「だるーい」
ぼそっとつぶやきながら書類を裁く。
朝みっちゃんの部屋に潜り込んで堪能したが、やる気は出ない。
毎日毎日おんなじ書類ばっかり来る。「っと。」
そんなふうに思って裁いていたら司令官のサインが必要な書類が紛れ込んでいた。
その裏には吹雪のサインがいるやつのおまけつき。
「しぐれぇーこれ司令官と吹雪のとこのやつだよ」
・・・
「しぐれぇー!」
・・・
疑問に思い振り向くと誰もいなかった。
机の上には山積みになった書類しかない。
奥の面談室が騒がしいところを見るとそこにいるらしい。
手が離せないなら仕方ない。
一言「書類届けに行ってくる」と紙に走り書きをし、机の上に置いた。
ついでだし、尻もみしてみっちゃんと戯れてこようか。
「司令官、吹雪~いる~?」
返事もないうちに扉を開けるとそこは
氷の世界でした。
一言氷の世界といっても本物の氷があるわけではない。
部屋の空気が氷点下並みなのだ。
断っておくが温度でもないことを付け加えておく。
普段なら、「なんだ~」とか返してくるはずなのにだまーって手元の書類を真顔で処理している。
吹雪もだまーって仕事中。
いつもなら談笑とかしながらしているはずなのにそれもない。
明らかに異様な空間と化している。
「しっ司令官?」
「ん?ああ?どうした?」
「あの・・・これ・・・」
「ああ。はい。」サラサラ
あっという間に目を通してサインをして渡してくれた。
「ありがとう。」
「ん。」
「あのさ・・・吹雪?」
「なに?」
「これを・・・」
「ああはい。どうぞ。」サラサラ
「どっどうも・・・」
「いいえ。」
なんなんだ!?なんなんだというのだ?!
頭の中で疑問符しか浮かばない。
みっちゃんは朝あったときはあんなに機嫌は悪くなかった。
吹雪も朝の朝礼の時には機嫌は悪くなかった。
司令官もだけど吹雪の「なに?」の時の視線もやばい!
凍り付くような、射殺す目線向けられるってどういうこと?!
補給部の部屋に戻ると相変わらず奥の部屋にいるみたいだ。
「ちょっと時雨!」
「ああ!望月!聞いてくれるかい!?」
奥には困った顔をした時雨と古鷹、加古がいた。
「それよりもこっちの方が重要だよ!執務室の空気が最悪なんだけど知ってる?!」
「あー。もう行ったのか。」
加古が苦々しい顔をした。
「僕たちもちょっと前に行ったんだけど・・・あまりの空気の悪さに驚いたところなんだ。」
「吹雪ちゃんもあそこまで機嫌が悪いのは初めて見たよ・・・。」
時雨と古鷹は頭を抱えこんでいる。
「状況を整理しよう。」
部屋のホワイトボードに時間を書き込む
「まず9:00この時間にいつもの朝礼があって僕と古鷹、加古と望月そして山風が執務室に集まった。ほかのメンツはほっぽちゃんの護衛で大湊に行っているから除外として、この時点で二人の機嫌は悪くなかった。」
「そのあと私が昨日の夜間見回りの日報を届けに行ったのが9:30よ。この時は二人とも談笑しながら仕事をしていたわ。」
「それから40分くらいしてあたしが昼寝をしに執務室に入ったんだけど、ひっきりなしに電話がかかってくるから退散したんだ。その時は別段普通だったよ。」
「そして僕が行ったのが11:00。お昼を今日は一緒に食べないかって誘いに行ったんだけどとてもそんなことを切り出せる空気じゃなくて・・・」
「でお昼をまたいであたしがさっき行った時間が14:00・・・てか休憩時間だけど・・・・・。」
「無理だね・・・。」
「山風に資源部を見に行かせて良かったというべきかな・・・。どちらにせよ早く解決しないとやばいよ。」
今の情報をまとめると機嫌が悪くなった原因があるとすれば電話である。
今日の書類にそんなに胸糞が悪くなったり、議論をしたりするようなものはなく、いつも通りのルーチンワークだ。
ひっきりなしの電話ということは内線ではない。
パソコンを操作し、通話履歴を印刷する。
「で、直近で電話が来たところは」
大本営 夏木大佐 10:01
大本営 夏木大佐 10:05
大本営 砂安中将 10:07 吹雪→提督
房総鎮守府 10:11 提督→吹雪
内浦鎮守府 10:13
大本営 夏木大佐 10:21 加古退出
大本営 夏木大佐 10:27
大本営 桐月大将 10:32
大本営 夏木大佐 10:34
「「「「おおい!」」」」
「夏木の野郎どんだけかけてんだ!」
「このどれかに辺りがあるんだよね・・・。」
「とりあえず大本営が一番楽だしそっちから行こう。」
「じゃああたしが最初に夏木にあたってみるわ。」
『はい!こちら大本営広報局です!』
『あー。五月雨?望月だけど夏木いる?』
『あっ!望月さんお久しぶりです!すみません、今しがた外出してしまいまして・・・。』
『あーそっか。』
『そろそろこっちで行われる大演習のことですか?』
『え?あーえーっとね?実は』
事情説明中
『なるほど・・・。それは尋常じゃないですね・・・。こちらが何度も電話をかけていたのは消費資源やそれに附随する回復期間、景品などの打ち合わせでしたよ。』
『そかそか。じゃあ多分違うかな?ごめんね。』
『いいえ~。また近くまで来たら寄ってください!それでは・・・』
受話器を置き首を振る。
ちなみに今はかわるがわるで仕事をやることで処理ペースは落としていないが、質は落ちている。
受付で仕分けるべきはずの執務室あての書類が、いつもより多く紛れ込んでいる。
いつもなら喜んで向かうのだがこんな状況下ではとてもじゃないが行きたくない。
「で・・・。この書類誰が届ける?」
「望月・・・今日は提督のパンツ取りに行かなくていいのかい?」
「ちょ!」
「ああ!じゃあ望月ちゃんが適任ね!」
「そうだな!」
万事休す
いくら司令官のどんな姿が好きでも嫌われたくはない。
ましてや此処まで無関心な姿を見たくはない。
「ところで時雨今日の間食当番だったね?早くいかないとだし、そのついででいいよね?」
「え?!僕かい?!えっと加古!今日はお昼寝してないよね?」
「え!古鷹!生産部の書類あったんじゃない?それ届けるついでにさ!」
「そっそう言えば望月ちゃん提督に今日渡すものがあるって言ってたじゃない?!」
書類の束が4人の間でクルクル回る。
みんな冷や汗をかいている。
此処の古参である川内か龍驤にでも聞けばわかるかもしれないが、二人は外出中。
最古参は元凶と化してしまっているため無意味。
5分ほど回し続けたのち、ある結論を出した。
赤信号みんなで渡れば怖くない
標語もどきだが、もうこうなれば自棄だ
執務室前でこっそりと開け、覗き込む。
二人はソファーに座っており、うつむいているが相変わらず無言で表情は硬く、目線は絶対零度の視線だった。
休憩しているのをよかったと喜ぶべきか、改善していないことに嘆くべきか。
ふと司令官がこちらを向いた。
明らかにばっちり目が合った。
が
なにも反応することなく再び目線を下に落とし、口元に手を当てた。
「むりだって!」
「望月ちゃんならいけるって!」
「絶対無理!目が合ったのになんも反応がないってなにさ!あたしほんとになんか逆鱗に触れることした!!?」
「「「心当たりだらけでしょ?/だよね?/だろ?」」」
「・・・・うん。」
尻もみに布団への潜り込み、パンツ等の私物の奪取etc.
あっヤベえ心当たりしかない。
「吹雪は!?吹雪の説明がつかないじゃんか!」
「あー・・・望月のセクハラにいらいらした提督が思わず当たったとかは?」
「あり得るね。」
「あり得るわ。」
「あり得ないよ!」
加古の推測にみんな同意し始めた。
「そもそも!時雨や古鷹が休ませようとしすぎなんじゃないの!それがストレスとかは!?」
「「え?!」」
「ないとは言い切れないねぇ。ちょっと言いすぎな気もするし。」
「そっそれを言ったら加古だって・・・」
これは結局先ほどの押し付け合いの再現だ。
「あーはいはい!さっきと同じだからとりあえずあちこちに電話かけてみよう?それで該当しそうな案件がない時また考えよう!」
電話を取り、残っている人たちへと掛ける。
「ああそっか~・・・。姉さんと一生やってろボケが!!」
受話器を思いっきりたたきつけたのち、頭を抱える。
結論から言うと全滅だった。
内浦鎮守府は以前の青葉で取材の申し込み関連と日常会話除外
房総鎮守府は初霜で個人的な話だそうだが、終始和やかで終わったと言っていたところのため除外
砂安中将は大演習に際して前夜祭の出欠確認と日常会話(雷のことではない)これも除外
最後の桐月大将
ろくでもない案件で、なんでも鎮守府対抗将棋大会に出ない?といったお誘い。しかもその後文月との日常を話されそうになり、慌てて切った
当然除外
「どうしましょう・・・。」
「最後の桐月大将が原因だったりしない?文月のことを延々と・・・」
「それはないっしょ。だって司令官なら・・・」
『あーはいそうですね茶柱
「で切って終わりっしょ?」
とりあえず今日の業務は終了。
日報を書いて終わりだが・・・
「死なばもろとも。もうみんなで突撃だぁ!」
「「「うん!」」」
でやってきました3時間ぶりの執務室前
じゃんけんで負けた加古がそっと見に行った。
「・・・・」フルフルフル
明らかに尋常じゃない真っ青な顔をして首を振った
「どうなの?加古?」
「見ればわかる。」
そういって震えて動かなくなった。
「・・・・時雨ちゃん望月ちゃん」
「・・・・・」ブンブン
「・・・・・」ブンブン
高速で首を横に振る
が
駄目
首根っこをつかまれそっと隙間から3人で覗く。(覗かさせられた)
中は一触即発の最悪な状況だ。
司令官は頭をひっきりなしに掻きながら顔が真っ赤になっている。
吹雪は顔は真っ赤だが目元が明らかに殺意を持った目をしていた。
二人とも先ほどのソファーから動かず下を向いていた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・これは夢なんだ。あたしは今きっと布団の中に・・・。」
現実ですあきらめてください
その時パチンと執務室の中から音がした。
司令官が吹雪にでも吹雪が司令官にでもどちらが手を出してはまずい。
四人は顔を見合わせうなづいた。
暴力沙汰となってはまずい。腹は決まった。
「「「「司令官!/提督!、吹雪!/吹雪ちゃん!」」」」
「え?!なに?!」
「なんですか!?」
扉を蹴飛ばし思い切り開ける
二人はさっきまでまとっていた殺気はなく、普通に応対した。
心なしか少し疲れた顔をしていたが、それ以外はいたって普通。
さっきまで部屋で冷戦をやっていたとは思えない。
「え・・・。二人とも喧嘩してたんじゃ?」
「「喧嘩?してないけど・・」」
二人は目をぱちぱちさせ顔を見合わせて首をひねった。
「でもさっきまで対応がそっけなかったり、会話しなかったり・・・」
「「・・・・?ああ!」」
二人が指をさしたのは先ほどまで手前の一人掛けのソファーで見えなかった机の上
その上には
「「「「将棋・・・?」」」」
「いやー白熱してね。大将が久しぶりに出ないかって聞いてくれてさ!それでリハビリがてらやってたんだよ。」
「やっぱり司令官強いです・・・。勝ったと思ったのに・・・・。」
「この竜で桂馬をすっぱ抜けたから何とか逃げ出せたんだわ~・・・。危なかったぁ・・・。あとさ・・・」
感想戦が始まってしまい話は聞けなかった。
後で聞いてみると、将棋を指しているときは集中力を考えることに全振りしているため自分がどんな動きをしているかわからないことが多いとのこと。
最初は口頭将棋と言って盤を出していなかったが、限界が近づいたため仕方なく休憩時間に盤を出してそのままずっとやっていたそうな。
あたしが見たのは盤に移る最後の一番ややこしい時に行ったおかげで、本人たちにその気がなくても睨んでいるようにしか見えなかったとのこと。
「後でみっちゃんにたっぷりとせびってやる。」
とりあえず桐月大将あての請求書にゼロを一つ増やして決済した。
暁と響の改二イベントまでに間に合うかなぁ・・・。
霧島、比叡、蒼龍、飛龍が一気に改二になって弾薬がごっそり・・・。
まぁ燃料よりか多いですけどね・・・。