これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の隠蔽

「ありゃ?これは間違いかな?」

いつもの書類の決裁を行っているとある数枚の冊子に目が止まった

今は6月

北方方面の作戦も無事終了し、戦後処理もある程度終わったところ

一束が分厚いレンガのような書類冊子からチョコレートの厚さくらいまで減り、書類の山も威圧感をそこまで放たなくなってきたころだ

 

 

 

「夏季観艦式のおしらせ」

 

 

 

観艦式

海軍の艦艇による海上パレードで、特に君主・大元帥・大統領・総理大臣など 、その国における最高権威者や最高軍事司令官が親閲するものである

 

といっても現在の観艦式はどちらかというと広報活動の一環で、親閲するのは国民が主体となっている

もちろん先述の最高権威者達が親閲することもあるが、こちらは臨時で開催されるものが多い

深海棲艦が現れる前までは3年に1度行っていたが、現在は毎年の定期開催となった

深海棲艦が現れてからの観艦式は護衛艦ではなく艦娘が主体となった

艦娘の行進に始まり、プログラムで毎年違った鎮守府の艦娘が妙技を披露したり、演習を行ったりと様々な催しを行う

 

 

 

「この冊子ですか?」

吹雪が書類束を持ってくる

たしかに、夏季観艦式と書いてあるが内容は全然違った

少し厚めの冊子に書かれているのは観艦式を開催するにあたっての消費資源の推定量や南方からくる艦隊の臨時宿泊所としての要望書だった

これは毎年来ている物だったので、すぐに決済して明日本土に送る予定だった

「うん。・・・・・・あれ?じゃあこれはいったいなんだ?」

間違いかな

そう思って捲った

 

夏季観艦式参加要請願い 駿河諸島鎮守府筆頭秘書艦 吹雪殿

 

「「・・・。」」

「「え?!」」

二人は、書面を見ると顔を見合わせた

具体的な内容を見てみると、先ほど言った観艦式の中のプログラムの一つに出演してほしいとのことだった

おそらくは、大将あたりが誰を出そうか思案した結果、吹雪を推薦(犠牲)したのだろう

 

「ええ・・・・・・。これだとうちの鎮守府はあと11人は連れてかなきゃだしなぁ。」

そう、ネックになっているのが観艦式に派遣する部隊の人数

鎮守府の規模が大規模になればなるほど参加させる部隊数も増える

一般的に横須賀を除いた4大鎮守府は12隻の連合艦隊を2つ

運用できる艦隊全部を派遣する

それ以外の4大鎮守府を補佐する呉、横須賀、佐世保、舞鶴の第二以降の鎮守府や県庁所在地などの主要鎮守府は連合艦隊を1つ

それ以外の鎮守府は6隻の艦隊を1つ

 

こういった格式がある

 

駿河諸島はどこに当たるかというと主要鎮守府

よって12隻の連合艦隊を組むのだが

 

 

 

「無理だよなぁ・・・・・・。」

「無理ですねぇ・・・・・・。」

 

 

 

組めないことはない

しかし、組んで派遣してしまうと、とてもじゃないが鎮守府は機能停止してしまう

当然提督だって現地に行かなければならない

見たところ発行機関の管轄は桐月大将を通しておらず、大本営の上層部会からの物

「ちょっと電話をかけて・・・」ジリリリ

そんなことを話していると、どうもあちらさんから電話だ

 

 

 

 

「はい。駿河諸島鎮守府。」

『おお耳本君か?そっちに大本営上層部会からの書類が一部いっとらんか?』

「夏季観艦式の事でしょうか?」

『そうじゃそうじゃ。それなんだがの、わしを通しておらんやつじゃから普通の書面が行ってしまったんじゃ。』

 

すまんという詫びの一言があった

 

「そうなんですか 。それで、訂正の個所はいったいどこですか?」

 

先ほど机の上に投げた書類をめくる

 

『今日の朝一の便に積んであるからどこかしらから届くじゃろ。』コンコン

「承知しました。それでは・・・・・・。」ア、シグレチャン?アリガトウネ

 

ちらりと見ると時雨が吹雪に何か書類を渡していた

どうやら先ほど話していた書類が届いたらしい

 

『ああ、まて。もう一つ話があってな。』

「はい?」

『花見の客人だ。』

「・・・というと?」

『まだ処罰も何も下してないじゃろう?それについていい加減報告書を出さねばらならくてなぁ・・・・・・。』

 

ボソッと電話口からめんどいのうと声が聞こえた

 

「わかりました。明日までには結論を出します。」

『了解じゃ。じゃあの。』

 

 

 

電話を置くと吹雪が観艦式の追加の書類みたいですといって渡してきた

 

「ははぁ・・・。そういう事ね。」

書面には駿河諸島鎮守府は特例として6隻編成のみの艦隊派遣で構わないという旨が書いてあった

「どうされますか?」

「ここまで言われちゃしょんないわ・・・。行くしかないっしょ。」

困ったような声色だが、表情は少し嬉しそうだった

自身の部下が栄誉を受けるのは悪い気はしない

「わかりました!編成とかは・・・。」

「それは後日だね。いくらなんでも8月の予定のやつを今練ってもねぇ・・・。」

「それもそうですね。」

若干ほほを赤らめ、照れていた

「それよりも吹雪ちゃんは正装と艦隊旗艦徽章忘れないようにね?」

「あっ!はい!」

元気をいい返事をして秘書艦の机に戻っていくとき、ふとあることが頭に浮かんだ

「・・・今徽章もってるの誰だっけ?」

「・・・誰でしたっけ?最後に旗艦を務めたの?」

当然ながらうちの鎮守府は出撃なんてものは去年の秋の戦後処理にしたぐらいなもので、基本演習の時の旗艦がつけていくぐらいしか使用用途がない

 

 

 

「えっと・・・・・・確か春の作戦前演習で・・・阿武隈と皐月が交互に努めたんだっけ・・・?」

「いえ・・・。たしか臨時で深雪ちゃんが行ったこともあったような?」

「・・・。」

「・・・。」

「後で確認しといてね?」

「わかりました。」

早急に必要なものではないため、後回しにすることにして一旦席を立つ

もう一つの用事を済ませるためだ

「若葉さんのところですか?」

「こっちはいい加減後回しにできんからね~。」

後を頼んだよ

 

そう言って執務室を出た

 

 

 

駿河諸島鎮守府 農園

 

夏野菜の苗が育ち始め、麦わら帽をかぶったル級とリ級が雑草がないかを見て回ったり、肥料やったりと忙しそうに作業をしている

奥の方には、田んぼになっており、青々とした緑のじゅうたんが広がっている

横にはビニールハウスの反射光がまぶしい

その景色が一望でき、いつも提督の定位置となっているベンチに腰掛けている人影があった

 

 

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 

 

 

提督は横に腰を下ろした

だからといって話しかけるわけでもなく、じーっとル級やリ級の作業を眺めていた

五分ほどしてだろうか

二人がこちらに気が付いたのか手を振った

微笑んで手を振り返す

 

 

 

「耳本提督よ・・・。」

「ん~どした?」

先に開いたのは若葉だった

ポケットから煙草を取り出した

ビニールを取っ払い、開けて銜えると火をつけた

甘いバニラに香りがふわっとあたりに広がる

 

「私はどうしたらいいんだ・・・?」

「さぁ?」

 

重い口を頑張って開いた若葉に対してそっけない返事をする

何かしらの答えが返ってくると期待していたのだろう

びっくりしたような顔をこちらに向ける

「さぁって・・・・・・。」

「だってなぁ・・・。そもそもどうして欲しいんだ?」

 

若葉は押し黙る

多少酷な質問だろう

信じてきたものはすべてが虚飾

唾棄してきたものがすべて真実とは言わないが、自身の理想としたことに近い

あっけなくひっくり返された若葉はもはやどうしたらいいのかわからなくなっていた

「・・・・・・。」

「じゃあ聞き方を変えよう。まずは、死にたいか死にたくないか。」

「?!」

先ほどまでののどかだが、重い空気が一転

殺伐とした質問に若葉は驚いた

「生きる気がないものに情状酌量の余地もくそもない。どっちだ?」

 

テロ行為を行った艦娘は重罰に処される

当然最高刑は死刑もある

 

「・・・・・・私は。」

そういうとまた詰まってしまった

めんどくさいように感じるが、当たり前である

ぼやっとした質問から今度は生きるか死ぬかのとんでもない二択を突き付けられているのだ

「正しいと思ったことが実は正しいと思えなくなって・・・・・・正しくないと思っていたことが正しいと思えるようになって来た・・・・・・。ここの鎮守府の様子で考えはより強くなった。」

 

 

そう言って畑の方をまっすぐ見た

若葉みたいな主義を持っていた人からしてみたらこの光景はすべてをひっくり返してそのまま抑え込んでしまうような光景だろう

・・・普通の人でもひっくり返りそうだが

 

 

 

 

「・・・・・・。未来を見たいか?」

「未来?」

 

若葉の頭から湯気が出そうになっていたのが一転

はてなマークが浮かんでいる

 

「そ、この戦争が終わってのんびりとこうしてあいつらみたいに暮らしてみたいかってこと。」

「出来るのか?」

「ん~・・・・・・。わからんね。」

その一言でまたしても若葉はぽっかりと口を開けてこちらを見た

「わからないって。」

「そういわれてもなぁ~・・・・・・。そればっかはちょっと確実な保証は無理だからね。ひょっとしたら敵対してくる深海棲艦をすべて駆逐できるかもしれないし、あるいは和平して丸く大団円かもしれない。はたまた負けるかもしれない。」

「負けるって・・・。」

「こればっかりはね?もちろん負けるつもりはないさ。」

とはいえ、選択肢としてないわけじゃない

あくまで可能性の話である

 

携帯灰皿を取り出すと、灰を落とし込んだ

「他にもこれが延々と続く可能性だってある。さて?若葉はそれでも未来を見たいか?」

「・・・・・・。そんな形で言われたら見たいとしか言えないだろう?」

「だろうなぁ。」

少し笑って、吸い殻を灰皿に入れて揉んだ

「ま、そういう事なら。うちの鎮守府の所属になってもらわんとね。」

提督は懐から、所属に関する数枚の書類とペン、手帳をひょいひょいと取り出した

「いったいどこから・・・・・・。」

「内緒。あと、この手帳は返しとくからね。」

 

捕縛した際、若葉は様々な携行銃器や武器等、スマホ等を持っていた

当然そちらに関しては鎮守府の武器庫へとないないするしかなかったし、スマホは情報を漏らされる原因になりかねない

そのため、返却できそうな持ち物が手帳一冊だけだった

 

「そうか。ありがたい。」

若葉はお礼を言って受け取った

「部屋の準備とかの関係もあるからもう2~3日は農園部の部屋で我慢してくれ。」

「了解した。」

「あとこれ。おんなじやつじゃなくてわりーけーが。」

 

提督は先ほどまで吸っていた煙草の箱と銀のライターを渡した

 

「持ち物の中にあったけどいかんせんあれ(まやく)やらこれ(ばくやく)やらの疑惑でな。悪いが検査して捨てさせてもらったんだ。」

「そうか。」

それじゃあといって提督は立ち去った

 

 

 

 

 

「駿河諸島鎮守府所属耳本中佐・・・・・・か・・・・・・。」

若葉は先ほどもらった煙草に一本火をつけると、ゆっくりと吸った

片手には、先ほど返却された手帳

それを開いて、あるページを出した

 

インド洋解放作戦で空母轟沈に関係している可能性あり

その空母は耳本中佐の担当教官と契りを結んだ艦だった

 

前後の戦闘記録に修正が入った違和感あり

折があれば暗殺も視野にいれるべし

つかみどころのない性格で狂骨、野心家

 

「・・・・・・。」

若葉はペンで3行目には横線を引っ張って観察するべしと書き換え、最後の5文字は吸っていた煙草を口から外して5文字を消すようにもみ消した

そして、数字の羅列が書かれたページをじっと見つめた

ページを一度持ったが、かぶりを振って手帳を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日の花見の襲撃未遂事件の首謀者は実行に移せなかったことを悔やみ先日未明

牢屋から脱走し自決

遺体は丁重にこちらで葬ることとした

第一発見者である若葉は偶然にも(・・・・)無所属であったため、情報統制もかねて駿河諸島鎮守府預かりとする




しばらく触れてなかった若葉編です(=゚ω゚)ノ

今日の朝の最新で文月改二が実質確定しましたね
順当な結果という感じですね・・・
個人的にはちょっと・・・うんまぁ仕方ないですね!
とりあえず設計図がいらないことを祈りながらLv80でうちは待機中です

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