これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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前回のあらすじ 時間稼ぎ滑り込みで成功と北の国との密約?


駿河諸島鎮守府とレイテ沖海戦 前編

「また派遣するのかい?!」

 

時雨が机を力強くたたいた

あまりの強さに机の置物が少し浮きあがった

 

「まぁ落ち着いて。話は最後まで聞きなさいな。」

 

サインをし終えた書類を決済済みの山に乗せる

それを見て、親潮が引き取って出て行った

 

手近の封筒を手繰り寄せ、折りたたまれた海図を出す

 

 

「今連合艦隊は大まかに3手に分かれて活動している」

 

 

 

主力である連合艦隊はブルネイ泊地を出向してパラワン島を右手に進みながら周辺海域の制海、制空権を取りに行っている

取れた場合、ノースイースト島やナンシャン島に臨時泊地を設置し、そこを拠点に再度東進

レイテ湾を目指すことになっている

 

連合艦隊の別動隊である西村艦隊は同じくブルネイ泊地を出向するとパラワン島を左手に見ながら東進

姫級の存在がいなくなったとはいえ、うじゃうじゃいる戦艦群の撃滅、再突破に向かう

 

そして、過去には翼を持たぬ囮部隊と言われた機動部隊

この艦隊がエンガノ岬で敵機動部隊を引き寄せながら、叩きのめす

 

「で?僕はまた西村艦隊としてかい?」

「いや、これはあくまで現在の進捗だ。」

 

提督はペンである島に丸をする

 

連合艦隊がシブヤン海周辺の制海権を確保したら予定ではレイテ湾に突入する

 

「西村艦隊がボホール海の制海権を確保すると、このカガヤン・スル島が拠点になる。ここから友軍としてレイテ湾に向かってほしいんだ。」

「・・・・・・その間の僕の業務は?」

「八丈島の瑞鶴さんに応援を頼んであるから大丈夫。」

「分かったよ。なるべく重要な仕事は終わらせておく。」

 

やれやれといった雰囲気で足早に扉に向かって振り向いた

 

「もしかしてだけど他にも要請来てる子いないよね?」

「・・・・・・。磯風と長波だな。」

「どうするの?」

「彼女たちはまだ事務関係に深く携わってないから何とかなるさ・・・・・・多分。」

 

少し考えた顔をしたが、無駄だとわかったのだろう

無茶はしちゃだめだよと言って出て行った

 

 

 

「悪い!みっちゃん!やっぱ駄目だったわ!」

 

 

 

入れ替わりに入ってきた深雪が苦々しい顔をしていた

深雪には応援として過去の卒業生の中からこれそうな人を探してもらっていた

 

悲しいかな

予想通りといえばその通りだ

 

「みっちゃん・・・・・・。川内さん戻せない?」

「こればっかりはなぁ・・・・・・。」

 

元帥昇格が一時凍結の扱いとなり、一息付けたものの結局この海戦が終わり次第審議が再開されるという運びだ

それを阻害するためには中核にいる須下中将を落とすことが重要となる

幸いにも、過去の余罪からして軍から追放は間違いないと思われる

 

現在念を入れるため、川内が潜り込み確実な裏を取りに行っている

 

 

「仕方ないからあきつ丸に頼んで陸軍の憲兵隊をまわしてもらってパトロールを任せよう。」

「重要区画はどうするのさ?」

「そこは・・・・・・やっぱり一人は割くか・・・・・・。」

 

パトロールの人員を事務方に回せる反面、機密の宝庫であるここに別の組織の人間を入れるという前例を作ることになるのでできればやりたくなかった手ではある

が、タシュケントという前例がある以上警備をおろそかにするわけにはいかない

 

「なんか呼ばれた気がしたから来たよ?」

「おう呼んでないぞ。」

 

後ろからと突然ひょっこり飛び出してきたタシュケントの頭を冊子でペシンとたたく。

 

「んじゃああきつ丸に連絡とってくるわー。」

 

 

 

 

 

 

「んで?いつまでいるのよ。」

「いちゃダメなのかい?」

 

 

コテンと小首をかしげるあざとい動作に軽いため息をつくと、ニヤリと笑った

 

 

「これもダメかぁ。」

「ほんとになんなのさ?」

「いやぁ祖国から提督のことを篭絡しないと帰れないからねぇ。その努力。」

「ワーメッチャカワイイワーホレチャッター」

「いくらなんでもそれは無理があるなぁ。」

「何か腹に一物抱えてるやつはこうするに限る。」

 

舌打ちをしながら煙草をくわえた

それをじっとタシュケントは見つめる

 

「・・・・・・。」

「さ、他に何かなければ補給部の手伝い・・・・・・。」

「同士はなんで人権にこだわるんだい?」

「ふぉい?」

 

予想してなかった言葉に思わず変な声が出た

 

「自由という権利と義務の裏には何が付いているのか知っているかい?」

 

いつもの何か腹に抱えている雰囲気は感じられない

 

「自分で決めていく意志がなければならない。」

「へぇ・・・・・・自己責任というと思ったけど?」

 

自己責任も確かに当てはまるとはおもう

が、必ずしもそれが当てはまるとは限らない

明らかに自分の責任で招いた状態ではない状態で究極の2択をしなければならない時もあるだろう

 

 

 

それは果たして自己責任といえるのだろうか

 

 

 

そんなケースは一生に1度くらいはある

 

 

「まぁいいや。どちらにしろ聞きたかったことに答えてもらってないし。」

 

つけたばかりの煙草をもみ消し、タシュケントに向き直る

 

「人権という自由を艦娘全員が欲しがってると同士は思っているのかい?」

「いや?思ってないが?」

「え?」

 

即答されたことにタシュケントはポカンとした

 

「え?欲しがっていると思ったいるからやっているんじゃないのかい?」

「んなわけないだろう。艦娘だって個人個人で性格違うんだし感じ方もその娘それぞれだ。」

「じゃあなんでそんなに人権にこだわるんだい?」

「その前に一つ。タシュケント、君はこの戦争が終わったらどうしたい?」

「え?」

 

 

しばらくうんうんとうなり始めた

 

 

「まぁそうなるよな。俺はこういう反応もありだと思うぞ。」

「どういうことだい?」

「つまりさ。とりあえず軍に残ってしばらく考えたいという子もいるだろうし、これをやりたい!って子もいるだろう、軍を抜けたくない!それぞれの考えがあるわけだ。」

「なるほど。つまり選択肢を追加したいということでいいんだね?だけどそんなに犠牲を払ってまでやることかい?自己満足といえるのじゃないのかい?」

 

頷きながら続けた

 

「そうだね、自己満足であり私欲だ。俺たちが安全に暮らすための。」

 

その言葉にまたしても解せないという顔をした

今まで見たことのあるタシュケントの表情はいかにも取り繕ったような表情だった

が、今見せている顔はまさしく自然なありのままの反応だった

 

 

 

「ははっ。なんだそんな顔できるのか。」

「むっ?それはどういうことだい?」

 

少しむっとした顔をする

 

「そのままさ。その顔を見せてくれたお礼に教えよう。この戦争が終わった後、勢力図がどうなるか。」

 

 

 

これだけ各地に鎮守府や泊地、基地を抱えているにもかかわらず日本の懐が破綻しないのはなぜなのか

 

貿易とは1人でやるものではなく、相手がいてこそだ

 

深海棲艦が現れて以来シーレーンが一度めちゃくちゃになった

そのシーレーンを取り戻したのは誰か

アジアと欧州をつなぐ陸路ルートがあり、自力がある程度あったロシアという例外以外は押しなべて少なくない被害を負った

 

日本が艦娘という光明を示した際、各国はそろって称賛した

とりあえずアジア、オセアニア方面の制海権が復帰してきたところで各国は一物を抱え始めた

 

 

 

自分のところに欲しいと

 

 

 

そして、日本もある意味窮地に陥っていた

船団保護のために各地に泊地や基地を設置したはいいものの維持費は日本の国家予算の8割に到達しようとしていた

もちろん初期の投資費用も絡んだのだが、大多数はさも当然というように土地代や建材費を割増しで要求した

心理としてはわからないでもない

国が疲弊しているところに外貨が転がり込んでくるチャンスを見逃せるはずがない

 

 

 

一方、これから起こることを察していたドイツ、イタリアは関税の優遇や土地、建材の無償提供を行った

 

 

ある日、日本は艦娘技術輸出をドイツ、イタリアだけに持ち掛けた

 

 

 

当然持ち掛けられなかった大多数の先進国は日本を非難した

が、この時は日本も引かなかった

国連の議場で一言、大将がこういった

 

 

 

「ただ乗りする乞食の国にやる技術はない。」

 

 

 

最初こそ対日感情が悪化したものの、徐々に各国は自分の立場に気づいた

仮に、このタイミングで日本が艦娘による船団護衛をやめたらどうなるだろう

 

 

困るのは自分側だけであるということに

 

 

東南アジア各国はかつて日本がアメリカにやっていた駐留経費負担などの予算をすぐに付けた

その後、それに倣い何かしらの優遇や経費負担などの配慮を行った

 

 

 

 

今や日本はかつてアメリカがいた場所に立ちつつある

しかも、向かい合っているのは同じ相手のロシア

幸いにも、「今は」深海棲艦という人類共通の敵で視線は逸れている

 

 

 

もし、艦娘が人と同じ扱いだった場合どうなるだろうか

民衆とは総じて無知であり、踊らされることが多い

その反面、数という大きな力を持っている

 

 

 

 

「・・・・・・なるほどね。つまり、お互い外に目を向ける暇をなくせば同士の勝ちなわけだ。」

「そーいうこと。かつてあったブレーキ(資源輸入)はうちが取っ払っちゃってるわけだしね。」

 

「ただいま戻りました!今お茶を入れてきますね!」

 

吹雪が書類束をもって帰ってきたのを見て、提督はわずかに頬を緩ませた

 

「お疲れさん。手伝うよ。タシュケントもお茶でいいかい?」

 

 

タシュケントがお願いするよというのを聞いて、吹雪と給湯室に消えていった

 

 

 

(さて・・・・・・。とりあえず最低限の言質はとれたかな。)

 

タシュケントはそっと息を吐く

 

(あとはいかにしてこっち側にひきこむか。そろそろあっち側も動く頃だし早くしないと・・・・・・。)

「ほいよ。まーた何か考えてるな?」

 

ぼんやりとテーブルを見つめるタシュケントの前に湯飲みが現れた

 

 

 

提督はソファーではなく机に戻り、再び書類整理に戻った

吹雪も隣の机につくと、判を突き始める

 

「・・・・・・。ちょっといいかい?」

「んー?なんだい?」

「2人ってケッコンしてるんだよね?」

「そうだな。ほかにも川内とか龍驤とかともしているが・・・・・・。」

 

お茶をすすりながら書類に目を通す

 

「ってことはやることやってるわけなんだ。」

「「っ!」」

 

提督は思わず口を押えると窓のほうを向いてむせ、吹雪は判を突こうとしたときに体勢を崩した

 

(・・・・・・おや?)

「すまん!変なところに入った!」

 

ゴホゴホと咳き込みながら給湯室へと駆け込んでいった

チラリと吹雪を見ると、何事もなかったかのように仕事に戻っている

 

が、線が入った頬がわずかに赤らんでいるのが分かった

 

 

 

 

(これはまだチャンスはあるかな・・・・・・?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ・・・・・・どこ・・・・・・?」

 

顔面蒼白になりながら声の主は水面にへたり込む

海図をぐるぐると回し、時には天を見上げて位置を確認する

 

が、わかったようなわからないような

日は暮れかけているとはいえ、まだ星は見えない

島々は見えるが彼女の目的地である日本ではない雰囲気だ

艦載機を飛ばす燃料も惜しくなりつつあった

到着予定をすでに2日も過ぎており、遭難信号を出そうか

そんなことをぼんやりと考え始めていた

しかし、そんな恥ずかしいことをできるわけがない

硫黄島付近まで護衛してもらい、ここからは一人で大丈夫と見栄を張ったのだ

 

目の前が少しゆがむ

 

 

 

「?」

 

彼女は水色の目を見開き、拭う

水平線上に2つ点が移動しているのが見えたのだ

おあつらえ向きに、こちらへと向かっている

 

彼女は顔を輝かせた

妖精さんに頼み、近距離の無電を飛ばしてもらう

そして、双眼鏡と一つの本を取り出した

 

『Kanmusu Identification Table』(艦娘識別表)

 

 

「えっと・・・・・・先頭の金髪の子は巡洋艦?・・・・・・あぶぅ・・・くま?」

 

漢字のほうを見たが、首を傾げローマ字を読む

もう一度視線を戻すと裸眼でも相手の動きが分かるようになってきた

向こう側も手を振っているのが見え、大きく振り返す

先ほどの蒼白さは消え、喜色に変わる

 

 

 

そして阿武隈の後ろの人物を見て、再度蒼白に変わり視野が暗転した

 

 

 

 

 

 

 

「忙しいところすまないな。」

「いいえ。ちょうど出張のついででしたし・・・・・・。大発等の使い方を長門さんに聞かれるとは思ってませんでしたが・・・・・・。」

「うちの大発とかが使える子は遠征で忙しくてな。できれば本番前に使えるようにしておきたかったんだ。」

「まぁわからなくなったらいつでも聞いてください。私は融通利きやすいほうなので・・・・・・・。」

 

 

そう話すと会話が途切れる

 

 

聞こえてくるのは風と波を切る音だけ

そんな静寂を破るかのように、唐突に長門が切り出した

 

「うちに来る気はないか?」

「えっ?」

 

驚いた顔をして阿武隈が振り向く

 

「いやな。君のもとにいた子たちが最近ようやく心を開くようになってな。君のことを心配しているんだ。」

「そっか・・・・・・。そうですよね。」

 

前に向き直ると阿武隈は無表情で目を細める

 

 

 

「長門さんはあたしの返事。わかりますよね?」

「もちろんだとも。あくまで万分の一で聞いた。」

「桁が足りません。あの子たちには遠征のついで出会いに来るように伝えてください。」

「承知した。」

 

ふっと長門は笑うとふふふっと阿武隈も笑った

 

「ん?何?阿武隈!ちょっと待ってくれるか?」

「どうかしましたか?」

 

阿武隈が速度を落とすと、長門が横に並ぶ

 

「今しがた、アメリカ籍の艦娘から無電が入ってな。日本へ行く途中で航路を見失ったそうだ。」

「アメリカ籍・・・・・・?なんでまたこんなところに・・・・・・。」

 

ここがどこかといえばリンガ泊地の沖合

阿武隈が駿河諸島へ帰るために長門は護衛を兼ねて見送りに来ていたのだ

 

「とりあえず長門さんは水戦と偵察機持ってましたよね?それの準備をしておいてください。」

「心得た!」

 

阿武隈も甲標的を射出する準備をしながら無電の方向へと向かう

 

ほんの少しすると、発信主が見つかった

太い金髪のツインテールが目についた

うれしそうな顔でこちらへ手を振っている

先行していた阿武隈が敵ではないと甲標的を引っ込めて長門に伝え、再び彼女を見る

 

「ええ?!ちょっ!だいじょーぶですかー?!」

 

先ほどまでニコニコとしていた顔が恐怖のあまりひきつった顔に変貌していた

 

スローモーションで倒れていく彼女を阿武隈がギリギリ抱き留めた

 

「む!ちょうど来たようだが・・・・・・連れて帰るか?」

 

水しぶきを上げて、着水している二式大艇がこちらにゆっくりと向かってきていた

 

「はい。途中まで行先は同じようですし私が連れて行きます!えっと・・・・・・。」

 

妖精さんに名前を尋ねた

おそらくこのことをリンガの提督に伝えねばならない長門に名前を伝える

 

 

 

「ガンビア・ベイさんはうちでいったん預かります。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 

そっと口元を隠していたマフラーを下げ、大きな息を吐きだす

春に近づきつつあるとはいえ、夜はまだ寒く息が煙のようになる

その白い息をぼんやりと川内は見つめた

懐からメモ帳と赤ペンを取り出すと、キュッという気持ちのいい音とともにバツ印を刻んだ

一度閉じ、ぺらぺらとめくるがページの右側にはバツ印がきれいに並んでいる

そして、先ほど刻んだバツ印が最後に出てきてページが終わった

 

「・・・・・・・やばいよ、提督。」

 

独り言ちて、足早に音を立てずに消え去った

 

 

 

 

『報告書』

 

須下中将自身に不正の痕跡が認められず

計画の練り直しを急がれたし




お久しぶりです!
私生活がいろいろ忙しい(?)ところもあり、なかなか進みませんが頑張って更新していきます
さて、皆様の春イベはいかがでしたでしょうか?
久しぶりの中規模でのオール甲達成を果たし、新艦とも全員会えゆっくり(?)出来そうな作者です(ただフレッチャーの泥ポイントをE4ボスだけにしたのは絶対許さんぞ☆)

あとズイパラはいろいろ楽しかったれす(^p^)
さて…次はサーカスを楽しみに・・・

そしてとりあえず次の更新を早めにできるように・・・・・・ガンバリマス

(あと第4回閣これ祭にも動画をまた出す予定なのでその時はよろしくお願いします)

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