トリコと小松の人間界食欲万歳   作:Leni

11 / 14
ココのフルコース(毒)

 フグ鯨を食すために洞窟の砂浜を目指し、大迷宮となっている洞窟へと入ったトリコ、小松、そして美食四天王の一人であるココの三人。途中で小松が死亡するという大事件が起こるも、ノッキングマスター次郎の手によって蘇生され、三人はなんとか洞窟の砂浜へと到達した。

 ノッキングにてフグ鯨を捕まえ、小松の手によって毒袋の除去による解毒に成功。三人はフグ鯨を無事に味わうことができた。

 その未知の味に感動する最中、突如、海から謎の生物が這い出てきた。

 いや、それは厳密には生物ではなかった。不気味な雰囲気を漂わせるその人型の存在は、ノッキングしたフグ鯨を多数携えており、高い知能を持つことが推察できた。

 その存在はトリコたちを一瞥(いちべつ)するだけで、その場を去って行く。

 戦いにならなかったことに胸をなで下ろすココだったが、その存在が持つまとわりつくような気味の悪い電磁波に、嫌な予感がぬぐえなかった。

 

 そして、しばしの休息を挟んでから洞窟を脱出するトリコたち。

 行きのようにデビル大蛇に狙われるということもなく、無事に脱出に成功した。

 すると、洞窟の前には――

 

「ぎゃー! 人が死んでる!」

 

 腹から血を撒き散らし、息絶えた死体が複数転がっていた。

 

「……あの謎の人型がやったのか」

 

 死体の顔を確認するココ。それはいずれも、洞窟に入る前に死相が見えた荒くれ者たちの顔だった。

 洞窟に入る前のココたちは、フグ鯨を横取りするための山賊や盗賊が多数待ち構えていたのを目撃している。その山賊、盗賊たちが現在、ことごとく死んでいるのだ。

 

「ああ。二酸化チタンの臭い……あの人型の存在の臭いが、こびりついてやがる」

 

 トリコがそう答えた。そして、彼はこの惨状ができあがった理由を考える。

 

「あいつは、フグ鯨を大量に捕獲していたからな。洞窟を出たところで、奪い合いになったんだろう」

 

 獲物の奪い合い。それは野生でもよく起きることだ。だから、トリコは死体を前に嫌な顔もせず、怒りも感じていなかった。

 だが、小松は人の死に慣れておらず、動揺するばかりだ。

 これはいけないと、ようやく気付いたトリコとココは、その場から急いで離れることにした。

 

 青くなっていた小松の顔は、数分ほどで元に戻る。

 小松は脳裏に先ほどの光景が浮かびそうになるが、それを振り払うようにトリコに話しかけた。

 

「ところでトリコさん。デビル大蛇の肉、どうやって食べるんですか?」

 

 トリコは洞窟を脱出するときからずっと、デビル大蛇の肉塊をロープで縛って背負い、運んでいた。巨大な肉塊だ。重さにして1トン以上はあるだろう。

 この肉は、トリコとココが二人がかりで倒した、デビル大蛇という猛獣の肉である。

 デビル大蛇は捕獲レベル21の爬虫獣類で、体長四十メートルほどもあり、とても全身を丸ごと運ぶことはできなかった。そのため、この肉塊は一部だけを切り出してきたものである。

 

「毒が混ざっていて、加熱しないと食べられないんですよね? そもそも肉を生ではあまり食べないといえば、そうなんですけど……」

 

 トリコたちがデビル大蛇を倒す際、その動きを止めるためにココはデビル大蛇に神経毒を撃ち込んでいた。しかも、トリコがデビル大蛇を食べたがることをココは予想して、300℃以上で加熱すれば分解されるような毒にしておいたのだ。

 

「どうやって食うかか。そうだなー……」

 

 うーん、としばし悩む様子を見せるトリコ。そして、閃いたとばかりに笑みを浮かべる。

 

「ハンバーガーにして食うかな。デビル大蛇の肉は分厚いパテ、チーズはとろけるミネラルチーズ。葉物はどうするかな」

 

「ハンバーガーですか! いいですねー! 葉物は贅沢に、ハクキャベレタスなんてどうですか」

 

「おっ、それいいな。帰りに買っていくか」

 

 そう、楽しげに言葉を続けるトリコと小松。

 そんな二人の会話に、ココも横から口を挟みだした。

 

「トマトも必要じゃないかい?」

 

 確かに、とはしゃぐトリコと小松の反応に、笑みを浮かべながらさらにココは言葉を続ける。

 

「そろそろ実る時期なんだ。旅のついでだ、ボクのフルコースのサラダ、ネオトマトをごちそうしよう」

 

 美食屋ココの“人生のフルコース”。そのサラダ、ネオトマト。

 彼が告げたその言葉に、トリコも思わず笑みを浮かべ、よだれを垂らした。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ここは『デトックスガーデン』。ボクの所有する庭園兼畑なんだが……」

 

「なんだか、すごい生い茂ってますね」

 

「ああ、美食屋を引退している間、ずっと訪れていなかったから……」

 

 洞窟を脱してから移動する事半日。トリコたち三人は、無人の荒野へとやってきていた。その荒野の奥に来ると、途端に、植物が生い茂る広大な領域が目の前に広がった。

 ここがココの言う、ネオトマトを栽培しているという場所らしいのだが……植物が生え放題で、見事に荒れ果てていた。

 

「庭師とか管理人とか雇っていなかったんですか?」

 

「ここには危険な毒食材とかも多くてね。そうそう人は立ち入りさせられない場所なんだ」

 

 荒れた庭へと分け入っていくトリコ達。毒があると聞いて警戒するトリコと小松だったが、ココはなんでもないというように伸びきった草をかき分けて進んでいく。

 

「どれくらいの広さがあるんだ、ここは」

 

「25ヘクタールくらいかな」

 

 トリコの問いに、ココがサラッと答えた。東京ドーム5個分ほどの広さだ。

 個人が所有する庭としては、あまりにも広かった。

 

「美食屋をしているときに気になった解毒植物とか、気に入った食材とかをここで育てていてね。本来なら人に見せるでもないから、放置しても気にしていなかったんだけど……」

 

 歩く最中にも、時折、小動物も姿を見せる。

 

「……さすがに放置しすぎだね」

 

 肩を落としながら草をかきわけ進むココ。それを無言で追うトリコと小松の二人。

 すると、道行く先に大きな木が一本生えているのをトリコが見つけた。それについて、ココは解説を入れる。

 

「あれはドムロムの樹。ボクのフルコースのデザートが実る樹なんだけれど……まだ実の生る時期じゃないね」

 

「……クッ、残念、惜しいな。食ってみたかった」

 

 ドムロム、と聞いた瞬間目を輝かせたトリコだったが、時期じゃないとココが言った瞬間、しょんぼりと顔を暗ませた。

 

「実の生る時期には、峠に住む捕獲レベル25の猛獣、G2フェニックスが実を狙いにやってくるから、一筋縄ではいかないよ」

 

「それもお前のフルコースの肉料理じゃねえか! まったく、時期が来たら教えろよな」

 

 ドムロムの樹を一通り眺めた後、トリコたちは再びうっそうとした庭を進み始める。

 そんな中、トリコは一つ思い付くことがあった。

 

「オレも、虹の実栽培しようかな……」

 

 虹の実は、トリコのフルコースのデザートだ。

 

「トリコが栽培? なんの冗談だい? 枯らすのがオチさ、やめておいた方が良い。君はガサツでそういうのに向いていないんだ」

 

「自分の庭を年単位で放置してたヤツには、言われたくねえよ!」

 

 うがー、とココに噛みつくような仕草で威嚇をするトリコ。そんなトリコに、小松は疑問を一つこぼす。

 

「虹の実って、その香りに誘われて動物が集まってくるんですよね? せっかく育てても、実った先から香りで血眼になった動物に奪われちゃうんじゃないでしょうか……」

 

「じゃあ、トロルコングを飼って番犬代わりにすりゃあいい」

 

 トリコが以前虹の実を手に入れたのは、『第8ビオトープ』でのことだ。そこには、トロルコングという肉食性の猛獣が群れを作っていて、虹の実を食べに来る動物を補食していた。

 

「そこまで手間をかけるくらいなら、『第8ビオトープ』で実ったものを買う方が簡単に済みそうですよ」

 

「それもそうか。オレの代わりに、IGOが栽培してくれていると思えば良い」

 

 そんな会話をしながら道をかき分けて進むことしばらく。

 ココが突然歩みを止めた。

 

「あったあった、あれがネオトマトだよ」

 

「おおすげえ!」

 

 トリコたちの前に、巨大なトマトの木が姿を現わした。

 高さは十メートルほど。その木の枝には、赤く熟したトマトが無数にぶら下がっていた。

 

「でけえトマトだな。子供の頭くらいのサイズがあるぞ」

 

 早速とばかりにトリコはネオトマトの木に近づき、枝から一つネオトマトをもぐ。そしておもむろに口を開き、よだれのからまった歯で噛みつこうとするが――

 

「トリコ、待て!」

 

 突如ココから待ったがかかった。それにトリコは素直に応じ、残念そうな顔でココを見る。

 その様子に安心したようにココは息をつくと、トリコに向かって説明を始める。

 

「ネオトマトから、危険な電磁波が見える……」

 

「危険? どういうことだ?」

 

「ちょっと、そのネオトマトを貸してくれ」

 

「はいよ」

 

 トリコからネオトマトを受け取ったココは、いきなりそれにかぶりつく。

 

「あー! 何食ってんだ! ……って、この臭いは」

 

 ココにかじられたことにより、ネオトマトの果汁の香りが周囲へと漂う。トリコはその成分をすぐさま、その優れた嗅覚で分析していた。

 

「ああ、やっぱり。これは毒だ」

 

 ココは、口から体内へと入り込んだネオトマトに含まれる毒素を分解しながら、そう言った。

 本来なら毒など含まれていないはずだったネオトマト。しかし、ココが食べたネオトマトには、毒素が充満していたのだ。

 その理由をココは、周囲の光景を見渡しながら推測する。

 

「周りの毒植物と交雑して、毒化してしまったみたいだ。ネオトマトを狙っている動物がいないなと不思議に思ったら、まさか……」

 

「おまっ、それ、お前以外、ここのネオトマトが食えねえってことじゃねえか!」

 

「そうだね。どうしよ……」

 

 心底困った、という風にココが肩を落とす。ココの身体には数百種類の毒の抗体が存在しており、あらゆる毒を無効化する。未知の毒にも、新たに抗体を生成することで適応が可能なほどだ。それゆえ、毒化したネオトマトを食べても平気だったのだ。

 一方、トリコはドムロムの実とG2フェニックスを食べ逃し、さらにはネオトマトも食べられないとあって、勝手ながらもイラつき始めている。

 そんな二人に、事態を見守っていた小松が、言葉を投げかけた。

 

「フグ鯨の時みたいに毒を除去できれば良いんでしょうけどねぇ。毒袋みたいに除けば良いってものじゃないから無理でしょうけど」

 

 その言葉にココは、はっとした顔を見せた。

 

「それだ。解毒しよう」

 

「できるんですか!?」

 

「ここは『デトックスガーデン』。世界中のあらゆる解毒植物がそろっている場所さ」

 

 解毒薬が毒になることも多々あるんだけどね、とおどけて言うココ。

 トリコは目を輝かせて、ネオトマトへの期待に腹の音を鳴らすのだった。そう……ココがかじったネオトマトからは強烈な毒の臭いがしたが、非常に美味そうな香りも漂っていたのだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 ゲドクタケの傘。レスキューリの絞り汁。デトックスエスカルゴの殻。毒林檎の芯。八種の乾燥薬草。それらを庭の一角に建てられていた管理小屋にて混ぜ合わせ、煎じる。

 

「おいおい、毒林檎って、猛毒じゃねえか」

 

「混ぜれば解毒されるから大丈夫だよ。かの毒料理専門店『毒の巣』では、フルコースメニューのデザートに、毒林檎のアイスが出てくるらしい」

 

「へえ、じゃあ芯だけじゃなくて実も解毒してアイス作ってくれよ」

 

 トリコは腹が空いていた。いつもならば道すがら何かを食べながら進むのだが、ここは猛毒と劇薬の庭。見覚えのある食材でも、毒を持っていないとも限らず、彼は手を出せないでいた。この庭は、毒を専門とするココが支配する領域なのだ。

 腹ぺこトリコの要求だが、ココはさらりとかわす。

 

「ネオトマトが先でいいかい?」

 

「そうだな! 何より先に、ネオトマトだ!」

 

 解毒食材を煎じて出来上がった解毒汁。ココはそれに湧き水を足して強制的に冷ますと、次の工程に取りかかろうとする。

 

「ここからがちょっと難しい。40℃で三十分、60℃で一時間、その温度に温めた解毒液にネオトマトを浸さなければならないんだが……ここには温度計がない」

 

 そこで、ココは小松を見る。

 

「頼めるかい、小松くん。低温調理の一種といえるから、料理人の君なら出来ると思うんだけど」

 

「ボクですか? やります、任せて下さい!」

 

 ココの要請に、小松はやる気十分といった顔で応じ、背中に背負ったバックパックからコック服を取り出して着替え始める。

 そして、解毒汁を溶かした水と複数のネオトマトが入った大鍋を前に、エプロンをきつく締めて気合いを入れた。

 

「ガスは通ってないから、薪で温めなければいけないよ。難しいかもしれないけれど……」

 

「大丈夫です。やってみせますよ」

 

 小松はかまどの火を確かめながら、ココに言葉を返す。

 頼もしいものだ、とココは一つうなずきながら思った。

 

「これでも小松は五ツ星レストランの料理長だからな。実感したのは今回の旅が初めてだが」

 

「ホテルグルメでシェフをしていると言っていたね……ボクの手助けがあったとはいえ、フグ鯨の解毒を成功させるのも納得だよ」

 

 小松の立場を説明するトリコの言葉に、ココは感心したようにそう言った。

 

「それよりもココ、まだ一時間半もかかるなら、庭から食える食材持ってきてくれよ」

 

「はあ、しょうがないな。でも、勝手に庭の食材を食べて毒に当たられても迷惑だ。行ってくるよ」

 

「おう、頼むわ」

 

 そして庭からココが食材を運んで来ては、トリコはそれを生で食していく。小松は鍋につきっきりのため、料理を頼めない。今も、かまどの薪の位置をズラしながら、温度管理を徹底している。

 木の実や野菜を食べながら、トリコは小腹を満たしていく。その中には、解毒された毒林檎もあった。

 

「アイスにして食いたかったなぁ」

 

 そうぼやくトリコに、ココが言葉を返す。

 

「この小屋の設備じゃ、氷菓子は無理だよ」

 

「ココ、お前、凍る毒とか出せねえの?」

 

「出せるのは熱毒だね。冷える類の毒は無理だ。毒林檎のアイスを食べたかったら、『毒の巣』に食べに行くんだな」

 

「世界料理人ランキング上位のタイランの店か……。一度、食いに行ってみるかなぁ」

 

「なんだ、まだ行ったことがなかったのかい。フグ鯨の乾燥毒袋とかの変わった料理も出てくるから、是非行ってみるべきだよ」

 

「フグ鯨の毒袋って、お前それ、大丈夫なのか……」

 

 そんなこんなで時間は過ぎていき、一時間半経過が近づいてきたときのことだ。

 突然起きた鍋の中の異変に、小松は思わず声を上げる。

 

「うわあ! ココさん、ちょっと見て下さい!」

 

「どうかしたのかい!?」

 

 ココはあわてて鍋の元へと向かう。するとそこには、鍋の中で太陽のように輝いたネオトマトの姿があった。

 

「大丈夫だよ、小松くん。これは、ネオトマトが美味しく調理されたときの反応だ」

 

「な、なんだぁー……。あっ、それじゃあ、これで解毒は完了ってことですね」

 

「ああ、ついでに、ただもいでそのまま食べるよりも、美味しくなっているよ。ただ、美味しく輝いているのはたった十分だけだ。すぐに食べよう」

 

「うほー、待ってました」

 

 ゲドクタケを一人頬張っていたトリコも、解毒に成功したと聞いて近づいてきた。

 小松はそんなトリコを尻目に、ネオトマトを食べやすいサイズに切り分け、小屋に用意されていた皿に盛っていく。

 テーブルがないため三人は床に座り、光り輝くネオトマトを前に一斉に合掌する。

 

「では、ネオトマト、実食だ。いただきます!」

 

 トリコの合図を皮切りに、切り分けられたネオトマトへと手を伸ばす三人。

 黄金に輝くネオトマトを今度こそ、口にするトリコ。

 

「――!?」

 

 トリコは驚愕した。口に入れた瞬間、豊潤な香りが鼻を抜けて全身に伝わったのだ。

 続いて感じたのが、爽やかな酸味。

 それに遅れるようにして、濃厚な甘味が口いっぱいに広がってきた。

 

「――っはあ!」

 

 息をするのを忘れてその味に浸っていたトリコは、飲み込むと同時に呼吸を思い出し、息を吐く。

 それは、間違いなしに美味かった。酸味と甘味のコラボレーション。近頃流行りの甘いだけのトマトとはまた違う、複雑な美味さだ。そこには、一言では言い表せない味の奥深さがあった。それをトリコは、無理やり一言で言い表す。

 

「美味え!」

 

 トリコの全身に力がみなぎる。これが、この美味さが、美食四天王ココのフルコースのサラダ。ネオトマト。

 

「はああー、これは、はぁー」

 

 一方、小松はというと、その美味さを言葉に表せず、ただ感嘆の声を上げるのみだった。

 そんな二人の様子をココは、満足そうに見つめている。食事に誘って良かった、そう喜びを噛みしめていた。ココはネオトマトを自身の“人生のフルコース”に入れるほど気に入っている。その美味しさを他人と共有できることが、たまらなく嬉しかった。

 占いに専念していたため、引退していた美食屋。やはり、再開すべきだろう。フグ鯨の実食をしていたときにも思ったことを再度、噛みしめていた。

 

「さ、まだまだあるよ。輝きが消える前に食べよう」

 

 ココは二人をうながし、自分もネオトマトの味を楽しむのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

『デトックスガーデン』を出て、荒野に戻る。トリコと小松たち二人は、ココとはここでお別れだ。トリコは解毒されたネオトマトをお土産にもらっている。すでに輝きは失われたが、それでもなお美味い。トリコは予定通り、デビル大蛇のハンバーガーにネオトマトを使うつもりだ。

 

「お、キッスが迎えにきたな」

 

 空を見上げて、ココがつぶやいた。

 荒野に、巨大なカラスが降り立つ。エンペラークロウのキッス。ココの唯一のパートナーであった。ココはそのキッスに乗って、グルメフォーチュンにある自分の家に飛んで帰るのだ。

 

「小松くん、短い旅だったけど、キミに会えて本当に良かった……」

 

 そう小松へと切り出すココ。彼が美食屋をまた始める気になったのは、間違いなく小松がいたからである。小松のおかげでフグ鯨を食することができ、その感動を味わうことができた。そしてネオトマト実食を通して、人生のフルコースを探す気力を取り戻したのだ。

 

「ココさん! ボクも……! とても勉強になりました! ありがとうございます!」

 

 小松もまたかけがえのない経験を得ることができた。ココの助けにより、特殊調理食材のフグ鯨を自らの手で料理できた。さらには、ココのフルコースであるネオトマトに触れる機会を得た。有意義な旅だったと間違いなく言えるだろう。

 

「今度、レストランに顔を出すよ」

 

 そう、ココが小松へと言葉を投げかける。それに対し、小松を嬉しそうに言葉を返した。

 

「ハイ! いつでもいらして下さい! 最高のフルコースを用意して待ってますね!」

 

「ああ、楽しみにしてるよ」

 

 そしてココは、トリコへと顔を向ける。

 トリコの(かたわ)らには、ロープで縛られたデビル大蛇の肉塊と、ネオトマトの入ったリュックサックが置かれている。

 

「……じゃあなトリコ。また、すぐに会うことになりそうだが」

 

「ああ……そうかもな……」

 

 お互いニヤリと笑って別れの合図とし、それ以上何も話すことなく、ココは去るのだった。

 そしてトリコと小松はグルメ列車に乗って一路、帰還の道を進む。

 トリコは特製トリコバーガーを作るために、道中でミネラルチーズとハクキャベレタスを買い込み、小松は今回の旅で経験した料理のメモを一心不乱に取る。

 やがて、二人はホテルグルメへと辿り付いた。ここで二人は別れる。そのはずだったのだが……。

 

「トリコさん。IGOから依頼があります」

 

 IGO開発局の食品開発部部長ヨハネスが、トリコを訪ねてきていた。

 どこからかトリコ達の動向を耳にしていたらしく、ここホテルグルメに帰ってくるのを待っていたらしいのだ。そんなヨハネスから、美食屋トリコへの依頼が告げられる。

 

「『第1ビオトープ』にて、古代の食宝(しょくほう)『リーガルマンモス』を捕獲していただきたい」

 

 トリコはその依頼を了承し、二日後の出発を約束した。そして、せっかくなのでホテルグルメの宿泊を決めたトリコ。一方、小松は、次なる冒険の予感を覚えていた。

 だがしかし、次の旅はこれまで以上に一筋縄ではいかないものとなる。リーガルマンモスの持つ宝石の肉(ジュエルミート)を狙って、『美食會(びしょくかい)』の魔の手が『第1ビオトープ』へと伸びようとしていた。

 




ハクキャベレタス(野菜)
捕獲レベル:0
白菜の肉厚さ、キャベツの食物繊維、レタスのシャキシャキとした食感を併せ持つ葉物野菜。サラダに良し、千切りにしても良し、漬け物に良し、炒め物にも良し、鍋にも良しと、これ一玉であらゆる料理のニーズに応えられる万能野菜だ。

ゲドクタケ(キノコ類)
捕獲レベル:3
キノコ毒の解毒薬の材料になる特殊なキノコ。食用も可能だが、味は薄く旨味も少ない。もっぱら薬の材料として用いられるキノコだ。

レスキューリ(野菜)
捕獲レベル:2
ハートマークの形をしたウリ科の野菜。キュウリの仲間だが、キュウリと違って栄養価が高く、健康食材として世間の注目を浴びている。薬の材料としても使われており、絞り汁を加工すると強心作用のある薬へと変わる。

デトックスエスカルゴ(貝類)
捕獲レベル:1
食用のカタツムリの一種。濃厚でクリーミーな味から、幅広い層に親しまれる食材だ。また、その身と殻には食べた者の身体から悪いものを排出する作用があり、食中毒患者に接種させることで一晩で元気になるほどの効果があると言われている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。