トリコと小松の人間界食欲万歳   作:Leni

6 / 14
やきいもたべたい

「焼き芋食いてえ」

 

 唐突にトリコが、小松に告げた。

 

「焼き芋ですかー。良い芋が入ってますから作りますね」

 

 秋も深まる頃、ホテルグルメの別館プライベートテラスにて、小松はトリコを料理でもてなしていた。

 小松は、美食屋トリコのコンビの料理人である。コンビになって以降、トリコはしばしばレストランに勤める小松のところへ料理をねだりにやってきていた。もちろん、料金を支払ってではあるが。

 トリコと違って、小松は薄給なのだ。大食漢のトリコに料理を奢ってあげられるほど、財布に余裕はない。

 

「はい、できました! 焼きモアイモです。秋の定番ですね!」

 

 大皿に山盛りとなって出されたのは、モアイ像の形をした楕円形の芋である。サイズは大きめで、一個三〇〇グラムほどある。

 香ばしくオーブンで焼き上げられていて、トリコがかぶりつくと、ホクホクとした湯気が立ち上った。

 瞬く間に無くなっていく皿の上の焼きモアイモ(原作十七巻に出てきた料理だ。解説は二十巻)。ガブリ、ガブリとトリコがモアイモにかじりつくたび、甘く香ばしい匂いが周囲に漂っていく。

 

「はー、焼き芋食いてえ」

 

「あれ、足りなかったですか。追加で作りますね」

 

「いや、そうじゃなくてな、石焼き芋が……」

 

「石焼きがよかったんですかー。別館には道具が置いてないので、本館から持ってこなくちゃいけませんが」

 

「いやー、違う違う。石焼き芋祭りがあって、食いに行きてえなって」

 

 焼きモアイモを完食し、口休めにソフトドリンクを飲みながら、トリコはそう言った。

 

「祭りですか! 良いですね」

 

「それがよくねえんだ。辺境にある村の祭りなんだが、昔、食い過ぎで出禁くらっちまってな……」

 

「うわあ……」

 

 トリコは食いしん坊である。しかも、一般的なそれとは桁が違う。重さにして、トン単位で物を食べるのだ。

 その食欲が小さな祭りで猛威を振るったとなると、出禁もやむなしである。食が尊ばれるグルメ時代にあっても、限度というものが存在したのだろう。

 もちろん、その場で詫びを入れて、食い尽くした分以上の割増し料金支払いと、祭りを短時間で終わらせてしまった損害分の補填は行ったのだが、それでも出禁である。食を他人と分け合うことを尊ぶトリコにしては、珍しい失敗であった。

 

「あそこの村には石焼き芋の達人がいて、祭りの時だけ腕を振る舞ってくれるんだ。それでつい、その達人をおだてすぎて、他の場所で焼く分の芋まで焼いて食っちまってなな……」

 

「なるほど……じゃあ、もう一度謝って、どうにか出禁を取り消してもらって、今度は少なく食べるというのは……」

 

「そうだなぁ。できれば達人の焼き芋を腹一杯食いてえが、迷惑かけるわけにもいかんし……いっちょ、詫び入れにいくか!」

 

 腹一杯食べたい。その気持ちはわかる。が、自分たちは『美食會(びしょくかい)』のような食のアウトローでは無い。人様に迷惑をかけてまで、食事をすべきではない。そう小松とトリコはあらためて思った。

 

「あ、じゃあこういうのはどうですか。美食屋らしい方法で――」

 

 とある意見を述べ始めた小松に、トリコはすぐさま了承を返した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「つーわけで石掘りだ!」

 

 思い立ったが吉日。それ以外は凶日と、トリコは小松を伴い食材の確保に奔走(ほんそう)していた。

 食べ過ぎて出禁を食らってしまうなら、食べる分は自分たちで用意して参加すればいい。そんな小松の発案により、石焼き芋の材料を集めることにしたのだ。

 芋は既に確保済みだ。先ほども、小松が焼き芋に調理したモアイモ。これは山岳地帯の断崖絶壁に生える芋で、他の美食屋が立ち入らないトリコがこっそり確保している“穴場”にて確保してある。それも、トリコですら一食で食べきれない量だ。

 そして、次に探しに来たのが、石である。

 

「いやあ、まさか食材でなく、石を取りに行くなんてことあるとは思ってませんでしたよ」

 

「グルメ石やグルメ岩を外殻として身に纏っている猛獣も、珍しくないからな。直接口に入らない材料獲りも、美食屋の仕事の一つだ」

 

 石焼き芋は、石で味が変わる。少なくとも、このグルメ時代においてはそれは真実である。このような料理の味に影響を与える調理用の石は、“グルメ石”として料理雑誌で特集が組まれるほどである。

 

「でも、今回はこの岩山から掘るだけなので、危険はないですね! いやー、モアイモ掘り中に滑落しそうになったときは、どうなることかと」

 

 高さ二十メートルほどの小山に二人は足を踏み入れていた。地面に広がっているのは岩肌。石を掘るには相応しい岩山だった。

 

「ん? あるぞ? 危険」

 

「え゛っ」

 

 そんな言葉を交わした直後、二人の足下が大きく揺れる。

 

「わわっ、地震!?」

 

「いや、違う……」

 

 強い揺れに立っていられなくなり地面に伏せた小松は、地面の揺れる音とは別に、腹の底に響くような重低音を耳に感じた。それは、獣の鳴き声。

 

「この山が生き物なんだ。今回のターゲットだ」

 

 ――マウントリザード。動く岩山と言われる巨獣である。

 石や岩を身にまとっている甲殻獣類などの生物といえば、その石の下には柔らかい肉があるのが本来の姿だ。

 だが、この巨獣は違う。可食となる肉は全身どこにもなく、全てが鉱物で構成されている岩の化物なのだ。岩の塊がそのまま動いていることから、まるでファンタジー小説で語られるようなゴーレムのようだ、とも言われている。

 肉が無いため、食材として見られることもなく、美食屋の狩猟の対象にはなっていなかった。そうトリコは説明する。

 

「――が、最近グルメ鉱物学者が、こいつは良質のグルメ石の塊だって発見してな」

 

「な、なるほど。石焼き芋の石に相応しいと。この山のサイズだとちょっと量は多いかもしれませんが」

 

「大丈夫だ。そこんところは問題ない」

 

 揺れがいよいよ激しくなってきたところに、トリコも本格的な臨戦態勢を取る。いくら揺らしても身体の上からトリコ達がどけようとしないので、マウントリザードが敵意を向けてきたのだ。

 マウントリザードは石喰いの生物で、人間を捕食することは無い。だが、他生物に自分の身体の上へ居座られても大人しくしているような生き物ではなかった。

 

「ひええええ。……あ、でも今背中の上にいるなら、揺れるだけで迎撃手段はない……もしかして、安全ですかね?」

 

「いや、それはないな」

 

 ひょい、とトリコは小松を片手で抱え上げると、肩の上に乗せる。すると次の瞬間、小松が座り込んでいた場所の岩肌がうごめき、槍とでも呼称すべきな岩のトゲが勢いよく突き出してきた。

 

「ひゃあああ!」

 

「こいつは自在に“肌”を尖らせるんだ。よっと」

 

 足元から突き上げられた石の槍を跳躍して回避するトリコ。すると、そのトリコの動きを追うように、次々と地面からトゲが勢いよく生えてくる。それをトリコは小松を肩に乗せながら、縦横無尽に避け続けていく。

 

「こ、これどうやって倒すんですか。肉も全部岩なんですよね。巨大な岩山を相手にしているわけで……」

 

「生物な以上、頭を潰せば一発なんだが……」

 

「頭、どこですかね」

 

 腹に響く重低音は続いている。これがマウントリザードの鳴き声だが、それを発している口らしき部分は見当たらない。

 

「まあ、やってみるか。小松、よくつかまってな」

 

 マウントリザードの攻撃を避けながら、トリコは勢いよく右の手の平と左の手の先をこすり合わせる。そして、胸の前で両の手のひらを合わせると――

 

「この世のすべての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

 それはトリコの戦闘前の所作であった。

 

「相手は全身が岩石で食べられないですけど、いただきますなんですね」

 

「食べられんが、まあ石焼きで料理してしまえば食べるのと似たようなもんだ! フンッ!」

 

 気合い一発、トリコは右の腕を大きく後ろに振りかぶる。

 

「10連! 釘パンチ!」

 

 振りかぶった腕をトリコは真っ直ぐ下に向けて振り下ろした。

 釘パンチ。数回のパンチを一瞬で対象に叩きつけることで、釘を打つかのように対象の奥へと衝撃を浸透させる、トリコの得意技だ。今回は10連。十回のパンチを同時に地面、すなわちマウントリザードの身体へ叩き込んだのだ。

 

 十回の強烈な衝撃が岩肌を突き破る。マウントリザードの肌は、砕け、ひび割れ、剥がれ落ちていく。

 その衝撃に耐えきれなかったのか、マウントリザードは岩肌の一部が盛り上がり、頭部らしき部分が上に向かって生えだしてくる。そして、汽笛のような音を鳴らした。苦痛から、悲鳴をあげているのだ。

 

「全身が岩でも、痛覚はあるようだな」

 

 トリコはその頭に向かって、駆け出す。

 だが、マウントリザードの頭部にある宝石で出来た瞳が、ぎょろりとトリコを捉えると、トリコの進路を阻むように石の槍が次から次へと生えてきて、行く先をはばむ槍ぶすまとなる。

 

「まるでハリネズミだな」

 

 目の前に広がるトゲの山に、トリコは右手を構え――

 

「ナイフ!」

 

 手刀を横に一閃。

 するどい石の切っ先は、全てトリコの手によって刈り取られた。

 

「うおお!」

 

 そして、頭に向かってトリコはダッシュ。一瞬でトリコはマウントリザードの頭部へと肉薄する。

 大型車両ほどもある、巨大な頭だ。

 マウントリザード唯一の弱点だが、これもまた岩の塊。生半可な攻撃ではびくともしない。

 

「――15連釘パンチ!」

 

 先ほどよりも回数を増した釘パンチが、マウントリザードの頭部へと突き刺さる。

 轟音と共に、十五回の衝撃が頭部を粉々に破壊していく。

 そして、地面からけいれんでもするかのように大きな揺れが、一回。いつの間にか、重低音の鳴き声は、すっかり収まっていた。

 

 揺れもなく、音もない。まるではじめからただの岩山だったかのように、ただ沈黙がその場に残った。

 トリコは拳を解き、再び右の手の平と左の手の先をこすり合わせ、そして胸の前で両手の平を合わせる。

 

「ごちそうさまでした」

 

 戦いが終わった。その様子を小松は一人、トリコの背に負ぶさりながら眺めていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 何はともあれ実食である。

 マウントリザードの岩山の麓で、トリコと小松は石焼き芋の用意を整えていた。

 いきなり祭りの場に食材を持っていくということはせず、念のための試食だ。トリコの小腹が空いたというものもある。

 

 ナベの中に細かく砕いたマウントリザードの岩石を敷き詰め、その上に天然モアイモを乗せる。それを焚き火であぶるという、野趣(やしゅ)に富んだ調理風景である。

 

「はー、焚き火って見ていてなんだか落ち着きますねぇ」

 

「そうか?」

 

 小松にとっては焚き火とは非日常の風景だが、普段から美食屋として野を駆け回り、現地で食材を調理しているトリコにとっては、焚き火とは日常の一風景の一つでしかない。小松と違って、トリコからすれば特別感は何もなかった。

 

「なんだかこう、じわじわと心が温まってくるような」

 

「単に火の熱で身体が温まってるだけじゃないかそれ……」

 

 そんな益体もない会話を繰り返す後、モアイモが焼き上がる。

 

「それじゃあ」

 

「いただきます――」

 

 小松は早速、モアイモにかじりつく。崖で滑落しそうになりながら、彼が掘り当てた天然モアイモである。栽培ものと比べて、どことなくモアイの顔の掘りが深い気がする。

 

「な、なんだこの焼きモアイモはーッ!?」

 

 小松は、その焼きモアイモの味と食感に驚きの声を上げた。

 

「焼き芋なのに肉を頬張っているようなジューシーさが、口の中を満たしていく! ホクホクなのにジュワジュワ!」

 

 その小松の反応に見て、その味わいを以前から知識として知っていたトリコが、ニヤリと笑って返した。

 

「マウントリザードの岩石は、石だけど“肉”なんだ。だから、その肉の旨味や脂といった成分が溶け出して、芋に染み渡るのさ。だからこその“グルメ石”だ。オレも、石焼き芋として食べるのは、今回が初めてだけどな」

 

「これがグルメ石の肉の旨味なんですね。でも、天然モアイモの甘さと全然ケンカしていないぞ。肉っぽさと芋っぽさが調和している!」

 

「主にピザ焼き用の石窯に使われるマウントリザードの石だが、石焼き芋に合わせても悪くない。いや、美味い」

 

 そんな言葉を交わしながら、焼きモアイモを食していく二人。

 小松にとってはモアイモ一個は、十分に一食分をまかなえる大きさだったが、この美味しさを前にしてはまだまだ食べられる、と物足りないくらいだった。

 

 だが、これは試食だ。大量のモアイモと、マウントリザードの石を持ってこれから祭りの会場に向かわなくてはならない。

 撤収の用意をしよう、と小松は周囲を眺め、そして死体となったマウントリザードの岩山が目に入る。

 

「これ、どうなるんですか。石焼き芋用の石にするには、いくらなんでも多すぎますし」

 

 岩山を指さしながら小松はそう訊ねた。祭りに芋は大量に持っていくが、石は小松が料理に使う分だけあればいい。トリコとしても、別に祭りの現場でグルメ石を配るつもりもないのだ。

 

「直接食えないにしろ、こいつも“食材”だからな。無駄にしないよう石屋に売るよ」

 

 さすがのトリコも、自分一人で石材を使い切る予定は無いらしい。

 美食屋は猛獣などの食材を獲って、それを売り生計を立てる商売をする職業だ。その狩猟の対象が、食べるためではない調理道具の材料というケースも多々ある。

 

 小山と言えども岩山は大きく、さすがのトリコでも持ち運ぶことはできない。別の業者が来て、死骸のグルメ石を回収していく予定がすでに立っている。

 小松は、美食屋の仕事をまた一つ学び、料理人としての成長の糧となるよう、この光景を目に焼き付けるのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 それは複数台の十トントラックと共にやってきた。

 辺境の村のこぢんまりとした祭り。特に収穫祭というわけでもなく、市場で調達した芋を焼き村の皆で食べ、酒を飲み交わすそんな小さな祭りに、美食屋トリコがやってきた。

 本来ならば、食のカリスマトリコと言えば、諸手を挙げて歓迎されるような有名人だ。

 しかし、小さな祭りではこの大食漢を到底支えきれるものではない。なので、村人たちは出禁を決めた。

 そんなトリコが、自分で食べる分は自分で用意したからと、年をまたいで再度やってきて、頭を下げたのだ。

 トラックの荷台には、奇妙な顔の形をした芋がびっちり。そして、先頭の十トントラックをよく見てみると、それはただのトラックではなかった。なんと、大きな石焼き釜が備え付けられている。こんな巨大な焼き芋屋台は、この村の誰も見たことがなかった。

 

「ほんっとうに済まなかった! 今度こそ、祭りを台無しにすることはない! 参加、許してくれるかい?」

 

 トラックを降りたトリコが向かい合っているのは、祭りの実行委員長である。以前、トリコに祭りの出禁を通達したのが彼だ。

 その彼にトリコは昔の詫びを入れて、祭りの参加を取り付けようとしていた。

 

「ふうむ、自分の分は自分でか……」

 

「問題ないよな……?」

 

「ふーむ、問題と言えば問題か」

 

「えっ、そうか? 何かダメだったか?」

 

「自分の分を自分で作って食うだけ。それははたして、祭りの風景と言えるのか?」

 

 そんな実行委員長の言葉。その裏に含まれた意味を読み取ったトリコは、満面の笑みになって言葉を返した。

 

「おう! じゃあ、オレたちも祭りの一員として焼き芋を配るから、その分だけオレたちにも、みんなの焼き芋を食わせてくれな!」

 

「うむ。それでよし」

 

「ああ!」

 

 快く出禁を解除してくれた実行委員長に、トリコは満足げにうなずき、トラックに再度乗り込む。

 そして、トリコの石焼き屋台トラックを先頭に、トリコの知り合いが運転する複数台のトラックが祭りの会場へと乗り入れていく。

 連なるトラックと巨大な焼き芋屋台は、他の祭り参加者の屋台を圧倒する大きさで、否応なしに参加者からの注目を集めていた。

 

「トリコ? 美食屋トリコが、今年も来たのか?」

 

「センチュリースープの小松シェフも来ているんだってよ!」

 

 祭り会場で止まったトラックの周りに、参加者が次々と集まってくる。

 そんな彼らに向かって、トラックの助手席から降りて石焼き屋台を展開した小松が声をかけた。

 

「さあ、みなさん食べていって下さい。秘境の天然モアイモですよ! それに石焼きの石も、グルメ石製です!」

 

 そんな小松の言葉に、村人たちは驚きの声を上げた。

 

「うおー、こんな寂れた村の祭りに、そんなグルメ食材が!」

 

「寂れた言うなや! でも、まれに見る贅沢!」

 

「祭りだー! 宴だー!」

 

 栽培もののモアイモは一本千円ほど。グルメ食材としては、特別高いとは言えない程度の価格。だがしかし、それでも安いサツマイモと比べると格段に高い。そしてこの祭りで振る舞われる焼き芋は、その安いサツマイモが大半なのだ。グルメ時代でも、この辺境の村ではそれが現実だった。そんな中で、焼きモアイモは彼らが言うほどのまれに見る贅沢ではないが、ちょっとした贅沢になる一品だった。

 

「じゃあ小松、屋台はよろしくな! オレは石焼き芋名人のところで焼き芋食ってくるわ」

 

「あ、トリコさん一人でズルいですよ! ボクの分も貰ってきて下さい!」

 

「おー。じゃあ屋台ごと持ってくるわ」

 

「屋台ごと!?」

 

 焼き芋祭りの屋台は、どれも焼き芋の移動屋台を利用したものであった。

 なので、持ってこようと思えばできるのかもしれない。

 

「小松シェフー! こっちに三つおくれ!」

 

「あっ、はぁーい!」

 

「うめえ! モアイモうめえ! なにこれ肉味!?」

 

「シェフー! この村名物の芋焼酎だ! 是非飲んでみてくれ!」

 

「……わっ、いいですねぇ。名産品ですか」

 

 料理中に飲酒は、と一瞬小松は思うが、これも祭りか、と周囲を見渡しながら思い直す。

 周囲は皆、酒のコップを片手に祭りに興じていた。屋台の主たちもである。

 

「小松! 持ってきたぞ! この人が石焼き芋名人だ!」

 

「本当ですか! サイン貰って良いですか!」

 

「ど、どうも小松シェフ……あの、名人って言っても別に料理人じゃないんですけど……私もシェフのサイン下さい」

 

 屋台を引っ張りつつ戻ってきたトリコの手にも、すでに焼酎の酒瓶が握られていた。

 焼き芋用のサツマイモが育つ気候ではないが、国の南部から買い取ったサツマイモを使った酒造が盛ん。ここは本来、そんな村だ。

 酒に使うサツマイモに感謝し、余った石焼き芋を食べ、完成した芋焼酎を飲み交わす。この焼き芋祭りは、そんな経緯で誕生した祭りであった。そして、この祭りは一昼夜続く。

 

「うんめぇー。この焼き芋が食べたかったんだよ!」

 

「はい、すごい美味しいですねトリコさん! これは確かに達人の味! 石焼き芋名人だ!」

 

「いんやぁー、シェフのモアイモも、最高だよ」

 

 石焼き芋名人の作る石焼き芋は、安いサツマイモ、そして質素な屋台で作られる、何の変哲(へんてつ)もないただの石焼き芋だった。だが、それが無性に美味い。まさに達人の域にある技であった。

 そんな名人と知識を交し、小松もまた一つ料理人としての腕を上げる。

 

「乾杯だー!」

 

 もう何度目かというくらいの乾杯の音頭が祭りの空に響き渡る。

 十トントラック数台のモアイモ程度では満腹にはとても足りない、と、トリコが空輸でワールドキッチンから追加で芋を取り寄せる、などといったハプニングが途中で起きたものの、祭りの夜は楽しく過ぎていく。

 焼き芋以外の料理が並ぶことはなく、ただただ焼き芋と芋焼酎を腹一杯平らげる。

 そんな辺境の奇妙な祭りは、トリコと小松コンビという思わぬ来客のおかげで、過去最大級の盛り上がりを見せるのであった。

 

 なお、盛り上がりに盛り上がったトリコと村人たちは、冬の備蓄用に回されるはずだった分の芋焼酎にまで手を出してしまう。たった一晩でそれらを全て飲み尽くしてしまい、困り果てた実行委員長に、「次は酒も持参で!」と強く懇願(こんがん)されるのだった。

 




グルメ石
調理器具の材料となる石材のうち、特に料理の味に影響を与えるものを言う。
適切な温度を保つことで料理の出来に影響を与えるようなものから、直接味に作用して美味さを増幅させるようなものまで幅広く存在する。グルメ石を謳っているものの中には、何の科学的根拠も持たないオカルト詐欺的なものもあるので、IGOに認可されたものを選ぶのが賢い選択と言える。

マウントリザード(爬虫獣類)
捕獲レベル:34
全身が石でできた巨大なトカゲ。主に荒野や岩石地帯に生息する。岩の小山のような外観をしており、動くことも少ないため素人目には岩山との見分けは難しい。
食料は鉱物全般で、生き物の肉は食べない。ただし、身体に触れられることを嫌うため、山と勘違いして上に乗った生き物を攻撃する。
身体は石でありながら肉でもあるというグルメ石でできており、直接口にすることは出来ないが、石鍋や石窯といった料理の器具として用いることで肉の旨味を取り出すことができる注目の石材である。また、人の背丈ほどもある巨大な目玉は宝石として高く取引されるという。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。