「な、何と言う戦いなんだ」
「いや、すげえな」
「そうね。強いとは思ったけど予想以上だったわ。大人しく引いといてよかったわね」
アインズ達の戦いに対し、そのレベルの高さに驚きながら見守るリナ達。今の彼女達では3人がかりでも、レゾ、アインズ、アルベド、誰か一人に勝つのが精一杯であろうと判断する。
「とにかく、今は下手に巻き込まれないよう静観しましょう」
そう言って静観を続けるリナ達。だが、そこで更に驚くことが起こった。レゾが切られた左腕を拾い、傷口に押し当て何やら呪文を唱えたかと思うと腕がくっついたのだ。おまけに錫杖までも再生する。恐ろしく速い再生と、連続した術の行使、明らかに人間の術の枠を超えた所業である。魔術を良く知るが故に信じられない気持ちでそれを見るリナ達。
そしてその場に殺気のこもった低い声が響き渡る。
「貴方方は予想以上の力の持ち主だったようですね。リナさん達との戦いのために力を温存しておきたかったのですがどうやらそんな余裕は無さそうです」
言葉と共にレゾの雰囲気が変わる。こうまで苦戦することを想定していなかったのだろう。しかしアインズ達の実力が彼を本気にさせたようである。一方、現状優勢なアインズの方も内心ではかなり焦っていた。
(やばい、まさか、ここまで強いとは)
レゾに戦いを挑んだ理由、それはナーベラルが傷つけられたことに対する意趣返しと彼は語った。勿論、それは嘘では無い。しかしそれ以外に力試しをしたいと言う意図も含まれていた。
最初の報告会から更に調査を進めた結果、この世界の人間の強さの上限をある程度予測できる段階にまで調査を進めていた。その予測された強さはユグドラシルのレベルにして70~80程度。これはかなり的を得た予測であり、一部の例外的な存在と技量など単純にユグドラシルのレベルに換算できない部分を除けば、ほぼ正しい考察と言えた。
そしてアインズはブラスト・ボムの威力や現代の五賢者とまで呼ばれる存在であることから予測の上限を超える可能性もあると判断し、更にプラス10の猶予を持った。つまりレゾの実力を最大でもレベル90程度と予測したのである。この予測通りであればアルベドと2対1で挑み負ける可能性は殆どなく、実戦に慣れる意味で丁度いい相手だと考えたのである。
しかし実際の強さはレゾの技量の高さもあって自分達と同じレベル100クラスであったため、見積もった余裕は完全に無い状態になってしまっていたのだった。
「アルベド一旦距離を取れ!!」
アインズとしては決して油断をしていたつもりはなかった。腕試しも決して愉悦目的では無く、この先、魔族等の強敵との戦いのため、自分や守護者達の力を最大限に引き上げておく意図があってのことである。しかし中途半端に情報を得たがために安堵が気の緩みに、そして侮りに繋がっていたことは否定できない。それに気づいたアインズは反省のみをし、後悔は切り捨てて見せる。
そして切り札である超位魔法の使用に踏み切ることにした。
(とはいえ、街を巻き込むのはまずいだろうからな。ちょっと勿体無いけど、失敗に対する授業料だと思ってこれを使うか)
人間と全面的に敵対するつもりは無いアインズとしては今の段階で街を一つ滅ぼすようなことは避けなければならない。やるのならば目撃者を一人も残さない状況を作らなければいけないが、たった今、レゾの力を見誤ったばかりの彼としてはレゾとの関係から実力者と見られるリナ達と敵対するのは避けたいという気持ちが強かった。
「ウィッシュ・アポン・ア・スターよ魔法の効果範囲を限定せよ!!」
「むっ?」
アインズが激レアアイテムシューティングスター(流れ星の指輪)を使うとレゾの周りにガラスのような透明な壁が現れる。これにより魔法の効果はその壁に阻まれ魔法の拡散を防ぐ効果がつけられていた。
「アルベドよ、超位魔法を使う。時間を稼げ!!」
「はい!!アインズ様!!」
超位魔法の詠唱を開始するアインズ。その間に接近し攻撃をしかけるアルベド。ハルバートを振るい、それに対しレゾが錫杖で受ける。レゾの魔力が付与されたことにより先程とは違い切断されない錫杖。
「くっ、いえ、構わないわ!!」
攻撃が受け止められたことに歯噛みするアルベド。しかし彼女が主が命ぜられたのは時間稼ぎ。何も問題は無いと意識を切り替える。
そして技量で上回るレゾと身体能力と武器性能で勝るアルベド。接近戦での実力は拮抗し、しばし打ち合いが続く。
そしてアインズの詠唱が完了した。
「準備ができた。退け、アルベド!!」
「はい!!」
「超位魔法、フォールンダウン!!」
アルベドが大きく跳び引き、アインズの横に並ぶ。
それを確認したアインズは超高熱源体を発生させ全てを焼き尽くす超位魔法をシューティングスターによって形勢された結界内で発動させる。極大の魔法は凄まじい発光を放つが、結界のおかげで他を巻き込むことはなく、レゾだけを焼き尽くそうとする。
「さて、これで倒せたかどうか」
凝縮された白い光は結界内の全てを隠してしまい、その濃すぎる魔力は魔法による探査すら阻み、中の様子を伺うことはできなかった。
そして数秒後、光が収まる。
「なっ!?」
「今のは流石にヒヤリとしましたよ。あなたの術がドラグスレイブを上回っていたらやられていた所でした」
光が収まった後に現れたのは赤い霧に包まれ無傷のレゾの姿であったのだ。この世界の魔王シャブラニグドゥの力を借りた防御呪文、アルベドと交戦しながら呪文を唱えていたレゾはアインズが超位魔法を展開するのと同時にそれを展開することで攻撃を凌いだのである。
「しかしこの結界、何の意味があるのかと思いましたが……。なるほど被害を拡散させないためでしたか。あなた方がそのような行動を取るのは意外でしたが。ふむ、これではリナさん達も同じ行動を取りかねませんね。なら……こうしましょう」
レゾは何やら困った顔をし、そして何やら思いついたと言う風な表情をした。そしてその場に居た全員の周りを透明なガラスのような障壁が取り囲む。
「ご心配なく、これは先程あなたが被害を拡散させないために張ったものと同じですよ。用途は逆みたいなものですがね」
「逆? まさか!!」
レゾの発言、エルフ並に耳の良いリナはそれが聞こえ、その言葉からある可能性に気づいた彼女は叫びをあげる。
そして、彼女が対処に動こうとするよりも早くレゾが宣言した。
「この障壁の外で魔法を発動させます」
そしてその次の瞬間、サイラーグは消滅するのであった。
「超位魔法……いや、いっそワールドアイテムクラスと言った方がいいかもしれんな」
「ま、まさか、こんな。人間がこれ程の力を……」
そのシンボルたる巨大な木『神聖樹(フラグーン)』を残して全てが消し飛んだ周囲を見てアインズが呟き、その隣でアルベドはその表情に驚愕を浮かべていた。
NPCは基本的に超位魔法は使えない。その意味で超位魔法級の術を使える存在はそれだけで守護者以上の存在とも言える。その事実にあるいは恐怖しているのかもしれない。勿論彼女はアインズのためであれば自身が死ぬこと等、怖くもなんともないと思っている。しかし己の力不足で、アインズの名誉を汚してしまうこと、アインズが傷つくことは彼女にとって耐え難い程恐ろしかった。
「さて、決着をつけましょうか。それとも尻尾を巻いて逃げますか?」
「お前が強大な力を持っていることは認めよう。だが、私がこの名を背負っている限り簡単に背を向けることは無い」
レゾの挑発的な言葉に対し、退く意志を無いと宣言する。
攻撃を仕掛けてきたのが相手の方ならば戦略的撤退と言い張ることもできるであろう。しかし、自分達から仕掛けて置きながら逃げる行為はアインズ・ウール・ゴウンの誇りを傷つけることになる。それはアインズにとって決して譲れぬことであった。
「行くぞアルベド、我等が偉大さを見せ付けてやるのだ!!」
「はいぃぃぃぃぃ!!!」
自身が恐怖を感じてしまった相手に対してもまるで怯まない。その雄雄しき姿に思わず股の間が濡れてしまう程興奮するアルベド。
そして戦闘が再開される。突撃するアルベド、彼女に対しアインズが魔法を行使する。
「グレーターフルポテンシャル!!」
アインズが使用した上位全能力強化の魔法によって全ての能力が向上するアルベド。強化された速度はまさに神速。それに対し、レゾは目を見開いた。
「!!」
「!?」
「!!」
そう、レゾは文字通り開いたのだ。閉じていた目を。
そして開かれた瞼の内側には”舌”があった。棘の付いた舌が。その舌がアルベドの手の甲に突き刺さる。それにより僅かに腕の力が緩んだ所で錫杖の一撃。武器が弾き飛ばされる。
更にそこに迫るブラスト・ボム。
「インフィニティウォール!プロテクションエナジー・ファイヤー!」
しかしそれよりも早くアインズによって魔法障壁、アルベドに炎耐性が追加される。
「ぺネトレート・アップ!」
抵抗突破力強化、魔法効果と装備で耐えていたアルベドは最後に追加された魔法の効果によって炎の嵐を強引に突っ切り、レゾへと迫った。
「!!」
驚愕するレゾの胸をアルベドの手刀が貫く。更に腕を引き抜き、拳を握り締め何度も殴りつける。
「がはっ」
魔族と融合されたレゾであるが、純粋な魔族とは違い物理的な攻撃の全てを無効化できる訳では無い。アルベドの腕力で殴られ、ダメージを受けるレゾ。
「トリプルマジック、ブーステッドマジック」
その間に魔法の威力を高めるアインズ。
そしてレゾを葬るための魔法を発動させた。
「グラヴィティメイルシュトローム」
「ぐぅおおおおおおおおお!!」
高重力の攻撃がレゾを襲う。魔族の魔力抵抗により即死こそしなかったが、全身を砕かれるレゾ。
「マキシマムマジック、トゥルーダーク!!」
そして最大限に高められた状態での無属性の闇の魔法が彼を襲い、その体を崩壊させたのであった。
予定より1話伸びましたが次でエピローグとおまけ話を書いて一旦完結です。
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だらだら続けない方がいい