「待って!この学校の生徒って全部で何人?」
「えぇっとぉー……ぅあ!?」
100人いなかったよな確か。それに生徒全員集めたとこ
ろでこの体育館はスッカスカですけどね。
「まさか鞠莉さん、それをわかってて…」
理事長を鞠莉さんって。でも確かマリーと呼んでみたいな
ことを言っていたな。私は無理だ、今後も理事長と呼ぶ。
そして私の思考を止めさせるチャイムが体育館に響きわた
る。よーし、バレずに退散退散っと。
3人は呆然としていたので難なく廊下へと戻ってこれた。
さてと、今日も1日頑張っ…
「やはり、あの3人に協力する気はありませんですのね」
職員室に入ろうとすると後ろから声をかけられた。神出
鬼没すぎやしませんかね、この生徒会長殿は。
「あぁ、私は新任教師で忙しいのでね。」
もう色々ありすぎて考えるのも面倒だったので適当な理
由を述べて職員室へ逃げ込んだ。
今日も変わらない日常を過ごし、気づけばHRも終わり
職員室へと戻ってきていた。明日の準備はすませてある
しさっさと帰ろう。そうだ海を眺めながらアコギでも弾
き、沈む夕日でも眺めますかね。…なにこれ病んでる人
まっしぐらやん?(笑)
1度家に帰り引っ越しの荷物の片隅からアコギを取りだ
して海辺へと向かう。到着したころには丁度夕日に照ら
れる時間で最高にムードが良い。
ケースからギターを取りだし一応回りに人がいないか確
認する。まぁ時期が時期だし浜辺の方には人来ないでし
ょ。適当な場所で腰を降ろし、コードを押さえる。そう
だな、時期外れだけどスノハレとか良いかも。
目を瞑り、ギターでイントロに入る。
~~♪~~~♪~~~~~♪
ふぅ、久しぶりに歌った。やはり良い曲だし、心がスゥー
っと落ち着く。。西木野からこの曲が上がってきた時は鳥
肌がヤバかった記憶が今でも鮮明に蘇る。
雪とは無縁そうなこの海辺でこの歌を歌う、乙だ。
目を開き海へと視線を向けると、生足が2本。何で?
目の前に人がいるからに決まっているだろう(笑)いやいや、
問題はそこじゃない。まさか聴かれてたのか!?何か
恥ずかしい。スルリとした細足を捉えている視線を叙々に
上へとあげていく。スルリとした足にスルリとした体型…
そして浦の星のせいふ…く…。。
顔を確認した時には開いた口が塞がらなくなっていた。
「黒澤…なんでお前がここに…?」
恐る恐る尋ねるも、黒澤は呆然と私の顔を見下ろしている。
「お、おい!黒澤!?」
立ち上がって彼女の肩を叩くと我に返ったのかビクッと
体が反応し距離を取られた。…なにこれ私が悪いのか?
「お、驚きました。。編曲の観点からギターは弾けて
当然だと思うのですが…その…素敵な歌声でしたわ。」
何を言われるのかと心配したが、素直に誉められた。
「男性が歌うスノハレも、良いものなのですわね。」
そろそろ誉めるの辞めて頂きたい、照れる。しかし…
黒澤もこんな綺麗な笑顔するんだな。夕日と相まって
彼女の笑顔は今まで見たこともない…神秘的な物を感じる。
って、いつまでも顔見てる場合じゃない。
「で、お前はここで何をやってる?それに手に持ってる
その物騒な木の枝はなんだ?」
「こ、これは、そ、その…」
「まさか私を撲殺する気だったのか!?なんてや…」
「ち、違いますわぁーーー!!」
今度はブンブンと木の枝を振り回し私に向かってくる。
これは…逃げなきゃやられる!?
急いでギターをケースに直し、一目散で砂浜を走る。
すると、少し走ったところで砂浜に文字が書かれている
のに気づいた。…!?これは…
「お、お待ちなさーい!!」
やっべ、今は逃げるのが最優先だ。家までダッシュで
帰ってる最中に高海達とすれ違ったが迷わずスルーし
て逃げる。そして玄関へ飛び込み鍵を閉め…よし、もう
追ってはきてないな。。あぁ疲れた、癒されてたはず
なのに。とりあえずシャワーでも浴びて寛ぎますかね。
綺麗サッパリ爽快♪
お風呂場から出て明日の天気でも確認しようとスマホ
を見ると着信履歴のところに1の文字。。何か今日色々
ありすぎて怖いんですけど。学院からかもしれないし
確認しないとな…そして履歴の一番上を見ると…これは
まぁ珍しい。急いで折り返しの電話をかける。
[はい。]
「あ、もしもし母さん?何か用?」
そう、着歴を残していたのは我が母君であった。
[そっちでの暮らしはどう?ちゃんと食べてるかい?]
今日一日散々と言っても過言ではなかったので母親から
このような優しい気遣いをされると泣きそうになる。
マザコンじゃないからね。勘違いしないでね。
「ああ、何とか問題なくやってるよ。住んでる家が畏れ
多くてビビってるけどな。」
[…どういうこと?]
「いやね、この家さぁ高価なピアノはあるわ、地下に防音
完備のスタジオみたいなのあるわ、置いてある機材パッ
と見しかしてないけど有名ブランド物ばかりなんだよ。」
そう、この家はどこか変だ。備え付けてあった家具や置いて
ある食器などはそこら辺で買い揃えたような物ばかり。私
が秋葉で買った電化製品なんか必要ないからガレージに
そのまま放置してあるんだけど。
ただ、音楽に関する物だけが全て高級品である。きっと
ここの家主は音楽関係の仕事で尚且かなり儲けているの
…だろ…う?まさかね…
[そりゃそうよ、そこウチの別荘なんだから。]
はいきたー、まさか返しきたー。もう驚かないよ、理事長
が高校生の町だし。
「で、でも何で?ここ高海さんって旅館やってるとこから
紹介されてんだけど!?」
[そこの旅館の人と知り合いなの。今は確か志満ちゃんって
子が掃除とかやってくれてるって聞いてるわ。あんたがそ
こに住むなら志満ちゃんに迷惑かからないし、いいじゃない
と思って私が許可出したの。]
…なんだろう、色々と突っ込みたいのだけれど。もう今日
は勘弁してほしい。
[あ、そうそう。そこにあるものは全て勝手に使って構わな
いけど、ピアノの調律だけはいらわないでね。それは専門
の調律師さんじゃないと手に負えないから。]
いらわないって…金額知ってから怖くて近づいてすらない
わ。
[それじゃ、母さん忙しいからまたね。まぁしっかりと働き
なさい。]
そう言って慌ただしく電話を切られた。相変わらず仕事に
終われているのだろうか…もう若くないんだから無理はし
てほしくないものだね。それにしてもこんな別荘を隠し持
ってたなんて。父親は知ってるのだろうか…お、お互いが
干渉しない夫婦だし大丈夫か…ってことにしておくことに
した。
そしてご飯を食べることすら億劫になってきました、色々
ありすぎてお腹一杯っす。
ピンポーン…ピンポーン♪
ねぇ、まだ何かあんの?もう外は暗くなってますよ。
玄関の近くに居なかったら居留守使うレベルで疲れて
ますよ?あ、玄関の近くにいた。。仕方ねぇなぁ、
どうせ新聞か宗教勧誘かなんかだろ。チャチャっと
追い返して寝ますかね。
ピンポーン♪
「はい、今いきます。」
3回も鳴らすんじゃないよ煩い。少し苛ついた表情の
まま玄関の扉を少し乱暴に開けてやった、どうだ来訪者
よ、ビビった…か?
「あのー…こんばんわぁ…」
そこに居たのは私の表情に恐れ鋤くんでしまった高海と
その後ろで苦笑いを浮かべる渡辺と桜内。…扉を閉めま
すか。そうしよう、と思い閉めようとするも渡辺がそれ
を阻止していた…苦笑いのまま。怖いよ渡辺さん。。
「はぁ…どうしたお前達。もう暗いから帰りなさい。」
「あ、あの!先生お話がありまして。」
「編曲なら断る。まさか勉強でも習いに来たとでも?」
有り得ないな、こいつ授業中に居眠りを平気でするよ
うなやつだし。
「そ、そ、そうなんです!曜ちゃんと梨子ちゃんが
先生に教えて欲しいみたいなんです!私は付き添い
できました!!」
いや、そんなドヤ顔で嘘つかれましても(苦笑)
ジト目で後ろの二人を見るとブンブンと首を縦に振る。
ちっ、勉強と言われたら断れないじゃないか。勇気を
出して先生に勉強教わりに行ったら断られたなんて噂が
広がってみろ…終わりじゃないか?
仕方ねぇなぁ。。
「一時間だ、もう外暗いから一時間だけなら教えてやる。」
そう言って3人を招き入れた。この招き入れた行動が一番
の問題じゃないのか?もうほんと今日は考えるの面倒だ。
「桜内、リビングに2人を案内して座らせておいてくれ。
お茶を用意する。」
「は、はい!」
3人はガッツポーズをしてさっさとリビングへと向かって
いく、もはや溜め息しか出ない。
キッチンへと向かい、紅茶を用意する。そうだな、蜜柑紅
茶にでもしてやるかな。…ってなに丁重におもてなしやって
んの。普通にダージリンでいい。
用意してリビングにいくと3人でキョロキョロと部屋を
見渡している。いや、1人はピアノに甘美な眼差しを向け
ウットリしていた。おい、エロすぎる表情をピアノに
向けるな桜内。。
「それで、何を教えればいいんだ?」
「ほえぇ?」
いきなりボロを出す高海を見て渡辺と桜内はハッとし、
鞄から急いで教科書を出す。
「じ、実は数学がわからないのであります!」
ビシッと私に敬礼する渡辺、こいつ俺の担当してる教科
わかっててやってるのか?まぁ…数学も教えることはでき
のだが。。
「それでね、先生!」
何がそれでね、だよ。まだ何もしてないよ。。そんで
桜内…ピアノに如何わしい視線を送るな…涎垂らすな…
「じゃーん!私達のグループ名、Aqours(アクア)に決まり
ましたぁ!」
グループ名決めてなかったんかい!ノートにAqoursと書き
アクアと読むのだと嬉しそうに語る高海。よくそれをアク
アと読んだな…良いとこアクアワーズとかになるだろ普通。
そして確信へと変わった、きっと黒澤は砂浜にこの文字を
書いていたのだろうと。自分達が嘗て名乗っていた名前を
高海達に託したとでも言うのだろうか。活動を反対してい
たのに、ちょっと問い詰めることにしよう。とりあえずこ
いつらには黙っておくか。
「渡辺、どこがわからないんだ?」
「え?えっとぉ…こ、ここの関数の問題が。」
ここまでボロ出しておいて勉強する気なのか、まぁ聞かれ
れば答えるのが教師の性なんだけど。…だから桜内、ソファ
ーから必死に手を伸ばしてもピアノには届かないって。
「先生!これ私が書いた歌詞なの、見てみてよ!!」
「あ、はいはい。後で見るだけなら見てやるから。
でさぁ渡辺、それ角度求める問題なんだけど関数使う
必要あるの?」
「そ、そ、それはぁ…」
あたふたしだす渡辺、もうダメだこりゃ…ですよ。
お願いだからピアノに頬擦りしないでくれ桜内、目に光
が宿ってないぞ。。
「お前達!!何しに来たんだ!」
少し怒鳴る勢いで3人に問い掛ける。すると観念したのか、
高海が私に向き直り返答してくれた。
「先生、私ね。μ'sが大好きであの人達みたいになりたく
て…あの人達みたいに歌いたくて…踊りたくて…だから!」
「だから…なんだ。」
「先生、この雑誌の最後の質問になんて応えたか覚えてる?」
うわ、出たこの雑誌。…あれ?朝にはまだ綺麗なままだったの
に随分とボロボロになってる。ってか最後の質問って何聞か
れたか覚えてないんですけど。
高海から雑誌を受け取りインタビュー記事の最後を見てみる。
[長々とインタビューにお付き合いくださり、ありがとうござ
いました。最後にお聞きします、μ'sの活動は終わりを迎えま
したが今後も編曲などの活動を考えておりますか?噂ではあの
A-RIZEからオファーが来てるとの話がありますが。]
なんとまぁ懐かしい記事…A-RIZE、あいつらのことだからき
っと元気にアイドル活動続けてるに違いない。
[その今後が何のことなのか知りませんが、編曲はもうする
ことはないと思います。僕は彼女達が居たからこそ今の自分
があると思っていますし、それは才能とかではなく彼女達の
力を借りてたんだと。要するに彼女達がいないと僕は凡人
ですね。]
何の面白味もない淡白な受け答え、誰だよこれ(笑)
あ、私か。…なんでこれを見せた?否定してるじゃないか。
編曲はもうすることはないと。そして次のページへと目を
移すとそこには…
!?
[でもまぁ…そうですね。また僕を奮い立たせるような歌詞
や作曲者に出会えた時、編曲を副業としてなら引き受ける
かもしれません。]
なんだこれは、こんなこと言った覚えはない!仮に言った
としてもこんな上からな発言は絶対にしないはず。高校
時代、外向きはめちゃくちゃ謙虚を演じていたと自負して
いる。
思い出せ、あの時の状況を。
確か雑誌記者が2人と、そう。西木野と、たしか園田もい
た。園田には歌詞のことを聞いて西木野には作曲のこと、
そして私には編曲のこと。
…まてよ、私がインタビューを終えた後、記者が西木野と
何かコソコソと話してたような。…あいつ!
そうか、それでか!高海が私に歌詞を渡してきたのは。
「先生、浦の星には編曲なんてできる人いません!
だから!先生の力を貸して下さい。」
「「「お願いします」」」
いつの間にか正気に戻っていた桜内も加わり、3人で
土下座をする始末。美少女JK3人に土下座されるとか、
これ状況しらない人が見たら社会的に終わるわ。
「先生からオッケーもらうまで、ここから動きません!」
渡辺…
「とりあえず顔上げてくれ、私は土下座をしてまで頼み
込まれるような価値のある人間ではない。」
3人をソファーへと座らせてはみたものの、やはり皆俯い
たまま。…どうしたもんかねぇ。私も対面のソファーへと
座り、高海から手渡された歌詞をみることにした。
………
ざっくり言うと私達はまだ始めたばかりで右も左もわから
ないけど、大好きという気持ちを持ち向かっていけばきっと
大丈夫…といったところか。そして要所に見られるこの
キラリやピカリ、これは高海の感性があればこその詞だろう
。スタート地点から飛び出そうという点では若干詞に幼さが
見えるがほぼ文句の付けようがないくらいと言ってよい。
「桜内、メロディーだけを録音したもの今持ってるか?」
「い、いえ。今はありません」
「そうか、ならそこのピアノ使っていいから弾いてみて
くれない?」
「い、い、いいんですか!?このピアノ…」
「ピアノは弾くためにあるんだよ、それにそいつは良い音
を出してくれる。」
さっきまで値段にビビって近づこうとしなかった私の口か
らこんな言葉が出るとは…全くもって笑える。
おもむろにピアノへと近づき椅子へ腰掛け、かなり手が震え
ていたが何とかメロディーを奏でる。
~~~♪
朝ダンスの練習してる時に気づいてはいたが、曲調も桜内
の中で出来上がっている。ここはもはや西木野と同等レベ
ルなので素直に驚いた。出だしは心を込めるかのように静
かに始まり、そこからは弾むようなリズム。そう、テンポ
まで考えられていた。
おいおいマジかよ、あのツンデレよりハイスペックやん。。
ここまで完成しているのなら、このメロディーラインの後
ろに音を足してくだけ…と簡単に言うが実際は難しいの
だけれど。
私は頭の中で桜内が奏でるメロディーに簡易的ではある
がハーモニーをつけていく。編曲者が一番楽しい時と
言ってもよいのではないか…至福の時間である。
それと同時進行で楽器の編成、つまりこの曲にどのよう
な楽器を足していくか考え…あ、演奏終わった。
「あの…どうでしたか…?」
不安そうな目でこちらを見つめ感想を伺ってくる、上目で。
「あ、あぁ。正直驚いたよ。ここまでできるとは思って
なかった」
何JKの上目使いに動揺してんだよ。あ?可愛いから仕方
ないだろ!文句は受け付けん。
3人は感想を聞いた瞬間笑顔になりそれじゃぁ!と期待
を膨らませる。
「とりあえず、だ。今日は遅いから帰りなさい。渡辺
は車で家まで送ろう。編曲の件は少し考えさせて
くれ。」
はーい、と彼女らは上機嫌で玄関へと駆け出していく。
なんかもう私が引き受けた前提になってない?
そして高海と桜内が帰路につくのを確認してガレージ
から車を出し、渡辺を助手席へと促す。
「ね、ねぇ先生…」
「ん?どうした?」
「この車…うるさいね…」
あー!このっ!男のロマンに言ってはならないことを!
仕方ない、バルブ閉めるか。。リモコン1つでマフラー
音調整、便利な世の中だっ♪
そんなこんなで渡辺を家に送り届け、自宅へと帰って
きた。スマホを開き時刻を確認。21時ちょうど、この
時間なら起きてるか…そのまま電話帳からとある人物を
探し出し電話をかける。
[もしもし、何か用?]
久しぶりの連絡なのに素っ気ない、相変わらずと安心
するところなのかな?いや、そんなことはない。私は
現在ご立腹なのだから。
「用があるから電話したんだよ。いやぁ久しぶりに見た
よ、スクールアイドルの軌跡。」
[…そ、それが何よ?]
おや、少し動揺したな。まさか未だに覚えてるのか?だと
したら極悪だ。
「なんだろうね、あの記事は。ちょっと説明してもらいま
しょうかねぇ?西木野さんよぉー!」
[ヒッ!?]
岸の長い長い1日はまだまだ続くみたいです。