これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の異変 その2

提督は頭を抱えていた

目の前にいる人物に対してだ

 

「・・・・・・どうしてこうなった。」

 

思わず提督の口からこぼれたのは弱弱しい一言だった

 

「その・・・なんかすまない。」

「ああいや・・・。うん・・・・・・。ちょっと・・・ちょっと待って頂戴な。」

 

申し訳なさそうにする相手に提督は片手で、こめかみを抑えながら片手で待ったをかける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいるのはほかでもない深海棲艦だ

 

それも戦艦ル級でも重巡リ級でもない

 

空母ヲ級だ

 

 

吹雪との帰還の行程に関する通信を終えた時だった

近海の哨戒に出ていたゴーヤが報告のために執務室へとやって来た

 

「てーとく!阿武隈のかわりの潮流の調査と哨戒終わりました!」

「ん・・・。おお、お疲れ様。何か哨戒の時に異常はあったかい?」

 

ぼんやりと考え事をしながらいつもの決裁をいったん止め、ゴーヤからの報告書に目を通す

 

 

「特にはなかったでち。ただ、提督に会いたいという子がいたから連れてきたでち。」

「そうかそうか。じゃあさっそく呼んできて頂戴な。」

「了解でち!はいっていいでちよ!」

 

頭をなでてやると嬉しそうにした

そして、ドアの向こうにいる人物に話しかけた

 

「失礼する。」

 

 

 

ヲ級が入って来た時、最初は提督も慌てた

しかし、武装をして居ないことに気づいた

 

ゴーヤを発見した時、装備していたのは偵察機のみ

しかも、ゴーヤを見つけると真っ先に両手を上げて降参の姿勢だったという

さらには拿捕されて、陸上に上がった直後すぐに頭部の艤装をはずし通信などを行っていないことをアピールする徹底ぶり

 

流石のゴーヤも一人で判断しかね、加古に相談

加古が最初の尋問を行ったわけだが、ヲ級はすべての質問に淡々と答えた

そして、目的に関して問うと親書を渡しに来たという

 

 

 

差出人は港湾棲姫

今まさしく出撃しているリランカ島を占拠していたはずの深海棲艦からのものだった

 

 

 

ル級やリ級の前例もある

加古は嫌戦派かどうかの確認をすると、返事は

 

「あいつらみたいだが・・・・・・そうだな。私はその部類に入るな。」

 

念のためにもゴーヤの監視付きという事で提督への謁見を加古が許可をしたという事だ

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、今リランカ島を不法に占拠している港湾夏姫を追っ払ってほしい。そして、できれば私、もしくは自分が信頼できる艦娘を一人派遣してほしいと・・・・・・。そういうわけだな。」

 

落ち着いてきたのか、やっと深いため息と共に親書の内容の確認をする

 

「そうだ。時々こういった勢力が出張ってきては追っ払っているのだが・・・・・・。今回は失敗してしまってな。」

 

提督は迷った

今は作戦の遂行中

いくら嫌戦派とは言え作戦の全容を話すわけにはいかない

上手くぼかして伝えるべきか・・・・・・はてさてどうしたものか

そう悩んでいるとき、ヲ級が先に口を開いた

 

「その・・・。どうも作戦の展開中に来てしまったみたいですまない。この通り、通信機器の類はないし、作戦期間中は身柄の拘束をしてもらってもかまわない。この通りここに来るまでに艦隊の移動とかも少しとは言え見てしまっているのだ・・・・・・。」

「!」

 

これは揺さぶりだろうか・・・

はたまた・・・

そうヲ級の顔を見ると嘘を言っている雰囲気ではない

信頼してもよさそうだ

 

「・・・・・・。実のところ言うとうちの艦隊はちょうどそのリランカ島をたった今攻め落としたところでな?目的の半分は達成してしまっているんだ。」

「なんと!それは本当か?!」

 

思わずヲ級が立ち上がった

 

「早速姫様に・・・ってしまった忘れてた・・・。」

 

喜びの表情を出したのち、頭に思わず手をやったところを見るといつもの癖が出てしまったらしい

 

「とりあえず一回頭の艤装をつけて報告はしてきていいよ。」

 

思わずそのしぐさに笑いを抑えながら落ち着くように勧めた

うちにいるル級やリ級みたいに人間臭いと思った

 

「ああその・・・。実はここに来る途中に疑われてはいけないと思ってな・・・。通信部を壊してきているんだ。」

「・・・・・・。本当に徹底しているんだね。」

 

なんとも義理堅いなぁと思いつつこれからどうしようかと考えた時、通信機の方からピーピーと着信が入っていることを告げる音が鳴った

 

「ちょっと失礼・・・。はい、耳本です。・・・ああ!これはこれは・・・・・・。え・・・?なんですって・・・?え?!じゃあ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通信機は?!」

「ダメです!先ほどの空襲で破損してます!」

「こっちもか・・・!」

 

川内と古鷹が、爆音の中大声で確認をする

川内は舌打ちをしながら妖精に通信機の修理を急ぐように言った

 

現在は空襲の波が引いており、深海棲艦機からの爆撃はさほどひどくはない

 

「川内さんすみません・・・。」

「悪いのは僕だ・・・。吹雪に負担をかけて、魚雷が行った報告も忘れた・・・。」

「今はそういうのはいいから。翔鶴さんの通信機もダメ?」

「すみません。私もちょっと・・・・・。」

「くっ・・・・・・・。」

 

 

 

 

吹雪は魚雷を真横からまともに食らって大破していた

大破すると、艤装は1~2時間は障壁を展開し続ける

しかし、その時間を超えると障壁は失われ、浮上航行最優先となる

 

障壁とは艦娘が受けるダメージを軽減し、大半を服へと受け流すシステムのことだ

また、艤装装着状態ではどのような怪我も服へと流れるが艤装をすべて取り外してしまうと普通の人と変わりなくなってしまう

 

つまりは障壁がない状態だと服へと流れるダメージはすべて肉体へと流れ・・・・・・

 

 

 

 

(被弾してからすでに1時間半が経過している・・・。障壁はいつ切れてもおかしくない・・・・・・。)

 

吹雪の頭にはある考えがよぎっていた

幸い今は空襲が酷くはない、自分以外はまだギリギリ小破止まり

全速力で抜ければ、リンガ泊地の防空圏まで大破まではせずに逃げ切れるだろう

 

 

 

 

 

 

 

「陣形を変更します。先頭を川内さん、続いて翔鶴さん、時雨ちゃん、古鷹さん、私の単縦陣で行きましょう。」

「吹雪?!」

「囮になるつもり?!」

「だったら僕が!」

 

口々に反対の声が上がる

それもそうだろう

 

「落ち着いてください。今はとにかく逃げ切ることを考えた方が得策です。このままでは全員がいずれは大破。撃沈されてしまいます。」

「だったら吹雪ちゃんが先頭に・・・。」

「大破している私の全速ではリンガ泊地の防空圏に到達する前に完全に補足されます。」

 

古鷹の反論に淡々と吹雪は答える

 

「だったら僕が囮に・・・!」

「この中で一番誰が沈みやすいか・・・時雨ちゃんならわかるでしょ?」

 

それを言うと時雨は何も言えなくなってしまった

 

「早く陣形の変更をしましょう。旗艦の指示でしょう?」

 

翔鶴の一言を聞いた瞬間3人は驚いた

そして、怒りのこもった目でにらむ

 

「空襲が近づいているんです。あと10分で先ほどと同規模の空襲が始まります。」

 

それを聞いた吹雪は3人に真剣なまなざしを向けた

 

「現状今は一人でも多く生きて帰ることが重要なんです。わかってください。」

 

そう言いながら胸元につけた旗艦のバッチを外した

そして、陣形変更をしようとする川内に話しかけた

 

「川内さん。これを。」

「・・・。一つだけ聞くよ?吹雪は最初から囮になるつもり?」

「・・・・・・。いいえ?ぎりぎりまであがくつもりです。」

 

それを聞くと川内は笑って旗艦のバッジを受け取った

 

 

 

 

そして、そのまま吹雪の胸元につけ返した

 

「川内さん!」

「最初から囮になるつもりがないなら受け取れないよ。さ!逃げよ!」

 

川内は戦闘に行くために船速を上げて行ってしまった

吹雪はため息をついた

しかし、それはうれしくもあった

囮になるといっていたらそんなことは認めないといって結局受け取らなかっただろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり・・・。出力が上がらない。)

 

 

あがくとは言ったものの、実際にはこの有様だった

 

徐々にではあるが、引き離されていく

しかし、誰も後ろを振り向かない

これは吹雪からの指示だった

自分が遅れていることに気が付くと無意識に船足を緩めてしまうだろうという考えだった

 

 

 

吹雪と最後尾の古鷹の間が、一艦隊分の距離になったころだった

 

ついに耳に深海棲艦機の音が聞こえるようになった

之字運動を近距離無線で指示し、吹雪は対空砲火のために振り向いた

最接近していた編隊は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった

が、次の編隊はすぐそこ

必死の形相で対空砲火を続ける

 

 

 

しかし、多勢に無勢

先ほどまでいた翔鶴の直掩機も引き上げた

 

徐々に、戦闘空域と吹雪の距離は縮まっていく

そして、ついに吹雪の直上まで戦闘空域が到達した

 

 

 

(・・・!)

 

 

 

それと同時だった

 

 

 

大破から2時間10分

通常よりはるかに長く持ってくれていたついに障壁が切れた

 

同時に、今度は後ろから艦攻が横並びで10機投下の体勢に入っている

これでは左右どちらに避けても魚雷が当たる

 

 

 

 

 

(司令官・・・・・・。すみません。おやすみなさい・・・・・・。)




早めの更新が続いております(=゚ω゚)ノ
次のお話も早めの更新ができるとは思いますので・・・

先日四式ソナーに修正が入ると聞き、対潜値が強化されるものだと思い込みまいあがってましたが・・・

「装甲+1」

・・・orz

一番いらないものが・・・
せめて回避か索敵だったらまだしも・・・とガックリしておりました
海外ソナーを秋イベの報酬でもらえると嬉しいなぁと・・・
+15じゃなくても+13でもありがたい・・・

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