これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府のヘッドハント その1

「ご苦労様じゃったのう。」

 

大本営大将室

 

大将は分厚い書類束を机の上で揃えると、提督にねぎらいの言葉をかけた

 

「いえいえ。今回はいろいろな変更点がありましたから。」

 

 

 

今日は、前々から準備してきた株主総会が行われた

駿河諸島の宿泊棟、資源採掘及び精製、生産関係は半官半民の経営である

そのため、株主総会が行われる

が、あくまでも形式上であり軍上層部の者たちはだいたい名代を立てて終わりである

質問も、例年なら何もなく、ただただ事業の報告をして経営陣の再任(提督以外は他の省庁からの天下り)についての是非を問う

そして、来年度や中長期目標などの発表をして一連の流れは終わりだ

 

 

 

しかし、今回は少し違った

もともと提督の個人所有の土地になっている駿河諸島から資源が出たため、急遽設立された会社だが、提督自身の個人財産は土地と資源のみ

 

肝心の初期投資ができなかった

 

妖精さんの助力をもってしても、最低限の整備関係で数千万は発生する

それを解消するために、大本営と提督の間である契約をした

株式のうち3:7の割合で提督と大本営が保有をする(提督は3割の出資も難しいため、役員報酬から天引きしていく)

そして、徐々に金銭の余裕ができたら最終的に7:3の割合に持っていくという契約だ

結果として今年ついに、提督側の保有が5割を超えることになった

その関係で、約款を少しいじることになった

それに伴って、監視を強化する名目で今回から上層部以外のものも傍聴及び質問ができるようになった

これにより、今回はいつもの説明事項だけでなく様々な質問を浴びることになった

当然のことながら、天下りの官僚たちは質問に対して答えることができないため、すべて提督が答えることになる

 

 

 

「特に今回真ん前に陣取って聞いてきた黒髪に電探を模した髪留めつけてた子。あの子はすごかったですねぇ・・・。」

提督は苦笑いした

「まさか1時間以上延びるとは思わんかったわい。」

文月の入れてくれたコーヒーを飲みながらぼやいた

「で、だ。これについてなんじゃが・・・。」

 

 

先ほどまとめた書類の中から一部をつかむとローテーブルの上にバサッと置いた

 

 

「改修資材生産工場設置願い 駿河諸島鎮守府」

 

 

「何か不備がありましたか?」

「いや・・・不備はないがな・・・。」

 

そういうと、大将は自分の机の上に置いてあるノートパソコンを開いた

何やら2~3分ほどいじると、それをもって再びソファーに腰を掛けた

提督に見えるように画面を向け、少し見なさいと言った

 

 

画面には折れ線グラフが表示されていた

縦軸は100を真ん中として200を上限

横軸は10月、11月と振られている

どうやら毎月のある統計みたいだ

 

10月は120、11月は80、12月130、1月150、2月だけ40と乱高下に推移していた

しかし、3月に75となってからはまた右肩上がりに転じ最後の5月は195にまで登っていた

 

 

「?何ですかこれは?」

「何ですか?じゃと・・・?」

 

大将はローテーブルをバンと叩くと

 

「貴様の時間外労働の統計じゃ!バカモン!」

「ああ!なるほど~・・・。」

 

みれば、風邪で倒れた2月や秋祭りのあった11月は減少している

 

「なるほどじゃないわい!こっちがいくら業務負荷を改善しても次から次へと仕事を作りおってからに!作るのは構わんがこっちに増員願いを多少は打診せんか!」

 

ローテーブルをバンバンと叩く。

 

「ええ・・・・・・。しかし・・・前に打診したときは無理だって・・・。」

 

困惑した顔を提督がすると大将は気まずそうな顔をする

 

「・・・その時はタカ派の勢いが強くてなぁ。じゃが今は拮抗してるから多少の融通は利かせられるんじゃ!まったく!」

 

はぁとため息をついて少し冷めたコーヒーを口に入れる

 

「大体、聞きたいんじゃが・・・・・・なぜ会計部を持っとらんのじゃ?」

「・・・あっ。」

「やっぱりわすれとったんじゃなぁ!!」

 

提督はすっかり忘れてたという表情をし、それに対して大将も声を張り上げる

 

「大方会計処理で増えているんじゃろ?!そうじゃろ?!」

 

 

 

駿河諸島鎮守府での会計処理は提督と吹雪が行っている

これにはちゃんとした理由があり、最初は設置する必要はなかったのだ

金銭のやり取りがあったのは補給部と途中から出来た宿泊施設からだけだったので、業務のほんのごく一部に過ぎなかった

設立時は、補給、生産、採掘、宿泊施設開業準備と担当者の方が不足していた

提督としては、会計処理よりも通常業務の担当者の方が不足していたので、人員をそちらに優先的に回し始めた

 

人員が足りてくると、今度は業務拡大の方にばかり目が行った

 

 

結果として、宿泊施設が拡大し始め、皐月に担当させ始めた商店関係とゴーヤが担当し

ているオリョール海の海の家(仮称)では決して少額ではない金額が上がってくる

さらには、山風が担当している農園部では国内の一部に果物を卸し始めた

その金額も少ないわけがない

それどころか、これから畑や田んぼの収穫されたものも消費できそうになければ本土に卸す予定がある

 

規模が拡大してくにつれまとめる報告書も最初は月次だったが今では週次になっている

そして、自身が処理している4割近くが会計関係になっている

 

 

 

 

「・・・・・・はい。」

「全く・・・。本来なら却下・・・と言いたいところなんじゃがそうも言ってられんことがあっての。」

パソコンをいじり、別の画面を出した

そこには改修資材生産工場立候補地一覧表と書かれたリストには実に50か所もの鎮守府や警備府、泊地が記載されていた

しかし、その大半は赤色のマークがついており、時々黄色が混ざる程度

青色は片手で数える位しかなかった

「赤はどうやっても難しいところ、黄色は問題点を改善して初めて検討に上がるレベルじゃ。」

深いため息をついてぱたりと閉じる

リストの中にはタカ派、ハト派関係なく印が付いていた

 

再びパソコンを戻すと、今度は書類束と印鑑をもって戻って来た

「じゃからこれがわしの妥協案じゃ。」

 

書類束には第二次軽減策要綱と書かれていた

 

中を見ると、短時間遠征処理を拠点鎮守府に業務を移譲するというものだった

つまりは近海警備や対潜哨戒、防空演習などの物を、以前設定したブロックごとに処理を行うという事になる

これらは短時間で終わる分報酬も少ないが、回数がこなせることから毎日の膨大な艦隊が寄港する

量にして2~3割は占めている

 

「これなら確かに相当減りますね・・・。」

「・・・・・・拡大はいいがちゃんと人員増やしてからにしてくれんかの?」

「・・・・・・善処します。」

 

たっぷりと考えてそう言うと大将は再び頭を抱えた

善処しますとは・・・つまりはそういう事である

 

鎮守府の規模拡大は、利便性が増すことから決して悪い話ではない

が、当然のことながら提督と吹雪の業務量が増えていく一方なので圧力がかかる(主に古鷹と時雨)

 

「わしは言ったからな・・・。で、最後の書類を見てくれるか?」

 

そこには、転属届があった

 

「そしてこのわしの認証印貸すから今日今すぐ大本営にいる誰でもいいからヘッドハンティングしてきなさい。」

 

 

 

 

 

 

 

「って言われたんだけどさ・・・・・・。誰かいい人知らない?」

「知らん。」

 

 

大本営 甘味処

 

 

冷たく突き放した返事をしたのは今日の護衛でもある深雪だった

 

 

補足だが、大本営には2種類の艦娘がいる

1つは大本営に直接所属している艦娘

大本営にもいくつかの部署が存在し、そこの事務処理は艦娘と妖精さん、が担当している

また、大本営直属の将官に所属している場合もこちらに含まれる

 

以前の阿武隈や深打の電、夏木の五月雨が麾下のケース

深雪や望月、皐月が部署に所属してたケースだ

 

 

もう1つはというと、無所属のグループだ

大本営で建造された子や鎮守府が解体され、一時的に身を寄せている者、次の鎮守府へ移動を待つ者など理由は様々だがとにかく所属していない子たちもいる

といっても、便宜上大本営に所属していることになる

これを見分けるには艦娘自身が持っている身分証に、○○課か△△部所属、もしくは~~麾下と書かれているかいないかだ

 

 

因みに無所属の子の大半は駆逐艦である

駆逐艦だけかというとそうではなく、戦艦や空母、重巡などもいる

しかし、どこも重量級は人手不足の中では即戦力となるためすぐに声がかかり、めったにいない

その点、駆逐艦はどこもそれなりにそろっているせいかそこそこの子たちが待機状態になっている

 

「ええ・・・。前いたときによさげな子知らない?」

「いるっちゃいるけどなぁ・・・。そいつは多分引き抜けないと思うし、ほかのやつもみんな重要なところか、転属しててここにはいないぜ。」

 

深雪はそういうとパフェを食べるのに戻った

 

「そっか・・・。そうだよなぁ・・・。うちの会計を新人に押し付けるわけにもいかないしなぁ・・・。あっ砂安中将!」

「ん・・・・・。耳本君に深雪か。今日はご苦労だったな。」

「いえいえ。想定してたことですから。」

「そうか・・・・・・。ところで・・・その・・・・・・いや何でもない。」

 

砂安はちらりとテーブルの上を見て何か言いたげな顔をしたが、ふいっと目を逸らして、空いている椅子を持ってきて座った

机の上にあるのは2つのパフェ

片方は普通、片方は特盛という大きさだ

しかも、深雪が食べているのは普通で提督の方が特盛だ

さらに言うなら深雪はまだ半分残っているのに対し、提督のはそこの方に少し残っているだけ・・・

がっつく様は異様な光景だっただろう

 

「?」

 

提督は首をかしげているが、深雪は察したらしく何とも言えない顔で砂安を見た

 

「そういえば中将・・・。誰かここにいる子で会計関係に強い子知りませんか?」

「ん?どうした藪から棒に?」

「実は・・・」

 

(カクカクシカジカマルマルウマウマ)

 

「なるほど。だが、すまんな。あいにく思い当たる子はいないな。」

「そうですか・・・・・・。」

 

中将もだめかぁとぽつりと言うと、ふぅーっと深いため息をついた

 

「耳本中佐ですか?」

 

どうしようか再び思案しようとした時、今日はよく聞いた声で名前を呼ばれ振り向く

 

「すみません。突然お声をかけてしまって!」

「ああ。いえ。君は・・・・・・。」




ちょっと設定のおさらいに近くなってますが・・・(;´Д`)
次回には新しい子を出す予定ですはい(ご予想して楽しみにしていただければと・・・)

文月改二
なんとなく予想してましたけど・・・
等身伸びた!(´゚д゚`)
自分は思わず声が出ましたw
といっても望月のクリアファイルで望月の等身も伸びてたのでこれはひょっとして・・・と予想してました

何より笑ったのがアップデート時のおしらせの文月改二のところではいつもなら
○○改二
△△改二はよ
◇◇マダ~?
のはずが一同そろって

世に文月のあらんことを

で埋め尽くされていたことでしたフミィ

それではみなさん
世に文月のあらんことを

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