オビ=ワンが聖堂に戻ってくると、聖堂内の雰囲気がピリピリしているのが感じられた。其処彼処を暗い表情をした人々が通り過ぎて行く。
訝しげに眉根をひそめている彼に、通りかかった者が声をかけた。
「パダワン・ケノービ、今すぐマスターの所に行くように」
そう言われた青年はすぐさまクワイ=ガンの部屋へ向かった。
部屋のドアは開いており、戸口から覗くと彼の師が出かける用意をしているのが見えた。
「良かった。ちょうど良い所に帰ってきてくれた」
「何があったのですか?マスター」
「トレード・フェデレーションがナブーを封鎖したのだ。お前と私は、特使としてトレード・フェデレーションの旗艦に赴き、この件を話し合うように選ばれた」
オビ=ワンは衝撃を受けたような顔をしていた。まさに寝耳に水の状態だったからだ。
手っ取り早くクワイ=ガンは弟子に任務の内容を話し、オビ=ワンも師に悲痛な面持ちでダーシャと彼女の師ボンダーラの死を告げる。
二人の死はナブーに向かう途中、ホロ通信で評議会に連絡を送ればいいとのマスターの言を入れて、オビ=ワンは素早く仕度をすると、二人は共和国クルーザーが待っているはずのプラットフォームへ急いだ。
共和国クルーザーは一路ナブーへと向かった。
操縦士と副操縦士付きの船ゆえ、ジェダイ二人は自由な時間が取れた。
彼らはナブーやトレード・フェデレーションの知識をデータパッドから吸収し、またジェダイ評議会などに連絡を入れて時間を費やしていた。
しかし、部屋で独りになった時などに、クワイ=ガンの胸に去来する思いがあった。
キケアの言った言葉。
ベッドに腰掛けたまま沈痛な表情で考え込むと、様々な考えが取りとめなく溢れてくる。
彼女は、ヴィジョンの当たる確率はほんのわずかと言った。だが、そうではないだろう。
でなければ、隠居していた彼女をヨーダがわざわざ呼び寄せてまで助言を請おうなどとは思わないはずだ。
ヨーダもキケアも彼を気づかってあのように言ったまで。クワイ=ガンはそれをわかっていた。―― メイスが・・・わかっているかは怪しいが。
クスクスと笑って旧友に思いを馳せる。
一体全体、彼らは私を何だと思っているのだ?そんなに私がヤワだと思っているのか?
声を抑えて一頻り笑った後、クワイ=ガンは両手を後ろについて天井を仰いだ。
またもや悲嘆な気持ちが湧き上がる。
いや、と彼は苦笑を漏らした。
私は死など恐れてはいない。ジェダイは何ものも恐れはしない。
では、と理性が問いかける。
この胸を貫くような痛みは何なのだ?この心臓が悲鳴をあげているような痛みは?
おそらく。
オビ=ワンがジェダイ・ナイトになるまで導いてやる事のできないゆえの悲しみだろう。彼はまだ学ぶべき所がたくさんある。
それだけか?
そうではないのかもしれない。
多分。
私が死んだ時に引き起こすオビ=ワンの悲しみが耐えられないのだろう。彼は私の友であり、私を父のようにも慕っていてくれている。まだ年端も行かぬ頃から聖堂で育てられるジェダイには肉親と呼べる者はいない。彼にとってみれば、私が唯一の肉親のようなものなのだろう。
ジェダイは恐れてはならない。感情に囚われてもいけない。
だが ―― ジェダイとはいえ人間だ。人間らしい感情を持ち合わせていたとしても不思議ではないのだ。
もし、私が目の前から消えれば、彼は酷く悲しむだろう。
しかし・・・
と再びクワイ=ガンは苦笑を漏らす。
弟子にした時はまだ少年だった彼が随分と大きくなったものだ。もう立派な青年だ。
私の手元を離れる日も近かろう。その日を見ることができれば良かったのだが、こればかりは致し方ない。未来に何が起こるか知っているのはフォースのみなのだ ――
クワイ=ガンは部屋を出た。そこへオビ=ワンが足早に歩いてくる。
「ちょうど良い所へ、マスター。間もなくトレード・フェデレーションの総督がいる旗艦に近づくそうです」
「そうか、わかった」
と答えて弟子と共にコクピットに向かって歩いて行くと、やはりオビ=ワンも立派に成長したという思いが拭えない。
「どうしたんですか?マスター」
師の視線を感じてオビ=ワンが不思議そうに見あげる。
「いや、お前も立派なジェダイになったと思ってな」
「マスター?私を誉めるなんて、どうかしたんですか?いつもは厳しい言葉しか言わない貴方が」
微笑みつつ答える師にニヤリと笑って弟子は対応する。こういったユーモアの応酬はいつものことだ。
「何を言う?私だって誉める時はちゃんと誉めているぞ?厳しい言葉しか聞いていないのは、お前が叱られるようなことばかりしているからではないのか?パダワン」
「そんなことはありません。私だってもう一人前です。立派に一人立ちできますよ」
弟子は口を尖らせてムキになって反論した。
思いもかけずパダワンから聞いた言葉に、万感胸に迫るような想いがしてクワイ=ガンは言葉を無くした。
無言を保つ師の様子を見て、別の意味に捉えたオビ=ワンは更にムキになって声を出す。
「どうせ、まだ私には学ぶことがいっぱいあると言いたいのでしょうけど」
随分と成長したものだな、オビ=ワン。
キケアの言葉・・・お前に言うつもりはない。
実際本当にそうなるかもわからぬ話だし、伝えたとしても悪戯にお前を悲しませるだけだ。
ただでさえ気をつかい過ぎるお前のこと、こんな話を聞いたら任務に集中できなくなるに決まっている。
私がいなくても、お前は立派に一人でやっていけるだろう。お前は強い。大丈夫だ ――
「その通りだな」
師は溢れる感情を辛うじて抑えつけて口元を歪めると、全ての気持ちを込めて青年の頭をぐしゃぐしゃと撫で、それからローブを翻しつつコクピットに歩を進めた。
目を細めて怪訝そうに見つめていたオビ=ワンもその後を追う。
コクピット前方のトランスパリスチールの向こうの闇には、トレード・フェデレーションの艦が浮かんでいた。
こうして運命の輪が回り始める ――
End
(2002年頃執筆)
*ダーシャ・アサント、及びボンダーラは「エピソード1」直前を描いたスピンオフのキャラクターです。と言いますか、私もこのFanFicを読み返していて、ダーシャって誰っ!?とツッコミを入れたぐらい、すっかり忘れていた存在です(汗)
*キケア・ネガン<Khikea Knegun>はオリジナルキャラです。桂宮の読み方から、我が国の隣りの大国の出かもしれません。姿形は・・・エルフっぽいですね(汗)
*クワイ=ガンが視た、年老いたオビ=ワンが荒れ果てた場所で佇むヴィジョン、どこかのスピンオフで描かれていました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
タイトルはタロットカードからきています。
何かの折りに、桂宮に『月』という意味があり、さらに桂宮の読み方がクワイ=ガンと似ていることから発想を得て、このFanFicは生まれました。
確か、ジェダイが『時代劇』の『時代』からきているとか、ドゥークー伯爵が『毒』からきているとか、アミダラ女王が『阿弥陀』からきているとか、本当かどうかは定かではない話を聞き、他にないかと探し回ったときに気づいたものです。
気づいたときには鳥肌が立ちそうでした(笑) たぶん、違うだろうけど(大笑)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、今年ももうすぐ終わりです。
11月の初めからFanFicを投稿し始めて、もう今年も終わり。早いものです。
当初は、読んでくれる方なんているかしらん?と思っておりましたが、それでもアップを楽しみにしている方もいらっしゃるようで、心から感謝しております。また、年末の忙しい中、読んでくださって、とても嬉しく思っています(年末にアップする私も私だ/苦笑)。
リアクションが・・・あまりないことが少々・・・もごもご(笑)
そ、それでは皆さま、よいお年をお迎えください(^^)
PS.キャリー・フィッシャーさんの27日の訃報に接し、ただただ驚き、ショックを受けています。心臓発作で倒れたことを知り、心配していました。しかし、まさか60歳の若さで(絶句)。
・・・お母さまと一緒に安らかにお眠りください ――