りだしに押し入れへと向かう

 

「司令官に心配かけちゃったかなぁ。」

 

道具の箱を見つけ出し、手入れを始める

傷がないことを確認しながら、打ち粉をふる

刀身の油をぬぐい、刃文を確認すると再び、油を塗る

 

「これで良し!柄のほうは後でになっちゃうな・・・・・・。」

 

パチンと音を立ててしまう

 

「今はネズミ捕りで頑張らないとね!司令官に仇名す者はちゃんとやらないとね!」

 

キリっと顔を引き締め警邏に戻っていく

その頭の中ではもう数匹捕まえれば上陸(意味深)させてくれるかなぁという煩悩が渦巻いていたりする




レイテへと突入!
といっても今回も後方メイン(と政争)ですが・・・

※前回大将と文月の結婚年数が10年となってましたが、正しくは50年でした大変申し訳ございません

結局改二は村雨と龍田が同日に来るというものでしたね
自分は天龍ちゃんをメンテ前日に75にしてやれやれと思いツイッターを見て

龍田やん・・・

と軽く絶望しておりました
結局リランカを突貫で回し、何とか一日遅れで改装までこぎつけました(白目)
あとは大和さん出れば完璧なのに・・・(ダイヤモンド4姉妹が良く出ますはい)

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