Wheel of Fortune   作:秋鹿

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第2話 運命を告げる

「クワイ=ガン?下がっていいと言ったはずだが?」

訝しげなメイスの声が問いかける。

彼以外にただ一人広間に残っていたヨーダも、杖を突きながら目を細めてクワイ=ガンを見やった。

「私は ―― 」

何と言うべきか戸惑っているクワイ=ガンの後ろから、くだんの者が姿を現した。

「わしが連れてきたんじゃ」

大柄なジェダイ・マスターに隠れてその存在が見えなかったようで、その姿を認めるとヨーダは懐かしそうに声をあげた。

「おぉ、キケアではないか。待っとったぞ」

メイスもローブを翻して近づくと跪き

「お噂はかねがね聞いております、キケア・ネガン。私はメイス・ウィンドゥと言います」

と挨拶を述べた。

 

キケア・ネガン ―― その名は、今まで何が起こっているのかさっぱり理解しかねていたクワイ=ガンの思考を動かすには充分だった。

何かの折りにその名を聞いたことがあるからだ。

確かヨーダと同じぐらいこの世を生きているジェダイ・マスター。彼女のパダワンとなったものは50人以上とも言われ、ヴィジョン、特に未来を視る力に長けていた。しかし約百年ほど前に老いを感じた彼女は聖堂を離れて、今は故郷でのんびりと暮らしているという ――

 

「これ、クワイ=ガン。お前も挨拶せんか」

声と共に杖が足に飛んできて、クワイ=ガンは痛さの余り今に意識を戻すと、苦虫を噛み潰したような表情でキケアの前に跪き

「クワイ=ガン・ジンと言います。お会いできて光栄です」

と言葉を発した。

「よいよい」

キケアは楽しそうに言うと、ローブのフードを取った。

誰もが驚いた。ヨーダ以外は。

そこには、聞いている年齢と口調からは想像できないほど若い女性が立っていたからだ。

いや、若い女性というのは正確ではない。ウェーブがかった白く煌く長い髪を床にまでつきそうなくらい伸ばして、アイス・ブルーの大きな瞳と尖った耳を持った彼女は、幼い少女と言っても通じるほどであった。それ程、老いというものから程遠い姿、顔形をしていたからである。

 

そんな反応には慣れているといった風に彼女はクスクスと笑い

「わしの種族では、ある一定の歳になると体の成長が止まるんじゃ。さて、ヨーダ。わしを呼んだのは皆を驚かせるためじゃないだろう?用件を聞かせてもらおうかね」

と切り込んだ。

「ふむ・・・」

ヨーダはまるで眠っているかのように目を閉じて、しばらく広間を歩き回った。彼にも口にしがたいことがあるのだろうか?

何時まで経っても答えぬヨーダに痺れを切らし、ついにキケアが口を開いた。

「未来のことじゃな。未来が曇っていることじゃ。何か悪いことが起きるような、そんな予感さえも抱かせる未来。それをわしに視てもらいたいのじゃろう?」

ヨーダはピタリと立ち止まり疲れたように目を開くと肯定した。

「そうじゃ、お前の言う通りじゃ。未来は暗雲に覆われておる。ジェダイの行く末が視えてこぬ」

「いいじゃろう。その前にこっちじゃ」

とキケアは不意にクワイ=ガンを立たせて、彼の顔を見上げた。彼女の表情は一見するとあどけなく幼く見える。しかし外見に惑わされてはいけない事は漂わせているフォースからも重々感じられた。

「クワイ=ガンが、何か?」

メイスが不思議そうに訊ねる。

「面白い。興味深いんじゃ、彼は。彼を視てやってから、ヨーダ、お主の用件に移ろう」

 

勝手にそう決めつけた後、異論を唱えようとしたヨーダやメイスを制しつつ、彼女は委細構わずクワイ=ガンに問いかけた。

「クワイ=ガン、お主の名はどう書く?」

スペルを教えてもらいキケアは小首を傾げた。純白な髪が陽の光に照らされてキラキラと煌く。薄蒼い瞳をすっと狭めると彼女は何事かを呟き始める。

「ふむむ。Qui-Gonか。益々面白い」

「何がですか?」

未だ合点がいかぬ面持ちでキケアを見下ろしていた長身のマスターがついに口を挟んだ。

「お主は"月"じゃな」

「は?」

益々訳がわからない。

一体、何が言いたいのですか?と喉元まで出かかった声を辛うじて飲み込む。

(これでは、せっかちなオビ=ワンと同じではないか)

と自分を戒めていると、そんなクワイ=ガンの様子を知ってか知らずか彼女は微笑みつつ言葉を続けた。

「わしの故郷には桂宮(けいきゅう)という言葉がある。桂宮は gui gong とも言う。この呼び方はグゥイゴォンじゃ。お前の名に近い。そして桂宮には月という意味もあるのじゃよ」

「それが・・・?」

「お主は直に"太陽"に会うじゃろう」

 

更に混乱する。

クワイ=ガンがホッとしたことに、戸惑っているのは彼だけではなさそうだ。ヨーダもメイスもきょとんとした風に二人を眺めているばかり。

困惑気味に薄茶の顎鬚をさすりながら、それでも一応クワイ=ガンは訊ねてみた。

「太陽・・・ですか?」

「そうじゃ、全てものを焼き尽くさんばかりに激しい情熱を持つ"太陽"に、じゃ」

これは例えだ。

理解がようやく脳に染み渡る。"太陽"のような性格の人物に出会うのだ。

キケアは続ける。

「いや、"太陽"に会うとは正確じゃないの。"太陽の一つ"に会うのじゃな。そしてお主の弟子、彼が"もう一つの太陽"に出会うじゃろうて」

「二つの太陽・・・」

「砂漠が支配する惑星でな」

 

以前クワイ=ガンは、年老いたオビ=ワンが荒れ果てた場所で悲しそうに佇んでいるヴィジョンを視た事がある。それに関係があるのだろうか?この話は。

戸惑いがちだったジェダイ・マスターの顔が次第に真剣なものとなる。

彼女は目を閉じて詠うように声を出した。

「"太陽"は"地獄の劫火"ともなりえる。しかし、"希望の光"ともなるんじゃ。―― もう一度言っておこう、言いにくいことじゃが」

と一旦言葉を切ってクワイ=ガンに目を向ける。

 

その氷が張った湖のような双眸には強い意思と懸念が浮かんでいる。クワイ=ガンを射抜くような視線。

言い知れぬ不安を感じ、それでも心を落ちつかせると、彼は返って来る答えを待った。運命を受け入れるが如く。

「お主は"月"じゃ。そして"太陽"に会い、"太陽"を呼び覚ます。これは誰にも止められん。じゃが、わしの故郷では、"月"と"太陽"は共に地上にはおれんと言われておる。"太陽"が昇れば"月"は ―― 沈むのじゃ」

 

しばし静寂が訪れた。

その言葉の意味を噛み締めるまでもない。

彼は、クワイ=ガンは ―― 死を宣告されたようなもの。

何も言わずクワイ=ガンは自らの逞しい右手を見つめた。この手であらゆるものを守ってきた。これからも守っていけると信じていた。だが、それは ――

そして、オビ=ワン。

10標準年以上育ててきた彼の弟子。まだ頑固で学ぶことの多き青年。だが、彼が残せる未来でもある ――

 

「しかし、キケアよ、お前のヴィジョンとて完璧ではあるまい?」

突然、低くしわがれた声が響き、クワイ=ガンはびくりとして小柄なマスターを見つめた。

ヨーダの顔には悲しみの色はない。凪いだ海のような表情が浮かんでいるだけだ。

「勿論、ヨーダ。わしのヴィジョンの当たる確率はほんのわずかなものじゃて、お主も知っておる通り。外れる方が非常に多いとでも言っておこうかの。だから、さほど気に病むではない」

「あぁ、全くじゃ。いつもお前のヴィジョンには悩まされておる。大して役に立たんことばかり言うのじゃからの。クワイ=ガン、お前もキケアの言葉で箔がついたと思うておけ。それだけのことじゃ」

「ならば、このヴィジョンが現実になる可能性も少ないということですか?」

「ヨーダがいつも言うておるじゃろう?未来は変わりやすい、とな」

回答をもらったメイスは安堵の吐息を漏らした。先ほどまでの緊張が嘘のように和やかな雰囲気が流れる。

強張った体をほぐすようにクワイ=ガンはヨーダ、それからメイス、キケアに視線を走らせた後、

「キケア・ネガン、貴重なヴィジョンをありがとうございました。そろそろ失礼させていただきます」

口の端に僅かな笑みを見せて頭を垂れると広間から去っていった。

 

彼が去ったのを見届けると、

「さて、本題に入ろうかの?」

キケアの言葉にヨーダ、メイス共に頷き、椅子に戻る。キケアはちらりと扉に視線を向けて、しばし見つめた後、長老達に視線を返した。

クワイ=ガンに敬意を表するかの如く。

 

それが、今から1標準週間ほど前のことだった ――

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