「私は敗れたのですね」
「ああ、その通り。私の勝ちだ」
首以外ほとんどが消滅したレゾ。そんな状態にも関わらず、辛うじてではあったが彼は生きていた。そんな彼に対しアルベドがとどめを刺そうとするが、アインズがそれを制止する。
「待て、この男には聞きたいことがある。レゾよ、お前は一体何者だ。赤法師レゾとやらは人間だったのだろう。ならば、クロ……いや、コピーであるお前は人間の筈ではないのか? にも関わらずその異形は一体?」
「ああ、私があの男のコピーであることは聞いていたのですね。私はレゾに魔族と合成させられたのですよ。その結果私は自我に目覚めました。これが合成によって目覚めた私の自我なのか、あるいは融合させられた魔族の自我なのかは私自身にもわかりませんがね」
レゾの独白、それを聞いてアインズは納得する。
「なるほどな。異形は基よりその強さにも理解出来た」
「ええ、魔族の魔力と人間の魔道技術を併せ持つ、それが私の力です。あなた方には敵いませんでしたがね。ところで、リナさん、意味の無い問いかけではありますが、私とレゾ、あなたの目から見てどちらが強かったですか?」
そこでレゾは近づいてきたリナに視線を移し問いかける。リナが何と答えたところでそれは真実である保証は無く、自己満足以上のものにはならない。それでも聞かずにはおられなかったのかもしれない。自分がレゾを超えられたのかどうかを。
そしてその問いかけに対しリナは正直に答えた。
「わからないわ。あたし自身、レゾの本気を見たことは無いもの」
「?……レゾはあなた方が倒したのでは?」
「倒したわ。けど、あたし達が戦ったのは人としてのレゾじゃなかった。レゾの内側には魔王の魂が封印されてたの。封印が解け、魔王に意志を飲まれたレゾをあたし達が倒したわ」
(えっ、この人達、魔王倒したの!?)
リナの答えを聞いて内心で驚愕するアインズ。魔王と言えばファンタジーのボス格代表である。当然、とてつもなく強い存在であると連想する。
(この世界のレベルの高さからしたら、魔王なんてワールドエネミークラス、下手すりゃそれ以上なんじゃあ……)
ユグドラシルでワールドエネミーを3人で倒したなんて聞けばどんな化け物プレイヤーだと恐れられるレベルである。レゾが人と魔族の融合体と聞いて、彼はあくまで例外的存在と思い、人間の強さを評価を戦闘前と同じ水準に下げていたアインズは再びその評価を上昇させる。まあ、この評価は勘違いとも正しいとも言えるのだが。
「まさか、レゾに魔王の魂が。ふふっ、しかしそれでは最初から私は無意味なことをしていたようですね。こんな愚か者では負けるのも当……然……」
そこで力尽きたかのように言葉が途切れる。レゾの最期であった。
「それではナザリックに戻るぞアルベド」
「はい」
レゾの躯に背を向けたアインズは最後にリナに声をかけた。
「それではリナさん、機会があればまた会おうではないか」
「ええ、アインズさん。その時は敵じゃないことを祈るわ」
「ふふっ、そうだな」
軽く言葉をかわす二人。
不思議と通じるものを感じ、そして別れるのであった。
レゾとの戦いから数日後、アインズはNPC達を集め、玉座に腰掛けていた。
「皆、よく集まってくれた。この世界に来て以来、私はお前達に命じ、この世界の情報を集めさせてきた。そしてその情報を元に私はこの世界での進むべき方向性を定めることができた。それを今から告げよう」
アインズの宣言にNPC達はどのような言葉が告げられるのか期待に胸を躍らせる。
一方のアインズは自分の発言でどんな反応が返ってくるか不安で一杯だった。
(言うしかない。大丈夫、何日も考えを練り上げたんだ)
そして軽く息を吸い、覚悟を決めると自らの意志を告げる。
「私は魔族を敵として定めた。奴等は決して相容れぬ存在だ。何としてでも滅ぼす」
「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」
歓声が起こる。その命令は彼等にとってまさに誉れを得られる物だったからだ。しかし続く言葉に彼等は僅かに戸惑いを覚えた。
「そしてそのために他の勢力とは協力体勢を取る」
「「「!?」」」
その戸惑いはアインズにとって予想通りのものであった。
そして、アインズに対し絶対の忠誠を誓う彼等が内心でどのような不満を持とうとも決してそれを明かさないことも分かっていた。
しかしここで内に溜め込ませるのは先のことを考えればマイナス要素であると判断したアインズは彼等が内心を吐き出せるように誘導を仕掛けた。
「私の言葉に対し、こう思っている者も居るだろう。他の生物と協力等する必要等あるのか?自分達だけで十分ではないかと」
「い、いえ、そんなことは。至高の御方の判断に異論を持つ等ありえません」
アウラがアインズの言葉を否定する。しかし彼等の態度から内心では疑問を持っていることが明らかである。
「いや、いいのだ。確かに、魔族への対抗手段さえ確立できれば、後は我等だけで勝利できるかもしれん」
(勝利できないかもしれないから、どの道他の勢力と組んで置きたいんだけどね)
本音と建前で違う言葉を紡ぐアインズ。
そしてNPC達の疑問を解消させるために言葉を続ける。
「だが、魔族の強大さは直接戦った私自身が誰よりも理解している。無論、我等の方が劣るとまでは思っていない。しかし全力を傾けなければ恐らくは勝てぬであろう。そして奴等に全力を向けている最中、他の勢力が我等に攻撃を仕掛けてきたらどうなる?」
「!!」
「ソ、ソレハ……」
アインズの言葉でNPC達は理解する。伏兵の奇襲と言うのは恐ろしいものである。
それこそ多少の力の差など簡単にひっくり返す程に。ゲーム時代とは言え、彼等も戦いを知る身。アインズの言いたいことは直ぐに理解ができた。
「この世界の魔族以外の強者、ドラゴン、エルフ、そして一部の人間は我等には劣れども油断はできない力を持っている。特に人間は欲深い。我等が消耗したタイミングを狙って、漁夫の利を得ようとしてくるかもしれん」
他者を説得する時の手法として、相手が納得しやすい事象を混ぜ、思考を逸らすと言うものがある。ゲーム時代に1500人のプレイヤーが襲撃をかけてきたことを連想しやすく、又人間蔑視の傾向が強いNPC達に対し、”人間は強い”ではなく、”人間は欲深い”と言う点を協調することで彼等が自然と納得するようにという策であった。
「かといって、先に人間達を支配しようとしても今度は逆に魔族の方が横槍を入れてくる可能性がある。我等の強大さを恐れてな」
そして今度は”ナザリックは強大”と言うことを強調し、思考誘導を仕掛けた。その策はかなり嵌り大部分のメンバーは騙されているようだった。策に気づいているのはアルベドとデミウルゴスの二人だけである。しかしアルベドはレゾとの戦いもあって、他のメンバーよりも慢心が少なく、それ故に味方を増やすことの意義が理解でき、デミウルゴスの方は流石は至高の御方、見事な権謀術数とか考えているので問題はなかった。
NPC達の反応を見て上手く行っていると判断したアインズはもう一つ大きな宣言をすることを決意した。
「どうやら皆、納得してくれたようだな。それではこの計画を実行するに当たって一つ大事なことを告げる。私は王になろうと思う」
「王……でありんすか? アインズ様はもとより私達にとっての王、いえ神のような存在でありんす!!」
「はい、アインズ様は僕達の絶対的な主です!!」
自分達の忠誠を示すNPC達。アインズはその反応に頷き。その意図を告げる。
「皆が私のことをそのように思っていてくれているのは理解している。だが、これは対外的なものなのだ。肩書きと言うのは外部の人間と接する時に大きな効果を発揮する。実質的な立場は何も変わらずとも王を名乗るだけで、他国の王との交渉はスムーズに行くようになるであろう。勿論、他に幾つもの下準備は必要であるがな」
「なるほど。それではアインズ様、今後の方針としては他国との連携の構築、ナザリックの戦力の増強、これまで通り情報収集。こういった形でよろしいでしょうか?」
(えっ、戦力の増強?)
他国との連携と情報収集は考えていたが、戦力の増強は想定に入れていなかったのでデミウルゴスの発言に戸惑うアインズ。どういう意味か聞きたいが、立場上聞く訳には行かない。困っているところで、上手い具合に彼に代わってセバスが問いかけをしてくれる。
「戦力の増強とはどういうことですか? アインズ様はそのような発言はされていなかったと思うのですが。勿論、魔族を強敵とアインズ様が判断された以上、戦力を増やせるのならばそれにこしたことは無いと言うのは私にもわかりますが」
「ええ、私もアインズ様の言葉の裏に隠された意図に気づいた時は改めて感服させられましたよ。アインズ様は対外との関係のために王を名乗るとおっしゃられた。それは何も外交のためだけに言葉を飾る訳では無い。アインズ様は忠誠を誓うものであればこの地に住むものを国民として受け入れようと考えておられるのだよ。そしてナザリックをこの地で最も偉大な王国にするつもりなのだ」
とんでもないことを言い出すデミウルゴス。アインズは慌てて否定をしようとするが、残念ながら既に手遅れだった。
「オ、オオオ」
「す、凄いです」
「流石はアインズ様、単に力で服従させるのではなく、威光によってその偉大さを示そうとしていらっしゃるのでありんすね」
デミウルゴスの超解釈によって想定外の方向に進み、興奮するNPC達。ナザリックが最も偉大な国となり、その支配者であるアインズがその国の王になる。それは彼を至高とするNPC達にとって変えようの無い興奮であり、理想であった。
そんな風に盛り上がってしまった配下達に対し、偉大な支配者を演じるアインズとしては今更それは違うとは言えないのであった。
「そ、その通りだ。よくぞ私の考えを理解したデミウルゴスよ」
「ありがとうございます」
仕方無く自分の考えどおりであったことにするアインズと礼をするデミウルゴス。ちなみに横では、『それでは私は王妃』と発情するアルベドとそれに文句をつけるシャルティアの姿がある。
(まあ、しょうがない。大筋は思い通りにいったんだし、こうなったら多少のことは目を瞑るしかない)
「私はここに改めて宣言する。ナザリック、いやアインズ・ウール・ゴウンを最も強大かつ最も偉大な国にすることを。これよりアインズ・ウール・ゴウンは個人の名ではなく国の名、そして王の称号とする。私はこれよりアインズ・ウール・ゴウン王だ」
「アインズ・ウール・ゴウン王ばんざーい!!」
「アインズ様ばんざーい」
諦めて流れをそのまますすめることにしたアインズと喝采をあげるNPC達。
こうしてこの日、後に異形種の王、不死王等と呼ばれるアインズ・ウール・ゴウン王が誕生した。彼の名はデモン・スレイヤーズの名で知られるリナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ両名と並び、この時代を代表する偉人として歴史に知られることとなる。
これにて完結です。
この後はアインズ様建国記が始まるのかと思いきや、大部分をNPCに丸投げしてアインズ様は冒険者になります。
そして趣味(未知への冒険)と実益(有力な人材のスカウトと情報収集、アイテム収集)と願望(友達欲しい、仲間欲しい)を兼ねて諸国漫遊をする『ナザリックinスレイヤーズすぺしゃる』が始まります。
その辺はまた何時か書きたいです。
それではここまで読んでいただきありがとうございました。
PS.近日中におまけと設定集のみ追加します。
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