これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の秋祭り 第五夜

「やぁ提督」

「おお時雨か。どうした?」

「今日は僕がお供だよ。吹雪は昨日10分残業していたから今日一日休みだよ。」

・・・なんてこった

あれほど残るなといったのに・・・。

大方ちょっとだけと思ってやったのがばれたのだろう

しかしまずいことになった

「ところで提督はずいぶん早いね?いつからいたんだい?」

「つい30分ほど前かな?中途半端に時間があって暇だからねぇ」

実のところ嘘で9時にはここにいたためすでに4時間いる。

先ほどまで、ばれないように新しくいろいろな上申書とその資料を集めていたのだ。

ここは仕事を作ろうと思えばいくらでもある。せっかくの仕事を見つけられてたまるか!(でもなんで面倒ごとを増やしているんだろうか俺は・・・)

「そうなの?じゃあ30分早めに終わらないとね。」

よっし!セーフ!

「はぁ・・・仕方ないな。」

「ところでさ提督?」

「なんだ?」

目を合わせないようにさっさとサインをしなければならない書類に目を通す。

こういう時は目を合わせたら最後ばれると相場が決まっているんだ。

「これって知っているかい?」

「これってどれ?」

時雨が執務室のドアに近づきある一か所をたたいた。

するとどうだろう

カシャっという音がして扉にモニターが現れた。

そこには数字の羅列がたくさんあった。

よく見るとところどころにアルファベットが表示されている。

「なんだそれ!?」

「これはここの扉の開閉記録だよ。防犯のためにつけたんだ。ここには機密書類が満載だからね。」

書類の中に防犯設備に関する経費の記載があったことを思い出す。

「あー。そういえばあったなぁ。まぁこんなところ好き好んではいるやつなんぞいな・・・・い・・・・・・・?」

あれ?開閉記録?

「さて提督?」

俺は9時に此処のカギを開けた

「僕が開ける前の記録がさ」

それ以来さっきま出ていない

「9時なんだけどこれはどういうこと?」

 

 

 

「さっさっきまで吹雪ちゃんがここにいてさ!昨日の忘れ物を探していたみたいだよ?」

ふっ!大方みんなアルファベットで察した方もいるだろうが誰のカギが開けたかも記録済みなんだろう!

だが俺は幸い昨日加古に鍵を持ってかれてそのままにしていた。

だから今日は吹雪ちゃんに鍵を借りたのだ!

つまり記録に残っているのは吹雪ちゃんなのだ!

「ん?本当だ。吹雪のカギの記録だね。」

すまん吹雪ちゃん今度好きなものをあげるから・・・

「ごめんよ?提督。いくらなんでも疑いすぎたね。」

しょんぼりと一瞬犬耳に見間違う髪が垂れる

 

どうしよう・・・。

 

ばれなくてよかったけどものっそい罪悪感

「あーいやおれが悪いんだよ。普段の行いがものを言っているんだから。」

「ごめんね?」

あまりにもしょんぼりとされてしまうのは申し訳なく思い立ち上がり頭を撫でてやる

「心配かけている俺が悪いんだからさ。気にせんくてもええって。」

「提督・・・。」

視線が合った・・・と思ったら時雨が視線をそらした

不思議に思いその目線をたどると先ほどまで隠れてやっていた書類が目に移った。

「提督。あれは何だい?」

「えっ?あっ?あれっ?あれは明後日の・・・」

「明後日の書類は青いファイルだけど?まとめたファイルの中に赤色のはなかったはずだけど?」

「・・・えっと」

「提督?」

 

房総鎮守府のほうからあるセリフが聞こえた気がする(ほんと詰めが甘いのね)

 

「・・・転進します!私に続かないでください!」(裏声)

「残念だったね!」

すでに捕まった愛しの秘書艦のセリフを真似てみたが当然腕をつかまれた。

 

 

 

(書類は)ボッシュートになります

 

 

 

「・・・」

「・・・」

はい。耳本です。

時雨さんが完全に拗ねてしまわれ、機嫌を直せないままお祭りに来てしまいました。

淡いピンクの生地に水色の朝顔。

普段は大人っぽい印象のものが多いためこれはこれで新鮮だったりする。

「ほーら時雨?綿あめだぞ~」

「・・・」ツーン

ですよねぇ・・・

つーかよくよく考えればこんなの甘いもの好きの俺でも振り向かんぞ・・・

ご機嫌取りをできずにどうしようかそんなことを考えているときだった。

「提督は僕たちのことは嫌い?」

「・・・・え?」

考えもしない言葉が飛んできた

「どうなの?」

「真面目に・・・だよね?嫌いなやつを置いておくとでも?」

「そうじゃないんだ。何度も言っているけど僕は提督が心配でしょうがない。確かにここだと作戦の立案や指揮がほぼないから書類仕事だけなんだけどさ。いくらなんでも倒れる寸前までやるのはどうかと思うんだ。」

「・・・・」

「どこかのドラマみたいに私と仕事どっちが大事なの?なんてことは言わないけどさ・・・。あんな地獄は僕はもう嫌だよ。提督だって似た状況を味わってほしくない。」

 

 

 

時雨はうちのメンバーの訳あり艦の中では、唯一のブラック鎮守府出身だ。

 

 

 

「提督にもし何かあったら今度こそ僕は」

「時雨。その先はだめだ。」

言葉を遮りそっと祭りの列から外れ砂浜へと移動し、ベンチに腰を掛けた。

「・・・・・夢か?」

「久しぶりに見たよ。もう処刑されていないっていうのに僕の記憶からは消えてくれないんだ。」

「・・・」

「改めて聞くけどどうなの?」

「お前らが好きだからやるんだよ。俺は」

有事の際戦場に出るのは艦娘。

ここだって例外とは言っているが戦争に例外はない。

しかも俺はほぼ文官に近いため作戦の立案すら微妙なラインだ。

自分の大好きな連中の命を他人の作戦に預けなきゃならない日がいつか来るかもしれないと思うと気が気でない。

「俺にしてやれることはこれくらいだから・・・そう思っているから。」

「それで倒れたらどうするのさ。」

「何とかなるら」

「真面目に!」

言いかけた時雨の口を指でふさいだ

「本当に死にそうなときは殴ってでも止めてくれるだろ?」

「・・・・・・」

時雨はそうだけどさぁといったっきり頭を抱えてしまった。

「人間案外死にゃあしないよ。というかお前たちが死なせてくれんだろ?」

「わかったよ。仕方ないなぁ。」

顔をあげた時雨の顔は苦笑していた。

 

「でも次倒れたりしたらまた旅館にぶち込むけどね。」

「・・・・・善処します。」

「まったく・・・。それともう一つ、おそらくだけど駆逐艦の誰かが復活するかも。」

時雨にはちょっと変わった力がある。

予知夢をみたり、勘がものすごく優れているのだ。

かつての鎮守府で虐げられていた艦娘たちを助けようと苦悩していた時に気付いたらしい。

今は当時と違い必死さがないため予知夢は時折しかみない。

しかも予知夢を見てしまうとおまけで当時の記憶まで思い返してしまうためである。

 

「駆逐艦で一人誰にも知られずに沈んでいった子。その子が浮き上がってくる夢だった。」

「なるほど。あいつに伝えておこう。ほかに何か見たか?」

「潜水艦が見えたよ。しかも日本近海ぽい雰囲気だった。」

「珍しいな。ひょっとするとお前さんに縁のある艦かもしれんな。」

「前に江風たちの時もそこそこ鮮明な夢を見たからね。姉妹艦かもしれない。」

 

そういって立ち上がった。

「さっ!屋台にいこう?福引は今日もやっているんでしょ?」

機嫌を直してくれたため再び屋台巡りへと繰り出した。

 

 

 

なおその後、休暇券を狙って特等を引いてしまって困るのは別のお話し




時雨のブラックの過去話はまた別の機会に・・・。

次はいろいろと艦種詐欺?をしている子です。(もう選択肢ほとんどないからわかりやすいけど・・・)

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