いつも山のように書類が乗っている机は何もなく、決済箱すら何も入っていない。
「ほんとになんも無いんかー・・・」
「ないですねー・・・」
ソファーで向かい合って魂の抜けたような顔をしている。
結局大本営から来た書類というのは5枚だけ。
さらには閑散期よりも人が減った。
これはおそらく大規模の鎮守府はもれなく全部参加するために遠征等は控え、なるべく資材管理をうまくやりくりしているためであろう。
一気に仕事が減ったため備蓄?していた仕事も片づけてしまい、吹雪と二人で仕事探しに出たのだ。
予想される部屋数の増設や、祭りを行うために山の整備を行ったりする関連の仕事ができていたので、いつものペースでやろうとしたところどこから漏れたのやら。
俺は古鷹、吹雪は時雨にひっ捕らえられついに旅館にぶち込まれた。
代わる代わるの艦娘に仕事量の統制をされながら1週間ほど過ごし、今日ようやく執務室へと戻ってきたのだ。
「うわー・・・マジで机の上に書類がない!」
「着任した時以来ですね!」
「だなぁ!閑散期でも絶対20枚はあるからな。」
しかし、このタイミングで戻されても困りものだ。
書類はないし、仕事はない。
「部屋に戻るか。」
「そうですね。」
「ちょっとまった~。」
ちょっと間の抜けた掛け声とともに入ってきたのはものぐさ変態こと望月だった。
「せっかく祭りやってるのに行かないってどうなのさ!」
「「あ」」
「というわけでみっちゃん。今日はあたしたちと行こうぜ!」
後ろからひょっこり出てきたのは深雪だった。
よく見れば二人とも浴衣を着ていた。
望月は紺地にウサギと赤いまりの模様があしらわれたものを
深雪は薄い水色の生地に紫陽花の模様があしらわれているものを着ていた。
「吹雪ちゃんは鳳翔さんが呼んでたよ~。浴衣を見繕ってくれると思うからさ~」
「本当ですか!?司令官行ってきます!」
聞くや否や飛び出して行ってしまった。
こうしてみるとやっぱり年ごろなんだなぁとしみじみ思う。
「鳳翔さんが見繕ったのか。二人ともにあっているな。」
「「みっちゃんが服装をほめた!?」」
「どういうことだこら?」
隣の島へと行くと様々な屋台や出店が並んでいる。
人の量は程よく、歩きづらくない程度の込み具合だ。
「うわ~。だる~・・・・。」
「第一声がそれってどうなんだよ・・・。」
気合いれて浴衣を着ているっていうのに、見るからにダルそうな顔をしている。
「みっちゃん!焼きそばかって来たぜ!」
いつの間にか深雪が抜けだして買いにいってた。
「あーリンゴ飴だ~。ちょっと行ってくる~。」
「え!ちょっお前ら?!」
「おっかき氷か!みっちゃん!もっかい行ってくるぜ!」
こいつらが自由人だってことをすっかり忘れていた。
あちこち勝手に買い出しに行かれ、振り回されること2時間。
休憩所のテーブルの上には数々のお祭りの定番である食べ物がずらりと並んでいた。
そして俺の右足に望月、左に深雪が腰を掛けていた。
「なんで俺の足の上に座るんだ・・・。」
「いーじゃんいーじゃん。」
「ところでみっちゃんのフランクフルトも食べてい~い?」
「やめさい」
望月の頭にチョップを落とした。
「ところでなんで裏に回ってたんだ?」
「あれ?みっちゃんみてたのかい?」
そう。
彼女たちは店の裏手で店員と話しながら買っていた。
「ここじゃあちょっとねぇ・・・。」
「みっちゃんあそこに行こう?」
望月が差した方向はお祭りの列からは少し離れた休憩所だ。
人は寄り付かず狭いため誰もいなかった。
「ほんとは報告書を書いて後日提出する予定だったんだけどさ。」
「ちょうどいいから司令官にはここで伝えちゃうからね~」
人目を気にしたのはこういうことか
いくら俺が私服でここの司令官と分からなくしても、誰に会話を聞かれているか分かったもんじゃない。
「あたしたちが屋台の裏に行ったのは情報収集の一環さ。」
「情報収集?なんでまた?」
「それはあたしらが大本営を離れたから間接的にやらなきゃならなくなったからね~。直近で大本営に関することって言ったら司令官にも心当たりがあるよね~?」
「須下中将か・・・。」
「そ!で、聞いてみたら相当これは根深そうだよ。」
簡潔にいうと
須下中将には裏でつながっている人物がいる。
その人物は西の隣国関係の可能性が高い。
「国際問題かよ・・・・。もうこれはどうしようもなぁ・・・。うちで手に負える案件じゃなくなっているような。」
しかめっ面をするがさらに深雪が報告を続ける。
「まだあるんだよ・・・。」
艦娘の裏ルートの元締め
米国への資材密輸
ロシアからの工作員流入の手引き
「これはあいつ個人がやってたことか?」
「たぶん。経歴から察するにつながっている人物に出会う前にやってたことだよぉ。」
須下の元所属は幌筵泊地
なるほど、それならば納得だ。
あそこならどちらにも行きやすいっちゃ行きやすい。
補給管轄もうちとは別のところを経由するためいまいちわからなかったのだ。
「あとは物証か・・・。幌筵泊地はあいつの息がかかったやつがいるしなぁ・・・・。補給基地のほうも人事に口を出してないからいまいち知らん奴だったし。」
リンゴ飴を銜えながら考えるが今のところ特にいい案は思いつかない。
「まぁそういうことだ!あたしらに任せておきなって!」
「まだ来てない鎮守府もいるからねぇ。」
ひょいと俺が銜えていたリンゴ飴を取り上げ望月が食い始めた。
考えるのだ
そのまま口を狙われなくてよかったと考えるのだ。
「ほかにも大本営で怪しい密会とかが頻繁に行われているみたいでね。」
「もうそれ俺らの管轄の域超えてない?」
「そうなんだけどさぁ~。白系の提督がやっているから気になってさ。」
リンゴ飴を食べ終わった望月が俺のまたぐらへと座る。
いい加減ずるいと言って深雪は俺の後ろへと回り顎を頭にのっけぐりぐりする。
地味に痛いが望月をはじめからのけてなかった自身の責任だ。
「で?なんていう会なんだ?」
「駆逐艦の会」
どこかで聞いたことのある単語が出てきた。
「ほかにも市立朝潮小学校とか大天使の会、クマ会、ポイポイ教、フラットこそ正義、陽炎の会ect」
「みっちゃんしらない?」
「大本営ェ・・・・」
ズイっと顔を寄せてきた望月を引き離しながら悪態をつく。
「司令官は知らないか?こういうことだと夏木とかのほうが詳しいかな?吹雪の会なんてのもあったからちょっと気になってるんだけど。」
「・・・やめとけ。」
「えー・・・。とりあえずやばい会ではないんだよな?」
・・・ひじょーにびみょーなラインだが・・・
「まぁたぶん?大丈夫?・・・・だよ?」(たぶんおそらくきっと?)
第一夜は深雪&望月コンビに行っていただきました。
ちなみに作者はリンゴ飴にやたらと夢を見ていたり(つい最近まで見たことも食べたこともなかったため)
次はちょっとしっとりとした雰囲気に…なっているといいなぁ(願望)
大丈夫がセリフの子が第二夜のお相手です。