War Robots=A lot of Soldiers Memories= 作:哭糖
__アメリカ、サウスカロライナ州 TMC(環太平洋軍事企業体)チャールストン支部
戦闘前で慌ただしい空気が流れる格納庫に、帽子を深く被った上官に連れられて歩く男がいた。
男の名は「リアム・アンダーソン」。ブロンズの髪と青い瞳を持つ、二十代半ばのコーカソイドだ。
豪壮な勲章を胸に付けた軍服姿の上官は、格納庫の端の方まで辿り着くと立ち止まり、ブーツの底で音を鳴らす。
「君にはこれから、この機体に乗って戦闘に出てもらう」
上官の視線の先には、リアムの髪と同じブロンズの外装で覆われた二本脚のロボットがそびえ立っていた。
軍の木馬、『Destrier』
「俺に……こいつに乗って戦えと……?」
「そうだ、君はかつてこのDestrierのプロトタイプの試験に参加していたな。その腕を見込んでのことだ」
薄暗い格納庫と帽子の影が合わさり、上官の表情は読み取ることができない。できたとしても、そこにあるのは冷たい無表情だっただろう。
「しかし、俺は……」
「リアム・アンダーソン諜報事務官、パイロットテストに適合していながら、その能力を事務仕事に喰い殺されるのは勿体ないとは思わないか?
我が国には母国の為と命を張る覚悟があってもロボットに乗れない兵士もいるんだ、誇れ」
上官は淡々とリアムに言い放ち、来た方向に踵を返す。
「君に合わせたパイロットスーツは既に準備されている。
君には、期待しているよ」
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__チャールストン市街近郊管理外区
TMC支部からロボット四機小隊で移動を始めて十分。リアムの乗るDestrierは、味方機の後ろで隊列を崩すこと無く周囲の警戒を続けていた。
「敵機影、確認無し」
『ハッハッハ!アンダーソン准尉、そんなに気張ることもねえだろう』
リアムのDestrierの前を進むGl.Pattonに乗った小隊長が、リアムの報告を笑い飛ばす。
『諜報部隊の話じゃ、敵はたった一機だそうだ。わざわざ小隊一つ出す程の任務とも思えんが、お前の初出撃にはちょうどいいだろ?アンダーソン准尉』
そう、作戦目標はロシア帝国軍強襲部隊の残存兵力で、確認されているのがたったの一機。
作戦に失敗し撤退すらできなくなった袋小路のネズミ処理という簡単な仕事、隊の誰もがそう思っていた。ただ一人、リアムを除いて。
『慎重になるに越したことは無いがな准尉、もう少し肩の力を抜いたらどうだ?その機体のテストに参加したのだってもう二年前になるそうだしな』
Gl.Pattonの上部だけをリアムのDestrierに向け回転させ、小隊長の男は続ける。
『しかしお前も不幸なもんだな准尉、急に呼び出されたと思ったら、いきなりそいつに乗れだのでその日のうちに実戦投入だなんて普通はありえん……』
『ベン隊長、熱源探知しました』
隊長機の後ろを随伴していた隊員のDestrierから通信が入り、一瞬で場の空気が引き締まる。
『距離と方角は?』
『現在距離1050m、南西の方角……隊の右側から接近中と思われます』
南西方向……小隊の右側は廃ビルの残骸が障害物となり、迎撃しやすい地形となっていた。
『マイク、ジョナサン、お前らは俺の側面に付け。射程内に捉えたらすかさずトリガーを引くんだ』
小隊長はガトリング砲「GAU Punisher」を積んでいる僚機と、速射ミサイル「SURA-F Pinata」を積んだ僚機、その二機のDestrierに指示を出す。
『アンダーソン准尉、お前は後方支援を頼む』
「……了解!」
これが、この緊迫が戦場。リアムの操縦桿を握る手の力が無意識のうちに強くなる。
迎撃姿勢を整えた味方機の後ろで、リアムは来るべき照準の向こうを見つめていた。
『距離700』
僚機のパイロットが言う。
引鉄に指を掛けたまま、静かに待つ。
『距離450』
じわり、じわりと詰まっていく互いの距離。敵機の姿はぼやけながらも視界に迫る。
その時、リアムは見た。気付いた。
"待ち伏せの判断は誤りだった"と。
しかし、緊張と興奮に支配されたリアムの口は、仲間達に事態を知らせることもできずただ震えていた。
『距離300……』
『よし!全機ターゲットロック、撃てぇ!!』
前衛のGl.Patton、Destrierが障害物から身を乗り出し、一斉に目標へ銃撃を浴びせる。
薬莢が地面に広がり、ミサイルの煙で周囲は白く包まれた。銃口から出る火花が煙の中で点々と光り続け、耳を裂くような音が繰り返される。
そして、リアムがようやく発することができた、"後ろに下がれ"という不器用な声は、不躾な銃撃音に掻き消されてしまった。