「う、うわああああ!!」
「た、助けてくれええ!!!」
叫び、逃げ惑うサイラーグの住人達。彼等が逃げてきた方向、そこには12体の怪物の姿があった。その正体はデスナイト。モモンが盗賊の死体を媒介に召喚した中級アンデッドである。
彼らの目的地は神殿長の屋敷、そこに滞在するレゾであった。
「さて、お手並み拝見だな。デスナイト12体。実力の見極めにはちょうどいい戦力であろう」
デスナイトは中級アンデッド。ユグドラシルではレベル35に相当するモンスターである。12体を同時に相手どって倒せるのならばそれはナザリックにとっても警戒レベルの強さを持っていることになる。
そして、その策を実行したモモンとナーベラルは戦いの様子を見るため、神官長の家の近くの路地裏に身を隠しデスナイトの到着を待っていた。
「直接相対せず召喚したモンスターを仕掛ける、お見事な策です。ですが、レゾとやらが大したことが無く、敗れてしまう可能性もあります。情報収集が終わるまでは人間達に対して積極的な敵対行動は取らないと言うのがアインズ様の方針だったのでは?」
アインズの策に対し、疑問を持つナーベラル。実際、彼女の言う通りのことを彼は部下に厳命している。その意図は人間達の強さがわからない現状で彼等と敵対することを警戒したからである。矛盾のあるように思える言動に対し、アインズは自らの考えを話して聞かせる。
「レゾが勝利しそうであれば、我等はすぐさまこの街を立ち去る。そうすれば我等に辿りつく証拠は何も残らないであろう。逆にレゾが敗れそうであればその時は我等が介入するつもりだ。そうなれば我等はこの街の救世主となり、人間達の間で動くのに役立つ名声を手に入れられるであろう。良過ぎるタイミングに我等を怪しむ感の鋭い輩も居るかもしれんが、そう言った聡いものの声も愚昧な大衆の声にかき消され届くことはあるまい」
「なるほど、流石は至高の御方。見事な深謀です。疑問を挟むなど失礼なことをしました」
説明を聞いたナーベは感嘆し、謝罪するナーベ。モモンはそれを鷹揚な態度で許した。
「よい。寧ろ私は感心している。私の言うことだからと言って意味もわからないまま従うのでは無く、正しく理解して行動するのは大切なことだ。さて、そろそろだ」
デスナイトが到着するタイミングと路地裏から抜け出す二人。そしてそこには狙い通りにデスナイト達と相対するレゾと逃げ遅れた住人達の姿があった。更にデスナイトを追ってきた衛兵等も加わる。
「まさか、街中にモンスターが侵入してくるとは。安心してください。私が退治しましょう」
「おお、レゾ様!!」
「頑張ってください!!」
レゾの悪評については知らないのか、あるいは藁にもすがる気持ちなのか彼に対する声援が飛び交う。
そしてアインズは自分の計画通りに進行していることに内心でガッツポーズをしながら事態の推移を見守った。
「ウオオオオオオゥゥゥ!」
デスナイト2体がレゾに襲い掛かる。これはアインズの命令だ。デスナイトは簡易的な指示であれば対応できる知能がある。いきなり12体でかかって、そこでレゾが死亡してしまったら正しい実力が把握しきれない可能性を危惧し、最初の攻撃は2体だけが仕掛けるよう指示したのだ。
しかし結果から言うならばそれは無用な気遣いだった。
「暴爆呪(ブラスト・ボム)」
デスナイトの刃が届くよりも早く、レゾの周りに十数個のこぶし大の光の球がうまれ、それが全てのデスナイトに向かって飛んで行ったのだ。一体に対し、1~2発ずつ光球を受けたデスナイトは接触の瞬間に大爆発、爆発の衝撃がその体を粉砕し、更に炎が焼き尽くす。
炎が消えた時には跡形も無くなっていた。
(先程盗賊が使ったのと同じ魔法か!? いや、使用者の違いを考慮しても比較にならな過ぎる)
その光景に驚愕するアインズ。
光球はファイアー・ボールに似ていた。ファイアー・ボールはユグドラシルの第3位階魔法であるファイヤーボールと威力も見た目にも似ているため比較の基準にしやすい。
そして第3位階程度の魔法でしかないファイヤーボールでデスナイトに対し、その特殊能力を考慮の外においても一撃で倒せる程の威力は無い。それを一撃で殲滅した辺りからレゾの放った光球の威力の高さが伺えた。それを同時に十数発、しかも一発一発を自在にコントロールしてみせたことを考えれば第9、いや第10位階魔法に匹敵する魔法だとアインズは感じた。
「予想以上だな。流石は大賢者と言ったところか」
「はい。申し訳ありませんアインズ様。確かにこの世界の人間は侮れないようです。無論、至高の御方や階層守護者の方々には遠く及ばないにしても我々に危害を与えるだけの力を持った害虫であることは理解致しました」
強大な魔法を使いこなしたレゾに対し、アインズは彼をそしてこの世界の人間に対しての警戒レベルを引き上げる。それは人間に対し侮蔑的な感情を持っていたナーベも同じだったようで考えを少し改めたようだった。
「わかればよい。それでは予定通り引くぞ」
「はい」
脅威が取り除かれたことで飛び出してきた野次馬達。騒ぎが起きる中、今なら立ち去るのは簡単と人混みに紛れ、その場を遠ざかっていくアインズ達。しかし彼等は気づいていなかった歓声の中心に居るレゾの閉じられたその視線の先に自分達が捕らえられていたことを。
「さて、それではナザリックに戻るとしよう」
サイラーグから離れ、街を取り囲む瘴気の森と呼ばれる森の中へ身を隠した二人。そこでアインズは帰還用のアイテムを取り出し使用しようとする。
「ゴオオゥ」
しかしアイテムが効果を発動するよりも早く重なり合う獣のような雄たけびと共に数百本の炎の矢が外周120度の範囲よりモモンとナーベ目掛けて放たれたのだ。
「なっ!」
突然の奇襲に対処できず、炎に飲み込まれる二人。
そして薄暗い森の奥から一人の人間が現れる。
いや、それは人間ではなかった。確かにその顔半分は端正な顔つきをした人間の男であったが、残り半分は生白い肉のかたまりがあるのみ、つまりはのっぺらぼうなのである。
「おや、終わってしまいましたかね? 呆気ない」
異形の男が呟く。だが、男の予想とは異なり、モモンとナーベは無事であった。ただしスキルによって完全無効化したモモンと違い、ナーベはダメージを受けている。
「申し訳ありませんモモンさーん」
「気にするな。隙があったのは私も同じだ。さて、お前達は何者だ?」
兜に隠され、見えない表情。しかしその声からも十分に怒りが伝わってくる。しかしその怒りに対し、異形の男は怯むどころか寧ろ快楽を得た表情をしていた。
「あなたの負の感情。大変に心地がよい。しかしどうやらあなた方は人間ではないようで。っと、自己紹介が忘れていたようですね。私はヴィゼア、魔族です」
「魔族……。なるほど、この世界にはそのような種族がいたか。それで、お前達は私の敵ということでいいのか?」
「ええ、今は主の命で貴方方を襲いましたが例えそうでなくとも敵でしょうね。我等魔族は全ての生あるものの敵。それは貴方方のような不死者(アンデッド)であっても例外では無い」
「こちらの正体を見抜いたか。しかし魔族とは随分と特殊な存在であるようだな」
「ふむ、魔族のことを何も知らないようで。それでは簡潔に教えて差し上げましょう。魔族とは世界の滅びを望むものです」
「そうか。ならば遠慮はいらんな。”ナーベラル・ガンマ”奴を倒せ!」
この世界でどのような立場となるか。その方針は定まっていないが、少なくとも世界の滅びなどという目的とは相容れないことは確かである。
会話はこれまでと戦闘の意志を示すアインズ。
「はっ!!」
主の命に答え連鎖する竜雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)を放つナーベラル。両腕から生じた龍のような形をした稲妻がヴィゼアを直撃する。
「もう一つ教えて差し上げましょう」
「なっ!?」
「我等魔族に物理攻撃は通じません!!」
第7位階の魔法を受けたにも関わらずヴィゼアは一切の痛痒を受けた様子を見せず、そして顔面の半分より白い触手が伸び、それがナーベラルの体を貫く。
「がっ」
「ナーベ!!」
突き刺さった触手を剣で切り裂くアインズ。解放されたナーベはしかしダメージの大きさからその場に膝をついてしまう。ゲームであったユグドラシルとこの世界の大きな違い、それはダメージの概念だ。
HPと言う数値で体力が表され、HPが1でも残っていれば動き回れるゲームの世界と違い、この世界ではダメージを受ければ動きは鈍るし、急所を貫かれればHPが十分残っている状況からでも即死はありえる。それはNPCも例外ではなく戦闘力を大きく低下させるナーベラル。
「も、申し訳ありません。不覚を」
「次より活かせばよい。このゴミは私が片付けよう」
ナーベラルを庇うようにヴィゼアの前に立つアインズ。しかし敵は一人ではなかった。ヴィゼアの後方より二足歩行で獣のような姿をした怪物。最下級の魔族レッサー・デーモンが現れる。それも一体や二体では無い。その数12、くしくも先程アインズが召喚したデスナイトと同じ数であった。
「さあ、死んでいただきましょう」
力を制限されたアインズと負傷したナーベラルに対する魔族達。2対13という戦いが始まった。
アインズ様ピンチ!!
ところで原作の疑問なんですが、何でナザリックのメンバーは人間を見下してるんでしょうね?
確かに現地の人間は弱かったですがユグドラシルのレベル100の人間種プレーヤーとかプレアデスとかよりは強かったと思うんですが。
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