ナザリックinスレイヤーズ   作:史上最弱の弟子

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アインズ様キレる

 街道を歩く二人。

 一人は全身に黒い鎧を身に纏った男。もう一人は冒険者風の格好をした美しい少女。

 その正体は変装したアインズとナザリックのメイド部隊プレアデスの一人ナーベラル・ガンマであった。二人は今、ある街を目指し旅をしているのであった。

 

「アインズ様、本当にあなた様が足を運ぶ程の価値があるのですか?」

 

「それを確かめるために行くのだ。この世界の者の実力を見定めるためにな」

 

 アインズに問いかけるナーベラル。彼女は街を目指す目的に納得していなかった。アインズは街に居るある人物に会ってみたいと考えている。しかし彼女にはその人物が至高のお方と崇拝するアインズがわざわざ足を運ぶ価値のある人物とはどうしても思えなかったである。

 

「ですが……」

 

 更に反論の言葉を紡ごうとするナーベラル。しかしそこで言葉は中断された。何者かが二人の方へ近づいてくる音、木々を揺らしたり、葉を踏み潰したりする音が聞こえてきたからだ。

 そしてその音に二人が注意を払うと道の脇の茂みの中から武器を持った十数名の男達が現れ、二人を取り囲んだ。

 

「へへっ、いい身なりしてるじゃねえか。悪いが身包み置いて言ってもらうぜ」

 

(……盗賊みたいだな)

 

 見た目、言動、どちらをとってもこれでもかという位オーソドックス、個性の無い姿にその正体を看過するアインズ。状況的には襲われていることになるがはっきり言って緊張感は無い。どう見ても雑魚と言う雰囲気に満ち溢れているし、一応この世界の人間の強さの水準に関して、最低限の情報だけは自ら出立する前に先行して配下に調べさせていたからである。

 

(盗賊に落ちるような奴は大概レベル15以下って言ってたっけ。はっきり言って楽勝だけど、いや最初の戦闘だ。一応ここは気をひきしめて)

 

 正直余裕、気の抜けそうになるのを引き締めようと意識している状態。

 しかし、その直後、盗賊の一人が発した言葉を聞いてその態度が大きく変化させられることになる。

 

「大人しく言うこと聞けば怪我しないですむぜ。何せこっちは10人以上、しかも魔道士まで居るんだ。俺達はここらじゃ最強の盗賊団、アイス・ウール・ガウン様だ!!」

 

「何?」

 

 ぶるぶると震えだすアインズ。その姿を見て調子に乗り、彼に対し嘲りの言葉をぶつけた。

 

「へへっ、こいつびびってやがるぜ」

 

「立派な鎧着てる癖にだせえ奴だぜ」

 

「……この……」

 

 そこでアインズが何か呟く。

 

「んっ、何か言ったか?」

 

 小さな声に対し、挑発するように耳を近づける。

 この時その呟きに凄まじい怒りが篭っていることに盗賊は気づいていなかったが、仮に気づいたとしても、それは既に手遅れだった。

 

「どこのパチモンだあああああああ!!!」

 

 自身のギルド名をもじったような名前に大切な宝物を汚されたように感じたアインズは、種族特性である感情抑制が働く間もなく、その怒りのままに剣を振るった。

 完全に油断していた男の身体が左右真二つに切り裂かれる。

 状況についていけず呆然とする盗賊達。そしてそこでようやく感情抑制の効果が発動する。

 

「いかんな。最初の戦闘は慎重に対応するつもりだったのだが。しかし結果的にはよかったか。雑魚相手に無駄な警戒をせずにすんだ」

 

 少し落ち着きを取り戻したアインズは大剣を構える。その姿を見て正気を取り戻した盗賊達は彼に向かって一斉に襲い掛かった。

 

「うおおおおお!!!」

 

「至高のお方に集る下等生物。塵になりなさい」

 

 そこでナーベラルがアインズを庇うように前に立ち、魔法を盗賊の一人を焼き尽くす。宣言通り、塵にされた仲間を見て盗賊の一人が怒声を上げた。

 

「こ、こっちも魔法を!!」

 

「ファイアー・ボール!!」

 

「フレア・アロー!!」

 

 仲間の声に答え魔法を放つ盗賊達。メンバーに魔道士が居ること、これが彼らの切り札であり、自信の源であった。魔法が使える二人はその時丁度アインズの背後に居り、放たれた炎の球と矢がアインズに直撃しその身体を包む。

 

「や、やった!!」

 

 歓声をあげ、残りは一人とナーベに集中しようとする。しかしその瞬間、炎が掻き消え中から無傷のアインズが姿をあらわす。

 

「嬉しい誤算だった。この世界の魔法が見れるとは思わなかったよ。更に嬉しいことに私の無効化スキルがこの世界でも有効であることが確認できた。異世界の魔法には流石に効果が無いと思っていたのだがな」

 

 アインズの言葉の意味は彼らには当然わからない。ただ、彼らは自分達の攻撃が通じない化け物の存在に恐怖していた。

 そんな彼らに対し、アインズは死の宣告をする。

 

「お礼に私の世界の魔法を見せてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ様、やはりお戻りになられた方がいいのでは。伝説の魔道士とはいえ所詮は人間。こやつ等と同じ下等生物にすぎません」

 

 盗賊達の死体を見下して言うナーベラルの発言。それに対し、アインズは内心で溜息をつく。

 

「その気持ちも分からなくも無い。だが、例外は間違いなく居るのだ」

 

 雑魚を相手にしたことで人間蔑視の感情が強まってしまったらしいナーベラルをたしなめる。今の油断しきった彼女の前にまともな武器を持ってあの金髪の剣士が現れ、そして戦えば彼女の方が敗れる可能性が高い。そんな未来を避けるためにも忠告をする。

 

(困ったものだな。まあ、人間を嫌うのは”構わない”けど、侮るのは困るし、調査のためにもそれを隠してくれないと……んっ?)

 

 そこでふとアインズは自分の思考に疑問を持つ。人間を嫌うのは構わない、それは調査の邪魔になることを除いても自分にとって本来まずい筈の思考ではないかと気づいたのだ。

 

(あれ、俺、人間だったことを忘れかけてる?)

 

 気づいた事実に驚愕するアインズ。

 そして更に彼は気づく。

 

(そう言えばさっきは気にならなかったけど、俺、初めて人を殺した筈なのに全然気にならなかった)

 

 今までの自分と言うアイデンティティを喪失しかけていることに気づき、その事実に動揺するが、精神抑制の効果が発動し沈静する。

 

(考えても仕方が無い。今は頭を切り替えよう)

 

「私が見た剣士は人間でありながら装備さえ整えばお前を打倒しかねない程の力を持っていた。これは私に加え、セバスも同意した意見だ。お前はそれを疑うと言うのか?」

 

「い、いえ、至高のお方の判断を疑うなど」

 

 主から発せられた自身の忠誠心を疑うような言葉に慌てて弁明をするナーベラル。

 

「確かに先程の者達は雑魚だった。だが、間違いなく強者は存在するのだ。決して人間を侮るな」

 

「っつ!! 申し訳ありませんでした」

 

 これ以上言わせるなと言わんばかりの圧力、それを感じ取ったナーベラルは心から悔いたという表情で頭を下げる。その反応を見て、アインズは寛大な支配者としてそれを許すことにした。

 

「わかればよい。それからそろそろ街へと近づく頃だ。ここからは私達は冒険者であるモモンとナーベ、そのように装うようにしろ」

 

 偽名を指示し、それに答えるナーベ。

 

「はっ、はい、わかりましたアインズ様、いえモモンガさ……モモンさん」

 

「うむ」

 

 そして両者は目的の町、サイラーグへと辿り着くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道をお聞きしたいのですが。この場所へ行くにはどう行けばいいでしょうか?」

 

 

 サイラーグへと辿り着いたモモンは町の住人に紙を差し出し、そこに書かれた場所への行き方を訪ねた。差し出した紙は手配書。しかし、そこに書かれた手配犯になどモモンは欠片も興味を持っていない。彼が関心を持っているのはその手配をかけた人物だった。

 

「これは手配書。……手配犯を見付けたんですか?」

 

「いえ、残念ながら。この手配をかけた人物が赤法師レゾ殿とお聞きしました。ミーハーで恥ずかしいのですが、高名な人物のお姿を一度、この目で見たいと思いまして」

 

 赤法師レゾ、それがモモン達の目的の人物であった。最初に訪れた町で冒険者として仕事を探したモモンはそこで手配書を目にし、そしてその手配をかけた人物が現代の五大賢者の一人であることを街の住人より聞いたのである。彼とあえばこの世界の人間のレベルがわかる、そう判断した彼はこの町まで足を運んだのであった。

 

「そうですか。レゾ様はこの街道を真っ直ぐに行った先にある神殿長のお屋敷におられます。ただ、気をつけてください」

 

「気をつけろとは?」

 

 深刻そうな表情を浮かべ、声まで潜めてきたその住人の態度に何やら只ならぬ気配を感じるモモン。

 

「実はレゾ様がこの町に訪れてからしばらくして神殿長の様子が目に見えておかしくなったんです。頬がげっそりと痩せこけ、訳の分からないことを呟くように。聖人と呼ばれるレゾ様を疑うのは心苦しいですが、あの方が何かしたのではないかとか一部では噂になっているんです」

 

「なるほど、そういうことですか」

 

「ええ、ですから行くのを止めたりはしませんが気をつけてくださいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 礼を言って住人と別れ、その姿が見えなくなったところで神官長の屋敷とは反対方向へ歩き出すモモン。

 

「モ、モモンさん!? 行き先はあちらでは!?」

 

 その行為に驚き、慌てて彼の後をついていくナーベ。モモンは歩きながら答えた。

 

「状況が変わったのだ。流浪の聖人と呼ばれる男、仮にその姿が偽善であったとしても、表向きそう振舞っている以上は少なくとも訪問客に行き成り危害を加えてくる可能性は低いと考えていた。しかしその化けの皮を自ら脱ぎつつある以上、準備を整えぬ状態での直接接触は危うい。別の手段を取る」

 

「別の手段ですか?」

 

「ああ、先程の盗賊達には感謝せねばな。一応回収しておいたのが早速役に立つ」

 

 そのまま二人は街の外にまで移動し、そこである策を実行するのであった。

読んでみたいネタ

  • リナ&アインズVS最恐の敵(コメディ)
  • セバス主人公のダークシリアスバトル
  • ナーガとヘロヘロさんの凸凹二人旅
  • この中には無い
  • だらだら続けない方がいい

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