これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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前回のあらすじ

オータムクラウド先生大暴れ


駿河諸島鎮守府と陸軍

駿河諸島鎮守府最下層 横須賀連絡線一番ホーム

 

提督と吹雪が先頭に並び、その後ろには長波と磯風が待機している

 

 

しばらくすると、かすかに汽笛の音がトンネルの向こうから聞こえた

暗いトンネルの向こうからは、ガッシュガッシュという蒸気の音と小さい明かりが見えた

やがて、音と明かりが大きくなり姿が見え始めた

 

目いっぱいに大きなボイラーにはC62 51というナンバープレートが付いていた

白い煙と蒸気を吐き出しながらゆっくりとホームへと滑り込んだ

 

ホームの高さより高く、ちらりと顔をのぞかせた大きな動輪がブォーという音を立てて動きを止める

それと同時に、ため息をつくように蒸気を吐き出した

 

 

 

 

「あけましておめでとうであります提督殿。」

 

 

微笑を浮かべた色白に黒い制服を着た艦娘が蒸気をかき分けたかのように歩いてきた

提督のそばまでくると、利き手に持っていたアタッシュケースを一度置き脇を閉めて敬礼をした

 

 

「あけましておめでとうあきつ丸君。長旅ご苦労様だったね。」

 

 

提督と吹雪も脇を広げて答礼をした

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや。将校殿から列車でここまで行けると聞いたときは驚いたものであります。」

「ちょうど整備のためにこちらに出発予定だったからね。」

「横須賀から東海道線、伊東線となかなかいい旅が満喫できたであります。」

 

地下区間は暇でありましたがとつぶやき吹雪に出されたお茶をすすった

 

 

 

「とと、のんびりとしている場合じゃなかったでありますな。」

 

あきつ丸は、アタッシュケースから分厚い紙束を取り出した

 

「こちらが来期の戦力拡充計画に基づいた資源要望書であります。」

「毎年わざわざ手持ちで持ってきてもらってすまないね。」

 

そういいながらぺらぺらと速読する

内容といってもかさ増しされたものだ

例えば、戦車一両に対してどのような運用をするのかや、なぜそれが必要なのか、調達の値段は適正なのかという分析をしなければならない

 

 

一両づつだ

 

 

こんな七面倒くさいことになった原因は、以前も言ったように深海棲艦の侵攻が始まった時にさかのぼる

 

有効な手段を持たなかった世界はあっという間に危機に瀕した

イージス艦などはすぐに海に消え、陸上部隊までもが出撃し土となっていった

 

 

そんな中、戦後直後から進められていた艦娘の基礎が秘密裏で成熟を迎えようとしていた

 

 

当時まだ少将だった大沢が提唱した水上歩兵部隊による海域の奪回作戦

研究最初期に建造された吹雪、叢雲、漣、電、五月雨の5名が、日本近海の深海棲艦を掃討

その有用性を実証した

 

 

そんなデータがあれば当然予算組も変わる

 

シーレーンの確保のために水上歩兵部隊量産に予算の大半を振り分けられる

この過程で、国民に親しみやすくということで現在の艦娘という呼称に変更された

 

そして、シーレーンの確保が確実になって陸軍の再建が始まった

 

が、戦線が拡大していくため、軍全体に振り分けられる9割以上を海軍に持ってかれる始末

仕方のないこととはいえ、陸軍の再建など夢のまた夢

 

 

陸軍の将来を憂いた陸軍大将の古市は、シーレーンが安定し、かつ資源が湧き出る駿河諸島に自ら出向いた

窮状を訴え、提督に頭を下げて資源を融通してもらったことにより、ようやく本格的な陸軍の再建が始まった

 

 

 

古今東西、陸と海の上層部の間柄は悪いとされている

その中でも歴史上おそらく一番仲が悪かったのは日本の旧陸海軍だろう

武器のライセンスから弾薬の規格、果ては海は信用できないと陸が作った艦艇など上げたらきりがない

あきつ丸もその対立で生まれた一人ではあるが、今は置いておくとする

 

そんな仲の悪い組織だが、なんとその風潮が現在も脈々と受け継がれてしまっていた

 

その集大成ともいえるのがこの資源要望書だ

わざわざ見せしめのように一両ずつ理由を書かせるうえ、同じ理由でも書こうものなら即却下など嫌がらせの極みだ

 

 

 

「提督殿のおかげでようやく戦車は150両、その他戦闘車が50台まで再建できたであります。」

「そうか・・・・・・。」

 

そして、今期の増備は戦車と装甲車がそれぞれ50両と25両

あくまで、陸軍に今出番が少ないとはいえ心配な数字だ

 

「・・・・・・!あきつ丸君今回君はどれくらいの権限を古市大将から預かってきた?」

「権限でありますか・・・・・・?大将印を渡されていますのである程度の決定権でしたら・・・・・・。」

「そうかそうか。」

 

提督はソファーから立ち上がると、執務机に座った

何やらパソコンでカチャカチャとうち、プリンターに近寄る

 

 

 

「これにサインしてくれるかい?」

「これは・・・・・・?」

 

プリンターから持ってきた書類には、補修及び改修時部品の備蓄願いと書かれていた

 

戦車や装甲車、その他兵装の迅速な修理が行えるように現在の台数分の全部品を作ってストックしておくというものだ

 

ということは、有事の際には組み立てれば倍の数の車両が用意できる

今期の注文と併せれば、戦車400両、その他戦闘車は150両まで増える

これなら一気に深海棲艦侵攻前の自衛隊と名目上ではあるが同規模に並ぶことになる

 

 

 

「いいのでありますか?!」

「大丈夫大丈夫。上層部のやつらも自分で要求しておいて書類を読むのが面倒になってるからね。詮索もする気力がないさ。この要望書は一回で済むと思うよ。」

「・・・・・・言っては何ですが滑稽でありますな。」

「俺もそう思う。」

 

ちゃっかり保管方法についても、記載しないことによって組み立てても問題ないようにしておいた

 

 

 

 

 

あきつ丸から代筆のサインと印をもらい、書類を預かった

明日の朝一で大本営に回せるだろう

 

「話は変わりますが、その滑稽な奴らの企みの件についてであります。」

 

企みというのは、次の陸海合同戦略会議のことだ

ここで、桐月大将の元帥昇進の可否が審議される

 

「陸軍としては、反対するものであります。」

「そうか・・・・・・。」

「まだまだ桐月殿には海軍の舵取りの一人としていただきたいのであります。」

 

元帥昇進には、権限が強い海軍でも単体では押し通せない

陸軍側も賛成しなければ元帥へは昇進できない

このあきつ丸の言葉は、提督にとって朗報だった

 

 

 

 

そう、朗報だったはずなのだ

 

 

 

 

「・・・・・・あきつ丸君。君はどこまで古市大将から聞いているかね?」

 

険しい顔をした提督があきつ丸を見る

その表情に、あきつ丸は顔を曇らせた

 

「どこまでとは・・・・・・?」

「・・・・・・。近々両軍一致という項目が外れる可能性が分かったんだ。」

「なっ・・・・・・!それでは完全に我々陸軍は海軍のいいなりということでありますか?!」

 

声を荒げたあきつ丸に提督はゆっくりと息を吐いた

 

「虫のいい話ではあるが・・・・・・。陸軍には引き延ばしをお願いしたいんだ。」

「・・・・・・引き延ばしでありますか?」

「そう。上層部の連中も陸軍に一定の配慮をしている大将が上層部から離れるのは、反発されるのはわかり切っている。だから・・・・・・時間がかかっても海軍だけで成立させられる形に変更してくるはずだ。」

 

 

 

 

現行では、この会議で両軍一致が得られなかった場合、その案は廃案となっていた

それを、ある程度熟慮したうえで提出側の組織の8割が賛成すれば成立ということに国会で規定を変更するというものだった

国会までもっていかれては、陸軍にはどうすることもできない

議員たちは自身の票のために人気のある方を持つ

この間の事件で海軍の評判が悪いとはいえ、どちらの主張が通るかは結果を見るまでもない

 

 

 

陸海軍合同戦略会議が開催されるのは毎月15日

大規模作戦が勃発するXデーは2月中

 

いくら海軍でも、陸軍に事前通告なしに改正することはない

おそらく、15日の会議までには元帥昇進の案が新制度の対象になるようにするはずだ

 

 

 

 

再審議に取り掛かるまでの期間がどれくらいに設定されるかが重要だ

海軍側では、2~3週間を見ている

それを、1か月までどうにか引き延ばしてほしい

 

仮に、再審議中に大規模作戦が勃発してしまえば、議案は期限切れを迎え廃案となる

 

 

 

「しかし、それではまた落ち着いたときに議案が提出されてしまうのでは・・・・・・。」

「今上層部は大将を追い出すのに躍起になっている。反撃の材料収集のチャンスだ。」

「伸るか反るかでありますな。」

 

あきつ丸ははぁとため息をついた

しばらく沈黙が続く

 

 

 

「承知したであります。」

 

 

 

その一言に提督はあきつ丸の顔を見る

グッと口を真一文字にし、頷いた

 

「・・・・・・!ありがとう。」

「お礼を言うのはこちらの方であります。ここまで尽くしてくれた提督の頼みを断るなど名が廃るであります。」

「いやいや。この間の騒ぎの時も古市大将が配慮してくれただろう?」

「あの二人はいかがでしたか?」

「とても助かったって伝えてもらえるかな?」

 

あきつ丸はもちろんでありますと頷いた

 

 

 

一時間ほど歓談するとあきつ丸は時計を見やった

 

 

 

 

「っと。それとこちらを預かってきたであります。」

 

今度ははがきを一枚スッと差し出す

 

「・・・・・・げ。」

「どうかしました?」

 

隣に座っていた吹雪が、はがきをのぞき込む

朱色の枠のはがき

年賀状である

 

 

差出は両親から

新年のあいさつに添えられている内容は大体想像つくだろう

 

 

「帰らないのでありますか?」

「・・・・・・この戦況じゃちょっとなぁ。」

「まぁ仕方ないでありますね。ただ子の相手を見たいのは親の本心だとは思うのであります。」

「・・・・・・ゼンショシマス。」

「あ、遅れて申し訳ない。吹雪殿、ケッコンおめでとうであります。」

 

硬い表情を崩し、にこっと笑った

 

「ありがとうございます。」

 

吹雪もにっこりと微笑み返す

 

 

 

 

「ではそろそろお暇するであります。最後に・・・・・・。」

 

そういって、再度アタッシュケースを開けた

中から瓶を取り出すと、ごとりと音を立てて机の上に二つ置く

 

 

一つは真紅の色の液体

 

そしてもう一つは不気味なくらい明るい赤色の液体が入っていた

 

 

あまりの気味の悪さに、提督の顔が一瞬曇る

すぐに立て直し、触ってもいいかと聞くと、あきつ丸は黙って頷いた

 

赤色の瓶をとり、傾けたり、明かりに透かして見る

見たところ粘性はなく、普通の水

明かりはうっすらと通すことが分かった

しかし、透かして見ればそれは悪く見えた

鮮血の色を思わせてしまい、あまり気持ちの良いものではなかった

 

「これは、レイテ島に派遣された我々陸軍の部隊が持ち帰ったものであります。」

「・・・・・・なるほど。」

 

深海棲艦が海域を占領すると、海面は赤く染まる

何度か調べようとしたが、成分が濃いと思われる場所では悠長に採取の機会はほぼない

また、不思議なことに深海棲艦を追い払ったり撃沈すると霧散して消えてしまうのだ

サンプルの数は少なく、大本営の中でも特級の極秘にされている

 

 

 

今回の作戦でも、陸軍は飛行場整備のために各地へと派遣されていた

普段であれば、戦線から遠いところにいるのだが、今回はレイテ島で海上封鎖された時もあったため戦場が近かったのだ

長時間滞在していた陸軍は海軍がなかなか手に入れることのできなかったサンプルを大量に仕入れられたのだ

 

 

「この真紅の色をしたのが作戦海域で採取された海水で、明るい赤・・・鮮血のような色をした液体が濃縮した海水であります。」

 

あきつ丸は嫌な顔をして続ける

 

「正直自分はこの鮮血色の液体は見ていて不気味なのであります・・・・・・。」

 

本能的な警告だろうか

左側にいる吹雪がそっと自分に近寄ってきた

チラッと見ると、目は鮮血色の液体にくぎ付けだが、提督の腕を手繰り寄せている

 

不意に、鮮血色の液体が入った瓶が視界から消える

あきつ丸が瓶に布をかけたのだ

 

「詳しい分析結果はこっちの封筒に入っているであります。加古殿に・・・。」

「了解した。」

 

 

 

 

「それでは失礼するであります。」

「数日滞在するのかい?」

「ええ。本土への輸送船団の護衛として今度は海路で帰るであります。」

 

 

今から陸軍への物資の書類を処理すると、出発はおそらく3日後になるだろう

 

 

「のんびりと休んでリフレッシュしてから帰るであります。仕事を増やしている側が言うことではありませんが提督殿も休養は大事でありますよ。ミスの元であります。」

「耳が痛いな。」

 

苦笑いであきつ丸を見送った

 

 

 

 

「申し訳ないのであります!こっちを渡すのも忘れていたであります!」

「おっと?」

 

どうやらあきつ丸も人のことを言えたたちではなかったようだ




大変遅れました(;´∀`)
いろいろと多忙の関係で・・・


春のミニイベ(大本営発表)が始まりましたね!
ただいま白目向きながら食材を必死でかき集めております
休日のボーナスで何とかお茶は集まったものの・・・梅と海苔ぃ・・・

あと、福江も無事?・・・無事?着任させることができました!(※使用バケツ量620前後)

最近艦これでは踏んだり蹴ったりですが私は元気です(白目)

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