昼下がりの仄かな光が部屋を照らし出し、辺りを異世界のように霞ませている。
(異世界、確かにここは異世界なのかもしれない)
ジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンはそう内心呟き、コルサントの世俗社会とは離れたどこか憂き世めいた所もあるからだろう、とも付け加え、静かに歩を進めた。
幾星霜にも渡る月日を銀河の平和のために尽力してきたジェダイ評議会の円形の間には、今は二つの人影しかなかった。
クワイ=ガンは彼らの目前にまで歩み寄ると、静かにお辞儀をした。
この二人に会うのは今日二度目である。
先程は、元ブラック・サンでジェダイに保護を求めてきたフォンドリアンのウースを迎えに行ったパダワン、ダーシャ・アサントが一向に戻ってこないことについての話を聞いたが、此度の用件は何だ?
頭を上げてから二人を軽く交互に見やり、クワイ=ガンは口を開いた。
「お呼びと聞きましたが」
向かい合って右手の椅子に腰を下ろしていた人物から声がかかる。
「クワイ=ガン、君達に至急行ってもらいたい場所ができた」
肌が黒く目つきの鋭いジェダイ評議会の長老の一人に素早く視線を向けながら、クワイ=ガンは静かに問うた。
「どこですか?」
「惑星ナブーだ」
メイス・ウィンドゥの言葉にクワイ=ガンは訝しげに目を細める。
「緑豊かで自然の多い星、ナブーですか?確か・・・まだ若き女王が即位されたばかりだとか。何が起こったのですか?」
メイスは、横に座っている小柄な緑色のジェダイ・マスターをちらりと横目で見、それから重々しい口調で言い放った。
「実は先ほど、元老院議長からご連絡が入った。驚くべきことだが、トレード・フェデレーションがナブーを封鎖したそうだ。議長は至急ジェダイを特使としてトレード・フェデレーションに送り、この件を話し合うようにとおっしゃっている。移動のために共和国クルーザーを用意してくださるそうだ」
事の重大さに衝撃を受けながらも、クワイ=ガンは務めて動揺を表に出さず、声を出した。
「差し出がましいとは思いますが、元老院での同意は得たのでしょうか?それに、オビ=ワンはまだダーシャ捜索から戻ってきてはおりません」
先ほどの話し合いの中で、彼の弟子、オビ=ワン・ケノービがダーシャ・アサント捜索に向かうことに決まったのだ。そして、まだ彼は帰ってきていない。
不意に、それまで目を閉じて黙ったまま会話を聞いていたヨーダが言葉を挟んだ。
「同意は得ておらん。じゃが、急を要するんじゃ。信頼のおける者にこの任を引き受けてもらいたいと言っておる、議長はな。クワイ=ガン、お前が適任じゃろう」
確かにヴァローラム議長とクワイ=ガンとの間には親交がある。
だが、ナブーは共和国に加盟している。元老院に所属する惑星同士の政治的な争いにジェダイが干渉する際は、それが惑星間の武力闘争である場合、特に元老院の同意を必要とするのだ。しかし今回、その同意がないとは。
クワイ=ガンは思わずヨーダを見つめた。
小柄な、それでいて強いフォースを持つこのジェダイの長の瞳には何ら感情も浮かんではいない。
しばし漂う沈黙を破ったのはメイスだった。
「出発はオビ=ワンが戻ってからで構わない。だが、彼が戻り次第すぐに赴いて欲しいのだ。事態は一刻も争う。これは評議会の命令だ」
メイスとクワイ=ガンは相手を探るように見交わす。ややあってクワイ=ガンは口を開いた。
「・・・わかりました。すぐに準備を整えます」
「クワイ=ガン、フォースと共にあらんことを」
「フォースと共にあらんことを」
お辞儀をし去っていく長身のジェダイ・マスターの後ろ姿を、言葉も無く長老達は見送っていた。
「果たしてこれで良かったのでしょうか」
背の高いジェダイ・マスターの姿が扉の向こうに消えると、珍しく心配そうな感情を瞳に漂わせてメイスが訊ねた。
ヨーダは目を閉じて軽く頭を振る。
「わからん、こればかりはな。議長の依頼もある。それに、今回はちと厄介じゃ。それに対応できるのは、今はクワイ=ガンしかおらんじゃろう」
「だが、懸念していると?」
偉大なるジェダイ・マスターはゆっくりと眠そうな目を開けた。そして気づかわしそうな表情で言う。
「フォースに曇りが生じておる。未来を見通すことができん」
「それゆえ、先日、キケア・ネガンを故郷から呼び戻してまで、未来に起こりうることを訊こうとしたのではありませんか」
メイスの言葉にヨーダは溜め息と共に答えた。
「じゃが、未来は変わりやすい。全くもって読みにくい世の中になったものじゃ」
二人は沈黙に包まれた。
彼らの脳裏には、先日この場で繰り広げられた出来事がよぎった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
およそ1標準週間ほど前のことだった。
評議会への任務終了報告を終え広間から出て、知らず知らず安堵の吐息を漏らしたクワイ=ガンは、目の前に、いや眼下に立っている人物にぶつかりそうになり慌てて身を翻した。
「すまない、考えことを ―― 」
と幾分言い訳じみて弁解した彼は、小柄な人物からの鋭い視線に思わず言葉を奪われた。
焦げ茶色のローブを頭から被っているために表情は余り窺えないが、まるでその全てを射抜く、否、見透かすような双眸だけが存在感を放っているかの如く。
「ふむ。興味深いな、お主は。一緒に来なされ」
口から漏れた声質より女性だとはわかったが、彼女が何者か見極める間もなく、クワイ=ガンは思ったより強い力で背を押されるまま再び広間へと逆流していった。