これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府と胎動

「それでは。」

豪奢なつくりの応接室を出て隣の部屋へと入る。

 

「どうじゃったかの?」

「・・・いい子ではありますね。」

控室には大将が座って待っていた。

今日は大本営に新しく4月付で着任予定の艦娘との事前の面会をしに来たのだ。

「そうか。だいぶ容体は安定したんじゃがのう。」

「心は折れていない。ですがやはり・・・傷は大きそうですね。」

 

先日逮捕され、現在軍法裁判にかけられている骨田中将

その麾下にいた艦娘たちはそれぞれ別の鎮守府に転属、もしくは希望退役していった。

転属を望んだ艦娘の中で一人だけ引き取り先のいない艦娘が一人いた。

遠征も戦闘もこなせる子でほかの鎮守府では引っ張りだこ

そんな子が残る

つまりは訳ありにしても相当な子と言うことだ

 

 

 

 

「酷使されすぎて艤装を装備できても戦闘時に碌に動けず。その戦闘時も被弾しただけ(カスダメ)でトラウマが呼び起こされ行動不能に陥る・・・。遠征に出そうにも緊急時の戦闘ができなければ意味がないため不可能。」

保護された後の戦闘力テスト等の報告書を見る限り、普通の鎮守府への転属は無理そうだ。

「なんとか頼めんかの?」

紙面を見ながら面談したときの様子を思い浮かべる

「まだあの子は働きたい様子でしたし、うちで引き受けましょう。しばらくは療養に近い形ですが、まぁ気長にやっていきますよ。」

「・・・すまんの。」

「いいえ。」

もともとは自分のせいですからという言葉を飲み込み、資料を仕舞う。

「あ。あとカルテももらえますか?加古に渡して置きたいんですが・・・。」

「それなら今は深打君が預かっておるよ。」

安心したようにソファーにどっかりと腰を掛けなおした。

「わかりました。それでは・・・次は花見の頃ですかね?」

「そうじゃな。文月と行かせてもらうよ。」

「・・・今度は仕事ほっぽらかしてこないでくださいね?」

「うっ!・・・わかっておる。」

前科があるだけにくぎを刺すと、大将はバツが悪そうな顔をしていた。

「それでは失礼します。」

「ああ。気を付けてな。」

片手をあげてドアが閉まるのを見届けるとつぶやいた。

「間接的だがあの子を救ったんじゃよ。耳本君。」

 

 

 

 

 

さてさて

大将との話も終わったし、深打のところへ行って早く帰らねば。

今日はお供を連れてきてはいない。

川内は出張、龍驤は基地航空隊の関係で八丈島で会議

他の皆も軽減策に伴う業務の見直しの関係で手が離せない。

唯一連れてこれそうだったのは吹雪だが、提督代行ができる人が鎮守府にいないとなると、有事の際混乱しかねない。

よって今回は一人で大本営に出向いたわけだが・・・

 

「誰もいなくて助かった・・・。」

 

今は作戦期間中の関係で他の鎮守府の提督はあまり大本営にはいない。

いつもなら誰かしら歩いているものだが、人っ子一人いない。

実に素晴らしい!

機嫌よくちょっと鼻歌交じりに歩いていたのがまずかった。

曲がり角を曲がろうとした時、誰かが一心不乱に走ってくるのが見えた。

注意力がそれていたため、気付いた時にはぶつかっていた。

 

「痛ってててて・・・。」

「っつ・・・。すみません大丈夫ですか?」

「そっちこそ大丈夫かい?ゴメンね!ボク急いでいるから!」

慌てて謝罪をして手を貸し、起こすと相手も謝罪をして再び走って行ってしまった。

「・・・おや?」

作戦室に向かおうと再び歩みを始めようとした時、足元に何かが落ちているのに気が付いた。

「あちゃあ・・・ベタにも落として行っちゃったか。」

拾い上げてみると金の三日月のペンダントだ。

望月と同じ睦月型の子が身に着けているものだ。

「って指紋ついちゃった。」

金属製のペンダントは拾ったときに触った自身の指紋がついていた。

ポケットからハンカチを取り出し、拭き取る。

「あっちか・・・。」

 

 

 

 

「~・・・あるからして。」

基地航空隊滑走路

そこには10名ほどの新米提督が教官と先輩の提督から基地航空隊に関する講義を受けていた。

作戦期間中は先輩の提督の指揮を間近で見て経験則を身に着ける。

新米としての期間は1年。

おおむね4回の作戦を見ることができ、おそらく彼らは見る立場としては最後の作戦だ。

さきほどぶつかった子は新米提督の後ろで腕組みをしてみていた。

「・・・?」

遠巻きに見ているとこちらに気が付いたのか講義を行っている提督と教官に目くばせをし、こちらに駆け寄ってきた。

「さっきはごめんね。講義の時間が迫ってたから余裕がなかったんだ。何か用かい?」

「いいえ。こっちこそ悪かったね。これを届けに来たんだ。」

さきほど拾ったペンダントをハンカチを広げて差し出すと慌てた表情で左胸を触った。

「ありがとう!助かったよ!」

どうやら気が付いていなかったらしく、ハンカチごと受け取るととてもうれしそうにしていた。

「どういたしまして。後これはさっきぶつかったお詫び。」

そういって深打の土産に持ってきたミカンを一つ取り出して渡す。

「いいのかい?」

「どうぞ。それじゃあ俺はこれで・・・」

「あっ!まっ」

「おーい。移動するぞ?」

教官に声を掛けられてしまい、簡単に事情を説明して再び振り向いたときには、すでに建物の中に入ってしまっていた。

 

 

 

 

「失礼しま~す。」ガチャ

「あ。耳本さん。」

「電君か。久しぶりだね。」

ノックをして入ると部屋には電しかいなかった。

「お久しぶりなのです。今お茶を入れますね。」

「ああ。お構いなく。深打は?」

「司令官さんなら今は基地航空隊のガレージで作戦会議中です。」

「あら・・・。近くまで行ってたんか。」

ソファーを進められたため腰を掛けると、お茶を目の前に置かれた。

「近くまで・・・?」

「ああいやね?さっきさ・・・。」

さきほどの話をすると、目の前に座っていた電が茶化すような目線を送ってきた

「・・・たらしじゃないですか。」

「人聞きの悪いこと言ってくれるね・・・。」

「ところで身の方は固めないのですか?」

ぼそっと言ったのち、俺にとっては耳の痛いことを言われた。

「・・・俺は実家に来ているわけじゃないんだけど?」

「ヘタレな司令官さんだって私に告白したんですよ?」

「相変わらずちょいスレなところは変わらんね。」

大湊の電と違い、深打のところの電は若干口が悪い。

と言っても長年の付き合いというのもあるため、ほかの子よりちょっと砕けたといった感じだ。

「吹雪ちゃんがかわいそうなのです。」

「あーカルテの方って電君わかる?」

聞かなかったことにして話を続けると深打の机だろうか

整理されている机の一角からファイルを持ってきた。

「これなのです。」

「ありがとうね。後これは頼まれてたうちで取れたミカン。」

カルテを仕舞い、代わりに先ほどのミカンを袋ごと取り出す。

「ありがとうなのです!司令官さんも喜ぶのです。」

「そんなに好評になるとは思わんかったけーがね。」

市場に卸した際、初値こそ並みのちょい下だったが、今やかなりの値段になっている。

出だしは普通の売れ行きだったのだが、口コミか何かで広まったおかげで、今やなかなか手に入らない代物と化していた。

大本営にも多少は卸しているが、それでもあっという間に売り切れるという。

「この時期にはぴったりの逸品ですからね。司令官さんと楽しませてもらうのです!」

顔がほころんでいるところを見て話題をそらせたかなとほっとした。

 

 

 

 

が、そんなに現実は甘くはなく

その後話題を戻されてしまい、深打少将が戻ってくるまで誰と身を固めるだのの話を必死にかわす羽目になった。




新しく登場した艦娘が二人
はてさて誰でしょうか(大体わかるかと思いますが・・・)

次の改二が来ましたね・・・
鈴谷と熊野・・・
絶対設計図必要だよなぁと鈴谷は60、熊野に至っては22という全然育っていない有様
大慌てで演習編成を変更したうえ、設計図の在庫関連で大潮の改装がうちでは見送りになりました・・・
設計図要求の艦を連続で追加されるとこっちも頭を抱えちゃいます・・・

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