これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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前回のあらすじ 古鷹(時雨)と逃避行


駿河諸島鎮守府の清閑 その1

『ロシアの野望!?武器密輸団逮捕!』

『武器密輸組織一斉摘発!』

『ロシア政府のスパイ?それともテロ組織?』

 

 

いつものように書類を捌きながら提督は各社の紙面の流し見る

どれも、あの夜のことを知っている者から見たら重要なところが引っこ抜かれた記事だった

仙台から這う這うの体で戻ってから3日

切り離した月山の私室の15両目の新造を終え、今朝見送った

ついでにいろいろな機能を夕張が付け加えたそうだが、その処理やら三が日があけていつもより少し多めに来た艦隊の処理などで追われていた

 

 

カーチェイスの事はどの紙面にも書いていない

唯一、地方紙の隅っこに小さく鉄道の事故で朝の始発に少し遅れが生じたニュースだけが名残を残している

 

 

 

無事何事もなく(・・・・・)帰庁したことを九山少将に伝えるとそれは良かったという返事が返ってきた

聞くところによると、鳥海もあの後無事に戻れたようだ

 

 

そして

 

 

「失礼します!二航戦飛龍参りました!」

 

成り行きでともに来てしまった飛龍だ

処遇を聞くと、うちに置いてやってくれとのこと

 

ただし、簡易艤装以外についてはあちらにある

出撃などをするにはこちらで艤装を用意する必要がある

あちらから送られてくるのを待つというのもありだが、あのことがあった以上送ってもらうというのは危険だ

 

「それじゃ吹雪ちゃんちょっと開けるから何かあったら連絡頂戴ね。」

「はい!お任せください!」

 

 

 

 

執務室を出て、向かったのは工廠の隣にある倉庫群

その中のひときわ頑丈そうに作られた倉庫を開けた

 

 

突然だが、解体された艦娘というのはどうなるかご存じだろうか

解体といっても通常の鎮守府で行う解体は艦娘と艤装のつながりを断つ儀式のみだ

元艦娘となった場合軍籍を離脱するか、しないか選べるが今回はその話は置いておこう

解体され、持ち主を失った艤装は一度大本営に送られる

そこから、各拠点鎮守府へ送られ一定期間予備戦力として保管される

もちろんそれを上回ってしまうと本解体、つまり資源に戻すことになる

 

 

また、同一の艦娘が鎮守府に来たケースだ

 

といっても、そのようなケースは存在しない

建造、あるいは海域で初めて邂逅、あるいは鎮守府にその艤装を扱う艦娘がいない場合に限り艦娘が艤装を伴って現れる

もしその艦娘がいる場合は、艤装のみが建造、邂逅するようになっている

妖精さんに聞いてみても答えてくれないため、そこはいまだに解明されていない

 

 

話を戻そう

駿河諸島鎮守府も拠点鎮守府の一つだ

つまり、各艦の艤装が勢ぞろいしている

吹雪型、白露型、陽炎型などの駆逐艦の艤装からガングート、サラトガ、ザラなどの海外艦の艤装まで全種類が保管されている

 

 

「飛龍。君の練度はいくつだっけ?」

「80です!」

「80か・・・・・・そうなると改二の方の艤装だね。ついてきて。」

 

中には所狭しとあらゆる艤装が並んでいる

入り口から駆逐艦、軽巡、重巡と続き最後の戦艦のゾーンを抜けると、目の前には鉄扉が現れた

先ほどあけた鍵とは別の鍵をさしてあけ、中に進む

ここには、海外艦の艤装及び改二等の希少な艤装が収められている

 

「えっと飛龍改二、飛龍改二、飛龍改二・・・・・・あったあった。」

 

少しほこり被った状態であった

 

「なんか・・・・・・すごく多いですね?」

 

飛龍改二の艤装は4つ収められていた

対して、他の艤装は1つ、多くても2つしかない

 

「なんでか知らないけど飛龍のは多いんだよねぇ・・・・・・。隣の蒼龍なんて見てごらんよ。」

「え?・・・・・・うわぁ。」

 

4つどころか10個近く収納されているのを見て飛龍は思わず声を上げる

 

「毎月のように空きはあるか空きはあるかって聞かれてほんと困っちゃうよ。」

「なんかすごく微妙な気持ちね・・・・・・。」

 

再び倉庫に鍵をかけ、夕張が常駐している工廠へと顔を出す

 

解体された艤装は、拠点鎮守府にいる特殊な妖精さんでなければ有効化ができない

たまに、誤解体といって解体する予定ではない子の書類に解体の判を押してしまうことがある

すぐに代わりの艤装が手に入る子ならともかく、そうはいかない子も少なくない

諦めが悪い人は、たまに艤装を背負えるか試すものがいる

 

 

 

当然艦娘の力を失っているのだからぺしゃんこ・・・・・・にはならない

 

 

普通に動作するのだ

それをいい事に、過去に艤装が背負えるなら何とかなるだろうと出撃させたことがあるものがいる

 

 

 

結果、その子は帰ってこなかった

 

 

 

艦娘を保護する障壁が作動しなかったのだ

 

このことを教訓に、誤解体された場合はその鎮守府が着任希望をしている限り艤装が再入手されるまで内勤をすることになっている

 

 

 

「はい!有効化完了しました!」

「カンリョーデス!」

 

作業自体はごく短時間で終わるが、妖精さん曰く「ソンジョソコラノヨウセイニデキルワケナイデス」とのドヤ顔で返された

 

建造したてや、邂逅したばかりの新品は誰でもできるが、解体を挟んでしまうと事情が変わるらしい

簡単な調整をするため、飛龍を奥の小演習場へと案内する

 

 

 

「提督。少しお時間ありますか?」

 

飛龍を見送ると、夕張がカルテをもってこちらに来た

 

「ん?なんかあった?」

「榛名さんの艤装についてお伺いしたいんですが・・・・・・ここの予備艤装って試されました?」

「そりゃあ最初の方に試したな。・・・・・・うんともすんとも言わんかったけどね。」

 

あの時はまだデータを取ってなかった時期だから書類がないかもと提督は言い、ですよねぇと夕張が相槌を打つ

 

もちろんだが、艤装の不具合の可能性も疑い予備艤装の交換を何度も行ったが結果は変わらなかった

 

「じゃあやっぱり身体的な問題かなぁ・・・・・・。加古さんにちょっと検査依頼出しておこっと。あと、ここ半年以内で奥の予備艤装触りました?」

「いや?そんな記お・・・・・・あ、いや誰か触ったかもしれん。」

「誰ですか!少し前に点検した時調整がずいぶん偏ってたんですよ!!気づかなかったら起動したとき暴走しかない設定だったんですからね!」

「空襲騒ぎやら何やらですっかり飛んじゃってたわ・・・・・・。」

 

ついこないだの事なのにもうずいぶん前の事のように感じる

着任当初ののんびりとした時間が懐かしい

提督は遠い目をしていた

 

 

 

「最後に・・・・・・今度古鷹さんの艤装をちょこっとだけいじらせてほしいなぁって・・・・・・。」

 

先ほどの真面目な顔から少し崩した顔になった

大体こういうときは決まって碌な事・・・もとい面倒ごとを持ち掛けるときの顔だ

 

「今度は一体どんな改装する気だ。」

「古鷹さんの火力不足を補うための逸品です!」

 

ガラガラと白い布がかぶせられた台車が提督の目の前で止まる

夕張は嬉々としてその白い布を取り払った

 

 

 

「こいつは・・・・・・。」

「28㎝3連装砲です。」

 

28㎝3連装砲

 

ドイッチュランド級重巡洋艦(竣工時は装甲艦)の主砲である

当時の重巡を上回る攻撃力のために製造された主砲だ

戦艦より早く、重巡より強く

そのような設計構想の一端を担った主砲だ

 

 

 

「明石さんに手に入れてもらいました!」

「おいおい・・・これ古鷹積めるのか・・・?」

「それを実験したいんです!」

 

46㎝単装砲とか言い出さないだけましかもしれないが返答に迷っていた

と、ピーピーと無線の着信音が突然鳴り響いた

 

「ちょっとすいません。はい!こちら夕張!」

『夕張さんですか?涼月です。0番埠頭につきますのでお願いします。』

「はいはい!今行くねー!あ、ついでだし提督もちょっと来て!」

「おっおい!」

 

無線機を切ると、夕張は外へ駆け出して行ってしまった

提督はしょうがないなとつぶやくと、奥の小演習場に届くように声をかける

 

「ひりゅー!すまんがきゅーよーができたー!りゅーじょーをむかえによこすからくるまでここにいてくれー!」

「りょうかいでーす!!」

「全く・・・!」

 

外へ出れば、夕張がこっちこっちと軽トラから身を乗り出して手招きしていた

 

 

 

0番埠頭とは現在の農園部になっている旧鎮守府にあった埠頭だ

現在の鎮守府から離れているのと、大型貨物船が一隻はいるかどうかの大きさ

使用頻度を鑑みて、今の番号を変えるより0番を追加したほうが早いという判断をくだした

今は、農産物関係を2~3週に一度本土へ輸送するために中型の貨物船が入港するだけだ

 

 

 

0番埠頭につくと、夕張はさっさと降りて荷台の工具箱をあさり始めた

提督も車から降りると、ポンポンポンというどこか懐かしい音とともに一隻の見慣れぬ小さな船が入港してくるのが目に入った

 

 

「ゆーばりさーん!てーとくー!!」

 

 

涼月がこちらに向かって手を振っている

 

 

 

 

 

 

 

「話していた囮の漁船ってこれか!」

 

涼月が着任するときに使われて撃沈されたと報告した漁船は涼月の手によってひそかに島の未開発地域の沿岸部に隠されていた

着任処理も終わり、涼月の持ち場(農園部)に決まったところでようやく回航したということだ

 

「せっかくですし漁に出ようかなぁと。」

「で、エンジンとか船体の近代化改修を行おうって話になったんです。」

 

陸に引き上げられた船を見上げる

漁船としては大きめで重量的には10tといったところだろうか

あくまで遠洋漁船ではないため操舵室と簡易的な休憩所があり、船底には水槽があるくらいだ

船体にはフジツボがあちらこちらについており、底の塗装もはげかけている場所が見受けられる

 

「あー・・・・・・やっぱりエンジンにガタが来てますね。」

「時々怪しい音がしてましたがやはりですか。」

「いっそこのエンジンも換装しちゃいましょう。後船体も5メートルほど伸ばして小型クレーン設置・・・・・・。」

 

つなぎの胸ポケットからメモ用紙を取り出すとガリガリと音を立てる勢いで書き出していく

簡単な設計図と見積もりを取っているみたいだ

 

「はい!提督!」

「ん?・・・・・・おいおいなんじゃこりゃ。」

 

渡されたメモ用紙を見て提督は面食らった

 

「これじゃ新造したほうが安いんじゃないか?」

「とはいえ国内に発注します?造船所はいっぱいだと思いますが・・・・・・。」

「最悪うちで作るのは無理かい?」

「できないことはないですがいつになるかわかりません。造船ドックは輸送船の注文でいっぱいですし。」

「簡易建造ドックを作るというのはどうだ?」

 

国内の造船所は軒並み輸送船建造で大忙し

小型専門の造船所は、過去の深海棲艦のせいで船舶を発注する人が減った影響か国内に数件残っているかいないかレベル

どうせならば小型造船業に参入するのも手と考えた

 

「それもありだとは思うんですが・・・・・・今インフラ関係の妖精さんは再開発に出ているのでは?」

「あっ。」

 

皐月が警邏部兼任から外れたため、ようやくホテル、旅館街の再開発事業に着手したのだ

計画当初より寄港数は減ったものの、各基地、鎮守府から物を持ち寄り市場を開く計画は採算が取れるとして踏み切った

将来的に艦娘が退役しても社会へなじめるようにするための訓練も兼ねている

 

「改修であればそこまでしっかりとしたドックは不要なんです。」

「そういうことなら仕方ないな。だが、採算や改修費の方はどうなっているんだ?」

「それは問題ありません!」

 

はきはきとした声が後ろから帰ってきた

振り向けば、親潮が突然すみませんと会釈した

 

「涼月さんから頂いた計画書では、定置網設置と週に1度流し網漁、別日に2度釣り竿での通常の漁法を計画しているそうです。現在うちのおおよその消費量を賄え、かつ長期保存食を年間12tほどを無理なく生産できる見込みです。」

「なるほど。それなら妖精さんの人員を割いても釣り合いが取れそうだ。」

 

本土と隔絶する可能性がある諸島では自給率を上げるのは必定

魚貝類の自給率以外がほぼ100%の今更に推進して悪いことはない

 

「本来であれば今日の午後に司令に書類が上がる予定だったんですがたまたまそのお話をされていたので。」

 

親潮の手には農園部の書類がある

 

「明後日には改修が終わりますんで4日後くらいには報告書が上がると思います!」

「了解。じゃあ俺は戻るね。親潮も乗ってくか?」

「お願いしてもいいですか?」

 

 

夕張達と別れ、乗ってきた軽トラに乗って親潮とともに庁舎の方に向かう

 

 

 

「司令。運転中申し訳ないんですが皐月さんの方についてお話を。」

「市場のやつね。あれは工期が珍しく長いから結構かかるのよ。」

 

提督はギアを4速に入れると返事をした

 

出店要望が多かったため、各都道府県ごとに分けることになった

さらに、厨房が各店舗に設置することになったのだ

 

これは、飲食店をやりたいというのが全地区から上がったからだ

これが曲者で、一度はバックヤードに厨房を作ってそこで調理したものを店舗で提供というものを計画した

が、人がごった返している中料理をこぼさず運べるか、という問題がでてくる

他にも、食材の管理や各店舗に派遣される艦娘が入れ代わり立ち代わりするためルールのすり合わせに時間がかかるというデメリットもあった

 

出店希望側も、多少の負担がかかっていいから独立した厨房を持ちたいということで、工期と費用が掛かるが独立設計になった経緯がある

 

それに伴って、各出店地区が自分たちが使いやすいようにするために設計しているため設計図が上がってくるのが非常に遅い

 

いくら資材と素早くできる人員がいるとはいえ設計図がこなければ話にならない

 

 

「皐月さんも頭を抱えているようで・・・・・・。」

「こればっかはしょんないわ。ある程度の店舗工事代も持つって言ってるし、結果的にこっちの持ち出しが減ったからねぇ。」

「経理としてはありがたい事なんですが。」

「まぁそういっても仕方ないさ。こういう関係のは焦らず待つことが大事。っと少し飛ばし気味にきたからもうついちゃったな。」

 

減速とともにギアを落とし、工廠前に停車する

 

 

 

「近々小型造船の事業計画立てるかもしれないからそん時はよろしく頼むよ。」

「了解です!」

 

そんな会話をして、親潮と別れた

先ほど言っていた漁船の書類を持ってくるといっていた

時刻はヒトヨンサンマル

すでにお昼を過ぎて、間食休憩の時間である

 

「げっ閉まってるし・・・・・・。」

 

執務室の扉はガチャガチャと開く気配がない

中に向かって吹雪ちゃんと叫ぶが、返事はなく静まり返っている

誰かに休憩で連れ出されたのだろうか

 

「仕方ない部屋で待つか・・・・・・。」

 

そうボヤいて、隣の私室の扉に手をかけてノブをまわす

が、こちらもガチャガチャ音を立てた

 

「へ?なんで?」

「しれい!大変です!!」

 

慌てた様子で親潮が走ってくる

手には、何やら紙を持っていた

 

 

 

 

 

『3日間の休養を命ずる 古鷹、時雨、阿武隈』




いい加減レイテは入れよと思われそうですが嵐の前の日常編です(´・ω・`)
3話くらいを予定してます

ラバウルの方でDBの方のトラブルがありましたが皆さまは大丈夫でしたか?
外部からの襲撃なのか運営のミスか発表されていませんが1日の巻き戻しで済んでよかったとショートにいますがほっとしています
もし外部の襲撃であれば明日のアプデも怖いところ・・・
何事もなく終わることを祈っております

夏イベの断片的な情報が発表されましたね!
また欧州・・・
ランカー装備から実装艦はネルソン級のどちらかとフッドで後段モチーフはライン演習→ビスマルク追撃戦が濃厚と出てますがどうなることやら・・・

というより前段の情報が欲しぃ・・・

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