「それじゃあ、俺は大切な人を失って生きるから負け組だな」
「そんなこと言わないでくださいよ。私も負け組になっちゃうじゃないですか。」
アルビノ青年は救えない。
風が揺れている。とても穏やかな風だ。サラーと肌触りの良い風が肌に触れ、心地よい。
草木もそよ風に煽られている。しかし、周りの空気はどこか重い。よく見れば全員黒い喪服を着ている。昨日、幻想郷にとって、人里にとってとても大事な人物が亡くなったのである。
稗田阿求。24歳という若さでなくなった。彼女の家柄である稗田は、幻想郷縁起という、妖怪にまつわる書物を代々管理、そして加筆修正を行っている一族である。そして代々「一度見たものを忘れない程度の能力」を保有している完全記憶能力者の家系である。そして昨日、その稗田の9代目である阿求が死んだのだ。突然のことだった。一週間前から容態が急に悪くなったのである。
一人の青年が阿求の前に立っている。白髪で目が赤い。そのような人類としては希な、所為アルビノという容貌をした青年である。顔立ちも男らしいというよりは中性的で、線の細さも相俟って女と勘違いする者もいるだろうと思えるほどだ。さらに、そんな青年が喪服を着て、阿求の目の前にたっているのである。十分に目立っているが、誰も驚きはしない。よく見て見ると彼の左の薬指には阿求と同じ指輪がはめられている。しばらくすると重い口を開き、集まってくれた人々に謝辞を言い、葬儀を執り行う旨を言う。
ふと、あたりを見渡してみると、供物や供花が沢山あり、供花の名札板を見てみると、幻想郷の各勢力の首領の名前が書き連ねており、さらには貧乏性の博麗の巫女から、幻想郷の管理者の名前まで書かれている。それだけの人物を失ったのだ。人1人に大袈裟な、なんていう輩はいない。それだけの偉業が妖怪にも伝わっている。
それからも葬儀が流れていき、死者を鎮めるための経を唱えている。唱えている人物は、本人からの要望もあり、命蓮寺の和尚である。阿求の夫である人物も、貴方ならば彼女も安心して旅立てるでしょうと歓迎した。
経を唱え終えると、いよいよ別れの時がやってくる。一人ひとりが一輪の花を故人に添え、別れを惜しむ。涙する者、花と一緒に句を詠む者、クシャクシャな笑顔で涙ぐむもの。感情を抑える者…一人ひとりの反応は違えど、誰もが彼女に悪感情を向けることは無かった。
「サヨナラ…阿求…」
ぽつりと、青年はつぶやく。短い間だったが青年はとても有意義な時間を過ごせた。そう思わせてくれるのはここに眠っている阿求のおかげだ。だからこそ葬儀ではとても丁寧に、そして夫として頼もしく見守ろうと決めた。
こうして一人ひとりとの邂逅も終わり、いよいよ火葬される時が来た。親族は空気を読み、夫だけを残して火葬場をあとにした。青年はただただ炎に包まれていく妻の姿を見ている。
しかし、その眼差しはとても優しいもので、まるで親が子供を見送るような眼差しでもあった。
炎からは煙が上がっていく。どこまでも、天高く。
ふと、どこからか
「またね」
と聞こえた気がする。
周りは心地よい風が吹く音がするだけだった。
短編ですがあと何回か書くと思います。
しかし作者はかなり筆が遅いため、次はいつになるかわかりません。それでも構わない方はこれからもお願いします。
感想やお気に入りあるととても喜びます。
よろしくお願いします。