フェンリル極東支部通称アナグラ。
現在フライア直属部隊のブラッド隊はここに身を置いてアラガミの討伐と聖域の調査を行っていた。
このアナグラには現在数多くのゴッドイーターが所属しておりその誰もが確かな実力を持っているので現在の平穏を保っているといっても過言ではない。
今も特に大型の討伐任務は入っていないようで、各々が自由にアナグラ内で過ごしていた。
ブラッド隊の隊長、イオル=レウィールもアナグラ内の食堂でムツミの美味しい朝ご飯を食べているところだった。
手作りで尚且つ美味しいと言うことがこの枯れきった世界においては何とも贅沢に感じるものだと本人は思う。
チラホラと食堂には見知った顔が出てきており、その中で何やら一際慌てて食堂に入ってきた女性を見つけた。
アリサ=イリーニチナ=アミエーラだ。
彼女はぐるりと食堂内を見渡すと目的の人物を見つけたのか慌てた様子で彼、ソーマ=シックザールに近付くやいなや口火を開いた。
少し大きな声で彼女が話していた所為か、単語がちょこちょこ聞こえてくるが人の話を聴くのも野暮だと思い食事に集中しようとした時、普段大声を出したりしないソーマが「何だとっ!?」と声を上げて立ち上がったので思わず食べていたスクランブルエッグを飲み込んで喉に詰まらせかけた。
「取り敢えず、一度連絡を取らないと…!ソーマもちょっと来て下さい!」
「チッ、あんのバカ」
バタバタと急ぎ足で出て行った二人を見送って、目が合ったムツミと首を傾げた。
あの慌て様だと何か緊急の事があったんだろう、何か手伝えることがあればやった方がいいな。
思い立ったら即行動でイオルはムツミに朝食のお礼を言うと二人の後を追うべく外へ出たのだが直ぐにオペレーターの竹田ヒバリに声を掛けられて止められる。
「イオルさん、ブラッド隊に大型種の調査任務が入っていました。まだ目撃情報だけですので確かではないのですがこれはディアウス・ピターです。早期の調査をお願いしたいのですがお昼までに出られそうでしょうか?」
「ピターですか…。分かりました、直ぐに準備して出ます」
「すいません、お願いしますね」
あの二人の用事はこの調査が終わってからでも大丈夫だろう。
調査だけなら早く済むはずだし急いで終わられるならあんまり大人数じゃない方がいいな。
誰かいないかと思っていた所に丁度ジュリウス=ヴィスコンティが横を通った。
「あ、ジュリウス!今からちょっと良い?」
「ん?隊長か。どうした、任務か?」
「簡単な調査任務なんだけど今から出撃で。時間があったらちょっと手伝って貰えないかな?」
「もちろんだ。今から出ようか」
ジュリウスの許可もあり直ぐさま準備を終えると目撃情報のあった黎明の亡都へと向かった。
♢♦︎♢♦︎♢
到着したフィールドでは薄っすらと霧が立ち込めており、何処となく冷んやりとして薄ら寒さを感じた。
思わず鳥肌が立って身震いしたイオルを見てジュリウスは笑う。
少しムッとしながら武者震いだと彼に伝えて無線で現着を伝えると直ぐにヒバリから通信が入る。
「本日は調査のみなのでもし対象を捕捉しても戦闘は行わず直ちに帰還して下さい。大型種なので其れなりの態勢を取ってからの討伐となるので無理はなさらないようにお願いします」
「分かりました。バックアップお願いしますね」
「任せて下さい!ご健闘を」
無線が切れてジュリウスと簡単に作戦を決める。
二手に分かれてピターを発見次第合流が早いと結論付け早々に散会してピターを捜しに出た。
小型アラガミがちまちまと姿を現す中、目的のピターを捕捉出来なかった為そろそろ帰ろうかとイオルは遺跡から広場に出ようとした時、広場の奥に影を見つけて遺跡の陰に隠れる。
コクーンメイデンか…?
そっと覗いたそれはかのアラガミではなく、何か白いマントの様な布を羽織った”人”だった。
ゴッドイーターかとも思ったが近くに神機はなく、周囲に何もない広場のど真ん中にポツンと立っているだけ。ミッションには要救護難民の情報は無かったがまさか一般人がこんなトコに迷い込んだのだろうか。
ピターの目撃情報もあり、もし今姿を現すような事があればあの人物は確実に死ぬだろう。
早急に避難させなければと声を出そうとした瞬間、思わぬ乱入者の雄叫びによってその声はかき消された。
丘の上に威厳を見せる風格で姿を現したのはピターだった。
直ぐにヒバリから通信が入る。
「イオルさん!強力なジャミングが発生していてお二人の現在地が分からなくなってしまいました!恐らくピターが現れたかと思われます!」
「大丈夫です、もう目の前に捕捉してます!ジュリウス、広場まで移動を!民間人と思われる人が現場にいます、救護活動を優先するので急いで!」
「民間人だと!?了解した!」
プツリと無線が切れた音を聞いてから視線をピターに戻すと正にその場から飛び立つ瞬間で、直ぐにイオルはその場から人の影に向けて飛び出したが距離もありどう考えても間に合う筈がなかった。
影にピターの牙が迫り、人の死を覚悟した時、その影が動く。
「私の神機を返せ、泥棒猫」
牙がかかる寸前で軽やかにステップを踏んだ影はピターの胴体の右に移動して軽く跳ぶように地面を蹴った。
並みの人間とは比べ物にならない跳躍力でピターの体の半分ぐらいまで昇ると何かに捕まるように手を伸ばして、”それ”を掴んでピターにぶら下がる。
流れるような動きで今度はピターの胴に両脚を置いて飛び出したそれに力を込めたのが見えた。
少しだけピターの胴からそれが抜ければ痛みからかピターが怒号を上げて暴れ出すが影はお構いなしに、ピターに刺さる”神機”を抜いていく。
ゴッドイーターだったのか…。
イオルがピター相手に真っ向からめちゃめちゃな闘い方をする影に驚き、少し思考が停止仕掛けるか空気の流れが変わるのを感じ取って直ぐに集中する。
ピターの周りにパチパチと紫電が走るのが見えた。
広範囲の電撃攻撃がくる。
「危ない!離れて!」
ピターが放電しながら咆哮を放つ数瞬前、スルリと抜けた刀身を銃形態に変えたそのゴッドイーターはブラスト式の弾で地面を連続して撃ち続け、ふわりと身体を宙に浮かせた。
ピターの電撃がギリギリ届かない範囲の空へ僅か刹那に逃げたのだ。
宙に浮いたまま今度は真横に弾を発射してピターにぶつけながらその反動でまた移動をすると軽く地面に着地する。
ピターは更にダメージを受けてついに地に体を着けた。
ガシャンと銃形態から剣形態に神機を担ぎ直すその姿を漸く落ち着いて見ることができた。
フードを目深く被っているのでその顔は分からないが身長は割と小柄で腰あたりまで白色のマントをふわりと被っている。マントの下から覗く白い脚はスラリと細く、黒いロングブーツの下のニーハイというのだろうか、短いパンツとの隙間に絶対領域を作っていた。
先程聞こえた声も高く、身長や何処とない雰囲気からこのゴッドイーターが女性であることに気付く。
ゴッドイーターに老若男女等関係は無いが、この女性はイオルが知っているゴッドイーターの中でもトップクラスの動きをしていた。
彼女は今、イオルの存在に気付いた様子でくるりとその場でピターからイオルに向きを変える。
フードの所為かその顔はやはり見えない。
「んー?あれ、君、極東のゴッドイーター?」
「貴方は…」
「あっちゃー。もうそんな近くまで来ちゃってるのか。失敗失敗。バレたら怒られそうだなー」
彼女は片手を顎にもっていき小首を傾げぶつぶつと独り言を呟いている。
何処となく人の話を聞かないマイペースさを感じた。
ゴッドイーターなのは確かだと思うがフェンリルのマークを背負っていないので、脱走兵という可能性もある。
もし逃走犯なら捕縛も考えなければとイオルは瞬時に思考し問い掛けを続けようとする。
「貴方はどこの所属のゴッドイーターですか。所属階級及び名前を早急に答えなさい」
「うわぉ。もしかして私脱走兵的な感じ?安心してよ。そんなんじゃないから」
「なら早く答えて下さい。ウチのオペレーターに確認が取れれば武装解除します」
「えー、本人が違うって言ってるんだからいいじゃん」
フードから覗く口元がムッと結ばれて抗議の声が上がるが、イオルはガションと神機を彼女に向けた。
どうしようかと未だに渋る彼女が急にその場から飛び退いてイオルの横に並んだ。
彼女のいた場所には雷の大弾が数発打ちつけられてその更に奥にピターが立ち上がる姿が見えた。
「まだ動くかー。悪いけど君の相手してる暇ないんだよ。お土産も捜さないとだしさ」
「何言って…って、あ!待て!」
「彼とのデートが先約だからさ〜!近い内にまた会おうねー」
くるりと背を向けてその場を離脱したピターをそのまま彼女は追い掛けて行った。
まるで疲れを感じさせない軽い足取りである。
イオルも追いかけようかと思ったが今日は調査任務だけで一人での深入りは一緒に任務に来ているジュリウスにも迷惑がかかる。
諦めてアナグラに戻って早急に報告を済ませるのが先決だろう。
「ヒバリさん、早急に迎えを回して下さい。帰還します」
消えたピターと彼女の行き先を道を見せないようにと深い霧が多い始めていた。