紅の豚を見てワクワクしてやった。
反省はしていない。

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紅のアレ

1916年、イタリアのイゾンツォ川で、一人の戦闘機パイロットが撃墜された。

 

パイロットの名前は、『ブルーノ・アルトベリ』。

彼は撃墜から一週間目を覚まさなかったが、奇跡的に回復。

しかし、記憶に混濁が見られ、一時前線から離脱。

本人の強い希望により、後方で5ヶ月の再訓練を行う。

その後、アドリア海の戦線に投入される。

 

1917年、オーストリア=ハンガリー帝国の戦闘機を3機、ドイツ帝国の戦闘機、爆撃機を一機ずつ撃墜。

合計五機の撃墜によりエースに認定。

 

1919年、第一次世界大戦終結。

ブルーノ・アルトベリは、イタリア軍を離れる。

その後、消息不明。

この大戦における彼の最終的なスコアは、撃墜数13、被撃墜数4であった。

 

 

 

 

今日も、アドリア海は美しく、雲が点在するこの空とあわせて一つの芸術作品のようだ。

空に上がれば、その美しさを独占出来るようで、誰に対しての物かは分からないが、奇妙な優越感を覚える。

 

………近頃はこの辺りも物騒だ。

空賊なんて連中が、この空を荒らし回っている。

まぁ、お陰で俺のように飛ぶことしか出来ないようなヤツも仕事に困らない。

 

俺の今の仕事は用心棒と言うやつだ。

この辺りを飛ぶ、遊覧飛行艇や旅客機のために空域を哨戒し、安全を確保する。

 

愛機は、水色の『マッキM5』だ。

木製の少々型の古い機体だが、俺はこいつが気に入っている。

あの戦争でも、こいつは俺の操縦によく応えてくれた。

こいつのお陰で俺はまだ飛んでいられる。

古くなったからと、嫌えよう筈もない。

お陰でついたあだ名の『老鴎ブルーノ』についても気に入っている。

鴎なのは、機体に描いたパーソナルマークが鴎だからだ。

安直だが、分かりやすい。

 

おっと、今日のお客様が御目見えだ。

ベルトーリ社の遊覧飛行艇が、本日のお客様。

この辺りの空域の安全は確認済みだ。

それを伝える為に一度飛行艇へ近づき、パイロットへ合図を送る。

その際に、乗客へとサービスの曲芸飛行を行う。

 

あとはこの美しい景観を堪能して貰うために俺は目立たないところで警戒を続けるとしよう。

 

 

 

 

飛び続けること15分。

今日の晩は久方ぶりにジーナの店にでも寄るかと考えていたときの事だ。

 

海上すれすれに、厄介者を見つけてしまった。

 

毒々しい紫色の、大型飛行艇。

この辺りに出没するバルトロ空賊団の物だ。

 

遊覧飛行艇に近づき、その存在を知らせる。

それと同時に敵の攻撃に向かう旨も伝える。

 

奴等を取っ捕まえて、しかるべき場所に引き渡せば賞金が出る。

有難い臨時収入だ。

 

スロットルを絞り、静かに機体を急降下させる。

 

低空を飛ぶ空賊の機の更に下、波飛沫が顔にかかるほどの低空まで高度が下がる。

 

同時にスロットルを全開にし、一気に相手へと接近する。

 

この段階に来て、ようやく相手も俺に気付いたようだ。

動揺したように一瞬機体を揺らすと、泡を喰って反撃を始める。

だが遅い。

真後ろにピッタリと付け、外さない距離でトリガーを低く。

三つあるエンジンのうち、一番右のものを狙う。

一秒ほど弾を浴びせれば、バラバラと破片を撒き散らしながら、相手のエンジンは役にたたなくなる。

 

相手の銃座から吐き出される大口径の対空機関砲が、すぐそばを掠めて飛んでいく。

近距離故に信管の調整が上手くいかないのか、炸裂するのは遠くだがそもそも一発当たれば致命傷になりかねない。

此方の7.7mm機関銃じゃあ、銃座の防弾板を抜けるとも思えないが牽制にはなるだろうと弾を浴びせる。

銃座が一瞬静かになる。

狙い通りだ。

 

その隙に俺は機体を更に下げる。

海面から一メートルあるかないかの高さ。

波飛沫が顔にかかる。

少しでも気を抜けば、機体が波を叩いてそのまま海に突っ込むことになるだろう。

最早、常識外の低空飛行。

その状態から、細心の注意を払い今度は機体を左に滑らせる。

敵は、此方を見失ったのか見当違いの方向に弾をばらまいている。

 

操縦幹を僅かに引き、機体を上向かせれば今度は敵の左のエンジンが真正面に来る。

トリガーを引く。

相手のエンジンから煙が上がる。

 

相手は大型機だ。

こうなればもうマトモに飛べないだろう。

 

そのまま機首を上げ、相手をフライパスする。

ある程度の距離を開け、発光信号で降伏を呼び掛ける。

 

………が、相手の反撃は止まらない。

 

こうなりゃ、残りの一基もぶっ壊して奴等の機体を穴だらけにするしかない。

 

この上じゃ、お客様が優雅にアドリア海を楽しんでるんだ。

殺しなんてやったら、乗客とベルトーリ社の覚えが悪くなっちまう。

 

できればやりたくないんだが………

 

迷いながらも、相手のエンジンを潰すべくポジションを確保しようと機体を操る。

 

その時だった。

不意に別のエンジン音が聞こえてくる。

 

辺りを見回す。

すると右上後方に、戦闘飛行艇を見つける。

単発の機体。色はこれまた毒々しい紫。

バルトロの奴ら、もう一機潜ませてやがったか!!

 

あわてて機体を右へスライドさせ、そのまま機首を右上に向ける。

相手の放った弾でバスバスと翼に穴が開く。

 

ヤバイな。

この位置はヤバイ。

 

相手に狙いを付けさせないように機体を左右に振るが、なかなか振り払えない。

空賊の癖に悪くない腕だ。

 

更に弾を食らう。

当たり処が悪かったのか、機体の反応が鈍くなる。

後ろを確認すると、尾翼に被弾していた。

トレードマークの鴎も穴だらけだ。

思わず相手に怒鳴り付ける。

 

「なんてことしやがる、バカヤロウ!描くの大変なんだぞ!」

 

「うるせぇ!エンジンの修理代よりましだろうが!」

 

………ごもっともだな。

 

と、同時に相手が更に発砲。

慌てて回避する。

 

いかん、このままでは墜ちる。

 

俺が無様に逃げ回って居ると、更に別のエンジン音。周囲を見回すが姿が見えない。

 

敵の増援だったら、いや、他の空賊であってもアウトだな。

 

背中に嫌な汗をかきながら、何とか致命傷を避けるべく機体を操る。

 

更に近づくエンジン音。

発砲音が響く。

 

エンジンが異音をあげる。

 

被弾したかと、自機のエンジンを確認すると一瞬視界の端に紅いナニかを捉える。

 

何が起きたんだ?

 

更に周囲を見回すと、先程まで俺を追いかけ回していた紫色の奴が煙を吹きながら墜ちていくのが見えた。

 

………居た。

左下方。紅い飛行艇。

 

………このアドリア海の荒くれもののなかで、アイツを知らないやつは居ない。

 

「ポルコの野郎か!」

 

「随分と素敵な見た目になってるじゃねぇか、鴎の!」

 

「ぐっ!うるせぇ!うるせぇが助かった!降りたら一杯奢るぜ!」

 

「がはは!バルトロの大型もやったろう?分け前は半々だぜ!それはそれとして、酒は奢って貰うがな!」

 

「てめぇ!さてはずっと見てやがったな!助けに入るなら、撃たれる前に来やがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、飛行艇時代の地中海を舞台に、金と名誉と女、そして自由をかけて空に生きた男たちの物語である。


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