これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の本心

一方そのころ

「お疲れ様です。提督さん。」

提督は鎮守府の地下に来ていた

「様子はどうだい?」

「今のところ落ち着いています。今はル級様が中で見張りをしています。」

「そうか。それじゃ引き続き警戒を頼むよ。」

「了解です!」

鉄扉を開けるとそこではル級が椅子に座って本を読んでいた

「ああ。提督さん。お疲れ様。」

鉄格子を挟んで反対側には真ん中で目をつぶり、じっと動かないものが一人

「ここにきて暴れたりわめいたりといったことはなかったわ。」

「そうかい。このまま護衛も頼んでもいいかい?」

「いいわよ。」

「おーい。話をいいかい?」

口の横に手を当て呼びかける

片目だけを開け、こちらを見た

 

 

 

「何か用か?」

 

 

 

「駆逐艦若葉だな?」

「そうだ。」

そう答えると再び目をつぶってしまった

もともと、若葉という艦娘はしゃべることが少ない

必要最低限の会話で済ませる傾向がある

 

 

 

 

「ル級敵意等は?」

「全くないといっていいわ。ちょっと不気味だけど。」

 

なぜテロを起こすような艦娘が確保できたか

それはル級やリ級などの深海棲艦だけがわかる負の感情の探知能力だ

もともと姫級に従っている以外の深海棲艦は特に連携をしていない

だが、艦娘が近づくと近くにいる深海棲艦と一時的に連携をする

その際近くの仲間を探知するために指標にするのが深海棲艦特有の強い負の感情だ

個体差はあれど深海棲艦に分類される者たちは負の感情が感情の中で一番高い

だが、探知できるのは深海棲艦だけではない

たとえるなら目の前にいる若葉のような者たちの負の感情が強い艦娘や人間も探知ができる

今回はその能力を転用した形だ

 

「ほうかね。じゃあ鍵貸して。」

「?いいけど何するの?」

提督は牢屋のカギを受け取ると、鉄格子の扉を開けて入ろうとした

「ちょいちょいちょいちょい!提督なにしているの!」

「え?何って入って話をしようかと。」

あっけらかんというとル級は額に手を当てた

「あのねぇ。私は敵意はないといったけど相手の実力はわからないのよ?」

「ん~・・・まぁ何とかなるら。」

普段振り回されっぱなしな提督だが、実は鎮守府でも有数の楽天家でもある

「何とかって・・・はぁ・・・。」

私はまだ死にたくないわとつぶやきながら先に牢屋に入る

「私が前の方で控える。それが妥協点よ。」

「はいな。あんがとさん。」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

牢屋に入って提督は腰を下ろした。

ル級は提督と若葉の間のところに腰を下ろし、警戒する。

しかし、若葉は気にも留めずに目をつぶって瞑想らしきものを続けている

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・なんだ。」

提督は徐々に近づいていき、若葉との距離が目と鼻の先ぐらいまでになった。

さすがに違和感を感じたのだろう

先に折れたのは若葉だった

「いんや。なんでまた花見会場で暴れようと思ったのかなぁって。」

「顔を近づけてわかることなのか?」

「そんなわけないさ。」

再び元の位置に戻った提督は笑いながら言った。

「先に口を開かせたかったからああしたんだ。ほいでだ。なんでまたあんなことを?」

そういわれると若葉はため息をついた

「・・・・・・ぬるま湯につかっている者たちを見るのが嫌なんだ。」

「ぬるま湯?」

 

 

 

 

若葉曰く

現在、深海棲艦との戦線は膠着状態

西はインド洋、東は太平洋の半分

ここまでしか行けていない

若葉としてはもっと早く、迅速に戦線を押し広げるべきだと考えている

そうすれば、この戦争の終結にもつながるしそうすれば他の艦娘もブラックに振り回させることもなく幸せに暮らせるはずだ

そう考えた若葉は鎮守府から脱走し、似たような志をもった仲間とともに艦娘たちに行動をしていたという

今回、花見を狙った理由としては他の艦娘に呼びかけることもそうだが大本営上層部ハト派の暗殺も目的にあった

一向に戦線を押し上げない者たちの排除が目的でもあったのだ

 

 

 

 

「なるほどね。」

「そういう貴様もハト派ではないが考えは近いだろう。いったい貴様はいつ戦争を終わらせる気なのだ!」

鼻息荒く若葉は言い放った

提督は深呼吸をした

ここまでまっすぐであり、純真だとは思わなかった

報告書から上がってきた若葉が所属していた組織はタカ派サイドとはかかわりがなかったが、タカ派に迎合しようとする動きがある。

今のところ純粋な艦娘だけの組織であることがうかがえた。

 

 

 

「そうだなぁ。まず戦争は終わらせようと思えば終わらせられるかな?」

「ならなぜ!」

「若葉君はどうやって終わらせるかわかるかい?」

「?どういうことだ?」

 

ここ駿河諸島に埋蔵されている推定資源だが、とんでもない量であり、戦争の継続が数百年単位でできることがわかった。

しかも、海底の調査域を広げればさらに埋蔵量が増える可能性がある。

この資源を使い、艦娘を急造させ、圧倒的な物量作戦を行えば、たしかに7つの海すべての開放は可能だろう

 

しかし、この作戦には大きな犠牲が出る

現状、連合艦隊システムで連携できるのは12人までであり、それ以上を派遣しようとすると無線が混乱し、通信ができなくなる

戦場においての意思伝達ができないという事は致命的だ

指示が出せないため、ただただ倒れるものを見捨て前に進軍あるのみとなってしまう

これでは犠牲が大きすぎるうえ、艦娘のPTSDもひどいことになりかねない

 

 

 

「こんな形での帰結になる。」

「それは・・・・・・。」

若葉の目が泳いだ

ここにきて現実を知ったのだろう

犠牲を最小限に迅速に戦争を帰結させる

それができたらだれも苦労しない

犠牲を最小限にすれば時間はかかる

迅速にすれば犠牲が増える

両方ともできるという都合のいい話はあり得ない

 

 

 

 

「君だから言うが私は戦争の帰結は考えていない。」

「はっ・・・?」

「えっ・・・?」

その場が凍り付いた

ル級も寝耳に水だといった顔をした

 

 

 

 

仮に戦争が人類の勝利で、深海棲艦を駆逐できたとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではそのあとはどうなる?

 

艦娘は解体されて幸せな日々を送る?

ケッコンを結婚にかえて新しい日々を送る?

海上警備で引き続き海の安全を守る?

 

 

 

答えはおそらくではあるが高確率でかなわないだろう

 

艦娘の技術というのは日本で確立され、現在持っているのはドイツ、イタリア、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアだ。

この7か国が技術を独占しているが、これが火種にならないわけがない。

とくに、最大保有国である日本に外交攻勢は続くだろう。

下手をすれば新たな戦争にもなりかねない。

仮に戦争にならなかったとしても、日本に任させるのは世界の警察的な役割だろう。

深海棲艦が現れる前に役割を果たしていたアメリカはダメージが大きいうえ、確立できた艦娘は2隻

これでは務めることなど到底無理だ。

しかも、日本にはウィークポイントである先の大戦がある。

ここを重点的に攻められた場合首を縦に振らざる負えない。

 

「まさか・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

現状、深海棲艦との戦いの後は人類同士の争いへの強制参加が待っている

 

 

 

 

 

 

「敵を倒して平穏な日々を。そう思うのはいいことだと思うし当然だと思う。だからこそ私・・・俺はこの戦争を終わらせることを今は考えてはいない。」

 

深海棲艦がいる状態である現在のこの世界は、一枚岩とはいいがたいが団結はしている。

皆目の前の敵を倒そうと必死なわけだ

 

「そんな・・・・・・。それでは・・・・・・。」

「だからこそハト派は戦争の帰結の前にどうにかして艦娘に対するさらなる具体的な法整備を進める方針らしいけどな。」

「・・・・・・タカ派は?」

「戦争を終わらせて、日本が戦争前のアメリカのポジションにつく。これを考えている。」

それを聞いた若葉はがっくりとうなだれた

自身が信じ、つかみ取ろうとした未来がほぼあり得ないことがわかった

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。」

牢屋を出てるとル級が話しかけてきた

「あんなこと言うなんて思わなかったわ。」

まだ信じられないといった表情だった

「・・・俺だってみんなを自由にしてやりたいし、平和な海で共に過ごしたい。お前さんやリ級だってここにいるとはいえ戦争なんてしていたくはないだろう。」

「まぁそうだけど・・・。哀れなものね・・・。私たちに勝ってもまだ戦わさせられる可能性があるっていうのは・・・・・・。」

「だからこそ大将が動いている。軍令部長ともめているがな。」

芳しくないが期待はそれ以外ない

そういいながら地上への階段を昇り始める

「ふーん・・・・・・。ね?ところでさ?共に過ごしたい人って誰なの?」

その言葉を聞いた瞬間ずりっと階段を踏み外しそうになった

「なっなんでそんな話になる!」

「えー。だって共に過ごしたいなんて思い人がいる証じゃない!」

「・・・・・・ノーコメントで。」

体勢を立て直し、再び地上への階段を上る

「つれないの。」

「この間の大将との花見の席で口走った可能性があるから余計言えんわ。」

 

 

その大将の密告で現在会議が行われているとも知らずに提督は執務室へと戻って仕事を始めた




ちょっと暗く重い話になりました
イベントお疲れ様でした~
作者は今回は大満足の結果でした
甲種勲章に新規実装艦コンプ
ヒトミ、天城、リットリオ、初風、春風、神風ect・・・
え?ローマ?
・・・うちの道はローマには通じてませんでした(血涙)

そしてなんといっても長門改二
設計図の兼ね合いから少し保留状態ですがなかなか面白そうな感じで・・・
・・・設計図足りません

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