これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の作戦支援 その2

「提督?いったい何の用だい?」

「忙しい時に悪いね。まぁそこに座って。」

 

わかったというと、時雨は不思議そうな顔をして執務机の前に置かれてるソファーに腰を掛ける

提督は作業を一度やめ、時雨のそばに行き、二つ折りの紙を一枚渡す

そして、再び机に戻ると作業に戻った

時雨は、手元の紙と提督を交互に見ながら不思議そうな顔をする

 

「提督。こういうのはほかの書類と一緒に・・・。」

「まぁ開けてご?」

 

時雨が首をひねりながら開ける

するとそこには

 

 

 

『駿河諸島鎮守府所属 駆逐艦 時雨 を 佐世保第二鎮守府 への異動を命ず』

 

 

 

「提督、一体どういうことだい?」

「どうも何もそのままのことだけど?」

 

時雨は鋭い視線を提督に向ける

提督は顔を合わせず書類をさばいている

 

「僕が・・・・・・どうしてだい?」

「・・・・・・。」

「答えてくれないのかい・・・・・・?」

「・・・・・・。」

 

話しかけてもこちらを見ようともしない

その様子に時雨は提督が考えを変える様子がないことに気が付いた

時雨は力なく立ち上がると、とぼとぼ扉に向かって歩き出す

 

 

 

 

 

 

 

また僕は捨てられるのか

 

 

 

 

 

 

 

そう思いながらドアノブに手をかける

それと同時に提督が口を開いた

 

「・・・・・・。時雨。書類をちゃんと見たのか?」

「え?」

 

時雨はその言葉に、改めて書類を見る

 

 

 

 

『指令』

 

 

 

 

「え?!あっあれ?これって?」

「最近余裕がなさそうだったんでわざと紛らわしい文書にしたんだ。許してちょうだいな。」

 

提督は、書類をいったん置き時雨に顔を向ける

背伸びをしながら立ち上がると、書類束をつかんでソファーに腰を掛けながら、座るように勧める

 

 

「おーい。」

 

 

あまりの急展開についていけなくなり、固まって動かない時雨の前で手をひらひらとするが、反応はない

 

 

 

 

 

スリガオ海峡海戦

 

レイテ沖海戦の中の一つであり、山城を旗艦とし、扶桑、最上、満潮、朝雲、山雲

そして、時雨の計7隻で構成された西村艦隊が、レイテ湾を目指す途中にあるスリガオ海峡で起きた海戦である

 

とはいっても、海戦とは名ばかりだった

 

西村艦隊側はT字不利なうえ、戦力差は実に10倍近く

一方的に砲火、雷撃を浴びせられ、各個撃破、落後していった

命からがら戦闘域から離脱できたのは最上と時雨だけで、その最上も大破状態のところを、志摩艦隊旗艦の那智と衝突し被害が拡大

夜明けとともに開始された空襲がとどめとなり、艦を放棄し戦没となった

 

西村艦隊で唯一生き残ったのは時雨だけだった

 

 

話を現在に戻そう

 

時雨は過去のトラウマを寝ている間に想起することがある

それを対価に、未来予知をぼんやりとではあるができる

今までも、誰が新しく戦列に復活するかや、作戦のターニングポイントとなる点など、重要な情報をもたらしてくれた

 

 

 

 

しかし、それは同時に時雨に負担をかけていることになる

見たくないトラウマをほじくり返されてうれしいものはいない

 

 

 

 

そんな中、改善の傾向があった

先だってのタカ派2名の事件

あれ以来、前の鎮守府の悪夢を見ることはなくなったという

 

 

 

もしだ

 

 

 

時雨のもう一つの大きなトラウマであるスリガオの悪夢を晴らせたらどうなるだろうか

 

推測では予知の能力が失われるだろう

だが、時雨の負担が減ることと天秤にかけるまでもない

 

 

 

 

佐世保第二鎮守府にいる彩雲からある連絡があった

 

 

『君のところの時雨をこちらに出向させてほしい。』

 

 

捷一号作戦は順調に進行していた

幸いにもルソン島にある飛行場は被害が少なく、陸戦や陸攻、対潜哨戒機などの回送は成功

東側にいた敵空母打撃部隊を壊滅させ、フィリピン北部の安全はひとまず確保、レイテ島へ向かえないようになった

 

問題となったのが肝心のレイテ島だ

作戦としては、北側からと南側からの挟撃戦にする予定だ

史実のレイテ沖海戦から艦隊名をとり、北側の艦隊を栗田艦隊

南側の艦隊で先行して突入する部隊を西村艦隊

後に続く艦隊を志摩艦隊と呼称することになった

 

しかし、見立てでは北側ルートの艦隊は配置されている敵の艦隊の情報から激戦が予想される

その場合、西村艦隊、志摩艦隊は栗田艦隊を待つことなく突入と決めていた

おそらくは、敵艦隊も栗田艦隊側に戦力を割くことになる

そうすれば、多少南側に配置される戦力が減り、作戦の成功率が上がることになるため北側の艦隊の戦いも無駄にはならない

 

また、重要になってくるのが史実艦の存在だ

深海棲艦の侵攻は先の大戦の海戦をなぞっていることが多い

そのため、その作戦に参加したことがある艦娘は潜在的な記憶がアシストされ、性能が上昇することが多い

去年の秋が特に顕著であり、ビキニ環礁に縁の深い酒匂、プリンツ、長門は性能が大幅に上昇していた

また、新たに戦列に加わったサラトガもその海域では性能の上昇が確認されていた

 

 

 

『お前さんとこにも時雨がいるだろ?どうしてまた?』

『実は・・・まだ欧州にいてね・・・・・・。』

『あらぁ・・・・・・。殿部隊に配置してたんか。』

 

夏に欧州へと派遣した艦隊は無事、欧州方面の戦線を立て直し、再び押し上げた

しかし、その戦線の補助をしている艦隊を一気に引き上げるわけにもいかない

あくまでも戦線を以前の状態に戻しただけであるからだ

 

かといって、このまま駐留を続ければ手薄な状態が続き、戦線の後退につながりかねない

 

そこで、妥協案として半分は引き上げ、残り半分が残って各国海軍の補助を行うことになった

その後は、段階的に撤退していく形でまとまっている

 

その駐留艦隊の中に、彩雲のところの時雨がいたのだ

 

急に呼び戻そうにも、時間がかかりすぎるし、向こうで抜けた穴を埋めるすべもない

そこで、白羽の矢が立ったのがうちの時雨だった

 

 

 

「なるほどね。でも補給部の仕事はどうするんだい?さすがに人手が・・・・・・。」

「それなら心配ない。山風が代理として付くし、今日は新しく着任する子がいるから代わりに阿武隈も補助につけよう。更に川内も一度戻ってきて補給部の補助に入ってくれるんだ。」

「心配いらないってわけだね?」

 

時雨は少し考えるそぶりを見せた

確かに、ここ最近見る夢はスリガオの悪夢がセットになった予知夢が連続している

提督のカマかけにあっさり引っかかったのもそのせいだ

 

スリガオ海峡の悪夢を晴らせるのだとしたらこれ以上のチャンスはない

幸いにも、あちらの西村艦隊のメンバーで顔見知りや同期がいるので、寂しい思いもすることはないだろう

 

 

 

しかし、それは予知夢の能力を失う可能性をはらんでいる

提督やほかの人たちにも頼りにされている能力を手放すというのはなかなか決断しづらいものがある

 

時雨は提督の顔を見る

 

 

 

 

「わかったよ。」

 

時雨は微笑んで頷いた

提督が自分を思っての事

どうして断ることができようか

 

 

「司令官。入るぜー!」

「それじゃあ僕は行くね。」

「おう。ちゃんとまた帰ってくるんだよ?」

 

 

外からノックの音がする

その声を聴いて、時雨が立ち上がった

提督の声にうんと笑って返した

 

 

「おっと!時雨が先だったか。頑張って来いよ!」

 

時雨が扉を開けると、目の前には深雪がいた

一瞬驚いた顔をしたが、屈託のない笑顔で肩を叩いた

その笑顔にありがとうと返すと時雨は出て行った

 

 

 

 

「ついに時雨は出向か・・・。どれぐらい行くんだ?」

 

先ほどまで時雨が座っていたところに深雪がどっかりと腰を掛ける

 

「2~3週間くらいかな?姫級を打ち取れれば早まるかもしれんけど・・・・・・。」

「その間は特に忙しいってわけか。やだねぇ・・・。茶でも入れてこよーっと。」

 

 

深雪は苦々しい顔をしてボリボリと頭を掻いて給湯室へと向かった

深雪は龍驤がやっていた警邏部を引き継いで、代表として頑張っている

給湯室から戻って来た手には、お盆があり、提督の前にお茶を置いた

礼を言って、お茶をすすりながらリラックスする

 

 

 

 

 

「ところで何か用があったんじゃないのか?」

「ん?ああ!新しく1人着任したからその連絡に来たんだった!」

「ああ。了解・・・・・・ってまだついとらんの?」

 

ついているのなら連れてきているはずなのに、一緒にいない

 

「いや。先に工廠で改装受けてもらってるよ。もうすぐ終わるから呼びに来たんだ。」

 

ちらっと見ると時間はヒトマルサンマル

到着予定時刻がマルキュウマルマルだったはずなので、もう終わっていてもおかしくない

 

「そうだったそうだった!今頃工廠で待ちぼうけ食わさせちゃったな。」

「まぁあいつなら大丈夫さ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「夕張ー?いるかー?」

「はーい!奥に来てください!」

 

アルミのドアを開け、声を張って呼びかけると奥のほうから声が返ってくる

コンクリート打ちっぱなしの床を歩いていき、声のするほうに行くと夕張ともう一人いた

 

ウェーブの黒髪に、ピンクのメッシュ、白色のリボンを付け、胸には夕雲型の証の水色のリボン

 

 

「改夕雲型駆逐艦の長波サマさ!よろしくな提督!」

「おう!おわったか!」

 

深雪が提督の後ろからすすっとでる

深雪を見た長波は一瞬びくっとして教艦と言って苦笑いした

 

「まっさかねぇ・・・。長波にすら改二を追い抜かれるとは思わなかったぜ。」

「あっあのですね!教艦!提督のほうに挨拶を・・・・・・。」

「おいおいおい。これからは同僚だってのに教艦だなんて水臭いぜ?」

 

見た限り、長波は深雪に苦手意識・・・というよりまだ生徒だったころの癖が抜けていないようだ

書類では、訓練を卒業したのはつい2年ほど前

1年ほど舞鶴に転出したのち、大本営の麾下で船団護衛に勤めていたようだ

転属希望を出していたのは、少しは戦闘もしたいということだった

何とか抑え、提督の前に長波が立つ

 

「ほうほう・・・間近で見たのは初めてだけど・・・・・・。」

 

しげしげと提督の顔を見る

 

「いい面構えじゃないの!これなら教か・・・いや深雪・・・さんが気にいるのもわかるねぇ。」

 

教艦と言いかけて言い換えたのは、後ろで深雪が悪い笑顔を浮かべたのに気が付いたからである

かといって、呼び捨てにチャレンジしては見たものの、結局さん付けになってしまった

それを聞いていた深雪はうーんといった後、まぁいいかと見逃した

 

 

 

「さっそくで悪いんだけーがこれ書きながら聞いてもらえるかい?」

「んん?了解。」

 

いつもの着任に関する書類を書き始めた

 

「で、さっそく質問なんだけど事務仕事は得意?」

「いやぁ。あたしはそっちに関しては不得手の方かな。」

「なるほどねぇ・・・。まぁここにいれば多少はできるようになるから。」

「うぇ・・・。まぁしょうがないか。」

「でもメインとなる仕事は要望どおり戦闘ありのところだからね。目安として週に一度くらいは海に出てもらうことになるかな。」

「おっ!いいねぇ!ドラム缶積んでの輸送任務に飽きてたところなんだ。っとほい!これでいいかい?」

 

長波はニヒヒと笑った

 

 

 

 

「だけどあれだな。深雪さんの机に飾られていた写真に写っている人と、この間観艦式で見かけた提督が同じなのはびっくりしたよ。」

「写真?」

「げっ!長波!」

 

書類のチェックをしながら、相槌を返す

 

「ああ。望月教艦と一緒に写った写真。肩章からして少佐の時のやつだと思うんだけど。」

 

記憶をさらってみると、思い当たるのが一つあった

あの問題があった後、とりあえず普通科に転出してすぐ卒業となった

任地(島流し)が決まるまでのひと月は大本営付きとなったのだ

そして、ここに着任が決まった時、出発前に写真を撮ったのだ

写真の中では深雪も望月も笑顔だが、いざ出発の時になるとすごく心配されたのが頭に残っている

 

「レポートとかの提出に行くといっつも見かけるから覚えちまったんだ。ある時なんてな?その写真の額を持ち上げて珍しくため息なんk・・・・・・。」

「おらぁ!」ゴシャ

「いった!」

 

少し意地の悪い顔で語り始めたとき、深雪が顔を赤くして頭をげんこつでぶん殴った

痛みから前かがみになりかけたところに、関節技を決める

 

「があああ!」

 

深雪はゆでだこのように真っ赤になっており、力いっぱいかけているため、長波は苦悶の表情で苦しんでいる

 

「えっえっと・・・・・・。」

 

提督は困惑していたが、とりあえず声を振り絞り

 

 

「それ以上いけない。」




時雨さんが出向して長波様着任回でした
次のイベが始まるまでには秋イベのことが終わる・・・はず?

最近燃料弾薬がカンスト寸前まで来たら、大型で大和狙いをまわすと鉄がゴリゴリ減るということに気が付きました
気が付いたら鉄だけ25万近くまで減っていてちょっと焦った作者です
武蔵改二!演習の旗艦に据えて頑張ってレベリングした結果、改二のレベルは何とかなりそうです!


・・・まぁ設計図2枚って言われたら困るんですけどね

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