これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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※前回のあらすじ 時間稼ぎ成功と弱気、そして・・・?


駿河諸島鎮守府とレイテ沖海戦 幕開け

2月14日 バレンタイン

 

海外では男女問わず親しい人や恋人などに贈り物をする日

日本では女性が男性にチョコレートを贈る習慣がある

 

毎年、駿河諸島でもささやか(?)な形でやっているが、今年は違った

卓上カレンダーには、ずっとバッテンが付けられていた

 

そして、壁のル級お手製鳩時計がなくと同時に、14日にバッテンがつけられた

 

提督は静かにサインペンを置くと大きなため息をついた

 

 

 

ル級とリ級、ヲ級までが命を削ってまで引き延ばしてくれたタイムリミットまであと2日

正確には16日の12時に始まる会議で決がとられるので1日半

 

 

ギリギリまで待っては見たがこうなっては仕方がない

おそらく向こう側も砂安中将への移行を半分は終わらせている頃合いだろう

 

だが圧倒的に時間が足りない

それなのに、打開策はすでに出し切っている

 

 

 

・・・・・・寝よう

提督はそう頭で考えた

ひどい顔を見せてまたいたずらに皆を心配させてはいけない

 

 

 

 

軽く片づけを終え、部屋を出よう扉に手をかけた時、ベルの音が鳴った

 

 

 

 

 

 

一瞬何が起こったのかわからなかった

机の上の電話が、けたたましく鳴っているのに気づくと同時に走り出していた

 

 

「もしもし?!」

『てっ・・・・・・提督ですか?飛龍です。』

「・・・・・・何かあったのか?」

 

提督の食い気味の声に驚いたのだろう

内線だったことに気が付き、露骨に声のトーンと肩を落としながら内容を聞く

 

『それが、ブルネイ泊地より入電がありまして連絡部隊の受け入れの要請が・・・・・・。』

「それは本当か?!」

 

 

 

 

間に合った

 

 

 

 

提督は安堵した

 

が、ある違和感を感じる

 

 

「ってなんでうちを経由するんだ?メーデー時や給油関係ならまだしも・・・・・・。」

 

おそらく陸攻や二式大艇を使うはずだが、航続距離を鑑みても関東近郊の飛行場に届くはずだ

 

『それがどうも向こうの飛行場の枠がないそうで・・・・・・。』

 

電話を肩に挟み、机の上に置いてある15日付で処理をする書類をあさると、原因が出てきた

本土の陸上戦闘機部隊を15日からブルネイ、タウイタウイ、パラオ等に回送するという通達だった

本来の日程であれば、大将の案件が片付いて終わっている手はずだ

空域のダイヤグラムというのは非常に緻密であり、一度決定したことを変更するのはよほど切迫しない限り難しい

そのため、大将の案件が片付いてからという目算が狂い、忙しい時に回送することになっても変更が効かないわけだ

 

 

最も、それは現状ではこちらの足枷にもなっている

 

 

情報漏れを防ぐ観点から、2月に入ってからは無電は封鎖されている

最速で大本営に伝達するには着陸可能で一番近いうちで一度降りて、そこから海路で行くしかないということである

 

「分かった。許可する旨を伝えてくれ。ああそれと、出発時刻と到着予想は来ているか?」

『明朝マルロクマルマルに出発して、ヒトハチマルマルに到着予定だそうです。』

「・・・・・・。分かった。ありがとう。」

 

そっと受話器を置くと、冷たくなった椅子に腰を掛けなおした

 

 

多めに見積もって到着時刻は20時

事情を説明して出発できる時間は22時くらい・・・

そこから吹雪に任せて飛ばしてもらって横須賀着が翌1時過ぎ

 

間に合うが完全な滑り込みだ

深夜番の将校だけでは判断できないため夜が明けてから対応策が決まることになるだろう

 

ブルネイ泊地からの報告とレイテの疑似再現であればパラワン水道関係

おそらくブルネイ、リンガ、タウイタウイの3泊地の勢力で対潜哨戒くらいであれば初動の対応できると判断される可能性が高い

シブヤン海、エンガノ岬沖、レイテ湾の3か所も動きがあるだろうが今回の報告に入っているかは不明だ

 

もう一手ほしい

 

 

今のままでは、作戦本部設立に割いて足りない人員を、本州の飛行場に配置された将校を呼び戻すことで決議を有効化できてしまうだろう

数時間の時間稼ぎでは意味がない

 

 

 

「・・・・・・。」

 

天井を見上げるのをやめ、自室につながる扉を見やる

じっと目を離さずに、机の一番下の引き出しを開けた

最初に手に触れたベレッタを取りだす

一つ上の引き出しからマガジンを取り出し、込めると扉に向けた

 

 

 

カチッカチッカチッカチ

 

時計の針の音がいつもより遅く聞こえた気がした

長い時間がたったように思えるし、そうでもないのかもしれない

 

気のせいかと銃を降ろそうと考え始めた時、ゆっくりと扉が開いていく

 

吹雪より少し背が高く茶色い髪のツインテール

空色のポンチョにロシア帽をかぶった子が腕組みをして不敵に笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん!気を付けてね!」

 

つらそうに顔を引き締め、吹雪の両手をしっかりと握る

 

「はい!頑張ります!」

 

それに答えるかのように吹雪はぎゅっと笑顔で握り返す

会話もそこそこに厚着をした吹雪が水面を滑っていき、鉛色の海へと消えていった

私のほうが早いのにと先ほどまでむくれていた連絡部隊隊長の島風が、はっやーい!と興奮しており、そばにいた夕張に秘密を聞いていた

推定で45ノットから50ノット

近海かつ、上空の哨戒機をまわしているとはいえ単艦で吹雪を送り出したことに後ろめたさがあった

とはいえ、船団を組んでいてはその平均値に合わせられてしまう

今は一分一秒が惜しい

 

質問攻めに、夕張が困った顔で提督に助けを求めていたが、話せる範囲のことは話していいよと耳打ちをしそそくさと執務室へと退散した

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ同志。おかえりなさい。」

「よくまぁのんびりとしていられるな・・・・・・。」

 

相手はリラックスした様子で執務室のソファーに腰かけて優雅に紅茶を飲んでいた

外套とマフラーを外しハンガーポールに掛け、反対のソファーに座った

カップとソーサーを机の上に隅に置き、真っ黒なアタッシュケースから数枚の書類を取り出すと、提督に見やすいように渡す

 

 

 

「なるほどなるほど。・・・・・・で?タシュケント君。君の権限はどこまでなのかな?」

 

名前を呼ばれると、少し考えこむようにして君付けはいらないんだけどなぁと呟く

 

「まぁいいや。全権をもらっているから信用してもらっていいよ。」

「・・・・・・。」

 

書類の内容は、ロシア政府から技術提供の依頼だった

妖精さんを使った油田、ガス田や炭鉱などの技術を輸出してほしいという依頼だった

代わりに、このタシュケントを駿河諸島鎮守府への転属扱いとし、自由に使っていいということ

そして、産出資源の利益1割を受け取る権利だった

 

ロシアは資源大国だ

ガス田、油田、炭田など主要なエネルギー資源が山のようにある

深海棲艦が現れるまでは資源価格で国庫が左右される傾向があった

 

しかし、深海棲艦が現れてからは一転した

油田地帯の中東は欧州と寸断され、欧州では資源不足が深刻化した

というのも、北海油田の施設が深海棲艦によって破壊されてしまったのが大きい

他に欧州の鉄道がつながっている範囲で石油を産出しているのはロシア以外ではルーマニアだけだが

残念なことに産出量が少なく、国内分を賄うのでさえ不可能

 

よって、欧州各国は一時ロシアに全エネルギーを依存していたという時期がある

最近になって艦娘たちの海上護衛船団を組み、ある程度の量は中東やアメリカから輸送できるようになったので今は独占は解消されている

が、こちらのように欧州勢の新艦娘開拓は進んでおらず人手は足りていないのが実情だ

遠征失敗もたびたび起こる関係上、艦娘の技術を持たない国は依然としてロシアに依存している

 

 

 

今まで諸外国には、妖精さんは決まった仕事しかできないと説明してきた

うちのように、技術を転用して仕事をしてくれる妖精さんは少ないのだが、いないわけではない

 

もし、妖精さんを使用できればコストダウンができると考えたのだろう

北海方面の制海権が奪還されつつある今、北海油田が再稼働し、せっかく拡大したシェアを削られないための策だろう

 

 

 

 

「しかし、それをこちらに持ち込まれても困る。大本営を通してもらわないと。」

「ふふっ。わかっているんでしょ?」

「・・・・・・。」

 

ジロリとタシュケントの顔を黙って見る

相変わらずニコニコとした顔を崩さない

 

しかし、しばらくして少しむくれた顔になった

 

「もう!仕方ないなぁ・・・・・・。この協定はあたしと君の間で結びたいんだ。これでいいでしょ?」

「・・・・・・なるほど。」

 

 

 

提督が一番欲しかった言葉だ

訳すればロシアとうちの間の協定になるし、それを相手から切り出し言わせた

提督が一番欲しかった最後のピースがそろった形になった

 

「いいだろう。ただし、妖精さん関係の技術は最低でも数年以上をかけての輸出になるがいいかな?」

「うん。それくらいなら大丈夫さ。」

 

タシュケントに出された書類に目を通していく

一番上には、ロシア大統領のサインが入った特命全権大使の委任状があった

 

 

 

 

 

タシュケントが書類をまとめ封筒に入れて封蝋をした

 

「・・・・・・そういえばタシュケント君はいつからここに潜り込んでたんだ?」

「君はいらないよ?同志提督。12月からかな?」

「なるほど、あのロシア船の事故の時か。」

「そうそう。でももぐりこんだはいいものの警備が厳重すぎてねぇ・・・・・・。核心をつかむものは何一つ入手できなかったよ。」

 

参った参ったといいながらけらけらと笑っていた

川内がここ2,3か月ピリピリさせていた原因が分かったとともに、やっと少しは気を抜けるのだろうなと心の中でお疲れ様とつぶやく

盗まれなかったとはいえ、姿を一切つかませなかったのには感服する

 

 

 

「ああそうそう。同志が喜びそうな情報があるんだ。」

 

ポケットから一枚の紙切れをよこしたと同時にノックが響く

 

「司令。タシュケントを迎えに来た。案内担当の磯風だ。よろしく。」

「タシュケントだよ。よろしくね。」

 

内線で磯風に見回りついでの案内を頼んでおいた

それじゃあまた明日ねと言って磯風と出て行った

パタパタと足音が遠ざかったのを確認して紙の内容を確認した

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だって?!ロシアとアメリカが臨時首脳会談?!」

「どうしましょう・・・・・・。」

 

須下が忌々しそうに舌打ちをしながら手元の紙をぐしゃぐしゃになるほど握りしめる

 

「よりによってこのタイミングでベーリング海なんぞに赴かねばならん!」

 

会談が行われるのはロシアとアメリカの国境付近にあるリトルダイオミード島

どちらか片方が会いに行くというのは今のご時世不公平である

日本も欧州もアメリカ側が長距離の区間を制空権が怪しいところを飛ばねばならない観点から無しになった

もっぱら会談が行われるのは大体リトルダイオミード島だった

会談中は哨戒部隊として実務的にも儀礼的にも格のある艦隊を派遣しなければならない

米露両国からの要請もあるため断ることは不可能だ

 

「航空隊の回送がもう少しずれていれば何も問題なかったのだが・・・・・・!」

 

航空隊の回送の関係で明日の最後の決議にはギリギリの人員しか用意していない

それなのに無情にも会談は明日からスタートする

とにかく急ぎ艦隊を送り、下見と偵察を行わなければならない

 

 

「いえ!まだです!」

 

 

報告に来た側近が詰め寄る

 

「会議を18時に変更しましょう。航空隊回送が終わった本州の人員を呼び戻せばギリギリ有効人数が足りるはずです!」

「・・・・・・よし!やってm」

「失礼します!ブルネイ泊地より急報!」

 

須下は電話を持ったまま固まった

 

まさか・・・・・・駿河の・・・・・・

 

目を見開いて息を切らせた様子で飛び込んできた吹雪を見ながら言葉を絞り出す

 

 

 

 

 

 

「パラワン水道付近にて敵潜水艦の目撃多数!また、シブヤン海、エンガノ岬沖、レイテ湾などでも深海棲艦が集結の傾向あり!至急戦闘態勢及び作戦本部を発足されたし!」




19冬イベの終了と同時に18冬イベの話題をしている今日この頃(´ω`;)

次回も新艦の登場がある・・・かもしれない?(あと更新をもう少し早くしたい)


というわけでお久しぶりです
丸っと2か月以上空いてしまいましたw
年末から年始にかけて忙しく、なかなか更新できませんでした(;´・ω・)
年末には閣下動画勢の方でコミケついでのオフ会でとても楽しい時間を過ごしておりました(*´ω`*)
さて、本日冬イベの方は終了ですが皆さまはどうでしたでしょうか?
作者は17春以来のオール甲をラスダン一発で達成し、堀の方でもジョンストンが削り一発、早波が堀10回程度で来るなど新春のJAZZイベントで引いた吹雪のおみくじのご利益があったなぁとしみじみ思っております

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