これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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※前回のあらすじ 提督は親潮とイイ感じと戦艦駆逐登場?


駿河諸島鎮守府の清閑 その3

「ほっ!」

 

提督は軽く振りかぶった

 

掛け声の少しの間の後に、ポチャンという音と水しぶきが少し離れた薄暗い海面で上がる

シュルシュルシュルという音が収まるとベイルを畳んだ

ハンドルを少し回し、竿を軽くしならせるとスタンドに置いた

 

もう一つは振りかぶらず、そっと振って水面に落とす

 

 

一通り終えると、簡易椅子に腰を掛けた

 

 

予報通り、寒さが和らいでいるため外にいても幾分か過ごしやすい気温だ

しかし、海風は季節柄強く提督はブルりと体を震わせ身を縮こまらせる

 

海に背を向け、手で風よけを作りやっとやっとで火をつけたタバコだが風の強さで少し苦くなり顔をしかめた

 

2、3口吸って携帯灰皿に落とし消す

 

 

辺りに人気はないが、向かいの市場からは賑やかそうな声や音が聞こえる

その様子をボヤっと見ながらつぶやいた

 

 

「誰もいないから出ておいで。」

「・・・・・・ばっばれちゃった。」

 

 

海面の一部がグニャグニャと不自然に揺れ、人型に変わった

そして、一瞬まばゆい光を放った

 

 

 

「ほい、お茶。」

「ありがとうございます・・・・・・。」

 

近くに転がっていたビールケースに腰かけているのはリ級だった

提督は水筒から温かいお茶を入れて渡し、提督はおにぎりを食べ始めた

 

「おにぎりもあるから自由に食べて頂戴な。」

「・・・・・・聞かないんですか?」

「まぁ気にはなるけど逃げ出す感じじゃないしねぇ。」

 

 

 

ここはもちろん駿河諸島ではない

御前崎港の一角だ

 

休日をどうしようか考えた結果、たまたま旅館の自室で目に入った釣り竿と今日の気候で決めた

親潮と一緒に朝早く零水偵で駿河諸島を出発

提督は御前崎港、親潮は焼津港で降りて焼津駅から電車に乗る事になった

 

リ級は、夕張から借りた艦娘専用特別ギリースーツを着て提督の乗った水偵の後をついてきたのだとか

 

 

 

「提督は釣り好きなの?」

「ん?んー・・・・・・。」

 

唸りながら仕掛けをあげ、餌を付けなおすと再び放り込んだ

 

「昔、家族でよくこういう港で朝から釣りをしてたんだよ。」

「家族で?」

「そう。多分父親が趣味でやっていたのを体験でやらせたかったんだろうね。それからよくいってたのさ。」

 

もう一本の竿は上げ下げすると再び置いた

 

「楽しかったの?」

「うーん。釣り自体が好きというよりかは土日の家族団欒って感じかな?」

「?」

 

 

海を見ながらご飯を食べて、小腹がすいたらお菓子やジュースを飲む

しかし子供は飽きやすいもの

魚がかからなければ30分もしないうちに今度は散歩に行こうとせがんで他の人の釣果を見たり、他の家族連れがいればその子たちと遊んだり・・・

 

昼になれば魚の食いが悪くなるため家に戻る

2~3時間昼寝をして、母親は釣った魚の調理

自分はというと父親と一緒に釣り道具の手入れの手伝い

 

 

 

「楽しそうだね・・・・・・。」

「楽しかったさ。今はもうできないけどね。」

 

それを言うと、リ級は悪いことをしたという表情を浮かべる

 

「ああ!違う違う!母親が仕事始めたり、父親の配置転換で家族の休みが合わなくなったからできないってだけよ?」

 

慌てた様子の提督から聞いたリ級は、ほっとした顔をした

 

「そもそも、今年の年賀状で顔出せなんて書いてるくらいだからな?」

「そうなんですか?」

 

こうやって散発的にしか休みないから無理だけどね

釣り針に餌を付けなおし、再度水面に放る

 

「今はどちらかというと釣る楽しみというよりは海を眺めてぼーっとするほうが好きになったけどね。」

「・・・・・・それって楽しいんですか?」

「楽しいというより心が休まるのさ。」

 

ふーんと相槌を打つと海を眺め始めた

 

 

 

「私ね・・・・・・ル級様・・・ううんお姉さまがすごくうらやましいの。」

 

リ級がぽつり、しゃべり始めた

 

「やりたいことがあってそれがかなっている今お姉さまは幸せそう・・・・・・だけど私には・・・・・・。」

 

しょぼんとした顔でうつむいた

長い人生・・・・・・艦生?

どちらでもいいが、こういうことはのんびりと見つけるものだ

しかし、周りが見つけて謳歌していると不安になってくるものだ

 

果たして自分は見つけられるのだろうかと

 

「じゃあ何かにチャレンジしてみたらどうだ?」

「?」

「何事もこういうのは見つかるまで探し続けるのが大事さ。探さなきゃ見つからないものだしね。」

 

竿を手繰り寄せ、少しリールを巻くと提督の表情が変わった

少しリールを巻いては、竿を軽く引く

そんな動作を少し繰り返し・・・・・・

 

「ヒット!」

 

竿をぐんとしならせ、リールを巻く

竿を持ち上げるたび、海に引き込まれそうなほどしなりながら竿の先がビクビクと振動する

 

2,3分して、水面に白い影がひらひらと舞うのが見えた

 

「リ級、網で掬って!」

「えっ!あっ!はっはい!」

 

水面に浮かんできた魚を掬い、地面に置く

平たく右に目が寄った魚、30㎝もあるカレイだ

 

「生きがいいな!どれ・・・・・・。」

 

提督は、道具箱からナイフを取り出すと、エラに差し込み切断した

 

「こうしないとまずくなっちゃうからな。」

「へぇー・・・・・・。」

 

 

水の入ったバケツにカレイを放り込んだ

 

 

「あら?ずいぶん珍しい顔がいるわね?」

 

 

カツカツとヒールの音を高らかに響かせこちらに歩み寄ってくる艦娘が1人

黄色のリボンにピンクのロング、そこはかとなく大正の雰囲気をまとった子

 

「駿河諸島の司令官がなんでまた?」

「神風君か・・・・・・。」

 

不思議そうな顔で提督とリ級を交互に見る

少し上を見上げほほに人差し指を当てた

 

「大方強制休暇でも取らされたってところかしら?」

「正解。神風君はどうしてまた?」

「散歩。配置換えがあるから地理を再確認したいと思って。」

「配置換え?神風君が?」

 

彼女は御前崎基地内でそこそこの古株だったはず

ケッコンこそしていないが、御前崎の司令が配置換えを考えるとは思えない

 

「私も少し自由になりたかったのよ。ひょっとしたら出会えるかもしれないじゃない?」

 

ふっと笑みをこぼしてウインクした

予定では新年度より基地管轄内の御前崎灯台管理の秘書艦として異動するとか

 

「新人さんを案内するためにはしっかり把握しておかないとね。」

「神風君がいれば大丈夫だな。」

「あら?お世辞でもうれしいわ。そろそろ行かないとだから失礼するわね。」

 

去り際に、小声で

 

「その子のことは黙っておいてあげるわ。あなたも気を付けなさいね。」

 

耳打ちした後、リ級のあたまを軽くなでると立ち去って行った

 

 

 

「こっこわかった・・・・・・!」

「最初は殺気をガンガンに飛ばしてきたねぇ。ま、帰ったら鳳翔さんにでもさばいてもらって一杯やろう。」

「だ・・・・・・あれ?」

 

リ級は何かを言いかけ、はたと止まる

 

「どうした!っと。」

「私今何を?」

 

首をひねっているリ級に、提督はとりあえず帰ったら鳳翔さんところで一杯やろうといい、それに頷いた

 

「でも釣りは・・・・・・もうこりごり・・・・・・かも。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練艦清霜!入ります!」

 

緊張の面持ちの清霜が執務室に入ってくる

期待と興奮、緊張

すべての感情があふれだしているのが吹雪から見てわかった

 

今日の訓練は吹雪が担当することを叢雲が伝えるとこらえきれず、そばにいた霞に

 

「霞ちゃんありがとー!!」

「ああもう!人前でやめなさいったら!吹雪に失礼でしょ!っていうか吹雪と叢雲に言いなさいな!」

 

そんな様子を吹雪は微笑ましそうな顔で叢雲ちゃんみたいだねと言い、半分呆れ顔の叢雲が「私あんなんじゃないわよ?」と返した

 

 

 

 

「んで?どうなのよ?」

「うん。優秀だね。」

 

タブレットを見ながら吹雪は答える

沖合での砲撃訓練が映し出されており、ふんふんと頷いた

 

「これなら私が指導しなくてもいい気がするけど・・・・・・。」

「あの子はあんたの砲術を身に着けたいのよ。戦艦の装甲をも貫く砲術を。」

 

 

だよねぇと難しそうな顔で答えた

長門にも教えては見たが、100%にすることはできなかった

最も、長門が普段扱うのは大型口径

多少ズレたとしても大勢に影響は出ない

 

 

が、小型口径ではそうもいかない

もともと着弾時の熱を利用し、すぐに次弾を着弾させることで装甲を打ち抜くのが吹雪の持ち味だ

 

 

 

 

 

「どうですか?!吹雪さん!」

「うん!清霜ちゃんは優秀だね。これなら実戦に出ても活躍できると思うよ?」

「本当?!戦艦みたいに打ち合える?」

「うーん・・・。」

 

吹雪は苦笑いをし、清霜は不安そうな顔をした

 

「吹雪さんみたいな砲撃を私もしたいんです!」

「そうだなぁ・・・・・・。それはちょっと難しいかな?」

「そんな!」

 

清霜が悲痛な叫びをあげる

いったいどんな練習をすれば

そう言いかけた時、吹雪は清霜の口に人差し指を当てた

 

「だけど戦艦みたいな活躍はできるよ。」

 

そういうと、叢雲にあることを耳打ちした

叢雲は首をかしげながらも了解したわと言って無線で連絡をした

吹雪は、海面に降りると清霜の手を取った

 

「さ!行こう!」

「はい!」

 

 

 

 

「ここってさっきのところですよね・・・・・・?」

 

離れたところに演習用の的がいくつも浮かんでいる

霞が少し背伸びして何か手を施しているようにも見える

 

「清霜ちゃんちょっと貸してね。・・・・・・かすみちゃんはなれてー!」

 

清霜の持っていたD型砲を借りると、霞に呼びかける

霞は片手だけ上げると的から離れていった

 

吹雪は照準を合わせ、引き金を引いた

 

 

 

もちろん命中・・・・・・したがそれは中心からは大きく外れていた

 

「・・・・・・よし。」

「よしって・・・・・・吹雪さん外れてますよ?」

「ん?これでいいの。かすみちゃーん!」

 

吹雪の呼びかけに、的の確認をしていた霞がこちらに来た

 

 

 

 

「やっぱり実力は本物ね。」

「?」

 

開口一番霞の言葉を聞いて清霜は訳が分からないという顔だった

 

「吹雪からの指示で的にこれを貼っていたの。」

 

取り出したのはどこでも売っているシール

大きさは1㎝あるかどうか

 

「ひょっとして?!」

「きれいに貼ったところのど真ん中を打ち抜いたわ。」

「・・・・・・でもこれが何の意味を?」

「今回霞ちゃんにシールを貼ってもらったのは的の上の方。敵だったらどこの部分かわかる?」

「えっと・・・・・・頭?」

 

吹雪は頷いた

 

「敵の頭部には電探機能が備わってる。その視野を奪うの。」

「でもそれじゃあ吹雪さんみたいに・・・・・・。」

「今すぐには無理だけど、これができるようにならないことには私みたいにできないよ?」

「やります!」

 

 

キラキラした目で練習を始めた

 

 

「これでほんとにいいのかしら?」

「心配なの?」

「ちっちがうわよ!ええと・・・・・・!」

「ふふっ。・・・・・・今すぐは無理でもいつかきっと実を結ぶはずです。司令官は信じて待ってくれましたから。」

 

柔らかい笑みを霞に向けるとばつが悪そうに霞は返した

 

「じゃあ私が待ってるわ・・・・・・。感謝するわね。」

「素直になったほうがいいと思うけどねー。」

 

霞が聞こえないくらいの小さな声でボソッとつぶやいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あきつ丸!彼に電話はつながったかね?」

「それが・・・・・・。全く音沙汰無しで。いっそ駿河諸島に直接電話を・・・・・・。」

「それはならん!今彼とのつながりが分かっては彼に負担をかけてしまう!」

「しかし!それではこれはいったいどうすれば・・・・・・。」

 

古市とあきつ丸が顔を突き合わせていると電話が鳴った

 

 

 

『臨時陸海合同戦略会議が間もなく始まります。古市殿そろそろお席に・・・・・・。』

『わかってる!今から行くから!』

 

 

 

半ばたたきつけるように受話器を置いた

 

 

 

「こうなったら仕方ない・・・・・・。あきつ丸。すぐに支度して駿河諸島へ向かってくれ。」

「了解であります!」

 

 

大慌てで出て行ったあきつ丸と反対の会議室へと古市は向かう




北海道方面と関西方面の方は被害は大丈夫でしたでしょうか?
ツイッターなどで流れてくる情報を見て今年は災害が本当に多い年だと改めて実感している作者です


さて艦これの方では海域リセットがされました
作者は少しでも勲章が欲しかったがために8月中に再攻略を完了させ、ついでにこれはランカーも行けるんじゃないか・・・?
なんて色を出して7-1を延々と周回しておりました
(ぶっちゃけてしまいますとそのせいで遅れが・・・・・・)

全体的に羅針盤より固定ルートのほうが増やされ1期よりボス到達率や攻略しやすくなったと実感しております
その反面変動制の経験値になったが故レベリングポイントが軒並み低効率になっておりその子ポイントが残念だなぁとも思っていたりします

そして今日からイベントですが本編はようやくレイテ後編へ(まだ序章)突入!(おっそーい)

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