これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府のバレンタインデー

 

バレンタインデー

 

日本では女性が男性にチョコを贈る日として一般的だ。

艦娘とて女性

やはり意中の人に贈るだろう

しかし今は戦争中

業務に精を出さなければならない・・・

「はずなんだけどね・・・。」

 

本日来る遠征隊は泊まりなしの短時間が5組

それも朝一で全隊来てしまい、すでに帰投済みである。

もちろん通常の書類整理があるためうちは稼働しているが書類整理はすでに終わりかけている。

 

 

時刻はヒトサンヨンゴー

 

 

間もなく間食休憩だがそのまま切り上げられてしまいそうだ。

やることはなかったかと考えるが、軽減策のおかげでやることが少ない。

毎年この時期は作戦が行われているためてんてこ舞いなことが多いが、小規模ということで緊急の資源調達がいる鎮守府が少ない。

年度末の決算に向けての書類は出来上がりつつあり、2月のあがりを待っている状態だ。

しいて言うならオリョール海を中心とした石油や鉄などの資源プラントの整備の仕事はあるが、視察後に書かなければならないため今日やることはできない。

そんなことを考えながら作業をやっているとついに最後の書類が終わってしまった。

 

「吹雪ちゃんなんかやること残ってる?」

「いえ。私もこの書類が終わったら最後です。」

「こっちも終わっちゃった・・・。」

決済済みの中に投函し、背もたれに深く腰掛ける。

「失礼するよ。」

「失礼します・・・。」

ノックをして時雨と山風が二人して入ってきた。

執務中に二人が顔を合わせることはまれだ。

山風は秘書艦見習いから補給部に移動して現在は新設の農園部に移動している。

「提督。今日の書類を受け取りに来たんだけどもう終わっているかい?」

「ああ。ほい。これそっちの書類だよ。」

決済済みのまとめたファイルから補給部へのファイルを取り出し渡した。

「提督・・・。これお願いします。」

山風が渡してきたのは農園の見積もり書と工期の関係の書類だった。

「ほいさ。っとこれは外部の書類とのすり合わせしなきゃだから後日ね。」

未決の中に放り込んだとき部屋の時計が鳴った

2時間の間食休憩だ。(軽減策で不要じゃないかと思ったが、みんなが反対したためのこった。)

「吹雪、今日はちょっと行きたいところがあるんだけど提督を借りていいかい?」

「提督もいい・・・?」

「私はいいですよ。」

「俺も構わんが本土の方か?」

「いいや。行くのは農園の方だよ。」

 

 

 

 

 

 

農園予定地に行くとすでにある程度の整備が始まっていた。

以前草ぼうぼうだったところは全て刈られており、あちこち無造作に生えていた果樹も移動していた。

土は耕され、畝が半分ほどできていた。

「こっち・・・。」

山風を先頭についていくと、以前加古が昼寝をしていた木に着いた。

木陰の下にはダークブラウンの4人掛けのテーブルが2つ設置されていた。

「ル級がつくったんだよ。」

時雨が先に腰を掛け、持っていた籠から包みを取り出した。

「今日はバレンタインデーだからね。僕と山風二人で作ったチョコがお茶菓子だよ。」

「食べてね。」

包みから出てきたのは一口サイズのナッツのチョコレート

「そっかそっか。ありがとうな二人とも。早速だがいただいていいかい?」

「「どうぞ。」」

ナッツが程よく砕かれており、口にはチョコの甘さが広がる。

甘党の俺にはたまらないおいしさだ。

「はい。どうぞ。」

「緑茶?」

 

時雨から出されたのは緑茶。

てっきり紅茶でも出してくるものだと思ったため驚いた

「緑茶の方がチョコに合うってこの前聞いたの・・・。」

飲んでみると少し渋めに入れられており、口の中のチョコの甘さをリセットしてくれた。

「確かに合うね!こりゃ食べ過ぎそうだな。」

2つ3つと口に入れておいしいというと二人は安心したように笑った。

「お熱いわね~。」

後ろから声がして振り向くと鍬を担いだル級がいた。

「口から砂糖が出そうです。」

リ級はスコップやら鎌やらの入ったバケツを片手ににやにやしていた。

「二人ともお疲れさん。このテーブルありがとうね。」

「別に大したことじゃないわ。あいにく料理に関しては疎いから私たちから提督

へのバレンタインの代わりよ。ちょうどチョコの色だしね。」

ル級は空いている席に、リ級はテーブルの下に備え付けられた椅子を取り出して掛けた。

 

 

 

のんびりと少し肌寒いが外でのお茶会を楽しんでいるとポンと頭に何かが乗るような感触がした。

「提督~。ここにいたんだ。」

上を向くと加古の顔があった。

「あたしも用意したからさ。手作りじゃないけど許してな。ほれ。」

頭に乗っけられていたのはラッピングされたチョコの包みだった。

「おお。サンキューな!」

「ほいじゃあたしは昼寝するからね~。」

手をあげて返事をすると木へと歩いて行った。

が途中で歩みをやめてこちらを向くと何かを放り投げた。

「後これもあげる。」

「!おっと!」

落とさないようにギリギリキャッチするのを見届けると、木の上に登って行った。

渡されたのは小さな小瓶で中には緑色の液体が入っていた。

「青汁・・・?」

「あ!司令官おったで!」

小瓶を怪しげに見ていると、聞きなれた声がした。

何かと顔を向けると龍驤がいた。

話を聞くとみんなバレンタインでお茶に誘おうと執務室へ行ったらしい。

執務室では吹雪がのんびりしていたので事情を聴き、あちこちを探し回ったらしい。

 

 

その後龍驤に場所を教えてもらったみんながわらわらとやってきた。

 

初めに龍驤は生チョコ

毎年気合を入れて作ってくれるだけあってとてもおいしい。

 

古鷹はウイスキーボンボン

酒好きな俺だからと用意してくれたんだろうけど・・・

表情に出してはいけないし苦手だともいえないので笑顔で受け取る。

本人も覚えていないから仕方ないんだ・・・。そう・・・。

 

川内は手作りのトリュフチョコ

提督の一番好きなチョコだよっといった瞬間、龍驤以外の皆(加古まで)反応した。

ちなみに一番はトリュフ、二番目は生チョコが好きだ。

 

極めつけのラスト

榛名はチョコケーキ

間宮さんと鳳翔さんの合作らしい(二人はお店や下準備でこれないとのこと)

 

これだけのチョコをいっぺんに食べるわけにいかないため、榛名のチョコケーキと時雨、山風のナッツチョコ以外は一口を食べてあとは後日いただくことにした。

 

 

 

「お!いたいた!みっちゃーん!」

「!」

今日この日

最も警戒しなければならないやつが来た

「・・・望月か・・・・。」

「提督?」

みな不思議そうな顔をしていた

普段だったら別に警戒することはない

いやまぁ私物とか盗まれているけど

望月にはある前科がある

 

あれはまだ新米だったころ

「あー・・・疲れた・・・。」

バレンタインの日とて日曜でもない限り訓練や講義がある

当然今日は平日

講義が終わり、部屋に戻った時間はヒトキュウマルマル

「さっさと風呂入って早く寝よ・・・」ガチャ

「ハッピーバレンタイン♡みっちゃん♡」

風呂場にはチョコ風呂につかって悩ましげなポーズをとる望月がいた。

 

 

ちなみにこっちに赴任してからはチョコが毎年贈られてきていたが、すべて等身大チョコ(ポーズは毎年違った)

ぶっ飛び加減が毎年すごいことになる

今年はいったいどんなぶっ飛びを・・・

 

「・・・?あれ?」

「みっちゃんどうしたの?」

おそるおそる見ると目の前には普通のラッピングされたチョコレートがあった。

クリアなケースに入っているため、中身がわかるが、いたって普通のチョコ。

「・・・え?普通の?」

「うん?」

「え?等身大とかあそこの型チョコとかじゃない普通の?」

「今年は変えてみたんだよ~。」

 

 

よかった・・・

毎年みんなに見られないようにひっそりと誰にも言えず処理をしてきたが、これからは普通に食べられる

 

一つ食べると心なしか甘く、体がほてってきた

ほてってきた・・・?

「・・・日でも出てきたか?」

上を見たが日が照っているわけでもない

首を傾げた時に原因がわかった

「もっちづっきさーん!」

「なーあーにー?」

チョコケーキをほおばりながら満面の笑みでこちらを向いた

「お前何盛りやがった?」

「ピンクのお薬かな?」

テヘペロと普通なら可愛いが、今の提督にとっては邪悪な笑みにしか映らなかった

「何の疑いもなく食べるみっちゃんが悪い。」

そう胸を張ってくるあたりに青筋が浮かんでくるが浮かべると別のまで浮きそうだ

「さぁて一足早いけどホワイトデーもらっちゃおうかなぁ~。」

じりじりと寄ってくる

今の状態ではとてもじゃないが逃げ切れそうにない

若干前かがみでどうしようか必死に考えていた時、加古がしきりにジェスチャーをしていることに気が付いた。

「・・・・何かを飲む仕草?」

そういえばさっき緑の液体が入った小瓶を受け取ったことを思い出す

躊躇しているひまはない

加古を信じて飲んでみることにした。

「・・・・・・にっが・・・。」

この舌ベロに異様なくらいまとわりつく苦み

まるで苦手なコーヒーを飲んだ時のような感覚だった。

「ふっふっふ・・・さぁいくよぉ~!」

「やば!」

慌てて前かがみで逃げようとするとあることに気が付いた

「つっかまえた!さぁ~てあんなことやこんなこと・・・あれ?」

抱き着いてきた望月をかわした

「解毒剤だったの~・・・。」

目線がまたぐらに言っていることは気にしないことにした。

望月が加古をちらりと見ると両手をあげるジェスチャーをしていた。

それと同時に一部を除いて望月を捕まえにかかった。

 

「まったく・・・。今年こそはと思ったんだけどなぁ・・・。」

しょんぼりしてチョコを仕舞う。

媚薬入りとは言え望月からのチョコであることに変わりはない。

どこかでひっそり誰もいないときに食べることにした。

 

 

結局一服盛った望月はみんなに畑に首から下を埋められ、ひと晩反省させられることになった。(一部は本気で肥料にしかけたが)

 

「ただいまー。」

「おかえりなさい!司令官。」

「おかえりだぜ!みっちゃん。」

執務室には吹雪と深雪がのんびりとくつろいでいた。

「もっちーのチョコはかわせたかい?」

「おま・・・止めてくれよ・・・。」

「その様子だと見事に食らったようだね。」

ソファーに持たれながら大笑いしていた。

「誰もいないときに食べにゃならんくなっちゃったし・・・これならまだ等身大の方がましだよ・・・。」

「お疲れさん!」

カラカラ笑いながらお茶を入れた。

「司令官。今年は深雪ちゃんと一緒に作りました。よろしければどうぞ。」

「召し上がれだぜ。」

 

出てきたのはオレンジピールチョコ

 

今日はさんざんチョコを食べたがこっちはだいぶ趣向の違ったチョコだ。

基本皆には甘党と知られているので、みんなミルク系のを作ったり買ってきてくれる。

だが、吹雪はそれを見越して毎年ビター系を作っておいてくれるのだ。

「毎年ありがとうな吹雪ちゃん。深雪もありがと。」

「いいえ。」

「おう!」

ほろ苦さがちょうどよく、甘いのに飽きが来ていた今にはぴったりだった。

「成長したなぁ・・・。・・・そういえば昔、着任したてのころ吹雪がな?」

「しっ司令官!それはだめですぅ!」

「おやおや?失敗談かい?」

興味津々に乗ってきた深雪を慌てふためいて止めようとする吹雪。

 

 

いつもと違うのんびりとした平和?なバレンタインデーでした




皆様冬イベお疲れさまでした
成果のほどはいかがでしたでしょうか?
作者は最終的に
E-1でニム、ユーちゃん、しおい、水無月、鹿島、磯風、浜風、谷風、瑞穂
E-2で藤波、時津風
E-3で山雲、朝雲
の着任に成功、難易度は甲乙乙で終了しました!
・・・え?ヒトミちゃん?
知らない子ですね(血涙)
十中八九藤波で運を使い果たしました・・・w
さて・・・資源回復に努めねば・・・

それと拙作がついに50話突破&お気に入り500を突破いたしました。
まことにありがたく、お気に入りに登録していただいた方、読んでいただいた方、評価してくださった方、感想をお寄せいただいた方々には頭が上がりません。
これからも楽しんでいただけますと幸いです!

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