これははたして鎮守府か?   作:バリカツオ

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駿河諸島鎮守府の裏切りと連行 その1

提督の叫び声に吹雪が振り向いた時、右ほほを熱いものが通り過ぎた

見れば翔鶴が拳銃を構え、引きつったような笑みをこちらに浮かべていた

そして、提督はこちらに背を向けて倒れこんでいた

 

 

「しれい・・・・・・かん・・・?」

 

 

周りの者たちはみな何が起こっているのかわからなかった

誰もが頭が真っ白になっており、どうしたらいいのかがわからなくなっていた

その沈黙を破ったのは翔鶴だった

 

「あはは・・・・・・ははは!やったわ!瑞鶴!やったわ!」

「きさまぁ!」

 

「司令官!」

 

翔鶴の高笑いと普段の優しい古鷹が激高した声でみんなが我に返り司令官に駆け寄る

翔鶴は特に抵抗する様子もなくすぐに古鷹に取り押さえられた

が、提督の方は先ほどからピクリとも動く様子がない

 

 

「司令官!司令官!!」

 

 

提督に真っ先に着いたのは吹雪だった

必死で揺さぶりながら声をかけるが返事はない

 

「吹雪!どいて!」

 

加古が半狂乱になっている吹雪を制し、提督を診始めた

 

(出血はそこそこで赤黒い・・・。被弾部は腹部と・・・・・・!)

 

慌てて加古が提督の背中を見る

 

「ストレッチャー持ってきて!すぐに手術だ!」

「はい!もってきたよぉ!」

「そぉら!急げ急げ!」

 

深雪と望月がすでに持ってきており、提督は運ばれていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 

手術中の赤色灯が点灯し始めてからすでにどれぐらいが経過したかわからない

吹雪と川内、時雨はずっと待っていた

吹雪と時雨はソファーに座ってこうべを垂れ、川内は立ったまま扉を見つめていた

他の者たちが心配して一度休むように勧めたが、誰も反応しなかった

 

「!」

「「!」」

 

赤色灯が消灯し、扉を開けて加古が出てきた

 

「「「加古!(さん!)」」」

「・・・ちょっと着替えてくる。執務室に集合かけるから先に行って・・・・・・。」

 

 

 

3人が執務室に行くと執務室には犯人の翔鶴含め主要なメンバー全員が集まっていた

翔鶴は後ろ手に縛られ、正座をさせられていた

 

「さて・・・・・・。提督なんだけど何とか一命はとりとめたよ。」

 

その一言に執務室の空気は少し和らいだ

 

「幸いにも傷ついたのは静脈で、一発は貫通、もう一発は肝臓付近で止まっていたけど奇跡的に大きな傷はつけてなかったから銃弾を取り出して縫合したよ。」

 

その言葉を聞くと3人は糸が切れたかのように崩れた

 

「数日は感染症とかを気にしなきゃならないけどそれさえ過ぎれば大丈夫。」

「・・・・・・チッ!」

「後は・・・。そいつの動機について聞かないとね。」

 

翔鶴の舌打ちに全員が手を握りしめたり、睨んだりした

 

「人の妹を死に追いやっておいて・・・。」

「どういうこと・・・?」

 

山風が強めの口調で問いただす

 

「誰も知らないなら教えてあげるわ!あの男が私の妹の瑞鶴と大沢元帥を叩き落としたことをね!」

 

語気荒く語り始めた

 

 

 

 

 

 

 

カレー洋解放作戦

大本営が公式に出している戦果報告書は実は裏があり、あることを隠蔽していた

それは、見習い提督が参加している事だった

 

特別科の中でも作戦立案や指揮に秀でたものを作戦指揮の場所に同行させ場の空気に触れてもらおうという機会を設けてあった

 

当然全員が全員呼ばれるわけではなく、その年の上位の者たちしか許されない

耳本、深打、夏木がこの時は同行が許可されていた

 

作戦は志垣中将、桐月中将の主導の元、恙無く進行した

夜間空襲戦法など当時最高と名高い作戦立案と指揮を行い無傷で港湾棲姫へと向かった

 

が、港湾棲姫に大打撃を与えたその復路

偵察機が輸送船団を発見する

これを撃滅するべきかどうかで、耳本が強硬に叩くことを主張

志垣、桐月両名は反対したが、耳本は止まらなかった

勝手に打電を行い、空母2隻を輸送船団へと差し向け、艦隊を分断した

その結果、艦隊の直掩機がいなくなったところを襲撃されてしまい艦隊は全滅の危機に瀕した

やむ負えず、唯一無傷だった瑞鶴が囮を引き受け艦隊は撤退

 

作戦を乱した耳本の処罰などに追われ、瑞鶴の捜索隊が組まれることはなく行方不明を事実上撃沈という判断になった

また、将来性を重んじこの事実は隠蔽され耳本は特別科から普通科へと転出という処罰が下される

 

教官を務めていた大沢大将は教育関係の責任を裏で問われ、元帥に昇格という形で隠居させられることになり、ケッコンしていた瑞鶴と海軍の地位をすべて失うことになった

さらには、もう一人のケッコン艦とも別れることになった

 

 

 

 

 

 

 

「これがあの男の真実よ。自分の名前を残したいがために・・・目先の欲に突っ走った結果が瑞鶴の戦死よ・・・・・・。あんな男ああなって当然よ!」

 

翔鶴の目は血走り、精神的に不安定なのがわかる

 

「だから・・・あの男には同じ苦しみを味わってほしかった!瑞鶴と私、そして大沢提督との3人の平和な時間を奪った苦しみを・・・!」

「・・・途中から変だったのは私たちの誰かを沈めるためだったのね?」

 

川内が静かに言った

 

「ええそうよ!リンガニ応援を要請したトいってウそをつイたのも!直掩機の中に艦攻を混ぜて爆弾を投下したのモ!・・・ソして深海棲艦機をこチらに向カワセタノも。」

 

翔鶴は立ち上がった

が、その姿は空母翔鶴ではなかった

 

 

 

 

「アノオトコニフクシュウスルコトヲカンガエテイタライツノマニカコノスガタニナレルヨウニナッテイタワ。」

 

「!」

 

 

 

 

その場にいた全員が思わず距離を取る

翔鶴の姿は変わっていた

 

血走った眼は赤く光り、肌は白く変色していた

来ている物も黒色に変化したその姿はまるで空母水鬼のようだった

 

だが、暴れるわけではなく言葉をつづけた

 

「シトメソコナッタイマ・・・ワタシニノコサレタノハシンカイセイカンキヲヨビヨセルコトクライ・・・。」

「・・・・・・!鳳翔さんに基地航空隊の管制を!損傷がまだ治ってないもの以外は全員対空兵装!榛名はホテル側の避難誘導を!」

「アハハハハ!マニアイマスカネ?」

 

意図に気づいた川内が大急ぎで指示を出す

内線で連絡に行く者や艤装を取りに行く者と慌てて散っていった

 

「・・・・・司令官!」

 

吹雪は執務室を飛び出し、司令官が寝ている病室へと向かった

動けない提督を避難させるためだ

 

 

 

 

「司令・・・か・・・ん?」

 

扉を開けるとそこには誰もいなかった

おそらく提督が寝ていたであろうベットにはだれも居なかった

が、ベットを触ると温いことから先ほどまではここにいたことがわかる

トイレかと思い行ってみるが、誰もいない

そもそも、手術をしたばかりで歩き回れるはずがないのだ

 

「ドコニイッタカキニナルノ?」

「!司令官をどうしたんですか!!」

 

きょろきょろと探し回る吹雪に後ろ手に縛られた翔鶴が現れた

それに対し、食って掛かるように言うと不敵に笑った

西日が翔鶴の顔に影を落とし、より一層不気味に映った

 

「アノオトコハグンレイブニレンコウサレタノデショウ。コンカイノサクセンノシッパイヲトワレテネ。」

「失敗?!どういうことですか!」

「ワレワレノコウリャクブタイガテッシュウスルサイ、アノヒトノシジデモウヒトツベツノクウバクブタイヲサシムケタノヨ。クウバクハセイコウ。」

「それって・・・・・・!」

「サクセンノコンカンニヒビキハシナイケド、グンポウカイギニカケルニハジュウブンナケンギ。サッキハナシタゼンカヲフクメテアシタニハジュウサツデショウネ。」

 

それを聞いた吹雪は銃殺とつぶやくと膝から崩れ落ちた

その様子を見て翔鶴はさらに嬉しそうに笑った

 

「アハハ!イイワァ!ソノカオ!アトハアナタタチガイキノコレバジュウブン。ワタシハシヲマツノミヨ。・・・シガキニシタガッテヨカッタワ。」

 

高笑いしながら吹雪に背を向けて病室を出て行った

それと同時に地鳴りがする

甲高い音からするに空爆が始まったのだろう

 

 

「司令官・・・・・・。」

 

 

吹雪はふらふらと立ち上がり、提督が寝ていたであろうベットに体を横たえた

 

 

もうどうでもいい

司令官は助からない

 

 

 

そういう気持ちがわいていた

同時に、体が鉛のように重くなる

思えばまだ入渠していなかった

 

そんなことを思い出しても入渠場に行く気はしなかった

爆音と振動がベットを揺らす

火災報知機の音が遠くで鳴り、焦げ臭いにおいがほのかにし始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

気だるげに吹雪はスカートのポケットをあさる

スマホが振動していたのだ

画面を見ると龍驤さんと表示されていた

 

「・・・はい。吹雪です。」

『やっとでた!心配したで!今どこや!』

「今は病室です・・・。」

『状況は川内から聞いとる。・・・で?何があったんや?』

「・・・・・・実は・・・。」

 

吹雪はポツリポツリと話し始めた

しかし、提督が連行されたあたりから堰を切ったように話し、感情が抑えられなくなっていた

龍驤は静かに相槌を打っていた

 

「龍驤さん・・・わたし・・・・・・どうしたら・・・。」

『吹雪はどうしたいんや?』

 

 

 

どうしたい・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一言で頭が働き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・助けたい。」

『・・・。』

「私はまだ司令官と一緒に居たい!」

『うちもや。』

「司令官を連れ戻したい!銃殺になんかさせたくない!!司令官があんなことをするはずがない!!!」

 

みんなそうおもっとる

そう龍驤から返事が帰ってきて吹雪はベットから起き上がった

 

「・・・でもどうすれば・・・・・・。」

『心配せぇへんでもええ。・・・うちはな?切り札を手に入れてきたんや。』

「切り・・・札?」

『せや。すべてをひっくり返す切り札をな。あと1時間ほどでそっちに着く。それまでに着陸か着水できるようにしといてくれへんか?』

「・・・・・・わかりました!」

『どうやら復活したようやな。ほな、任せたで!』

「はい!」

 

 

 

吹雪は、病室を出て執務室へと走り出した

ところどころ爆弾の直撃で損傷を受けたり、火の手が上がったりしている場所があったが、今はそちらに目をくれず走った

途中であった若葉に消火作業を頼んだりするなど、消火に関しては指示を出しながら向かう

 

 

 

 

「あっ!吹雪!」

「ル級さんにリ級さん!・・・と?」

 

階段を登ろうとした時、ル級とリ級、ヲ級に会った

先ほどまで出撃していた吹雪はヲ級とは初対面だ

ヲ級は自己紹介をしようとしたが、ル級が先に口を開いた

 

 

「後で説明するわ!それよりも私たちも何か手伝えることはない?!」

「艤装はないけど・・・何かお手伝い位はしたいの!」

「私も微力ながら助力したいと思ってこっちに来たのだが・・・。」

「じゃあ一回執務室まで一緒に来てもらえませんか?!時間がないんです!」

 

いうと同時に階段を駆け上がる

 

「川内さん!」

「吹雪!さっきの話聞いたよ!」

 

どうやら、さっきの電話はみんなの通信機の方に流れていたようだった

気恥ずかしさが顔を熱くしたが、振り払って会話を続ける

 

「じゃあ川内さんはこの3人を艤装保管庫へ連れて行ってあげてください!」

「艤装保管庫?でも深海棲艦用の艤装はないけど・・・。」

「臨時で艦娘用のを使ってもらうんです!今はとにかく対空射撃に関する艦が1人でも多くいた方がいいんです!」

「私も!やります!」

 

 

駆け込むように入って来たのは榛名だった

避難誘導を終え、戻って来たのだろう

 

「艤装の演算はできなくても砲台としてならできます!」

 

確かに発射角度の計算などをやらなければ体への負担なしで射撃ができる

命中精度は落ちるが、ないよりはましだ

 

「でもそれだと・・・・・・。」

 

当然海の上ではないため回避運動は思うようにいかないだろう

海に出た場合は、当然航路の計算やスピードの演算に体に負担がかかってしまう

 

「いいんです。私は・・・提督さんを連れ戻してくれると信じています!・・・・・・あの絶望的な状態ではないんです。」

「・・・・・・わかりました。榛名さんの艤装も保管庫にありますから川内さんと一緒に行ってください。」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

退出していくのを見送ると、無線機をつけ、全員に呼びかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん。ご心配をおかけしました。只今から私、吹雪が指揮をとらさせていただきます。」

「龍驤さんから連絡があった通り、あと1時間以内に敵の攻撃をやませなければなりません。」

「ですが、それを乗り越えれば・・・司令官を助けることができます・・・!」

 

 

「各員の奮闘を期待します!司令官を取り戻し・・・・・・勝利を刻みましょう!」




目まぐるしく状況がどんどん動いてますがもう少し続きます(´・ω・`)



皆さんのサンマ漁の進捗はいかがでしょうか?
作者はさっさと30匹集めて備蓄に戻っている状態です
海防艦改修が非常に魅力的ではあるんですが・・・
いかんせん絶対成功がないうえ、掘り辛いという最悪の組み合わせにより見合わせ状態です(ノД`)
ほんとは改修施してあげたいんだけどね・・・?

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